JPR和文要旨バックナンバー

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2016年5月号(Vol.129 No.3)

光合成の時空間的変化

Terashima I, Tang YH, Muraoka H (2016)

Spatio-temporal variations in photosynthesis. J Plant Res 129:295−298

個葉レベルの光合成研究と葉群の光合成研究を強く結びつけた、スケーリング研究の祖ともいうべき門司・佐伯(1953)の理論の概略を簡便に述べ。JPRシンポジウムの各論文を、門司・佐伯理論の展開や発展という側面から捉え、その意義を紹介した。(pp. 295−298)

植物葉群における葉間窒素分配の最適性

Hikosaka Kouki (2016)

Optimality of nitrogen distribution among leaves in plant canopies J Plant Res 129:299−311

葉群内では葉窒素含量が上部の葉ほど高いという傾向がある。これは植物個体全体の光合成における窒素利用効率を高めることに貢献すると考えられている。しかし、理論的に検証すると、実際の群落での窒素分配は最適とはいえないことがわかっている。本レビューでは、理論と実際の窒素分配について近年の進展を紹介し、なぜ葉群窒素分配は最適ではないのかを考察する。(pp. 299−311)

樹冠内・葉群内に見られる葉齢に依存した葉の特性変化に関するメタ解析

Niinemets Ü (2016)

Leaf age dependent changes in within-canopy variation in leaf functional traits: a meta-analysis. J Plant Res 129:313−338.

樹冠内・葉群内に見られる葉の特性の勾配は、樹木個体の光合成生産に大きな影響を及ぼす。葉の窒素含量、光合成活性、葉面積当たりの葉重の葉齢や葉群内の光環境変化に伴う変化を、樹木や草本71種について解析した。葉の特性変化は大きく、今後十分に考慮されなければならない。(pp. 313−338)

作物の空間的配置の雑草抑制にもたらす効果の機能・形態モデリングによる定量化

Evers JB, Bastiaans L (2016)

Quantifying the effect of crop spatial arrangement on weed suppression using functional-structural plant modelling. J Plant Res 129:339−351

作物と雑草の成長に、作物の植付けパターンや、雑草の発芽時期がもたらす効果を、葉の空間的配置・相互被陰・光合成生産などを詳細に取扱うことのできる3次元成長モデルによって解析した。均一作付けが雑草抑制には最も効果があったが、その効果は雑草の発芽時期により大きく異なった。(pp. 339−351)

葉の内部の光環境:最近の1/3世紀にわたる研究の進展

Terashima I, Ooeda H, Fujita T, Oguchi R (2016)

Light environment within a leaf. II. Progress in the past one-third century. J Plant Res 129:353−363

葉の内部の光環境に関する、最近1/3世紀の研究をレビューした。蛍光を利用した葉内部の光吸収パターンの解析例、葉内部の光吸収勾配と陽葉緑体−陰葉緑体の活性勾配とを比較する微小蛍光法、緑色光の役割を明らかにした微分的量子収率法などについて詳しく解説した。(pp. 353−363)

動的光合成の高CO2影響:炭素獲得、メカニズム、環境相互影響

Tomimatsu H, Tang Y (2016)

Effects of high CO2 levels on dynamic photosynthesis: carbon gain, mechanisms, and environmental interactions. J Plant Res 129:365−377

光強度は自然環境で時間的に大きく変化し、数秒の間で数百倍も変化する。将来の高CO2環境下での炭素循環や一次生産を高精度に予測するためには、光変動に対する植物の光合成特性を理解する必要がある。本論文では、これまでの動的光合成について、高CO2暴露による植物の長期的影響と短期的影響に分けて概説した。(pp. 365−377)

変動環境に対する光合成の応答と環境ストレスから身を守る植物の防御機構

Yamori W (2016)

Photosynthetic response to fluctuating environments and photoprotective strategies under abiotic stress. J Plant Res 129: 379-395

野外では、光強度や温湿度、CO2濃度など、様々な環境要因が一日を通して常に変動している。これらの変動環境は植物の光合成機能にダメージを与え、光合成速度を低下させることが明らかになってきた。本総説では、変動環境に対する光合成の調節機構を概説し、最近の知見を紹介する。(pp. 379−395)

カワゴケソウ科の多様性と進化の複合研究

Kato M (2016)

Multidisciplinary studies of the diversity and evolution in river-weeds. J Plant Res 129: 397--410

水生植物カワゴケソウ科は、特異な環境に適応し形態も独特な三大植物の一つであり、注目度が高い。その多様性と進化について、4大陸での現地調査、生物地理・分類・形態・遺伝子発現に関する筆者の複合研究を中心に研究の動向を概説した。形態進化など今後の課題にも触れた。(pp. 398−410)

Genista anglica(マメ科)は非常に変化に富んだ一種か、それとも種複合体か?

Prieto, JAF, Sanna M, Bueno A, Pérez, M (2016)

Genista anglica (Fabaceae): One very diverse species or one species complex? J Plant Res 129: 411-422

ヨーロッパ西部を中心に分布する灌木であるGenista anglicaは5種程度に細分する考えもあったが、核ITS、ETS、葉緑体trnL, trnL-F, rbcL, matK領域に基づく系統解析の結果は、それらは単一種内の変異であることを示唆した。(pp. 411-422)

異なる塩分・窒素条件に対するマメ科シャジクソウ属Trifolium alexandrinumの生理・生化学的応答

Barhoumi Zouhaier, Maatallah Mariem, Rabhi Mokded, Aida Rouached, Khaldoun Alsane, Abdelly Chedly, Smaoui Abderrazek, Atia Abdallah (2016)

Physiological and biochemical responses of the forage legume Trifolium alexandrinum to different saline conditions and nitrogen levels J Plant Res 129:423−434

塩ストレスは植物の生産性を下げるが、マイルドな塩ストレスは成長を促進することもある。この研究ではTrifolium alexandrinumを2つの窒素条件・2つの塩条件で育成し、成長、元素濃度、窒素利用効率、光合成、窒素代謝酵素の活性を測定した。100mM塩処理は成長を促進した。塩処理は低窒素条件において窒素濃度、窒素利用効率、窒素代謝酵素の活性を上昇させた。Trifolium alexandrinumは低窒素条件において低塩環境で育成可能な作物である。(pp. 423−434)

中国西北部の乾燥地域における、景観レベルのマメ科Ammopiptanthus mongolicusの送粉システムに対する生息地撹乱の影響

Min Chen, Xue-Yong Zhao, Xiao-An Zuo, Wei Mao, Hao Qu, Yang-Chun Zhu (2016)

Effects of habitat disturbance on the pollination system of Ammopiptanthus mongolicus (Maxim) Cheng f. at the landscape-level in an arid region of Northwest China J Plant Res 129: 435-447

生息地撹乱は植物の交配に影響するかもしれない。この研究では、撹乱地と撹乱を受けていない土地におけるAmmopiptanthus mongolicusのフェノロジー、花粉制限度、訪花者、交配システムを比較した。その結果、開花期間が撹乱地で長いこと、花粉制限は非撹乱地で強いこと、訪花昆虫の種が両地間で異なること、結果率は撹乱地で高いことなどがわかった。(pp. 435−447)

乾燥地生態系で植物種をグループ分けするために有用な形質

Marlene Ivonne Bär Lamas, A. L. Carrera, M. B. Bertiller (2016)

Meaningful traits for grouping plant species across arid ecosystems J Plant Res 129:449−461

種をグループ分けすることは、生態系プロセスに対する植物の生態学的機能を理解する上で有用である。この研究では、植物の存続やストレス・撹乱耐性に関係する形態的形質や化学的形質が優占種の生活型に反映されるのかを調べた。生活型と形質に基づいたクラスター解析を行った結果、植物高が重要な変数であること、生活型が乾燥地における種の生態学的戦略をよく代表すること、環境ストレスや被食に対する防御に関する形態的・化学的形質を導入することによって、種のグループをよりうまく分けられるようになることなどがわかった。(pp. 449−461)

異なるリターの分解中に起こる自然13Cと15N含量と栄養塩ダイナミクスの初期変化

Mukesh Kumar Gautam, Kwang-Sik Lee, Byeong-Yeol Song, Dongho Lee, Yeon-Sik Bong (2016)

Early-stage changes in natural 13C and 15N abundance and nutrient dynamics during different litter decomposition J Plant Res 129:463−476

アカマツ、クリ、ヒメジョオン、ススキの葉リターと枝リターについて、1年間の分解・栄養、同位体の動態を調べた。リター中の重量減少と栄養塩動態は無機化と浮動化の季節性の影響を受けた。リターの質(窒素濃度、C/N比、リン濃度)と季節がリター分解速度に最も強い影響を与える要因であった。(pp. 463476)

変動する気候下におけるアルプスの古固有種の生殖生物学

Guerrina M, Casazza G, Conti E, Macrì C, Minuto L (2016)

Reproductive biology of an Alpic paleo­endemic in a changing climate J Plant Res 129:477−485

第四紀の気候寒冷化で送粉者が減少すると,送粉者を利用する植物の多くが絶滅した。ところが,もともと他家受粉種だったと思われるBerardia subacaulis(キク科)は寒冷期を生き延びた。本種は自家受粉もでき,この特徴が寒冷期を乗り切るのに役立ったかもしれない。(pp. 477−485)

酸化ストレス代謝およびプロリン代謝に関連したコムギにおけるマグネシウムと重金属(銅、カドミウム)の相互作用

Singh V, Tripathi BN, Sharma V (2016)

Interaction of Mg with heavy metals (Cu, Cd) in T. aestivum with special reference to oxidative and proline metabolism J Plant Res 129:487−497

異なるMg濃度におけるCuとCdの毒性をコムギで調べた。酸化ストレスとしてのCuやCdの毒性はMgが欠乏すると強く表れ、抗酸化系の代謝やプロリンの合成が亢進することを見出した。これらの代謝の亢進はMg濃度が高くなると低減した。

(pp. 487−497)

Upper Rhine Valleyで育った8品種のブドウの葉におけるトリテルペノイドとその合成酵素発現の特性

Pensec F, Szakiel A, Pączkowski C, Woźniak A, Grabarczyk M, Bertsch C, Fischer M, Chong J (2016)

Characterization of triterpenoid profiles and triterpene synthase expression in the leaves of eight Vitis vinifera cultivars grown in the Upper Rhine Valley J Plant Res 129:499−512

ブドウの葉のクチクラは品種によってルペオールまたはタラキセロールを多く含む。それらのトリテルペノイド合成に関わるオキシドスクアレンシクラーゼファミリーの遺伝子は、品種や紫外線または病原菌によって誘導されるものに分かれ、ブドウの葉においてこれらの遺伝子が環境ストレスに応じて異なる役割を有することが示唆された。(pp. 499−512)

ブドウの果実の高温下での登熟過程においてアントシアニン分解に関与するVviPrx31パーオキシダーゼ

Movahed N, Pastore C, Cellini A, Allegro G, Valentini G, Zenoni S, Cavallini E, D'Incà E, Tornielli G B, Filippetti I (2016)

The grapevine VviPrx31 peroxidase as a candidate gene involved in anthocyanin degradation in ripening berries under high temperature J Plant Res 129: 513--526

高温下で熟したブドウ果実の果皮ではアントシアニンが減少するが、その際、アントシアニン合成酵素レベルの減少とともにパーオキシダーゼが上昇する。この酵素を導入したペチュニアの花弁では高温下でアントシアニンが減少することから、パーオキシダーゼの上昇がその原因と考えられる。(pp. 513−526)

テンサイにおけるカリウム欠乏とナトリウム代替によるプロテオームの変化

Pi Z, Stevanato P, Sun F, Yang Y, Sun X, Zhao H, Geng G, Yu L (2016)

Proteomic changes induced by potassium deficiency and potassium substitution by sodium in sugar beet. J Plant Res 129:527−538

カリウム欠乏によってテンサイでは光合成関連等の多くのタンパク質の量が変化した。欠乏させたカリウムに相当する量のナトリウムを補った場合、一部の生理機能は補償され、タンパク質のダメージも回復したが、ナトリウムはカリウムの必須性をすべて代替することはできないと考えられた。(pp. 527−538)

ホスファチジルイノシトールリン酸と相互作用する、シロイヌナズナに含まれる新しいタイプのカルシウム結合タンパク質PCaP1は、安定して細胞膜に結合し、気孔の閉口に関与する

Nagata C, Miwa C, Tanaka N, Kato M, Suito M, Tsuchihira A, Sato Y, Segami S, Maeshima, M (2016)

A novel-type phosphatidylinositol phosphate-interactive, Ca-binding protein PCaP1 in Arabidopsis thaliana: stable association with plasma membrane and partial involvement in stomata closure. J Plant Res 129:539-550

Ca-結合タンパク質PCaP1は、N端が脂質修飾され、Ca情報をホスファチジルイノシトールリン酸情報に変換する特性をもつ。本論文では、可視化したPCaP1がシロイヌナズナのほぼ全ての細胞に発現し細胞膜に結合していること、遺伝子欠失株を通して気孔の閉口に関与することを解明した。(pp. 539-550)

ホシツリモの電気シグナルにおよぼすNi+の影響

Kisnieriene V, Lapeikaite I, Sevriukova O, Ruksenas O (2016)

The effects of Ni2+ on electrical signaling of Nitellopsis obtusa cells. J Plant Res 129:551−558

車軸藻の一種ホシツリモをニッケルで処理すると、すみやかに興奮電位発生に影響が表れた。これはニッケルが細胞質カルシウム濃度をかく乱してカリウムイオンおよび塩素イオン-チャネル活性に悪影響を与えて生体膜電位の脱分極と興奮性の低下につながったためと考えられた。(pp. 551−558)

種子組織からの高質ゲノムDNAを分離するための最適化されたプロトコルは、裸子植物における種子散布距離を直接見積もるための作業を効率化する。

C. García, G. Escribano-Ávila (2016)

An optimised protocol to isolate high-quality genomic DNA from seed tissues streamlines the workflow to obtain direct estimates of seed dispersal distances in gymnosperms J Plant Res 129:559−563

種子において母由来の組織のジェノタイピングを行うい、母の位置と遺伝子型がわかれば、種子散布距離を直接定量化することができる。本論文では、散布研究に関連する種子組織(両親由来の胚・母由来の種皮・母由来の雌性配偶体)を同定・分離するための図解入りプロトコルを紹介する。(pp. 559−563)

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