JPR和文要旨バックナンバー

ホーム > Journal of Plant Research > JPR和文要旨バックナンバー > 2012年05月号 (Vol.125 No.3)

« 前号  |   表紙一覧へ戻る   |  次号 »

2012年05月号 (Vol.125 No.3)

寄生植物ツチトリモチとヤクシマツチトリモチ(ツチトリモチ科)の形態的特徴と系統関係、および日本と台湾における寄主について

Su H-J, Murata J, Hu J-M (2012) Morphology and phylogenetics of two holoparasitic plants, Balanophora japonica and Balanophora yakushimensis (Balanophoraceae), and their hosts in Taiwan and Japan.J Plant Res 125:317-326

寄生植物ツチトリモチとヤクシマツチトリモチは雌株だけが知られており、無融合種子形成で繁殖する。分子系統解析の結果、これらは台湾にも分布し、タイワンツチトリモチと近縁であることがわかった。前者の寄主は日本・台湾共通にハイノキ属であったが、後者の寄主は日本ではイスノキ、台湾ではイジュであった。(p.317-326)

長野県八ヶ岳の亜高山帯と山麓針葉樹林に分布する変形菌の比較

Takahashi K, Harakon Y (2012) Comparison of wood-inhabiting myxomycetes in subalpine and montane coniferous forests in the Yatsugatake Mountains of Central Japan. J Plant Res 125:327-337

変形菌の地域的な分布には様々な環境要因が影響する。長野県八ヶ岳の亜高山帯と山麓針葉樹林では、変形菌群集の種組成が標高により異なった。亜高山帯針葉樹林では種多様性が高く、その特徴的な種群は秋に出現した。山地における気温の逓減は地域的な変形菌の分布に影響し、亜高山帯針葉樹林は寒冷種のハビタットになっていた。(p.327-337)

冷温帯落葉広葉樹のミズナラ葉における不均一な気孔開閉のシミュレーションおよび観察

Kamakura M, Kosugi Y, Muramatsu K, Muraoka H (2012) Simulations and observations of patchy stomatal behavior in leaves of Quercus crispula, a cool-temperate deciduous broad-leaved tree species. J Plant Res 125:339-349

ミズナラの苗木と林内の成木の気孔開閉パターンを調べた。スンプ法による気孔開度の観察から、気孔開閉パターンは環境条件により柔軟に変動し、またガス交換の実測とシミュレーションから、不均一な気孔開閉は気温や飽差の上昇により急激に低下した光合成量を説明できることが示された。(p.339-349)

砂漠セン類の葉の毛尖が水分保持と結露形成に及ぼす影響:乾燥耐性との関わりについて

Tao Y, Zhang YM (2012) Effects of leaf hair points of a desert moss on water retention and dew formation: implications for desiccation tolerance. J Plant Res 125:351-360

葉の毛尖は乾燥耐性を持つ多くのセン類に特徴的な構造である。本研究では砂漠に生息するセン類Syntrichia caninervisを使って、個体あるいは集団におけるセン類の水分保持と結露形成への毛尖の影響について調べた。その結果、葉の毛尖はこのセン類の乾燥耐性に重要な構造であることがわかった。(p.351-360)

Cardiopteris(カルディオプテリス科)の花の構造、特に雌蕊について:その分類と進化的意味

Tobe T (2012) Floral structure of Cardiopteris (Cardiopteridaceae) with special emphasis on the gynoecium: systematic and evolutionary implications. J Plant Res 125:361-369

5数性の花をもつCardiopterisは1室2胚珠の雌蕊を持つ。花の発生と解剖、維管束走行の解析により、雌蕊は偽単数性であることを明らかにした。さらに、この雌蕊構造は科全体の特徴であること、姉妹群ステモヌルス科との共有派生形質である可能性を明らかにした。(p.361-369)

シダ植物アネーミア・フィリティディス(アネーミア科)の左右非相称心臓形配偶体の比較発生

Takahashi N, Kami C, Morita N, Imaichi R (2012) Comparative development of heavily asymmetric-cordate gametophytes of Anemia phyllitidis (Anemiaceae) focusing on meristem behavior. J Plant Res 125:371-380

著しい左右非相称の心臓形を示すアネーミア配偶体の発生過程を一般の心臓形と比較した。最も大きな違いは始原細胞である頂端細胞が形成されないことであった。このため初期配偶体は介在分裂により成長し、クッションを作る始原細胞群は頂端部ではなく配偶体の基部側方に分化した。(p.371-380)

基部真正双子葉類に属するPlatanus acerifoliaのA, B, C, EクラスMADSボックス遺伝子群の系統樹および進化的解析

Li Z, Zhang J, Liu G, Li X, Lu C, Zhang J, Bao M (2012) Phylogenetic and evolutionary analysis of A-, B-, C- and E-class MADS-box genes in the basal eudicot Platanus acerifolia. J Plant Res 125:381-393

基部真正双子葉類スズカケノキ属Platanus acerifoliaから5つのMADSボックス遺伝子を単離し系統樹解析を行なった。その結果、これらの遺伝子はA、B、C、Eクラスにそれぞれ属することが示唆された。また、発現パターンが異なることから進化の過程で機能分化したことが示唆された。(p.381-393)

マメ科のモデル植物ミヤコグサにおける共生窒素固定活性に関するQTL解析

Tominaga A, Gondo T, Akashi R, Zheng SH, Arima S, Suzuki A (2012) Quantitative trait locus analysis of symbiotic nitrogen fixation activity in the model legume Lotus japonicas. J Plant Res 125:395-406

共生窒素固定を制御する遺伝子はほとんど明らかになっていない。今回、ミヤコグサを用いて、窒素固定活性に関するQTL解析を行なった。その結果、第4染色体のTM0832近傍に、窒素固定活性・根粒重・茎長のQTLがマップされた。同領域には、種子重のQTLが報告されていた。(p.395-406)

根破壊とサイトカイニンの噴霧によって誘導される葉と根の協調機構が牧草(ライグラス)の放牧耐性に及ぼす影響

Wang X-L, Liu D, Li Z-Q (2012) Effects of the coordination mechanism between roots and leaves induced by root-breaking and exogenous cytokinin spraying on the grazing tolerance of ryegrass. J Plant Res 125:407-416

根の破壊とサイトカイニンの噴霧処理が、被食されたライグラスの回復過程に及ぼす影響を評価するために、GB、IAA、ABA、ZR、炭水化物の個体内分布を分析した。サイトカイニンの噴霧は繰り返し被食された個体内のZR濃度を高め、地上部バイオマスを増加させたが、根量はより減少した。(p.407-416)

ホウライシダ前葉体における葉緑体運動に伴うアクチン繊維の分布変化

Tsuboi H, Wada M (2012) Distribution pattern changes of actin filaments during chloroplast movement in Adiantum capillus-veneris. J Plant Res 125:417-428

前葉体細胞の一部に微光束照射により逃避反応または集合反応を誘導し、葉緑体が光照射に伴って動き始めた段階で固定・染色してアクチン繊維を観察した。その結果、葉緑体の進行方向前部にアクチン繊維が観察されたが、垂層壁に移動する暗黒定位時にはこの構造は見られなかった。(p.417-428)

シロイヌナズナにおける長鎖塩基1-リン酸(LCBP)の分解:脱水ストレス応答に関連するLCBPホスファターゼの機能解析

Nakagawa N, Kato M, Takahashi Y, Shimazaki K, Tamura K, Tokuji Y, Kihara A, Imai H (2012) Degradation of long-chain base 1-phosphate (LCBP) in Arabidopsis: functional characterization of LCBP phosphatase involved in the dehydration stress response. J Plant Res 125:439-449

長鎖塩基1-リン酸(LCBP)は、気孔閉鎖の誘導と気孔開口の抑制において、脂質シグナル伝達物質として働くことが知られている。今回、LCBPホスファターゼ(SPP1)をシロイヌナズナについて調べ、AtSPP1は気孔閉鎖のABAシグナル伝達経路において機能することを示唆した。(p.439-449)

Antirrhinum kelloggiiのフラボノイド3'-水酸化酵素とフラボノイド3',5'-水酸化酵素遺伝子の機能解析;花色における重要な役割とAntirrhinumにおける進化

Ishiguro K, Taniguchi M, Tanaka Y (2012) Functional analysis of Antirrhinum kelloggii flavonoid 3′-hydroxylase and flavonoid 3′,5′-hydroxylase genes; critical role in flower color and evolution in the genus Antirrhinum. J Plant Res 125:451-456

デルフィニジンを含む紫色の花を持つAntirrhinum kelloggiiから花色決定に重要なフラボノイド3'-水酸化酵素とフラボノイド3', 5'-水酸化酵素(F3'5'H)遺伝子を取得し、これらの機能を解析した。デルフィニジンを合成しないA.majusは、その祖先がA. kelloggiiの祖先と分化した後、F3'5'H遺伝子を失ったと考えられた。(p.451-456)

単藻化したアオミドロを用いた接合子形成に関する研究

Ikegaya H, Nakase T, Iwata K, Tsuchida H, Sonobe S, Shimmen T (2012) Studies on conjugation of Spirogyra using monoclonal culture. J Plant Res 125:457-464

アオミドロでは接合を人工的に誘導することが困難であったため、接合に関する分子機構はほとんど解明されていない。しかし、私たちはアオミドロを寒天上で処理することにより、人工的に接合を誘導することに成功した。更に、接合管周辺に分泌される透明物質を蛍光標識したレクチンによって可視化した。(p.457-464)

« 前号  |   表紙一覧へ戻る   |  次号 »