学会会長挨拶

  • HOME
  • の次の
  • 公開講演会・公開展示
  • の次の
  • 学会会長挨拶

日本植物学会第81回大会公開講演会によせて

(公益社団法人)日本植物学会の会長として一言ご挨拶させて頂きます。(公社)日本植物学会は、植物学に関する研究の進展と知識の普及を図り、それによって学術全般の発展に寄与することを目的に、今から135年前の1882年に設立された学術団体です。日本で最も長い歴史を持つ植物科学の総合学会として、系統・分類学や生態学から、生理学、分子・細胞生物学までの幅広い学問分野を対象に、日本における植物科学の進歩・発展、普及のための様々な活動を進めています。2012年からは、公益社団法人となり、主に(1)欧文雑誌「Journal of Plant Research」の発行と、(2)毎年の大会の開催、を大きな事業として進めて来ました。

「Journal of Plant Research」誌は、1887年に「植物学雑誌」として刊行され、その後「The Botanical Magazine」、「Journal of Plant Research」として名称を変えつつ発行されてきた日本でも有数の歴史を持つ学術雑誌です。この雑誌には、植物にも精子があることを報告した平瀬作五郎の論文や南方熊楠の粘菌の目録など、歴史的に極めて貴重な論文が掲載されてきたことから、2009年には国際的な図書館協会である Special Libraries Association が、設立100周年を記念して選定した世界的な影響力を持つ "Top 100 Journals in Biology and Medicine" に、日本の学会が出している雑誌として唯一選ばれています。

そして、本会のもう一つの大きな柱が、毎年秋に開催される大会で、今年、東京理科大学で開催される野田大会で第81回を迎えることになります。大会では、基礎植物科学に携わる多くの学生・院生、研究者が会場に集い、先端研究の発表やシンポジウムを開催することで情報交換や懇親の場を設けるとともに、高校生発表会や公開講演会が開催され、植物を科学する面白さや、植物科学の現在を広く知って頂く努力が進められてきました。

今回、科学研究費研究成果公開促進費の支援の下で開催される公開講演会は、「植物の生き方・人との共生」という標題の下、学会員のみならず、井崎流山市長や今村野田副市長の方々にご講演を頂けると聞いています。これまでの公開講演会は、専門家の話を聞くだけで終わることが多かったのですが、実際に社会の現場で日々リーダーシップを取られている方々から、直接植物に関するお話を伺えるというまたとない機会になっており、私たちが進めている基礎植物科学が、どのように見られているかを社会の眼から教えて頂ける重要な機会になると期待しています。

さらには、東京理科大キャンパス内の自然観察ツアーや、実験・展示も準備されており、知識だけではない、生きている植物と、科学を仲立ちとして触れ合うことが出来る貴重な時間も用意されています。

先日、世界で最も権威ある自然科学系学術誌であるNature誌に、日本の科学はこの10年で大きく失速し、研究成果の水準の低下が著しいという記事が特集されました。その原因をどこに求めるかはそれぞれの学問分野によって異なるでしょうが、私たちが進めている基礎植物科学においても、研究者人口や研究費の減少を感じる場面が多くなっています。そして何より気になることは、社会にすぐに役に立つかどうかは判らない基礎科学への、若い世代の好奇心が薄れつつあるのではないかという雰囲気かもしれません。今回の公開講演会は、そのような中で、多くの方々に基礎科学の面白さを肌で感じて頂き、しかしそれだけではなく、やはり社会の一員として進められるべき基礎科学に対する社会の眼を、私たちにも知らしめて頂ける希有な時間となるものと、皆さまと共に楽しみにするものです。

日本植物学会会長・神戸大学
三村 徹郎