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17年度日本植物学会賞選考委員会—講評—

[お知らせ]  2005年8月24日

本年度の日本植物学会賞選考委員会は4月11日より選考作業を開始し、主にメールにより意見交換したのち5月21日(水)に東京で選考委員会を開催し、さらにメールによる検討を加えて第2回日本植物学会賞を以下のように選考いたしました。

<大賞>
柴岡 弘郎(大阪大学名誉教授)
「植物細胞の伸長方向の制御機構に関する研究」

<学術賞>
黒岩 常祥(立教大学理学部生命理学科)
「色素体とミトコンドリアの分裂と遺伝の基本原理発見から真核細胞構築のオミクス科学への展開」

<奨励賞>
石田 健一郎(金沢大学大学院自然科学研究科)
「クロララクニオン藻の系統、分類、進化、そして二次共生による葉緑体獲得のメカニズムに関する研究」

関 原明(理化学研究所ゲノム科学総合研究センター)
「シロイヌナズナ完全長cDNAを用いた植物ゲノムの発現・機能解析」

出村 拓(理化学研究所植物科学研究センター)
「維管束木部細胞分化の分子メカニズムの解析」

林 誠(大阪大学大学院工学研究科)
 「ミヤコグサの初期根粒形成に関与する因子の解析」

松永 幸大(大阪大学大学院工学研究科)
 「高等植物の性染色体と雌雄性分化の研究」

<若手奨励賞>
海老原 淳(東京大学大学院総合文化研究科)
「コケシノブ科を用いたシダ植物の種分化機構の解析」

田中 博和(中部大学応用生物学部)
「シロイヌナズナを用いた表皮分化の制御機構の分子遺伝学的研究」

松下 智直(京都大学大学院理学研究科)
「フィトクロムB分子による細胞内シグナル伝達機構の解析」

吉井 幸恵(福井大学医学部高エネルギー医学研究センター)
「原始緑色植物プラシノ藻類から探る緑色植物における光合成アンテナ色素系の進化過程」

<特別賞>
長田 敏行(東京大学大学院理学系研究科)
「植物培養細胞研究における貢献」

佐々木 卓治(農業生物資源研究所)
「イネゲノム解読研究における貢献」

理化学研究所バイオリソースセンター実験植物開発室(代表:小林正智)
「シロイヌナズナのバイオリソース整備における貢献」

丹羽 康夫(静岡県立大学大学院生活健康科学研究科)
 「植物分子生物学における緑色蛍光タンパク質の開発・普及に対して」

高橋 和成(岡山県立一宮高等学校)
 「高校における生物研究の指導と活動に対して」

富山県中央植物園(園長:内村悦三)
 「タケの生理・生態学に関する研究と植物科学の教育・普及活動における貢献」


日本植物学会賞は、昨年度から従来の奨励賞に、大賞、学術賞、若手奨励賞および団体でもまた非会員でも顕彰の対象となる特別賞を加えました。また、自薦や他薦に加え、評議員推薦を加えることで、才能ある若手を発掘し、積極的に奨励することができるようになっています。

大賞には評議員推薦により柴岡弘郎会員がノミネートされました。柴岡会員の研究業績としては長年にわたる植物の成長制御機構に関する研究があげられます。特に1)ジベレリンによる成長制御に関する研究、2)不定根形成の制御機構の研究において先導的な研究を行い、多くの成果を上げられました。さらに、これら成長生理学研究を通して、3)細胞表層に存在する微小管の向きが細胞壁に新たに付加されるセルロース微繊維が並ぶ方向を決め、これが細胞の伸長の方向を決めること、ジベレリンやサイトカイニンが細胞表層の微小管の向きを決めることによって細胞の伸長方向を決めていることを明らかにしました。この発見はその後の植物細胞の成長や分化の研究に大きな影響を与えることになりました。この画期的な研究に対して、本年4月に南方熊楠賞を授与されております。今回は、長年の植物生理学の発展への貢献と画期的な研究業績に対して、柴岡会員に日本植物学会賞の最高賞である大賞を授与することを決定しました。

学術賞には、評議員推薦で黒岩会員が推薦され、研究業績を検討し、同会員に学術賞を授与することを決定しました。黒岩会員は、植物や粘菌のミトコンドリアと葉緑体の分裂・増殖・遺伝のしくみの研究で、幅広い分野で独創的な研究を展開し、多大な業績を上げています。とくに、ミトコンドリアと葉緑体の核様体の発見、多重分裂リングの発見、それらの分裂・増殖における役割の解明、ミトコンドリアと葉緑体の細胞質遺伝の分子機構の解明では、独創的な研究成果とともに独自の材料・解析技術の開発も高く評価されています。また、酵母染色体の発見から原始紅藻”シゾン”のゲノム解読に至る研究でも、材料の探索から着手して独自のモデル生物分野を開拓し、真核生物では初の完全解読に到達しており、今後の研究展開への多大な影響も期待されています。

奨励賞には評議員推薦で7名、自薦で3名の応募がありました。審査は、応募者のそれぞれの申請書と別刷りコピーを、10名の審査員全員に配布し、応募者の順位(推薦順位表)と研究に関するコメント(評価表)を書いてもらうところから始めました。選考委員会において、各委員が付けた順位をそのまま得点として加算し、候補者に総合点の順位をつけました。これらをまとめて総合推薦順位表を作成し、各候補者の研究内容に加えて植物学会大会での発表など学会への貢献度を調査しながら議論しました。結果として、アイウエオ順で、石田健一郎会員、関原明会員、出村拓会員、林誠会員、松永幸大会員の5名に奨励賞授与を決定しました。

石田会員は、博士課程修了後10年目で、PNAS.誌、Phycol. Res.誌などに、共著も含め15篇の原著論文を発表しています。二次共生によって葉緑体を獲得したクロララクニオン藻の分類体系を整備し、葉緑体の起源についての詳細な研究を行ってきました。また、不等毛藻や渦鞭毛藻なども用いて、葉緑体の由来や核コード葉緑体タンパク質の葉緑体への輸送などに関する研究も進めており、新しい進化研究への発展が期待されます。

関会員は、博士課程修了後12年目で、Science誌、Plant Cell誌、Plant J.誌などに共著も含め84篇の原著論文を発表しています。シロイヌナズナの完全長cDNAの単離、解析にいち早く取り組み、多くの成果を上げてきました。また、マイクロアレイを用いた植物遺伝子の発現プロファイル解析においても、多くの有用遺伝子を同定し、国内外において高く評価され、様々な国際会議において招待講演を行ってきています。

出村会員は、博士課程修了後11年目で、PlantPhysiol.誌、Plant Cell誌、PNAS.誌などに共著も含めて24篇の原著論文を発表しています。ヒャクニチソウ木部分化誘導系を用いて、マイクロアレイにより多数の遺伝子を同定し、機能を解析してきました。この成果は国際的にも大いに注目されています。また、シロイヌナズナの継代懸濁培養細胞からの木部細胞分化誘導系の開発に成功し、他の研究室との共同研究にも利用されており、今後の研究の発展が期待されています。

林会員は、博士課程修了後10年目で、Cytologia誌、J. Plant Res.誌、Nature誌などに共著も含めて20篇の原著論文を発表しています。マメ科モデル植物ミヤコグサを用いて、分子遺伝学の基盤を整理し、感染糸形成に関する詳細な検討を進め、ジャスモン酸が根粒形成を促進することなどを明らかにしました。また、Nod factor認識に必要な遺伝子の同定などに成功しています。根粒形態形成の解明に向けて今後の発展が期待されます。

松永会員は、博士課程修了後8年目で、Plant J.誌、PlantCell Physiol.誌、Cytologia誌などに共著も含め48篇の原著論文を発表しています。雌雄異株植物ヒロハノマンテマを研究材料に選び、性染色体と雌雄性分化の解析を行い、X染色体に連鎖する性染色体遺伝子を同定しました。これらの研究から単性花の形成機構や性染色体の成立機構のモデルを導くことができ、国際的にも高い評価を得ています。さらに、Y染色体特異的マーカーを収集し、これらを活用することにより花粉個々の性別を判定できるようになり、花粉解析に応用されています。

若手奨励賞には評議員推薦で2名、自薦で3名の応募がありました。候補者の評価は奨励賞と同様の方法で行いました。若手奨励賞は、大学院生やポスドクなど、意欲にあふれた若手の奨励が目的です。若手奨励賞も日本植物学会の賞なので、最近の大会で積極的に発表していることが重要な条件になります。その結果、アイウエオ順で、海老原淳会員、田中博和会員、松下智直会員、吉井幸恵会員の4名に若手奨励賞を授与することが決まりました。

海老原会員は、博士課程3年在学中で、シダ植物の一群であるコケシノブ科をモデルに用いて、複数の葉緑体DNA領域を用いた分子系統学的解析で科内での進化について示しました。日本、台湾、韓国などの様々な地点から多くのハイホラゴケ群の試料を採取して検討しており、今後の進展が期待されます。

田中会員は、博士課程修了後4年目です。表皮分化の分子機構を解明するためにクチクラに異常のある変異体を用いて解析し、クチクラ形成に関わる数種の遺伝子を明らかにし、表皮の形成とシュート形成との関連を示唆しました。この研究は極めてユニークで今後の発展が期待されます。

松下会員は、現在博士課程修了後2年目で、光受容体フィトクロムBのシグナル伝達に関する研究を行ってきました。フィトクロムB分子のN末端とC末端の機能と役割に関して詳細に検討し、これまでの常識を覆す結果を得ました。この研究をさらに進めることによりシグナル伝達に関して新たな重要な発見に繋がることが期待されます。

吉井会員は、学位取得後、ほぼ1年が経過したところですが、原始緑色植物プラシノ藻類やその他の緑色藻類から多くの新規光合成色素を発見し、緑色植物の光合成アンテナ系の変遷に関する進化仮説を提唱しました。これらの研究成果は国際的に高く評価されています。

特別賞は昨年から始まった日本植物学会賞のなかで最もユニークな賞です。植物科学や植物学会の発展に貢献のあった個人や団体を顕彰しますが、分野や年齢を問わず、また、毎年複数の分野で受賞者を出すことで植物科学の活性化をはかろうと創設されたものです。「技術」「教育」「その他」の分野で、評議員から推薦のあった個人や団体の他、自薦で応募された方について選考しました。

技術分野では、今回は長田敏行会員、佐々木卓治氏、丹羽康夫会員、理化学研究所実験植物開発室の3名、1団体の方々を顕彰することにいたしました。

長田会員は、タバコ葉肉細胞のプロトプラストを増殖させることに成功し、さらにそのコロニーから植物個体を再生することに成功しました。この成果はその後の基礎研究のみならず、応用分野にも多大な影響を与えたことは衆知の事実です。また、タバコBY-2細胞を植物培養細胞のモデル系として利用できるまでに研究開発を行い、普及に努めたことも国際的に高く評価されています。

佐々木氏は、農林水産省の「イネ・ゲノム研究プロジェクト」の「イネ・ゲノムの全塩基配列の解明」を担当されました。「国際イネゲノム塩基配列解読プロジェクト、IRGSP」の一環として、イネ品種「日本晴」の12本の染色体のうち6本の染色体を担当し、2004年末までに完全解読が終了しました。この成果は今後のゲノム研究に大いに活用されることが期待され、特別賞(技術)を授与することになりました。

丹羽会員は、生きた試料をそのまま観察可能なレポーター遺伝子GFPを、植物で利用できるように改良したGFP(sGFP)遺伝子の合成に成功しました。また、これを利用して、任意のタンパク質の細胞内局在を調べる系の確立、GFP形質転換植物の非破壊定量法の開発などを行ってきました。現在、このGFP遺伝子は広く普及し、多くの研究者に利用されています。このsGFPの開発と普及の努力に対して特別賞(技術)を授与することに決定しました。

理化学研究所実験植物開発室は、2002年4月に文部科学省が創設したナショナルバイオリソースプロジェクトにおいてシロイヌナズナ及び植物細胞・DNAの課題の中核機関に選定され、5月からリソースの提供などの事業をスタートさせています。現在までに約26万系統のリソースを収集、保存し、1万3千個以上のリソースを国内外の研究者に提供しています。また、リソースは信頼性が求められますが、特にゲノムリソースはその信頼性を保ちつつ網羅的な構築が重要です。それを可能にした管理システムを開発したことは高く評価されます。

特別賞の教育分野では、高橋和成氏に賞を授与することになりました。高橋氏は、変形菌類を教育活動に活用することを目指して生態的調査を進め、採集した標本は博物館に提供しています。また、ムラサキタマホコリカビを教材化し、新しい教材実験も開発しました。この材料は、リクエストに応じて株分けもしています。一方、生物部の活性化を目的として、学会で高校生のポスター発表なども実現させました。また、実験講座「スーパーサイエンスラボ講座」を開設するなど、一貫して、高校における生物教育の活性化に積極的に関わってきました。

特別賞のその他の分野として、富山県中央植物園を顕彰することになりました。富山県中央植物園では植物の展示・育成とともに、植物の調査・研究を行い、また、各種の企画展、講習会、講演会、観察会、植物案内などを開催して、植物の啓蒙、普及・教育に努めてきました。また、園長の内村悦三氏を中心に「タケの生理・生態学に関する研究」を行い、その教育・普及に努めてきました。このような研究、教育・普及活動に対して特別賞を授与することに決定しました。

 以上の通り、平成17年度日本植物学会賞選考委員会は、第2回日本植物学会賞の各賞を15名と2団体に授与することを決め、7月2日に開催された日本植物学会理事会で報告しました。また、日本植物学会第69回大会研究発表プログラムで公表しております。

平成17年度日本植物学会賞選考委員会
近藤矩朗(委員長)、池内昌彦、近藤孝男、篠崎和子、田中一朗、長谷部光泰、原慶明、徳富(宮尾)光恵、矢原徹一、山本興太朗

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