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平成27年度(第12回)日本植物学会賞の選考結果報告

2015年6月11日

=平成27年度(第12回)日本植物学会賞の選考結果報告=              

 日本植物学会は、大賞を初めとして、学術賞、奨励賞、若手奨励賞、特別賞を制定し、植物学に関する研究業績と、日本植物学会員としての学会への貢献に対して表彰を行っています。選考にあたっては、自薦や他薦、代議員推薦などにより、傑出した研究者を推薦し、才能ある若手研究者の応募を促す方式がとられています。

 平成27年度も例年同様多数のご推薦、ご応募を頂きました。そこで、平成27年4月11日(土)に日本植物学会賞選考委員会を東京大学にて開催し、第12回日本植物学会賞受賞者を決定しましたので、此処に選考結果を報告致します。

〈大賞〉
 会員による推薦を受けた3名を対象者とし、研究業績、後進の育成、日本植物学会員としての植物科学への貢献等について、様々な角度より審議した結果、杉浦昌弘氏を大賞受賞者に決定しました。

杉浦 昌弘(名古屋大学名誉教授・名古屋市立大学名誉教授)

 杉浦昌弘氏は、1976年にタバコ葉緑体ゲノムの研究を開始し、1986年に葉緑体ゲノムの全構造を解明することに成功されました。10年の歳月と数多くの研究者を組織するという当時の植物科学の研究としてはスケールの大きなプロジェクトでありました。研究を開始した当時は、組換えDNA実験技術が登場して間もない時期で、最初の植物遺伝子のクローニングが報告される前年でした。これは「ゲノム全体の解析」という新しい考えを導入した研究で、今日のゲノムプロジェクトの先駆的な研究であると高く評価されます。その後、単子葉植物のイネ、裸子植物のクロマツ、緑藻のクロレラの葉緑体ゲノムの全構造を明らかにし、この分野の研究を世界的にリードし続けました。葉緑体ゲノムの全構造の解明により、新しい光合成遺伝子の発見、葉緑体の起源や光合成生物の系統進化の研究に大きな手がかりをもたらし、植物科学の広範囲の研究へ大きな影響を与えました。さらに、in vitroの翻訳系、転写系、およびRNAエディティング系を開発し、葉緑体遺伝子の発現調節の研究も進められました。一方、1980〜1983年には組換えDNA実験の基礎技術に関するワークショップを毎年開催され、日本の植物科学のコミュニティーへの組換えDNA実験技術の普及に努められました。さらに葉緑体DNAのクローンやオリゴヌクレオチドを配布され、世界中の植物科学の研究への支援した実績は特筆すべきです。このような研究面での功績の他に、生物科学・植物科学分野の審議会の委員、学術雑誌の編集委員、研究施設の顧問・審議委員・評議員などを務められました。杉浦氏のこのような努力は今日の植物科学の大きな発展につながっていると言えます。このような杉浦氏の功績は日本植物学会の大賞にふさわしいと判断致しました。

〈学術賞〉
 会員による推薦を受けた選考対象者について、研究業績のプライオリティー、独創性、国際的評価、植物科学の発展への貢献、さらに日本植物学会員としての活動を通した植物科学への貢献などについて審議した結果、池内昌彦氏を学術賞受賞者に決定しました。

 池内 昌彦(東京大学 院 総合文化研究科)

「シアノバクテリアの新規光受容体の発見と光合成関連機能の調節」

 池内昌彦氏は、高等植物とシアノバクテリアを材料に、世界をリードする光合成研究を行ってこられました。近年は、シアノバクテリアの光受容メカニズムの研究を精力的に進められ、これまでに新規の光受容体を複数発見し、その分子構造を解明するとともに、シアノバクテリアの光応答反応における光受容体の役割を次々に明らかにされておられます。特筆すべきはフィトクロム型の光受容体シアノバクテリオクロムの発見で、紫外光領域から赤色光領域まで、異なる波長の光を受容する多様なシアノバクテリオクロムを同定されました。そのうち、新規の発色団フィコビオロビリンをもつ2種類のシアノバクテリオクロムの結晶構造解析を行い、シアノバクテリオクロムの動作原理と多様性の分子基盤、フィトクロムとの共通性と差異とを明らかにされました。これらは、フィトクロム型光受容体の新たな研究領域を切り開く画期的な成果として国際的にも高く評価されています。また、フォトトロピン、クリプトクロムとは異なる第三の青色光受容体であるBLUF型フラビン結合光受容体を同定し、BLUF型としては初めて結晶構造解析に成功し、本受容体の光化学反応の仕組みを世界に先駆けて明らかにされました。池内氏は、並行して、シアノバクテリアの光応答反応メカニズムの解析を進められました。これまでに、光走光性、光合成の補色順化、低温での光傷害回避のための細胞凝集に関与する光受容体を同定し、その作用機作を明らかにされておられます。これら、シアノバクテリオクロムの発見を端緒に進められた池内氏の一連の研究、すなわち、分子下レベルでの光化学反応メカニズムから生物機能に至る光受容体研究とその研究手法により、光応答反応の分子機構という新たな研究分野が開拓されました。以上のように池内氏の業績は、日本植物学会学術賞にまさにふさわしい研究として高く評価されます。

〈奨励賞〉
 会員推薦と自薦とを合わせて11名の選考対象者がおりました。まず、各審査員が、申請書類を基にした書面審査を行い、5段階評価とコメントを記した評価表を作成しました。選考委員会では、全委員の評点とコメントの集計結果を基にして合議により審議を行いました。選考に当たっては、研究内容、研究分野、日本植物学会大会に於ける発表の状況やJournal of Plant Researchでの論文発表など、本学会における活動を考慮しつつ総合的に評価しました。その結果、優れた研究を行い、将来の発展が期待される若手研究者として、海老原淳、遠藤求、小田祥久(五十音順)の3氏に奨励賞を授与することを決定しました。

海老原 淳(国立科学博物館植物研究部)

「日本の地の利を活かしたシダ植物の多様性研究〜特に配偶体と網状進化に着目して〜」

 シダ植物は花の咲かない維管束植物であり、その外部形態が単純なことから種の同定が困難な植物群といわれてきました。さらに、配偶体世代が胞子体世代と独立して生育するのもシダ植物の重要な特徴の一つですが、シダ植物の配偶体はさらに小型で形態も単純なので、配偶体のみで種同定をするのは非常に困難でした。海老原氏は、日本産のシダ植物の種をほぼ網羅する形で、そのrbcL遺伝子(葉緑体DNA上にコードされていて母系遺伝する)の塩基配列を明らかにして、DNAバーコーディングによる種の同定を可能にしました。さらに、DNAバーコーディングを使えば、配偶体世代でも種の同定が可能になったことを利用して、配偶体の野外フロラを調べるという研究も行っています。その結果、胞子体が非常に珍しい種(絶滅危惧種にされているものも含む)の配偶体が普通に見られるといった興味深い事例も見出しています。これは海老原氏の高い独創性が示された研究成果といえるでしょう。その他にも、シダ植物の核DNAマーカーを開発し、さらにPCR-SSCP法を活用したシダ植物のゲノム構成の解析法も確立させて、交雑と倍数化の繰り返しによって複雑な種複合体が形成される「網状進化」の解明などでも大きな研究成果をあげています。また、日本の複数のアマチュアの植物研究家とも力を合わせて、豊富な日本産シダ植物のフロラや個々の種の生物学的実体を解明し、その研究成果を多数の英文論文にして活発に世界に発信していることも高く評価できます。

遠藤 求(京都大学大学院生命科学研究科)

「植物における環境応答の組織特異性」

固着生活を営む植物は、動物とは異なる独特の環境応答の仕組みを作り上げてきました。植物の環境応答では、性質や機能の異なる多様な組織による個別の応答が、組織間の情報のやり取りを経て個体レベルの応答へと統合されると考えられます。これは、植物の環境応答を理解する上で無視することができない基本的特徴ですが、この問題に正面から取り組んだ研究は極めて限られていました。遠藤氏は大学院生時代よりこの問題に取り組み、植物の主要な光受容体であるフィトクロムとクリプトクロムを組織特異的に発現させてその機能を調べることにより、これらの光受容体が異なる組織で花芽形成を制御していることを示しました。さらに遠藤氏は留学先での研究を発展させ、植物の異なる組織で働く生物時計の間に非対称的な相互制御が見られることを示しました。この研究において氏は、子葉から維管束、葉肉、表皮組織を素早く単離し遺伝子発現パターンを網羅的に調べる手法と、2つに分けたルシフェラーゼ遺伝子を組織特異的プロモーターと時計プロモーターで発現させ、時計遺伝子の発現を組織特異的にモニターする手法を開発しました。そして、維管束の時計が他の組織に比べ高い自律性をもつことを示すとともに、維管束の時計を組織特異的に攪乱することで、他の組織の時計が維管束の時計の影響を強く受けることを示しました。これらの成果の独創性は非常に高く、植物の環境応答研究に新しい地平を切り拓くものです。環境応答の組織特異性にいち早く注目し、この問題に粘り強く取り組むことで重要な成果を出し続けている氏は、植物学分野において将来が嘱望される若手研究者の一人といえます。

小田 祥久(国立遺伝学研究所 新分野創造センター)

「二次細胞壁パターンを創り出す空間シグナルの研究」

細胞壁は植物細胞の形態と機能に必須な構造です。細胞壁の主成分であるセルロース微繊維は箍となって細胞の伸長を阻害するため、セルロース微繊維の沈着パターンは細胞の形態、さらには組織・器官の形成に大きく影響します。小田祥久氏は、独自に確立したシロイヌナズナ培養細胞の木部道管分化誘導系を用い、二次細胞壁の沈着パターンを制御する因子の同定とその機能解析をおこないました。まず、木部分化時に顕著に発現が上昇する遺伝子群を同定し、それらの遺伝子産物の細胞内局在を網羅的に可視化しました。その結果、二次細胞壁が形成されない微小な領域である壁孔に特異的に局在するタンパク質群を同定しました。それらの機能を解析した結果、低分子量GTPaseであるROP11が細胞膜上で局所的に活性化することにより、特殊な細胞膜ドメインを形成し、細胞壁合成の足場となる表層微小管を局所的に脱重合することを突き止めました。局所的なROP11の活性化へのROPGEF4やROPGAP3の関与、さらにはMIDDを介したKinesin-13Aのリクルート機構が表層微小管の脱重合に必要であることを示しました。このように、本研究では二次細胞壁のパターン形成を導く空間的なシグナルの実体を解明し、表層微小管に沿った細胞壁合成にいたる一連の過程を明らかにしました。これらの研究成果は複数の著名学術誌に掲載され、国際的にも高い評価を得ています。独創的な発想と研究手法から、今後、益々の活躍と研究の発展が期待されます。

〈若手奨励賞〉
 自薦と会員推薦を合わせて4名の選考対象者がおりました。本賞は、大学院生やポスドクなど意欲にあふれた若手の研究者を顕彰することを目的としています。奨励賞と同様の方法で書面審査と合議による選考を行いました。その結果、総合的評価が高かった池内桃子、柿嶋聡(五十音順)の2氏に若手奨励賞を授与することに決定しました。

池内 桃子(理化学研究所・環境資源科学研究センター)

「植物細胞の分化可塑性およびその抑制機構」

 植物のシュート形成は精妙な制御の下にあることが明らかですが、その詳細なメカニズムにはまだ不明の点が数多く残されています。池内桃子氏は大学院生時代、主に葉について長軸方向の極性に基づく形態形成に着目した解析を進めました。まず最初に、シロイヌナズナのROT4ペプチドが葉およびシュートの形態に与える影響を解析し、これが局所的に長軸方向への位置価の乱れをもたらしていると解釈すれば、その過剰発現の表現型を説明できることを見いだし、またその機能に必要なドメイン部分を同定しました。続いて複葉における小葉形成の、長軸方向への発生の多様性、すなわち求頂性と求基性の違いに注目し、ケシ科から両タイプを代表する種を自ら選びだした上で、その違いの背景にある仕組みを解析しました。その結果、従来の仮説が誤りであること、種ごとにその極性の背景となる分子基盤は異なっている可能性が高いことを見いだしました。これはゼロから研究を立ち上げた、大変オリジナリティの高い研究成果です。さらに理化学研究所に場を移してからは、カルス形成や核内倍加など、植物の細胞のリプログラミングを中心に、それらの分子メカニズムを解析しています。こちらにおいてもまたすでにきわめて重要な成果をあげてきており、今後がますます期待される若手の一人と評価されます。

柿嶋 聡(静岡大学創造科学技術大学院)

「種間交雑現象による植物の多様化に関する進化生態学的研究」

 植物において、種間の交雑現象がその多様化に大きな役割を果たしてきたことは既によく知られていました。しかしながら、このような交雑が生殖隔離や生活史、地理的分布など生態的な側面へ与える影響については良くわかっていませんでした。柿島氏は、テンナンショウ属植物(サトイモ科)やイセハナビ属植物(キツネノマゴ科)における種間の交雑について研究し、種間交雑が植物の生態や進化に与える影響を研究してきました。特に、イセハナビ属植物を対象にした研究では、沖縄本島におけるコダチスズムシソウとオキナワスズムシソウについて詳細な野外調査を行い、前者が6年周期の一斉開花枯死をする種であるのに対して、後者は毎年開花する複数回繁殖型の種であることを明らかにしました。さらにこれら2種が交雑する際には、必ず前者が父親(花粉親)となること、生じた雑種は後者の種とのみ戻し交雑することも明らかにしました。そして、このような非対称な交雑が起きているのは、前者の種が周期的に一斉開花することにより、訪花昆虫が多くなること、一斉開花年の花のほとんどが前者の種のものであることによるという仮説をたて、コンピュータシミュレーション等も用いてこの仮説を支持する結果を得ています。これは開花数の変動が種間の生殖隔離機構としても働きうることを示した初めての研究例です。柿島氏は、今後もこのような独創性の高い研究を行っていくことが十分に期待できます。

〈特別賞〉
 本賞は植物科学や日本植物学会の発展に貢献した個人または団体を、活動の形や、活動する分野、年齢を問わず、広い視野から顕彰し、様々な方面から植物科学の活性化を図ることを目的としています。今年度は、「技術」分野で1件、「教育」分野で1件の選考対象者がありました。これら選考対象者について各選考委員による書面審査を行った後、その集計結果を基にして、選考委員会で合議による審査を行いました。その結果、理研・産総研植物転写因子コンソーシアム(代表者:光田展隆氏)に特別賞(技術)、若菜勇氏に特別賞(教育)を授与することと決定しました。

技術
理研・産総研植物転写因子コンソーシアム
  代表者 光田展隆(国立研究開発法人産業技術総合研究所)
 (産総研)  高木 優、瀧口裕子
 (理化学研) 松井 南、堀井陽子、近藤陽一、吉積 毅、川島美香、栗山朋子、
        栗原志夫、藤田美紀

「シロイヌナズナにおける転写因子リソースの開発」

 産業技術総合研究所(産総研)では、2003 年から理化学研究所(理研)と共同でシロイヌナズナ転写因子遺伝子のcDNAクローンを収集し、CRES-T 法を適用するためのプラスミドコンストラクト、およびそれらを導入した組換えシロイヌナズナ種子(約1600種類)を網羅的に作成しました。理研においては、発現誘導型の転写因子のために転写因子にグルココルチコイド受容体遺伝子と融合した合成転写因子を1600種類作成し、この合成転写因子を導入した形質転換シロイヌナズナを1つの転写因子について16独立個体作成し、これまでに8000 個体以上を作成しました。また、ゲートウェイクローニング技術の普及に伴い、理研及び産総研は共同してシロイヌナズナ転写因子のゲートウェイエントリークローンの作成を進め、合計約 1600 種類を整備するに至っています。これらの転写因子リソースは、独自性、汎用性が高く、多くの優れた研究成果がこれらのリソースを使って発表され、関連分野の研究推進に大きく貢献してきました。一方で、これまでも国内外の多くの機関にこれらのリソースの提供が行われてきたものの、より多くの研究者にとって利用しやすい形での公開が早く行われることが望まれます。以上のように、これらの技術開発は、植物科学および日本植物学会の発展に大きく貢献し、今後も研究者コミュニティーへの大きな貢献が期待され、植物学会特別賞受賞に相応しいものと考えられます。

教育
若菜 勇 (釧路市教育委員会生涯学習部阿寒生涯学習課)

「淡水緑藻マリモを活用した科学教育プログラムの構築・実践と保全活動への展開」

 若菜 勇氏は、博士号を取得後、阿寒町(現在は町村合併により釧路市)教育委員会に就職し、我が国の代表的な希少水生植物である阿寒湖のマリモの研究・教育・保全に携わってきました。氏はマリモの生育実態や調査研究成果に対する認識と理解を拡充させるべく、普及啓蒙活動、学習教材の作製、科学番組の制作、生体展示の実現、市民参加型の育成実験など様々な教育活動を展開してきました。これらの活動は、氏自身明らかにしてきたマリモの生態についての発見を基にした独創的なものであり、科学的にも価値が高いものと考えられます。また、これらの教育プログラムでは、マリモの生育が知られるアイスランドやエストニア、ドイツなどから研究者や学生、保護活動の関係者を受け入れ、市民を交えた調査やワークショップ、講演会などを行うことで、国際協力ネットワークの構築にも寄与してきました。このようなグローバルな活動を推進・展開している水生植物の保全プロジェクトは極めて希であり、2012年に開催されたマリモ国際シンポジウムにおいて、「阿寒湖モデル」として高い評価を受けました。これらの活動は日本植物学会賞特別賞に相応しいものと考えられます。

平成27年度日本植物学会賞選考委員会

高橋裕一郎(委員長)
太田啓之、川合真紀、木下俊則、塚谷裕一、徳富(宮尾)光恵、永田典子、長谷あきら、彦坂幸毅、村上哲明


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