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日本植物学会賞(2007年度)の選考結果報告

[お知らせ]  2007年8月24日

日本植物学会は、大賞、学術賞、奨励賞、若手奨励賞、特別賞を制定し、植物学の研究業績と植物学への貢献に対して表彰を行っています。また、自薦や他薦、評議員推薦により、才能ある若手研究者を発掘し、積極的に受賞候補者を推薦することができる体制がとられています。本年度の日本植物学会賞選考委員会は、5月16日(木)東京大学にて選考委員会を開催し、さらに電子メイルによる検討を加えて6月6日に第4回日本植物学会賞受賞者を決定いたしました。


大賞
評議員による推薦を受けた15名を対象として、研究業績、後進の育成、植物学会への貢献ならびに植物科学全般への貢献等を審議し、千原光雄名誉会員に、大賞を授与することを決定しました。
 千原名誉会員は、藻類に関して数多くの研究論文を発表し、培養観察による生活史の解明とその分析・比較を通じて生活史の特性は系統発生を反映したものであることを明らかにし、藻類の系統分類体系の確立に多大な貢献をしています。とくに、カギノリ科の生活環、プラシノ藻の系統研究では大きな成果を収めています。また、『藻類研究法』(共立出版)を始めとした数多くの書籍の出版や、筑波大学教授として藻類学を学ぶ多くの後進を育て、日本の藻類学の研究レベルを国際的にトップレベルまで飛躍的に高めた功績は多大なものであります。さらに、日本植物学会長として本学会の発展にも大きく貢献されました。今回は、長年にわたる植物学・藻類学の発展への多大な貢献と多岐に渡る教育研究業績に対して、千名誉会員に日本植物学会賞の最高賞である大賞を授与することを決定しました。

 

学術賞
評議員により推薦を受けた18名を対象とし、研究業績のプライオリティー,独創性,国際的評価,ならびに植物科学の発展への貢献について検討した結果,大隅良典会員に学術賞を授与することを決定しました。
 大隅良典会員は、酵母を用いて自食作用(オートファジー)に関する独創的な研究を展開し、謎とされていたその分子機構の全容を解明するに至り、多大な業績をあげています。酵母細胞が栄養飢餓条件にさらされると、分解コンパートメントである「液胞」において大規模なタンパク質分解が誘導されることを顕微鏡観察によって発見しました。これがオートファジーと同一の現象であることを証明し、次に、オートファジーに欠損をもつ多くの変異株を分離し、14個の関連遺伝子(ATG遺伝子群)を同定することに成功しました。その遺伝子群がコードするタンパク質はいずれも新規分子でしたが、全ての分子の機能を解明し、標的分子の認識、オートファゴソーム形成、液胞への移行など、全容を明らかにしました。タンパク質分解系はユビキチン/プロテアソーム系とリソゾーム(液胞)系に二大別されるが、リソゾーム系であるオートファジーの分子機構を大隅会員グループが単独で解明したといえます。ATG遺伝子の発見が契機となり、多くの生物でオートファジーが確認され、飢餓応答、細胞内の浄化、細菌感染応答、抗原提示など多面性があることが明らかになってきています。大隅会員の研究は、細胞内構造の細密な形態変化を見抜く力が研究のスタートなり、その現象が生理現象の現場であることを証明し、さらに分子生物学研究へと発展させた一連の研究は、独創研究そのものであり、世界におけるこの領域の主要な研究の牽引力ともなっています。関連発表論文は総計6000以上の引用に至り、生命科学研究に多大な影響を与え続けています。



奨励賞

 評議員推薦と自薦とを合わせて10名の選考対象者がいました。審査は、応募者のそれぞれの申請書と別刷りを選考委員全員に配布し、応募者の評点(5段階)と研究に関するコメント(評価表)を書いてもらうところから始めました。選考委員会において、各委員が付けた評点を加算し、候補者の総合点とし、これらをまとめて総合推薦順位表を作成し、各候補者の研究内容を中心に植物学会大会での発表など学会への貢献度を調査しながら議論しました。結果として、総合的評価の高かった3名、今泉(安楽)温子会員、上田貴志会員、澤進一郎会員(五十音順)への奨励賞授与を決定しました。

今泉(安楽)温子(はるこ)会員は、博士学位取得後9年目で、Nature誌、Plant Cell誌、Journal of Plant Research誌などに18篇の原著論文を発表しています。受賞者はマメ化モデル植物であるミヤコグサを用いた分子遺伝学的解析により、マメ科植物と根粒菌の細胞内共生に関連した数多くの機能遺伝子の発見に成功しました。特に、根粒菌の分泌するNodファクターにより植物細胞に起動されるCa2+スパイキングを介した宿主植物の情報伝達系に関し、一貫的でかつ多方面からの解析を行い世界の研究をリードしてきました。また、受賞者の発見したCASTOR/POLLUX遺伝子系は根粒共生系だけでなくアーバスキュラー菌根菌と植物の共生系にも重要な「共通シグナル伝達系」に関与していることを示し、さらなる生理学的、進化学的解析が待ち望まれています。さらに、数々のミヤコグサによる実験系を開発し公開することによりこの分野の研究を牽引していることも特筆できます。これら一連の研究はマメ科植物と根粒菌の共生系の分子遺伝学への非常に重要な研究として高く評価されています。

上田貴志会員は、博士学位取得後9年目で、Cell誌、Plant Cell誌、Plant Journal誌などに18篇の原著論文を発表しています。上田会員は植物における小胞輸送のメカニズムと機能を明らかにすることを目的とし、小胞輸送機構を制御する低分子量GTPaseの研究を一貫しておこなってきました。Ara4やAra6などのRab GTPaseの局在や機能、タンパク質間相互作用の解析を行い、特にAra6がエンドサイトーシス経路において機能していることや局在化機構が他のRab5メンバーと大きく異なっていることを明らかにしています。これらの成果に基づき、植物におけるエンドサイトーシスの機能解析の研究に発展させています。これら一連の研究は、エンドサイトーシスが植物において独自の機構を有していることを示すものであり、独創的な研究として高く評価されています。

澤進一郎会員は、博士学位取得後9年目で、Science誌、Plant Cell誌、Plant Physiology誌、Plant and Cell Physiology誌などに18篇の原著論文を発表しています。シロイヌナズナの突然変異体の解析から、葉脈パターン形成に関わる複数のVAN遺伝子を見出し、それらが細胞内小胞輸送とくに細胞間シグナル伝達物質の極性輸送に関与する可能性を示しました。また植物の分裂組織に特異的に発現し細胞分化を決定づける遺伝子としてCLV遺伝子群の解析をすすめ、CLV3遺伝子産物として12アミノ酸残基からなるペプチドが、茎頂と根端における生理活性リガンドとして、CLV1やCLV2に作用することを明らかにしました。これらの一連の研究は、植物の成長と分化をささえる茎頂・根端における細胞の空間認識機構を理解するきわめて重要な知見をもたらしており、独創的な研究として高く評価されています。



若手奨励賞

 若手奨励賞には評議員推薦と自薦を合わせて8名の選考対象者がいました。候補者の評価は奨励賞と同様の方法で行いました。この賞は、大学院生やポスドクなど、意欲にあふれた若手の研究者の表彰が目的です。最近の大会で積極的に発表していることも重要な条件になります。その結果、門田康弘会員、朽名夏麿会員、西田敬二会員への若手奨励賞授与を決定しました。

門田康弘(かどたやすひろ)会員は、博士学位取得後2年目で、Plant Journal誌などに9篇の原著論文を発表し、3篇の総説も著わしています。主としてタバコ培養細胞BY-2でストレスに対する防御反応誘導機構についての解析を行ってきて、防御反応誘導機構には電位依存的Ca2+チャンネルNtTPC1sを中心としたCa2+シグナル伝達系が重要な役割を果たすことを明らかにしました。また、ストレスに対する防御反応の誘導過程で細胞周期は特定時期で停止すること、細胞周期の時期にようって誘導される防御反応の強さが異なり、これにはNtTPC1sの細胞周期依存的な転写制御が関わることも明らかになっています。このような成果は、すでに数多くの論文や総説で引用されていて、本研究分野に大きなインパクトを与えています。今後、植物のシグナル伝達系の解明に向けて研究の発展が期待されます。

朽名夏麿(くつな なつまろ)会員は、博士学位取得後2年目で、Plant Cell Physiology誌などに7篇の原著論文を発表し、5篇の解説・総説も著わしています。主としてタバコ培養細胞を対象に液胞の立体構造に注目してダイナミズムを顕微鏡により解析して可視化し、液胞の立体構造、膜表面積、液胞内容積について定量な構造解析を可能にしました。さらに細胞分裂期には分裂装置周辺にチューブ状液胞膜構造が現れること、ミニプロトプラストからの巨大液胞再生期にはチューブ状・網状液胞が現れることを発見しています。これらの研究は、特許出願中の独自の顕微鏡画像処理ソフトの開発も含みます。今後、細胞骨格との関連も含めて液胞の形成、動態に関して、より大きな分子細胞生物学的成果へと発展すると期待されています。

西田敬二会員は、博士学位取得後1年目で、PNAS誌などに10篇の原著論文を発表し、2篇の英文総説も著わしています。西田会員は、原始紅藻シゾン(Cyanidioschyzon merolae)を用いてミドコンドリアの分裂機構の研究を行ってきました。特に、FtsZ遺伝子とDynamin遺伝子のオルガネラ分裂における役割を、さまざまなアプローチによる総合的解析により明らかにし、ミトコンドリアおよび葉緑体における分裂の制御機構まで解析を進めています。シゾンという日本発のモデル生物を用いたこれらの研究成果は、世界的に評価され、すでに多くの論文に引用されています。今後、細胞周期とオルガネラ分裂との関係などを含め、より大きな細胞生物学的研究成果に発展することが期待されます。



特別賞

 特別賞は2004年から始まった日本植物学会賞のなかで最もユニークな賞です。植物科学や植物学会の発展に貢献のあった個人や団体を、分野や年齢を問わず選考して顕彰し、さまざまな面から植物科学の活性化をはかろうと創設されたものです。「技術」「教育」「その他」の分野で、評議員から推薦のあった個人や団体の他、自薦で応募された方について選考しました。

特別賞(技術)
技術分野では、東山哲也会員を顕彰することにいたしました。東山会員は被子植物の受精過程を可視化するために独創的な技術開発を進め、植物学の基盤となる大きな発見と研究成果に結びつけました。とくに、花粉管と胚嚢による重複受精をin vitroで再現する培養技術、受精過程のライブイメージング技術、そして特定の細胞を操作するための兼備操作技術の開発を挙げることができます。その成果は研究論文のみならず、特許出願され、教材としても提供されており、広範囲の貢献となっています。これらの功績に対して特別賞(技術)を授与することに決定しました。


特別賞(教育)
教育分野では井上勲氏に賞を授与することになりました。井上氏は、植物学とくに藻類の専門家として長年、教育研究に携わってきて、その集大成とも入れる「藻類30億年の自然史」を出版しました。本書は専門書として書かれていますが、一般の読者でも読んで理解できるように工夫されています。その内容は藻類だけでなく植物の進化を知る上で他に類書がないもので、多方面から高く評価されています。さらに受賞者により作成・運営されているウエッブサイトである「藻類画像データ」は、藻類に関するインターネットサイトでは最も古いものの一つで、過去10年にわたって利用されてきました。本サイトはもともと筑波大学の生物学類学生の教育目的で開設したものです、世間一般に藻類への関心を高めることに貢献してきました。このサイトは日本語のものですが、画像は国際的にも多くの研究者・学生に利用されています。上記のような植物学の教育分野での貢献は高く評価でき、特別賞(教育)を授与することに決定しました。


特別賞(その他)
特別賞のその他の分野として、国立科学博物館筑波実験植物園を顕彰することに決定しました。筑波実験植物園は、国立科学博物館の附属施設として設立され、社会教育と研究活動を行ってきています。その中で特に近年国際的に注目を集めている絶滅危惧生物の保全活動に園として積極的に関与しています。植物園における絶滅危惧植物のex situ保護による保全だけでなく、各植物についての地道な研究により、その遺伝的多様性の解明や、その結果に基づく保全計画の策定などを行ってきました。また、このような研究成果を、講演会や企画展示会を通じて社会還元することにも積極的に取り組んできています。このような熱意にみちた植物の保全活動とその普及活動をされてこられた長年の功績に対して特別賞(その他)を授与することに決定しました。


以上の通り、2007年度日本植物学会賞選考委員会は、第4回日本植物学会賞の各賞を10名と1団体に授与することを決め、6月6日会長に報告し、7月7日に開催された日本植物学会理事会で了承されました。また、日本植物学会第71回大会研究発表プログラムで公表の予定です。


2007年度日本植物学会賞選考委員会
前島正義(委員長)、伊藤元己(幹事)、阿部美紀子、今市涼子、片岡博尚、甲山隆司、田坂昌生、西田治文、丸田恵美子、三室守

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