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2019年度JPR論文賞 選考結果報告

[受賞]  2019年5月30日

2019年度JPR論文賞 選考結果報告

 Journal of Plant Research (JPR) 編集委員会は、2019年度Best Paper賞とMost-Cited Paper 賞の受賞論文を決定いたしました。

 Best paper賞は、2018年発行のJPRに掲載された原著論文から、Editorial boardメンバーによる2回の投票、そしてその結果に基づくEditorによる編集委員会での審議の結果、下記の2本が選ばれました。

Kanako Bessho-Uehara, Jovano Erris Nugroho, Hirono Kondo, Rosalyn B. Angeles-Shim, Motoyuki Ashikari (2018) Sucrose affects the developmental transition of rhizomes in Oryza longistaminata. Journal of Plant Research 131(4): 693-707

Atsushi Kume, Tomoko Akitsu, Kenlo Nishida Nasahara (2018) Why is chlorophyll b only used in light-harvesting systems? Journal of Plant Research 131 (6): 961-972  

 Bessho-Ueharaらの論文は、生理学分野の論文です。根茎の多くは地下を匍匐する茎として知られていますが、時にその一部が直立し、地上に現れ新個体(地上茎)を作り栄養繁殖を開始します。例えばタケ類は春に根茎の一部から地上茎であるタケノコを出現させます。しかしこの変化を制御する分子メカニズムについてはまだほとんどわかっていません。そこで著者らはタケ類よりもはるかに小型で根茎からの栄養繁殖が旺盛な野生イネ、Oryza longistaminataに着目し、匍匐する根茎がどのような仕組みで立ち上がり地上茎へと性質を変えるのかを調べました。その結果、このイネの根茎の屈曲は節間の偏差成長によりもたらされ、根茎の節間が親個体から6〜8番目のところで最もよく起こることを見出しました。根茎はシンクとして地下を伸びることから、親の地上茎からの栄養供給が屈曲に対する何らかのシグナルになっているのではないかと考え、最終的にショ糖が重要なシグナルであることを突き止めました。具体的には、親の地上茎から根茎の先端に向かってショ糖の濃度勾配が形成されており、ショ糖が十分供給されている節間では根茎の偏差成長は抑制されます。しかし、根茎が成長し供給されるショ糖が減少するとジベレリン合成やオーキシン輸送、細胞壁合成などに関わる遺伝子が誘導され、偏差成長を起こし地上茎への転換が起こるというモデルを提唱するに至りました。このように本論文は、器官発生様式の転換という生物現象に注目し、形態学、生理学、分子生物学などを組み合わせその制御の仕組みを新しく提唱することに成功しており、JPRの論文として誠にふさわしいものであると高く評価されます。  

 Kumeらの論文は生理生態学を中心とした分野の論文です。個々のクロロフィル分子の吸収スペクトルという物理学的レベルの現象、光合成によるエネルギー変換と光阻害の回避という生理学的レベルの現象、そして実際の野外の太陽からの直達光と散乱光のスペクトルと割合という生態学的なレベルの現象を総合的に解釈して、クロロフィルbが光化学系の反応中心複合体には存在せず、周囲のアンテナ複合体にのみ存在する理由を考察しています。このように、複数の階層にまたがる現象を、モデルだけでは済まさずに、実験で裏付けながら研究した結果がまとめられており、植物科学全般について幅広い分野を対象とするJPRらしい論文であるとして高く評価できます。  

 加えて編集委員会では、ISI Web of Knowledgeの論文被引用データに基づき、2016年にJPR誌に掲載された論文から、最も引用回数の高かった論文として、Most-Cited Paper 賞を次の論文に授与することに決定いたしました。

Wataru Yamori (2016) Photosynthetic response to fluctuating environments and photoprotective strategies under abiotic stress. Journal of Plant Research 129 (3): 379-395  

 Yamoriの論文は生理生態学分野の総説論文であり、2014年に開催されたJPRシンポジウムを記念して出版された特集(Responses of the photosynthetic systems to spatio-temporal variations in light environments: scaling and eco-devo approaches)に掲載されました。葉の光合成速度の環境応答メカニズムの解明はCO2濃度や光強度、温度、湿度などが制御された条件の下での緻密な実験によって進められ、多くの知見が蓄積されてきています。一方で、野外に生育する植物の光合成に関わる条件は、秒から分、時のスケールで著しく変動しており、特に葉群内の葉の光条件は強度と時間ともに大きな変動を経験します。例えば林床植物の葉はサンフレックを効果的に吸収し利用しなければなりませんが、時に過剰となる強度の光を安全に処理することも必要となります。したがって葉はこれらの変動環境に応じて光合成による炭素固定をするとともに、光合成機能にもたらされるダメージの回避・軽減のための調節機構を発達させています。本総説では、まず自然環境における光合成の環境条件の変動について整理し、次に光強度、CO2濃度、温度、湿度の変動が光合成反応に及ぼす影響を実験結果に基づいて解説しています。最後に変動環境に対する光合成の調節機構における葉形態や葉緑体運動の機能、および、過剰光の熱散逸やCyclic electron transport、water-water cycle、光呼吸などの生理学的な制御機能について最近の知見とともに解説し、変動環境下での光合成反応の解明とその意義について展望を述べています。広範な時間的スケールで変動する環境に生育する植物の光合成反応に関するさらなる解明は、光合成機構の適応の理解の促進と、それに基づいた自然環境下での多様な植物の光合成生産の予測にも関わるテーマであり、本総説はこれまでの理解と将来の研究発展を繋ぐ役割を担う素晴らしい論文です。  

 JPRは以上の3論文のような質の高い論文を掲載できたことを誇りに思います。ここに、受賞された方々にお祝いを申し上げるとともに、会員の皆様にご報告申し上げます。  

 なお、授賞式は、日本植物学会第83回大会において下記の通り行われる予定です。
 日時:2019年9月16日(月)午後14時30分から
 会場:東北大学川内北キャンパスマルチメディア教育研究棟
    〒980-8576 仙台市青葉区川内41
    https://www.tohoku.ac.jp/japanese/profile/campus/01/kawauchi/areaa.html

JPR編集委員長 彦坂幸毅


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