JPR和文要旨バックナンバー

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2016年3月号(Vol.129 No.2)

植物の多様な光受容体と光応答

Sam-Geun Kong and Koji Okajima (2016)

Diverse photoreceptors and light responses in plants (J Plant Res 129:111−114)

植物は多様な光環境に適応するために光受容体および光応答機構を進化させてきた。分子から植物個体までの光応答機構が徐々に解明されている。本号のJPR誌上シンポジウムでは、植物の光応答研究における次の目標を模索するために、総説を含む8編の記事を特集している。(pp. 111−114)

植物の光受容体の進化

Fay-Wei Li and Sarah Mathews (2016)

Evolutionary aspects of plant photoreceptors J Plant Res 129:115−122

植物は進化を進め多様化する様々な局面で新たな光環境に直面しており、植物はそのつど光受容体の構造と機能を進化させて光環境の変化に対応してきました。本論文では、大規模配列比較解析により得られた、フィトクロム、フォトトロピン、ネオクロムの三つの光受容体の進化に関する最近の発見を概説します。(pp. 115−122)

フォトンからシグナルへ:原核細胞と植物由来のフィトクロム間の相同と相違

Nagano S (2016)

From photon to signal in phytochromes: similarities and differences between prokaryotic and plant phytochromes. J Plant Res 129:123−135

原核細胞由来のフィトクロムは長らく植物フィトクロムのモデルとして利用されてきた。構造・機能的に相同性が存在する部分においてはモデルとしての妥当性が認められる。しかし両者の間に違いが存在することも事実である。本論文では、両者間の構造・機能における相同と相違に集点を当てた。(pp. 123−135)

シロイヌナズナのクリプトクロムの情報伝達機構

Bobin Liu, Zhaohe Yang, Adam Gomez, Bin Liu, Chentao Lin and Yoshito Oka (2016)

Signaling mechanisms of plant cryptochromes in Arabidopsis thaliana J Plant Res 129:137−148

クリプトクロム(CRY)は植物の様々な発達や生長の過程を制御する青色光受容体です。青色光を受容したCRYは構造変化を経て様々なタンパク質と相互作用することにより、光情報を下流の因子へ伝達しています。本論文ではシロイヌナズナのCRYの青色光受容から情報伝達までの一連の分子機構を概説します。(pp. 137−148 )

フォトトロピン光シグナルの分子機構

Koji Okajima (2016)

Molecular mechanism of phototropin signaling J Plant Res 129:149−157

フォトトロピン(phot)は光屈性、葉緑体定位運動、気孔開口などを制御する青色光受容体キナーゼである。本総説では、LOVドメインでの光の受容からキナーゼの活性調節の分子機構について最近の成果をまとめた。(pp. 149−157)

葉緑体光定位運動の分子基盤

Kong SG, Wada M (2016)

Molecular basis of chloroplast photorelocation movement. J Plant Res 129:159-66

葉緑体光定位運動は、植物が時々刻々変動する光環境下で、光合成能の最適化と生存のため必須な生理応答である。この20年間のシロイヌナズナを用いた解析から葉緑体光定位運動に関わる多数の因子が同定されたが、その分子機構の多くは未知である。本総説ではアクチン依存的葉緑体光定位運動の分子機構、高分解能の解析方法を紹介する。(pp. 159−166)

気孔開口においてシロイヌナズナのphot1とphot2はBLUS1キナーゼを異なる効率でリン酸化する

Takemiya A, Shimazaki K (2016)

Arabidopsis phot1 and phot2 phosphorylate BLUS1 kinase with different efficiencies in stomatal opening. J Plant Res 129:167−174

フォトトロピンは青色光の受容により活性化する受容体キナーゼである。本論文では、シロイヌナズナのphot1とphot2の両方がBLUS1キナーゼを基質としてリン酸化すること、両者のリン酸化能の違いが気孔開口の反応性の違いに関係することを見出した。(pp. 167−174)

黄色植物の転写因子型青色光受容体オーレオクロム

Takahashi F (2016)

Blue‑light‑regulated transcription factor, Aureochrome, in photosynthetic stramenopiles. J Plant Res 129:189−197

オーレオクロム(Aureochrome)は、黄色植物から発見された転写因子型の青色光受容体である。本総説では、黄色植物が持つ歴史的な青色光応答反応を紹介し、オーレクロムとの関係を考察する。またオーレオクロムの最近の分子進化学的研究と生物物理的研究を報告する。(pp. 189−197)

被子植物のエクスパンシン進化史解明における、アンボレラAmborella trichopodaのエクスパンシンスーパーファミリーの有用性

Seader VH, Thornsberry JM, Carey RE (2016)

Utility of the Amborella trichopoda expansin superfamily in elucidating the history of angiosperm expansins. J Plant Res 129: 199-207

成長・発生時の細胞壁の緩和に関わるタンパク質であるエクスパンシンは、4つの遺伝子ファミリーから成るスーパファミリーを構成する。現生被子植物の最基部で分岐したと考えられるアンボレラにおいて同スーパファミリーの系統解析とシンテニー解析が行われた。(pp. 199−207)

東アジア最古のヒイラギナンテン属(メギ科)化石とその生物地理学的示唆

Huang J, Su T, Lebereton-Anberree J, Zhang ST, Zhou ZK (2016)

The oldest Mahonia (Berberidaceae) fossil from East Asia and its biogeographic implications. J Plant Res 129: 209-223

Mahonia mioasiaticaが中国雲南省文山のXiaolongtan層(中新世後期)から発見され、記載された。同属の東アジア産の確実な記録としては最古であり、ベーリング海経由ではなく北大西洋の陸橋経由でアジアへと進入したことを示唆する。(pp. 209−223)

花粉粒壁内部の迷宮状,柱状および空隙状構造:FIB-SEMで捉えたキツネノマゴ科花粉粒の新規特徴

House A, Balkwill K (2016)

Labyrinths, columns and cavities: new internal features of pollen grain walls in the Acanthaceae detected by FIB-SEM. J Plant Res 129:225−240

花粉粒壁の内部構造は外部形態に比べ観察しにくくあまり研究されてこなかった。本研究では13種のキツネノマゴ科植物についてFIB-SEM観察をおこない、花粉粒壁表面と内部をまとめて高解像度かつ3次元的に観察し、表面構造が同様でも内部構造が異なる例などを見いだした。 (pp. 225−240)

カワゴケソウ科におけるFIEホモログの単離・発現・進化

Priyanka Khanduri, Roopam Sharma, Vishnu Bhat, Rajesh Tandon (2016)

Isolation, expression and evolution of FERTILIZATION INDEPENDENT ENDOSPERM homologs in Podostemaceae J Plant Res 129:241−250

重複受精を行わないことが知られるカワゴケソウ科について、2種(Zeylantidium olivaceum・Polypleurum stylosum)の植物からFIEホモログを単離した。栄養成長期には発現の見られたFIEが生殖成長の段階では発現していないことを明らかにし、FIEの発現と重複受精の関連に示唆を与えた。(pp. 241−250)

ヒメムカシヨモギの鉛耐性機構:局在、微細構造、抗酸化システムおよびファイトケラチン

Li Y, Zhou C, Huang M, Luo J, Hou X, Wu P, Ma X (2016)

Lead tolerance mechanism in Conyza canadensis: subcellular distribution, ultrastructure, antioxidative defense system, and phytochelatins.. J Plant Res 129:251−262

鉛集積植物であるヒメムカシヨモギの鉛耐性機構を調べた。水耕法で与えた鉛は主に根に集積し、根の細胞壁と細胞間隙に鉛が蓄積していた。根組織の微細構造も変化した。鉛暴露によって活性酸素が増加したが、ファイトケラチンやグルタチオンが増えることはなかった。(pp. 251−262)

DREB転写因子の一つヤエナリVrDREB2aはシロイヌナズナの乾燥耐性と塩耐性を向上させる

Chen H, Liu L, Wang L, Wang S, Cheng (2016)

VrDREB2A, a DREB-binding transcription factor from Vigna radiata, increased drought and high-salt tolerance in transgenic Arabidopsis thaliana. J Plant Res 129:263−273

ストレス耐性に関与する新奇VrDRBB2転写因子遺伝子をヤエナリから単離した。VrDRBB2Aの発現は乾燥、高塩濃度、ABAで誘導された。VrDRBB2Aを高発現させたシロイヌナズナは生育遅延を起こすことなく、乾燥耐性と耐塩性が向上した。(pp. 263−273)

miR156はシロイヌナズナにおけるリン酸欠乏に応答した根圏の酸性化を調節する

Lei KJ, Lin YM, An GY (2016)

miR156 modulates rhizosphere acidification in response to phosphate limitation in Arabidopsis. J Plant Res 129:275−284

リン酸欠乏に応答した根圏の酸性化は、植物に広く観察されるが、その仕組みは十分には理解されていない。本論文では、特定のマイクロRNA(miR156)がリン酸欠乏により誘導され、H+-ATPaseなどの遺伝子発現制御を通じて根圏の酸性化に寄与している可能性が示された。(pp. 275−284)

イネにおけるシロイヌナズナ葉緑体局在性glycerol-3-phosphate dehydrogenaseの過剰発現は葉緑体脂質の増加をもたらす

Singh V, Singh PK, Siddiqui A, Singh S, Banday ZZ, Nandi AK (2016)

Over-expression of Arabidopsis thaliana SFD1/GLY1, the gene encoding plastid localized glycerol-3-phosphate dehydrogenase, increases plastidic lipid content in transgenic rice plants. J Plant Res 129: 285-293

シロイヌナズナの葉緑体局在性glycerol-3-phosphate dehydrogenaseを過剰発現させたイネでは、小胞体には影響がみられなかったが、葉緑体膜脂質およびphosphatidylglycerol とgalactolipidの増加とともに光合成同化率の上昇がみられ、作物改良への応用の可能性が示唆された。(pp. 285−293)

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