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第6回日本植物学会賞受賞者

[お知らせ]  2009年7月18日

第6回日本植物学会賞の各賞の受賞者が以下の通り決まりました。なお、授賞式と受賞講演は、日本植物学会第73回大会(山形、9月18日〜20日)で行われる予定です。

<大賞>
  古谷雅樹(東京大学名誉教授)
   「フィトクロムの光環境情報受容機構」
<学術賞>
  岡田清孝(基礎生物学研究所 所長)
   「シロイヌナズナを用いた植物分子遺伝学の展開」
<奨励賞>
  永田典子(日本女子大学 准教授)
   「高等植物の雄性配偶体形成過程における特異なオルガネラ分化に関する研究」
  西村芳樹(京都大学 助教)
   「葉緑体母性遺伝の分子機構の探求」
  日原由香子(埼玉大学 准教授)
   「シアノバクテリアの環境順化応答の分子生物学的解析」
<若手奨励賞>
  池田 啓(京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程)
   「系統地理学を基盤にした日本列島高山植生の進化史の解析」
  風間裕介(理化学研究所 基礎科学特別研究員)
   「雌雄異株植物ヒロハノマンテマの性染色体と性発現機構」
  桧垣 匠(東京大学大学院新領域創成科学研究科 特任研究員)
   「アクチン繊維の生体可視化と画像情報処理による細胞形態形成・制御機構の解析」
  吉田大和(立教大学極限生命情報研究センター・ポストドクトラルフェロー)
   「ゲノム情報とプロテオミクスを基盤にした色素体・ミトコンドリア分裂装置の構
造と分子機構に関する研究」
<特別賞>
技術
  大林 武(東京大学医科学研究所 特任研究員) 
   「シロイヌナズナ遺伝子発現に関する汎用性の高いデータベースの構築」
教育
  百瀬忠征(東京農工大学 工学部生命工学 研究生)
   「長年にわたる植物学会での発表と教育に対する貢献」
  国際生物学オリンピック日本委員会および国際生物学オリンピック2009組織委員会
   「生物学を志す次世代の若者を育成」
その他  
  後藤伸治(宮城教育大学名誉教授)
   「仙台シロイヌナズナ種子保存センターの設置・運営に関する貢献」
  野尻湖水草復元研究会
   「野生絶滅車軸藻ホシツリモの復元を目指した活動とその社会的貢献」


=選考結果報告=

 日本植物学会は,大賞,学術賞,奨励賞,若手奨励賞,特別賞を制定し,植物学の研究業績と植物学への貢献に対して表彰を行っています.また,自薦や他薦,評議員推薦により,才能ある若手研究者を発掘し,積極的に授賞候補者を推薦することができる体制がとられています.本年度の日本植物学会賞選考委員会は,5月23日(土)東京大学にて選考委員会を開催し第6回日本植物学会賞受賞者を決定いたしました.本年度は例年になく多数の推薦、応募がありましたが、今後も数多くの方の推薦,応募を期待いたします.

<大賞>
 評議員による推薦を受けた5名を対象として,研究業績,後進の育成,植物学会への貢献ならびに植物科学全般への貢献等を審議し,古谷雅樹氏に,大賞を授与することを決定しました

古谷雅樹(東京大学名誉教授)
「フィトクロムの光環境情報受容機構」
 古谷雅樹氏は、従来日本においてあまり研究対象とはなっていなかった、光形態形成特にフィトクロムに関する研究を日本に広め、幾多の業績を上げてこられました。今日、日本が国際的にも光形態形成研究の一つの核となり得ているのも、古谷氏の努力の賜物です。古谷氏は、単に啓蒙活動に携わるだけでなく、日本光生物学協会の設立、岡崎基礎生物学研究所の大型スペクトログラフ建設等ソフト・ハード両面から研究環境を整える努力を続けてこられました。これらに対する情熱と努力は凡人にはまねのできないものであります。
 植物学会の改革にも鋭意取り組まれ、幹事長時代には東大植物学教室に寄生するような形の学会事務部門を独立させられました。現在の JPRの前身であるBot. Mag. Tokyoの編集長時代にはBot. Mag. Tokyoを英文国際誌に衣替えさせ、生物科学ニュースを創刊されました。さらに、1993年に横浜で開催された国際植物科学会議においては、組織準備委員会委員長を務められ、日本植物学会を含む共催12学会を取りまとめ、成功へと導かれました。さらに古谷氏の活躍は、学会の枠の中に留まらず、一般市民をも巻き込んだ小石川植物園後援会の設立等に見られるように、学会をサポートする体制の構築にも及んでいます。この様な、長年にわたる植物学への多大な貢献と多岐に渡る研究業績に鑑み,古谷氏が日本植物学会賞の最高賞である大賞にふさわしいと判断しました.
(井上康則委員 記)

<学術賞>
 評議員により推薦を受けた5名を対象とし,研究業績のプライオリティー,独創性,国際的評価,ならびに植物科学の発展への貢献について検討した結果,岡田清孝氏に学術賞を授与することを決定しました.

岡田清孝(基礎生物学研究所 所長)
「シロイヌナズナを用いた植物分子遺伝学の展開」                          
岡田清孝氏は、植物科学に研究の場を移される以前から、分子遺伝学の第一線で活躍されていた方です。しかし、当時まだ一部の研究コミュニティーで注目されていたのみであった、一雑草のシロイヌナズナの潜在的価値を見いだし、日本にシロイヌナズナ研究を導入されました。しかもそれを個人の研究で終わらせることなく、基礎生物学研究所での年一回のワークショップの開催、重点領域研究の主宰等を通じて、国内にシロイヌナズナ研究のコミュニティーを定着させ、発展させてきました。このおかげで、日本の植物科学は激動の時代を乗り越え、モデル植物学の時代にスムーズに移行できたと言っても過言ではありません。その功績は、極めて大きなものがあります。
 しかも岡田氏は、その研究当初から、花のABCモデルにあと一歩というところまで肉薄するなど、世界のシロイヌナズナ研究の第一線と互角のレベルを実現し、日本にシロイヌナズナ研究ありということを明示されました。その後も、システマティックな根の変異体の単離、根毛形成の変異体、葉の裏表の制御の変異体、等々、時代をリードする発見を相次いで発表してきています。
 このように、岡田氏はシロイヌナズナ研究を日本に植え付け、育て上げたという学界への貢献だけでなく、基礎研究の発展にも大きく貢献されてきました。日本植物学会として、学術賞にもっともふさわしい貢献であると考えます。
(塚谷裕一委員 記)

<奨励賞>
 評議員推薦と自薦とを合わせて9名の選考対象者がいました.審査は,応募者のそれぞれの申請書と別刷りを選考委員全員に配布し,応募者の評点(5段階)と研究に関するコメント(評価表)を書いてもらうところから始めました.選考委員会において,各委員が付けた評点から平均値を算出し、総合推薦順位表を作成し,各候補者の研究内容を中心に植物学会大会での発表など学会への貢献度を調査しながら議論しました.結果として,総合的評価の高かった永田典子、西村芳樹、日原由香子(五十音順)の3氏への奨励賞授与を決定しました.

永田典子(日本女子大学 准教授)
「高等植物の雄性配偶体形成過程における特異なオルガネラ分化に関する研究」
オルガネラの遺伝や分化を、高等植物の雄性配偶体形成という局面で捉えるところに、永田典子氏の研究の特色や独創性が濃縮されているように思われる。
高等植物のオルガネラの遺伝様式は複雑である。種によって、葉緑体とミトコンドリアの遺伝の方向性が必ずしも一致しないし、葉緑体も母性遺伝するばかりとは限らない。永田会員は、オルガネラの遺伝様式がわかっている8種の植物種を調べ、オルガネラの遺伝様式が雄性配偶体内のオルガネラDNAの複製と分解のパターンによって決まることを突き止めた。この発見は、高等植物のオルガネラ遺伝研究では、必ず引用される論文の一つとなっている。
オルガネラ分化に関しては、脂質生合成の中でもMVA経路に着目し、ステロールをはじめとしたイソプレノイド型脂質が雄性配偶体形成に重要なはたらきをすることを一連の論文で報告している。イソプレノイド型脂質の多機能性を、微細形態学的観察法を交えてオルガネラ分化の視点から解明するという研究アプローチは高く評価されよう。葯のタペータム細胞内や雄性配偶体内でも、さまざまな脂質系オルガネラが時期特異的に出現・消失する。電顕を駆使することでこれを解明しようとする努力に賞賛を送りたい。
(河野重行委員 記)

西村芳樹(京都大学 助教)
「葉緑体母性遺伝の分子機構の探求」
葉緑体の母性遺伝の機構は、1982年に、クラミドモナスで接合子の雄の葉緑体DNAの輝点が接合後の短時間の間に消失することが発見され、その分子機構が明らかにされることが期待されているが、その全容の解明には至っていない。
西村芳樹氏は、生きた細胞の中で雄の葉緑体DNAが消失するのを観察するのに成功し、一つ一つの細胞で起こる葉緑体DNAの劇的で積極的な分解の分子機構を明らかにする手法の一つを確立したことは高く評価できる。また、エアーブラシ法を開発し、雌雄の葉緑体をデンプン含量の違いで単離するというユニークな手法で、雄葉緑体DNA分解を担うヌクレアーゼ活性の検出に成功している。ユニークな研究手法は、メダカのミトコンドリアにまで及び、光ピンセットを巧みに利用して、雄ミトコンドリアDNAの輝点消失とともに、DNAが全く検出できなくなることを証明している。受精後に雄ミトコンドリアDNAが積極的に分解されることが、母性遺伝の根幹であるとするこの発見は世界的にも高く評価され、さまざまな雑誌のハイライトで取り上げられている。
現在は、クラミドモナスを用いて、母性遺伝関連のさまざまな突然変異体を単離しており、今後の活躍も大いに期待できる。
(河野重行委員 記)

日原由香子(埼玉大学 准教授)
「シアノバクテリアの環境順化応答の分子生物学的解析」
 日原由香子氏は,博士学位取得後11年間に,The Plant Cell ,Plant Physiology,The Journal of Biological Chemistry、Plant & Cell Physiology など一流の国際誌に23編の原著論文を発表しています.
 日原氏は,光合成生物の環境応答の分子機構の解明を研究目標として、シアノバクテリアを材料に活発な研究を展開しています。特に、遺伝子発現の動態を網羅的に解析するために、シアノバクテリアの全ゲノムDNAマイクロアレイを用いた研究を行い、ゲノム中の様々な遺伝子が機能グループ毎に統一的に発現制御を受けていることを見いだしています。この研究は、光合成生物の遺伝子発現解析を網羅的に行った先駆的な研究として高く評価されています。さらに、光環境変動による遺伝子発現調節が転写因子のレドックス調節によるものであることを見いだし、その分子機構に迫る研究を積極的に展開しています。日原氏の研究のほとんどは、埼玉大学において総勢2-3名程度の小さな研究グループを率いて行われたもので、まさに同会員の努力の結晶であると言えます。国際プロジェクトに共同研究者として招聘され、また国際会議にも招待講演を依頼されるなど国際的な評価も高く、今後の発展が大いに期待されます。
(久堀 徹委員 記)

<若手奨励賞>
 若手奨励賞には評議員推薦と自薦を合わせて7名の選考対象者がいました.候補者の評価は奨励賞と同様の方法で行いました.この賞は,大学院生やポスドクなど,意欲にあふれた若手の研究者の表彰が目的です.最近の大会で積極的に発表していることも重要な条件になります.その結果,池田啓、風間祐介、桧垣匠、吉田大和(五十音順)の4氏への若手奨励賞授与を決定しました.

池田 啓(京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程)
「系統地理学を基盤にした日本列島高山植生の進化史の解析」
 池田啓氏の主な業績は,3項目に要約される。�.日本の高山植物では、種内で南北分化(中部山岳地域 vs. 東北・北海道の高山帯)を起こしていることを,集団レベルでの解析、核ゲノムを併用した解析を取り入れた研究を行うことで検証した。�.この南北での隔離分布の歴史を 集団遺伝学のモデルに基づき実証的に明らかにした。その結果、中部山岳地域と北日本の集団はおよそ11万年前(最終間氷期)に分断した後、互いに遺伝的に混じり合うことなく、隔離された集団として維持されてきたことが明らかとなった。このような時間軸と集団の挙動を明確に提示した研究は、日本の植物地理研究では初めてである。�. 機能遺伝子による地域適応の存在を明らかにした。アブラナ科高山植物において,フィトクロム遺伝子群の1つであるPHYE遺伝子が,南北間の地域適応に関わっていることを明らにした。さらに、PHYEタンパク質には、重要な機能を持つ保存的なドメインに南北間でアミノ酸置換が固定しており、地域間で機能の分化が起こっていることも示唆された。これは,進化多様性を形成するゲノム基盤の解明に結びつくことを期待させる先駆的な業績であると評価される。
(戸部 博委員 記)

風間裕介(理化学研究所 基礎科学特別研究員)
「雌雄異株植物ヒロハノマンテマの性染色体と性発現機構」
 風間裕介氏は、雌雄異株植物ヒロハノマンテマの性染色体の構造を解明する目的で、染色体末端を識別できる高感度マルチカラー競合FISH法を開発し、偽常染色体領域 (pseudoautosomal region, PAR) がX染色体の短腕側にあることを明らかにした。また、同植物の雌株が黒穂菌の感染によって疑似両性花を着生することを利用し、雄蕊の発達に関与するBクラス遺伝子(SLM2)の発現を抑制する遺伝子が雌花の雄蕊原基に存在する可能性を見出し、そのひとつとしてSilene latifolia SUPERMAN (SISUP)を同定することに成功した。さらに、シロイヌナズナのSISUP遺伝子過剰発現体では雄蕊の発達が抑制されて疑似雌花が形成されることを見出した。この結果は、雌雄異株植物が両性花型植物から進化する過程で、SUP遺伝子の発現調節により花を雌化させたことを示唆する。このように、本研究は、植物の性染色体と性発現機構の解明に貢献し、高く評価されており、今後、性決定遺伝子によるSISUPの発現調節のしくみを解析することによって、植物の性染色体を介した性発現機構の解明に向けた研究が進展するものと期待される。
(高橋秀幸委員 記)

桧垣 匠(東京大学大学院新領域創成科学研究科 特任研究員)
「アクチン繊維の生体可視化と画像情報処理による細胞形態形成・制御機構の解析」
 高等植物は数多くの細胞が複雑に組み合わさって構築されるため、器官形成や環境適応において細胞形態が適切に形成・制御される必要があり、その主要制御因子であるアクチン繊維の可視化解析は重要です。桧垣匠氏は、タバコ培養細胞BY-2を材料とし、蛍光タンパク質や生体染色試薬を用いて、液胞膜、細胞板、エンドソームなどの内膜系とアクチン繊維との二重生体可視化系を確立し、細胞周期進行及びプログラム細胞死過程におけるアクチン繊維の局在・構造変化をライブイメージング法により明らかにしました。また、シロイヌナズナ孔辺細胞におけるアクチン繊維の日周期依存的な構造変化を、新たな画像情報処理法を用いて定量的に解析し、アクチン繊維の一過的な束化が気孔開口運動に重要な要件であることを見出しました。以上の研究から、プログラム細胞死・気孔開口のいずれの過程においても、アクチン繊維の一過的な束化が液胞及び細胞の膨張に重要な役割を果たすことが判明し、植物細胞に特徴的なアクチン繊維と巨大液胞の相互作用依存的な細胞形態形成・制御機構の存在を示したことは高く評価されます。
(佐藤 忍委員 記)

吉田大和(立教大学極限生命情報研究センター・ポストドクトラルフェロー)
「ゲノム情報とプロテオミクスを基盤にした色素体・ミトコンドリア分裂装置の構造と分子機構に関する研究」
 吉田大和氏は,本年3月に博士課程を修了し学位を取得したばかりですが,Science誌などに3編の論文を筆頭著者として発表し、 また、Nature, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Plant Physiology 誌など国際一流雑誌に6編の共著論文を発表するなど、目覚ましい成果を上げています。吉田氏は,黒岩会員らのグループによって行われた原始紅藻シゾンの全ゲノム解析プロジェクトに参加するとともに、同調培養が可能なこの単細胞紅藻の特性を生かし、完全な色素体の分裂装置およびミトコンドリアの分裂装置の単離に世界ではじめて成功しています。さらに、ゲノム情報を活用して、これらの分裂装置の全構成タンパク質を同定するなど、国際的にも先導的で独創的な研究を展開しています。現在は,Antisense法などの遺伝子解析手法が開発されたシゾンを用いて、オルガネラ分裂遺伝子の解析にも研究を展開しようとしており、今後さらにインパクトのある細胞生物学的研究成果に発展することが期待されます.
(久堀 徹委員 記)

<特別賞>
 特別賞は2004年から始まった日本植物学会賞のなかで最もユニークな賞です.植物科学や植物学会の発展に貢献のあった個人や団体を,分野や年齢を問わず選考して顕彰し,さまざまな面から植物科学の活性化をはかろうと創設されたものです.「技術」「教育」「その他」の分野で,評議員から推薦のあった個人や団体について選考しました.

技術  大林 武(東京大学医科学研究所 特任研究員) 
    「シロイヌナズナ遺伝子発現に関する汎用性の高いデータベースの構築」
 大林 武氏は、モデル植物シロイヌナズナの公共マイクロアレイデータを用いて遺伝子の共発現関係を算出、ATTED-II(http://www.atted.bio.titech.ac.jp)として公開してきました。このATTED-IIはすばらしいデータベースで、公開後、瞬時にしてシロイヌナズナ研究者の間で広く、国際的に、またルーティンに利用されるようになっています。例えば2007年に発表された原著論文は、既に48回引用されています(ISI Web of Knowledgeによる)。それほどに、このデータベースは極めて情報に富み、いまや誰もが、未知の遺伝子の機能予測や関連した遺伝子経路を考える際、「ATTED-IIをチェックしたか?」と口々に言い合うほどです。
 モデル生物を使って研究する、あるいはオーム解析によって新たな研究の地平を見る、といった大きな潮流が、おしなべて海外発の日本移入という形をとってきている昨今、日本発のこうした取り組みは大いに奨励されるべきでしょう。日本植物学会の技術賞としてふさわしい貢献と考えます。
(塚谷裕一委員 記)

教育  百瀬忠征(東京農工大学 工学部生命工学 研究生)
    「長年にわたる植物学会での発表と教育に対する貢献」
 教育分野での特別賞を受賞された百瀬忠征氏は、都立高校の生物教員として37年を過ごされました。現在の植物学会で、一般の植物研究者や高校の先生が発表をするという例は、極めて稀になっていますが、百瀬氏は、そのような中にあって、1970年代半ば以降ほぼ毎年、植物学会大会および、IBCなどの国際学会において「植物の紅葉現象」に関する独創性の高い研究結果を発表されてきました。高校という、大学に比べて研究設備も時間も必ずしも恵まれたとはいえない環境で、常に独自の実験系とアイデアで、高価な機器を駆使する最先端科学の結果に渡り合う研究を発表されてきたことは、驚嘆に値するものです。
 しかし、今回、ここに教育分野での特別賞が百瀬氏に授与されるのは、学会で研究発表を続けられてきたことのみによるものではなく、そのような環境で真摯に研究に向き合う姿勢を多くの高校生に示すことで、生物学(植物学)という学問の素晴らしさ、面白さを、次世代に伝えてこられたことが、何よりも植物学会が目指す「学術の発展」に寄与したものと評価されたことによります。百瀬氏が各地の高校で実践されてきた生物教育を受講することで、生物学分野への進学を決めた生徒が何人もいるということは、良く知られた事実ですし、その中にはすでに研究者として一人立ちした方も出てきています。
 百瀬氏の講義には「今週のNature」という有名な講義があります。教科書に書かれた知識を伝えるのではなく、Natureに掲載された最先端の研究を、生きている科学として高校生に伝えることを実践されてきました。百瀬氏自ら「-----生徒諸君が納得するのは、いわゆる受験指導ではなくもっと学問的に深い内容である------」(つくば生物ジャーナルから)と述べられているように、自ら研究を行い、自らが感じる面白さを伝えることが、若い世代の科学離れと言われる現象をくい止めることができることは、植物学会が今後進まなければいけない一つの方向を示していると思われます。
 このように、百瀬氏の学術・教育分野における高い貢献が、植物学会特別賞に値するものとして、本賞を授与することを決定しました。
(委員長)

教育  国際生物学オリンピック日本委員会および
                 国際生物学オリンピック2009組織委員会
    「生物学を志す次世代の若者を育成」
 国際生物学オリンピック IBO(International Biology Olympiad)は、世界の高校生を対象に生物学分野への関心を高め、各国の生物学教育に関わる情報交換を推進することを目的として、1990年にチェコスロバキアにおいて第1回IBOが開催されました。日本では、IBOへの参加母体として2005年2月に国際生物学オリンピック日本委員会 JBO が設立され、大学や高校の教員などにより、国内コンテストおよび出場選手の特別教育を実施して、2005年7月に高校生4名を初めて北京大会に送り出し、2008年7月のインド大会においては銀メダル3個、銅メダル1個の好成績を挙げました。一方、第20回国際生物学オリンピックは、開催予定国からの突然の辞退表明と日本への開催要請を受け、2009年7月につくばで開催する事となり、国際生物学オリンピック2009組織委員会が組織され、多数の大学、学会をはじめ生物学に関わる多くの機関の協力のもと、日本大会を成功に導きました。
 以上のように、両委員会は、日本国内および世界においてIBOに参加した高校生の才能を伸ばし、生物学を志す次世代の若者を育成してきたことが高く評価されます。
(佐藤 忍委員 記)

その他  後藤伸治(宮城教育大学名誉教授)
    「仙台シロイヌナズナ種子保存センターの設置・運営に関する貢献」
 後藤伸治氏は、モデル生物としてのシロイヌナズナを用いた植物科学の啓蒙に尽力するとともに、1993年に、かつてフランクフルトにおかれていた種子銀行(The Arabidopsis Information Service, AIS)の系統を基に「仙台シロイヌナズナ種子保存センター(The Sendai Arabidopsis Seed Stock Center, SASSC)」を宮城教育大学に設置し、自ら収集したものを含め、世界および日本各地のシロイヌナズナの野生型、突然変異体、遺伝子マーカー系統など、1100以上の貴重なシロイヌナズナの系統および関連する種を維持管理し、それらの種子を世界中の研究者・教育者に無料で供与してきた。SASSC種子は、後藤氏が宮城教育大学を定年退職するのにともなって、2003年10月から理化学研究所バイオリソースセンター(BRC)に移管され、現在、日本政府の援助を受けたNational Bioresource Project (NBRP)の下で配布されている。米国のArabidopsis Biological Resource Center (ABRC)と英国のThe Nottingham Arabidopsis Stock Centre (NASC)に並び、SASSCがシロイヌナズナを用いた植物科学の発展に寄与した実績は高く評価されるものであり、SASSCを単独で運営してきた後藤氏の功績は極めて大きい。
(高橋秀幸委員 記)

その他  野尻湖水草復元研究会
     「野生絶滅車軸藻ホシツリモの復元を目指した活動とその社会的貢献」
 長野県野尻湖は「車軸藻保全のメッカ」である。ひとたび聖地に入れば、小学生がホシツリモ(Nitellopsis obtusa)をよく知っているし、旅館の主人がホシツリモを栽培して看板をたてて啓発を行っている。これが1996年以来、野尻湖の野生絶滅車軸藻ホシツリモの復元を目標とし、地元住民と小学校の環境教育と連携しながら培養株の復元実験を継続している「野尻湖水草復元研究会」の成果の一部である。野尻湖湖底10mでの命がけの潜水活動は湖底に培養株を定着させるためであり、ボランティアのダイバーの協力なくしては不可能である。地元の小学生を対象とした野尻湖クリーンラリーで「ホシツリモ」を体験した子供だった若者の何人かは本会の活動に参加している。本会の水草と環境保全に対する情熱が計り知れないことは、ひとたび我々が彼らと活動を共にすれば容易に理解できる。自然保護活動は現場の住民の不断の活動にゆだねられていて、我々研究者だけでは達成できないのは明白である。本会の活動のような、絶滅車軸藻種の復元と次世代の環境教育を見事融和した事例は世界的に見ても唯一である。今回の特別賞の授賞は本会の永年の車軸藻保全活動と啓蒙教育活動に植物学会として深い敬意を表したものと言えよう。
(委員長)

 以上の通り,2009年度日本植物学会賞選考委員会は,第6回日本植物学会賞の各賞を12名と2団体に授与することを決定し,5月24日に会長へ報告し、また7月4日に開催された日本植物学会理事会で了承されました.また,日本植物学会第73回大会研究発表プログラムで公表の予定です.
                  2009年度日本植物学会賞選考委員会
                   大隅良典(委員長),戸部 博(幹事),
                   井上 勲,井上康則,河野重行,佐藤 忍,
                   高橋秀幸,塚谷裕一,久堀 徹,町田千代子

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