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平成28年度(第13回)日本植物学会賞 選考結果報告

2016年6月 9日

=平成28年度(第13回)日本植物学会賞の選考結果報告=              

 日本植物学会は、大賞を初めとして、学術賞、奨励賞、若手奨励賞、特別賞を制定し、植物学に関する研究業績と、日本植物学会員としての学会への貢献に対して表彰を行っています。選考にあたっては、自薦や他薦、代議員推薦などにより、傑出した研究者を推薦し、才能ある若手研究者の応募を促す方式がとられています。

 平成28年度も例年同様多数のご推薦、ご応募を頂きました。そこで、平成28年4月16日(土)に日本植物学会賞選考委員会を東京大学にて開催し、第13回日本植物学会賞受賞者を決定しましたので、此処に選考結果を報告致します。(敬称略)

〈大賞〉
 会員による推薦を受けた選考対象者について、研究業績、後進の育成、日本植物学会員としての植物科学への貢献等について、様々な角度より審議した結果、佐藤公行氏を大賞受賞者に決定しました。

佐藤 公行(岡山大学名誉教授)
 佐藤公行氏は、光合成の機能単位は超分子複合体である「クロロフィルタンパク質複合体」であるとの立場に立ち、色素タンパク質複合体の単離・精製に取り組まれ、チラコイド膜上の蛍光成分の単離同定にいち早く成功されました。また、世界に先駆けて、光化学反応活性をもつ光化学系II複合体の単離に成功されました。光化学系Iに比べ、光化学系IIは光に弱く不安定なため、反応中心複合体の実体は長らく未解明でした。佐藤氏による光化学系II反応中心複合体の単離により、反応中心タンパク質が確定されるとともに、それまで起源が異なるとされていた光化学系IIと紅色光合成細菌の反応中心が相同であることが明らかにされ、光化学系の進化系統学的研究にパラダイムシフトをもたらしました。また、アンテナ色素をもたない単純な色素組成の複合体を単離できたことにより、光化学系IIの分光学的解析が容易となり、光化学反応の速度論的解析が進展し、分子メカニズムの理解も大きく深まりました。このように、佐藤氏の成果はマイルストーンとも言うべき画期的なものであり、その後の光化学系研究、光合成研究の発展に大きく寄与しました。佐藤氏自身も、これらの分野の第一人者として、研究の牽引に大きく貢献されています。こうした研究の中で、後進の育成のみならず、国際光合成学会役員、日本光合成研究会(現在の日本光合成学会)の会長、日本光生物学会会長として、光合成研究、光生物学研究の推進に尽力されました。植物学会においては評議員と理事を、植物生理学会においては会長を務められ、また、日本学術会議の植物科学研究連絡委員会委員、国際植物科学会議委員を歴任され、長年に亘り我が国の植物科学の発展に多大な貢献をされました。このような佐藤氏の功績は、日本植物学会の大賞にふさわしいものと判断いたしました。


〈学術賞〉
 会員による推薦を受けた3名を選考対象者として、研究業績のプライオリティー、独創性、国際的評価、植物科学の発展への貢献、さらに日本植物学会員としての活動を通した植物科学への貢献などについて審議した結果、塚谷裕一氏を学術賞受賞者に決定しました。

塚谷 裕一 (東京大学大学院理学系研究科)
「植物形態形成の基本メカニズムとエボデボ、多様性に関する研究」
 塚谷裕一氏は、様々な切り口から葉の形態形成のメカニズムについて研究を進められてきており、当該分野で世界をリードする研究者の一人です。モデル植物であるシロイヌナズナを用いて葉の平面展開が縦と横について別々に制御されていることを発生遺伝学的な解析により明らかにした研究を端緒として、それぞれを司る遺伝子であるANGUSTIFOLIAROTUNDIFOLIA等のクローニングと解析を精力的に進められてきており、国際的に高い評価を得ています。更に、塚谷氏は有限成長型器官である葉や花器官の原基で細胞増殖活性が低下した際には、個々の細胞が巨大化することで元の器官サイズに戻そうとする仕組みを「補償作用」と名付け、その解明に尽力している点も高く評価されます。近年は、コウガイゼキショウの単面葉における平面成長制御機構やアスパラガス仮葉板の形成機構、一生を子葉のみで過ごすMonophyllaea属の葉の発生メカニズムなどの、モデル植物以外の植物を用いたエボデボ研究も進められています。植物の形態に造詣が深く、フィールド調査から1新属始め16新種を報告しており、植物分類学分野への貢献も評価されます。総説や著書も多く、社会への啓蒙活動における寄与も高い塚谷氏の業績は、日本植物学会学術賞にふさわしいと判断いたしました。


〈奨励賞〉
 会員推薦と自薦とを合わせて14名の選考対象者がおりました。まず、各審査員が、申請書類を基にした書面審査を行い、5段階評価とコメントを記した評価表を作成しました。選考委員会では、全委員の評点とコメントの集計結果を基にして合議により審議を行いました。選考に当たっては、研究内容、研究分野、日本植物学会大会に於ける発表の状況やJournal of Plant Researchでの論文発表など、本学会における活動を考慮しつつ総合的に評価しました。その結果、優れた研究を行い、将来の発展が期待される若手研究者として、大谷美沙都、末次憲之、高山浩司、武宮淳史(五十音順)の4氏に奨励賞を授与することを決定しました。

大谷美沙都(奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科)
「植物細胞の増殖・分化を制御する多層的遺伝情報発現制御に関する研究」
 植物は環境や状況に合わせて柔軟に細胞増殖と細胞分化を制御しています。大谷美沙都氏は、この制御を支えている多層的な遺伝情報発現制御の仕組みを分子レベルで明らかにしてきました。まず、種々のRNA代謝制御が植物の器官再生や植物発生の各場面によって異なる重みをもって機能していること、とくに、脱分化および新たな分裂組織の形成にはsnRNAの転写制御とsnRNPの形成に関わるRNAヘリカーゼの機能が重要であることを示しました。そして、RNAレベルでの遺伝子情報の刈り込み・増幅が、植物の柔軟な細胞増殖・分化制御を裏打ちしている分子メカニズムの一つであるという仮説を提出しました。また、進化発生学的アプローチによって、遺伝子発現制御ネットワークの進化が陸上植物進化にどのように関わっているのかを高い解像度で論じることに成功しました。とくに、通水細胞分化のマスター制御因子であるNAC転写因子VNDとそのホモログ遺伝子群(VNS群)の分子機能解析を行い、通水細胞の分化過程では転写のオンオフだけではなく、その前段としてのエピゲノム制御、タンパク質相互作用や翻訳後修飾など、多層的な遺伝子発現制御機構が重要であることを明らかにしました。さらに、初期の陸上植物が獲得したVNS群による細胞死誘導システムの確立が、効率的な水輸送の可能な通水細胞の進化に繋がった可能性を示しました。大谷氏のこれらの研究成果は独自性が高く、国際的にも高い評価を受けており、今後の発展が大いに期待されます。

末次 憲之(京都大学生命科学研究科)
「光による葉緑体定位運動の分子メカニズムの研究」
 フォトトロピンは、葉緑体光定位運動、気孔開口、光屈性、葉の展開など、オルガネラ、細胞、組織・器官レベルでおこる光合成効率を促進する様々な光応答反応を制御する光受容体です。末次氏は、大学院時代より一貫して、フォトトロピンシグナリング、特に葉緑体光定位運動の分子機構解明に取り組んできました。末次氏は、シロイヌナズナを材料に、葉緑体定位運動に関する変異体のハイスループットなスクリーニング法を開発し、所属研究室における大規模変異体スクリーニングにおいて中心的な役割を果たしました。その結果、氏が選抜した変異体により、phot2が逃避反応の光受容体であること(Kagawa et al., 2001, Science)、逃避反応は植物の生死に関わる重要な反応であること(Kasahara et al., 2002, Nature)、phot1とphot2が気孔開口の光受容体であること(Kinoshita et al.,, 2001, Nature)などを始めとする多くの重要な事実が明らかになりました。また、葉緑体の定位運動の分子メカニズムについて、アクチン重合がその原動力であり、他の真核生物のオルガネラ運動とは全く異なることを明らかにしてきました。また、一部のシダ植物にしか存在しないと考えられてきた特異な光受容体ネオクロムが緑藻に存在することを示し、赤色光による葉緑体運動の獲得が植物進化の過程で独立に2回起きたことを明らかにしました。これらの業績は世界的に認められ、頻繁に引用されています。葉緑体運動の分野は、研究者人口が多くはないが、申請者らの精力的な研究の推進により、光反応の分野でもオルガネラ運動の分野でも無視できない注目分野に成長しました。研究に高い情熱と執念を持って取り組む末次氏は、今後さらなる研究成果を上げることで、植物科学分野に大いに貢献することが期待されます。

高山 浩司(ふじのくに地球環境史ミュージアム)
「種分化様式の違いに着目した海洋島固有種の遺伝的多様性の時空間的変遷」
 海洋島を中心に展開されている島嶼生物学では、大陸から隔絶した海洋島では、島内で起こる種分化が種多様性の大きな原動力になるとされています。また、海洋島固有種の種分化過程を理解する上では、島の地史的変遷を考慮することが不可欠であり、種分化と地史の両要素を考慮した研究が期待されてきました。高山浩司氏は、これまで海洋島固有種を対象に、AFLP およびマイクロサテライトマーカーを用いた集団遺伝学的解析を行い、種分化様式の違いが固有種の集団・種内の遺伝的多様性の時空間的変遷にどのように影響しているかを明らかにしてきました。一連の研究で、分岐を伴わずに種分化した種は、分岐(適応放散)を伴い種分化した種よりも遺伝的多様性が高く、さらに島内では任意交配集団が維持され続けていることを明らかにしました。また、海洋島の固有種は、遺伝的多様性が極めて低いということが一般則として考えられてきましたが、分岐を伴わずに種分化した種は、大陸産近縁種と同程度の遺伝的多様性を保持している場合があることを、大陸産種も含めた網羅的な解析により明らかにしました。このように、海洋島固有種の種分化様式と遺伝的多様性の時空間的変遷の関係を実証的に議論し、島嶼生物学の新たな切り口を示すとともに、フィールド科学を通じた研究を推進したことは高く評価され、今後のさらなる活躍が期待されます。

武宮 淳史
(山口大学大学院創成科学研究科  申請時:九州大学大学院理学研究院)
「気孔開口におけるフォトトロピンシグナル伝達機構の研究」
 固着生活を営む植物は、絶えず変動する周囲の環境を敏感に感知し適切に応答しています。中でも光は最も重要な環境要因のひとつであり、植物は光の方向や質、強度、長さなどをシグナルとして感知し、自身の成長を最適化しています。青色光受容体であるフォトトロピンは、青色光の受容により活性化される受容体キナーゼであり、光屈性や葉緑体光定位運動、気孔開口、葉の伸展など、光合成の効率化に関わる多様な光応答を制御します。しかしながら、フォトトロピンが受容した光シグナルが生理応答を導くシグナル伝達の分子機構については、フォトトロピンによりリン酸化される基質タンパク質をはじめとして不明な点が多い状況でした。このような中、武宮氏は、赤外線サーモグラフィを用いた青色光による気孔開口の欠損した突然変異体スクリーニングを進め、フォトトロピンに結合し、シグナル伝達の必須因子として働くBLUE LIGHT SIGNALING 1(BLUS1)を発見しました。さらに、孔辺細胞を対象としたリン酸化プロテオーム解析から、BLUS1がプロテイン・キナーゼであるフォトトロピンの細胞内基質タンパク質であることを証明しました。加えて、これまで植物における機能が未解明であったタイプ1 プロテイン・ホスファターゼが気孔の青色光シグナル伝達に関与しており、気孔閉鎖シグナル伝達とのクロストークを仲介することなどを解明しました。これらの成果は、気孔開口および光シグナル伝達の分子機構の解明に大きな前進をもたらすもので、世界的にも高く評価されており、今後、益々の活躍と研究の発展が期待されます。


〈若手奨励賞〉
 自薦と会員推薦を合わせて3名の選考対象者がおりました。本賞は、大学院生やポスドクなど意欲にあふれた若手の研究者を顕彰することを目的としています。奨励賞と同様の方法で書面審査と合議による選考を行いました。その結果、総合的評価が高かった北沢美帆、田中奈月(五十音順)の2氏に若手奨励賞を授与することに決定しました。

北沢 美帆(大阪大学全学教育推進機構)
「花器官数の安定性をうみだす発生過程の理論研究」
 被子植物の花器官の数は、植物の系統群ごとに保存されており、分類学における重要な形質の一つです。多くの真正双子葉植物は 4 または 5 の倍数個の花器官(四・五数性)を示しますが、今までその理由は良く分かっていませんでした。北沢美帆氏は、既存の葉序形成の発生モデルにおいて、原基間の恒常的な反発を導入した数理モデルを新たに構築することにより、自発的に花原基の準輪生配置が現れることを見いだしました。その際、花器官数として四・五数性が出現しやすいことも示し、花器官数における長年の謎を解明しました。一方でキンポウゲ科やキク科の植物においては、その花器官数は一定ではなくばらつきが見られます。北沢氏は野外での観察、統計的解析、数理モデル解析を組み合わせることにより、どの統計モデルが最も適切に分布を再現できるかの検証を行いました。その結果、花器官数の分布は植物種もしくは花器官により異なる統計モデルに従うことを示し、よってそれらが異なる発生的過程を反映している可能性を示しました。さらには、花器官数分布において平均と標準偏差の間には明確な関係性が存在することを明らかにし、安定的な花器官数およびその形成機構に関する重要な示唆を与えました。花器官数の多様性と安定性を説明する数理モデルの構築と規則の発見は高く評価され、今後の活躍がますます期待されます。

田中 奈月(名古屋大学大学院生命農学研究科)
「膜輸送体システムと根毛から解く植物の無機イオンおよび水の吸収と蓄積の機構解明」
 田中奈月氏は植物が水や無機イオンを根からどのように吸収・獲得し、細胞内に蓄積するか、そのメカニズムの解明を目指して研究を進めておられます。特に上記の課題に関して、膜輸送システムと根毛の機能に焦点を当てて研究しておられ、膜輸送システムについては、液胞膜亜鉛輸送体AtMTP1の液胞内への亜鉛集積調節機構に関して、AtMTP1タンパク質の細胞質側に存在するヒスチジンに富んだloop(His-loop)が、亜鉛輸送のブレーキ的な役割を担っていることを明らかにされました。また、そのHis-loop領域の亜鉛との結合によって輸送体の活性が制御されており、亜鉛の濃度センサー的な役割をもつことを示されるなど、優れた成果を相次いで発表されています。他方、根毛の機能に関しては、根毛形成変異株NR23を用い、根から吸収する無機栄養塩のうち根毛が吸収に関与する元素とそうでない元素が存在することを解明され、さらに根毛が、リン欠乏時の酸性ホスファターゼやリンゴ酸、クエン酸の分泌に大きな役割を果たしていることなども明らかにされました。研究歴はまだ5年程度ですが、筆頭著者として原著論文をすでに3報発表されているなど、今後が大変期待される若手の一人として高く評価されます。

平成28年度日本植物学会賞選考委員会
  長谷あきら(委員長)
  大原 雅、太田啓之、加藤美砂子、川口正代司、木下俊則、高野博嘉、出村 拓、永田典子、宮尾光恵


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