JPR和文要旨バックナンバー

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2016年9月号(Vol.129 No.5)

Current Topics in Plant Research

植物のL-アラビノース代謝

Kotake T, Yamanashi Y, Imaizumi C, Tsumuraya Y (2016)

Metabolism of L-arabinose in plants. J Plant Res 129:781-792

L-アラビノースは動物にみられない植物特有の糖である。L-アラビノースはシロイヌナズナやイネの細胞壁の5-10%を占める主要構成糖であり、CLEペプチドの糖鎖などにもみられる。本論文ではL-アラビノースを生じる糖ヌクレオチド代謝経路やL-アラビノース残基の代謝を解説する。(pp. 781-792)

Taxonomy/Phylogenetics/Evolutionary Biology

葉緑体・核リボソームDNAに基づいた東アジア産キハギ(マメ科)の系統地理

Jin DP, Lee JH, Xu B, Choi BH (2016)

Phylogeography of East Asian Lespedeza buergeri (Fabaceae) based on chloroplast and nuclear ribosomal DNA sequence variations. J Plant Res 129: 793-805

キハギの分布域全体をほぼ網羅した16集団188個体のサンプルを用い、葉緑体2領域と核ITS領域の塩基配列から遺伝構造を解析した。その結果は、東シナ海の陸橋経由で更新世に頻繁に移動が起こったこと、東日本-西日本間で他の暖温帯性種と同様の遺伝的隔離が認められること、朝鮮半島が最終氷期にレフュージアであったことを示唆した。 (pp. 793-805)

雑種に起源するウルルン島固有種 Viola woosanensis

Hee-Young Gil, Seung-Chul Kim (2016)

Viola woosanensis, a recurrent spontaneous hybrid between V. ulleungdoensis and V. chaerophylloides (Violaceae) endemic to Ulleung Island, Korea J Plant Res 129: 807-822

ウルルン島固有種Viola woosanensisが雑種起源であることを調べるため、核及び葉緑体の系統解析を行った。その結果、V. ulleungdoensisとV. chaerophylloidesのF1世代にあたる雑種であることが明らかとなった。(pp. 807-822)

東アジアから見つかったツバキ科ツバキ属の最古の化石 Camellia nanningensis sp. nov.

Lu-Liang Huang, Jian-Hua Jin, Cheng Quan, Alexei A. Oskolski (2016)

Camellia nanningensis sp. nov.: the earliest fossil wood record of the genus Camellia (Theaceae) from East Asia J Plant Res 129: 823-831

中国南部においてツバキ属に分類される漸新世の化石を新種Camellia nanningensisとして記載した。この中国最古のツバキ科の化石は、ツバキ属が漸新世後期には中国に分布していたことを示すとともに、この属の分布が分子時計から推定されるよりも古い時代に広がっていたことを示唆する。(pp. 823-831)

Ecology/Ecophsiology/Environmental Biology

長期酸素欠乏状態におけるイネ芽生えの糖代謝

Pompeiano A, Guglielminetti L (2016)

Carbohydrate metabolism in germinating caryopses of Oryza sativa L. exposed to prolonged anoxi J Plant Res 129:833−840

イネは嫌気性代謝を行うことで、無酸素状態でも発芽することができる。イネの芽生えを用いて、40日間の長期酸素欠乏状態における糖代謝を解析した。アミラーゼ活性の解析結果は、デンプン分解活性が無酸素状態での生育に重要な働きをしているという従来の考え方を支持しなかった。(pp. 833-840)

中国北西部ヘイホー川中流のオアシス農地におけるトウモロコシ樹液流についての広範な研究

Liwen Zhao, Zhibin He, Wenzhi ZhaoEmail author, Qiyue Yang (2016)

Extensive investigation of the sap flow of maize plants in an oasis farmland in the middle reach of the Heihe River, Northwest China J Plant Res 129: 841-851

乾燥地の植物における樹液流の特徴の理解は灌漑水利用効率を改善するために重要である。本研究では、樹液流量、土壌の性質、気象、植物成長などの様々なパラメータを同時にモニタした。その結果、灌水スケジュールが樹液フローや植物の成長パラメータに影響し、収量に影響することが明らかとなった。気象要因のうち、樹液流速に影響を与えるパラメータは、純放射>気温>大気飽差>風速であった。これらの結果は、トウモロコシにおける蒸散に関する生物物理的プロセスの解明や効率的な灌水管理法の構築に貢献するだろう。(pp. 841-851)

水草における異形葉性の喪失:沈水植物ヒロハノエビモにおいて気孔のある葉は外生ABAにより誘導されるが,ABAが介在するストレスでは誘導されない

Satoko Iida, Miyuki Ikeda, Momoe Amano, Hidetoshi Sakayama, Yasuro Kadono, Keiko Kosuge (2016)

Loss of heterophylly in aquatic plants: not ABA-mediated stress but exogenous ABA treatment induces stomatal leaves in Potamogeton perfoliatus J Plant Res 129: 853-862

水草には沈水葉に加え,気孔のある陸生葉を形成するものがある。この異形葉性の有無において異なるヒルムシロ属2種を比較し,両者はともに陸生葉形成能をもつが,ストレスにおけるアブシシン酸(ABA)応答が異なり,生育する環境に適した表現型を示すことが明らかとなった。(pp. 853-862)

15Nを利用した、メキシコカシ林と都市部の絶滅危惧着生ランLaelia speciosaへの窒素降下評価

Edison A. Díaz-Álvarez, Casandra Reyes-García, Erick de la Barrera (2016)

A δ15N assessment of nitrogen deposition for the endangered epiphytic orchid Laelia speciose from a city and an oak forest in Mexico J Plant Res 129: 863-872

大気中の窒素降下により世界的な生物多様性が脅かされており、特に熱帯着生植物はリスクにさらされている。窒素安定同位体と炭素/窒素元素比の分析により都市とカシ林の着生植物を調べたところ、森林より都市での窒素沈着量が大きいことを明らかにした。また、偽鱗茎の調査により過去の影響を知ることが可能であることが明らかとなった。(pp. 863-872)

Morphology/Anatomy/Structural Biology

スギの針葉に人為的に沈着させた炭素を主成分とするサブミクロンのエアロゾルの局在にクチクラ外ワックスが与える影響

Nakaba S, Yamane K, Fukahori M, Nugroho WD, Yamaguchi M, Kuroda K, Sano Y, Lenggoro IW, Izuta T, Funada R (2016)

Effect of epicuticular wax crystals on the localization of artificially deposited sub-micron carbon-based aerosols on needles of Cryptomeria japonica J Plant Res 129: 873-881

エアロゾルの葉への沈着機構の解明は、エアロゾルが樹木の成長や生理機能に影響する機構を理解する上で重要である。本論文では、スギの針葉に暴露したサブミクロンの炭素粒子の局在を電界放出形走査電子顕微鏡により解析し、クチクラ外ワックスが炭素粒子の局在に影響することを明らかにした。(pp. 873-881)

ヤマイモモドキ属(モチノキ目ヤマイモモドキ科)の発生学:胚珠と種子の異常な発生について

Tobe H (2016)

Embryology of Cardiopteris (Cardiopteridaceae, Aquifoliales), with emphasis on unusual ovule and seed development. J Plant Res 129:883-897

ヤマイモモドキ属の胚珠と種子は他のどの被子植物にも見られない異常な発生を示す。雌性配偶体はカラザ側に造卵器をもち受精する。受精後は種子直生から倒生に変わり、種皮は珠心表皮から形成される。珠皮がないこと、背線発生の遅延が異常発生の引き金になったと考えられる。(pp. 883-897)

Genetics/Developmental biology

除草剤パラコート耐性能におけるポリアミン輸送体とABA信号伝達系の関与

Dong S, Hu H, Wang Y, Xu Z, Zha Y, Cai X, Peng L, Feng S (2016)

A pqr2 mutant encodes a defective polyamine transporter and is negatively affected by ABA for paraquat resistance in Arabidopsis thalianain Arabidopsis thaliana. J Plant Res 129:899−907

除草剤パラコート(メチルビオローゲン)に耐性を持つPQR2変異体がポリアミン輸送体を欠損している事を明らかにした。アブシジン酸(ABA)とパラコートの同時処理に対する応答を調べたところ、PQR2/PQR1が抗酸化ストレス応答とABA信号伝達系の両方に関与している事が示された。(pp. 899−907)

ミヤコグサのCLE-RS3遺伝子の発現は根粒形成を抑圧する

Hanna Nishida, Yoshihiro Handa, Sachiko Tanaka, Takuya Suzaki, Masayoshi Kawaguchi (2016)

Expression of the CLERS3 gene suppresses root nodulation in Lotus japonicas J Plant Res 129: 909-919

根粒共生において宿主植物はAutoregulation of nodulation (AON)と呼ばれる、根とシュート間の全身的なシグナル伝達を用いて根粒数を適切に制御している。本研究では、ミヤコグサの新規CLEペプチドが同定され、中でもCLE-RS3はAONにおいて根由来のシグナル因子として根粒形成を負に制御する働きをもつことが示された。(pp. 909-919)

Physiology/Biochemistry/Molecular and Cellular Biology

トリコデマ菌のHsp24を発現させた形質転換ポプラはCytosporaAlternariaに対する抗菌性が向上する

Ji SD, Wang ZY, Fan HJ, Zhang RS, Yu ZY, Wang JJ, Liu ZH (2016)

Heterologous expression of the Hsp24 from Trichoderma asperellum improves antifungal ability of Populus transformant Pdpap-Hsp24s to Cytospora chrysosperma and Alternaria alternate. J Plant Res 129: 921-933

土壌のカビ・トリコデマ菌由来のストレス耐性遺伝子Hsp24を導入したポプラの種間雑種Pdpap-Hsp24sにおいて、病原応答性遺伝子や活性酸素除去系遺伝子の発現が上昇してCytospora属(カビ)やAlternaria属(病原菌)に対する抗菌性が向上することを明らかにした。(pp. 921-933)

ジベレリンはシープグラスの摘葉後の再成長をフルクタン関連遺伝子の発現制御を通して促進する

Cai Y, Shao L, Li X, Liu G, Chen S (2016)

Gibberellin stimulates regrowth after defoliation of sheepgrass (Leymus chinensis) by regulating expression of fructan-related genes J Plant Res 129: 935-944

摘葉したシープグラスにジベレリンやその合成阻害剤であるパクロブトラゾールを投与したところ、ジベレリンの投与がジベレリンやフルクタンに関連する遺伝子の発現を制御することで内生ジベレリン合成やフルクタン代謝が促進され、再成長が促されたことが判明した。 (pp. 935-944)

ナミタチゴケの脱水応答特性

Hu R, Xiao L. Bao F, Li X, He Y (2016)

Dehydration-responsive features of Atrichum undulatum. J Plant Res 129:945−954

ナミタチゴケは高度乾燥耐性をもつコケである。脱水と再吸水の過程では、単に水が物理的に出入りするのではなく、膜の安定性と細胞構造の保持、活性酸素の制御等が秩序だっておこなわれていることが示された。(pp. 945−954)

シロイヌナズナATAF1は形質転換イネにおいて耐塩性とABA抵抗性を増強させる

Liu Y, Sun J, Wu Y. (2016)

Arabidopsis ATAF1 enhances the tolerance to salt stress and ABA in transgenic rice. J Plant Res 129:955−962

ATAF1はシロイヌナズナの転写因子の一つであり、シロイヌナズナで過剰発現させると塩ストレスとABAに対する感受性が上がった。ATAF1を導入したイネはストレス関連遺伝子の発現が上昇して耐塩性が向上すると共にABAに非感受性になった。 (pp. 955−962)

ハダカムギの根を銅ストレス下においた際に初期に生成する一酸化窒素がストレスに対する耐性に寄与する

Yanfeng Hu (2016)

Early generation of nitric oxide contributes to copper tolerance through reducing oxidative stress and cell death in hulless barley roots J Plant Res 129:963−978

ハダカムギの根端を銅ストレス下におくと、根の伸長阻害や活性酸素の生成と酸化的障害が引き起こされるとともに、一酸化窒素(NO)の生成が初期応答としてみられる。この銅による阻害は、NOを外部から添加すると抑制され、NOの消去剤であるc-PTIOを加えるとが助長された。この結果は、NOが銅耐性に働いていることを示す。(pp. 963-978)

様々な植物からのΔ8-スフィンゴ脂質不飽和化酵素遺伝子の同定、生化学的機能および進化

Li S, Zhang G, Zhang X, Yuan J, Deng C, Hu Z, Gao W (2016)

Genes encoding Δ8-sphingolipid desaturase from various plants: identification, biochemical functions, and evolution J Plant Res 129: 979-987

Δ8-スフィンゴ脂質不飽和化酵素遺伝子を12種類の植物からクローニングし酵母で発現させたところ、-アイソマーと-アイソマーの産物を生産するものに分かれた。これは系統解析の結果と一致しており、この酵素が酵母のような下等な生物の-アイソマーを生産する酵素から進化したと考えられた。(pp. 979-987)

カドミウムにさらされたトマトにおけるメタロチオネインの発現とミネラル吸収

Kısa D, Öztürk L, Tekin S (2016)

Gene expression analysis of metallothionein and mineral elements uptake in tomato (Solanum lycopersicum) exposed to cadmium. J Plant Res 129: 989-995

カドミウム暴露によってトマトに4つあるメタロチオネイン遺伝子のうちMT1とMT2の発現が増加し、同時にマグネシウム、カルシウム、鉄の葉と果実での含量が増加することを明らかにした。(pp. 989-995)

ウキクサLandoltia punctataのクロロフィル蛍光、デンプン含量、脂肪酸に対する亜セレン酸塩の影響

Yu Zhong, Yang Li, Jay J. Cheng (2016)

Effects of selenite on chlorophyll fluorescence, starch content and fatty acid in the duckweed Landoltia punctate J Plant Res 129: 997-1004

20 μmol L−1以下の亜セレン酸ナトリウムは、ウキクサLandoltia punctataの生育速度、脂肪酸含量、光合成に正の影響を与える一方、40 μmol L−1以上では、負の影響がみられた。セレンの光合成に対する影響が生育への影響をもたらしていると考えられる。(pp. 997-1004)

Technical Note

新規分子手法を用いたDrepanocladus turgescens(コケ植物ヤナギゴケ科)非繁殖個体の性識別

Hedenäs L, Korpelainen H, Bisang I (2016)

Identifying sex in non-fertile individuals of the moss Drepanocladus turgescens (Bryophyta: Amblystegiaceae) using a novel molecular approach. J Plant Res 129: 1005-1010

有性生殖を滅多に行わない雌雄異株のコケ植物Drepanocladus turgescensでは、同属別種で開発されたマーカーによる性識別が困難であった。本研究によって新たに開発されたプライマー(PT-3f、PT-3r)を使用して増幅した領域の塩基配列では、雌6個体-雌3個体の間で5部位に差異が認められ、性識別への有用性が確認された。(pp. 1005-1010)

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