お知らせ

ホーム > 会員向け情報 > お知らせ > お知らせ > 第8回日本植物学会賞受賞者

第8回日本植物学会賞受賞者

[お知らせ]  2011年6月 8日

 第8回日本植物学会賞の各賞の受賞者が以下の通り決まりました。なお、授賞式と授賞講演は、日本植物学会第75 回大会(東京大学駒場キャンパス、平成23年9月18日)で行われる予定です。(敬称略)     

<大賞>                     
増田芳雄(大阪市立大学名誉教授)
「オーキシンと40年」

<学術賞>
島崎研一郎(九州大学 院 理学研究科)
「青色光による気孔開口の分子機構」

<奨励賞>
阿部光知(東京大 院 理学系研究科)
「高等植物茎頂部における分化誘導機構の分子遺伝学的研究」
角川洋子(東京大 院 理 附属植物園)
「シダ植物における種分化過程の解析」
曽我康一(大阪市立大 院 理学研究科)
「植物が重力に対抗できる体を構築するメカニズムの解析」
 
<若手奨励賞>
石田喬志(理化学研究所 植物科学研究センター)
「細胞の形態形成を担う分子メカニズムの解析」
大田修平(山形大 院 理工学研究科)
「海産微細藻類クロララクニオン植物の分類および生活環の研究」
小田祥久(東京大 院 理学系研究科)
「シロイヌナズナ培養細胞の新規道管分化誘導系を基盤とした微小管による細胞内空間制御機構の解析」

<特別賞>
技術 国立環境研究所 微生物系統保存施設
「国立環境研究所微生物系統保存施設における藻類リソースの系統保存および提供」
その他 教育目的遺伝子組換え実験支援者グループ
「遺伝子組換え植物に関する研究基盤構築と理解増進に関する貢献」
その他 サントリーホールディングス(株) 青いバラ開発チーム 
「遺伝子組換えによる青いバラ、カーネーションの開発と商業化」

(社)日本植物学会 学会賞選考委員長 
寺島 一郎

=第8回日本植物学会賞の選考結果報告=
 日本植物学会は、大賞、学術賞、奨励賞、若手奨励賞、特別賞を制定し、植物学の研究業績と植物学への貢献に対して表彰を行っています。また、自薦や他薦、評議員推薦により、才能ある若手研究者を発掘し、積極的に授賞候補者を推薦することができる体制がとられています。本年度の日本植物学会賞選考委員会は、4月9日(土)東京大学において選考委員会を開催し、第8回日本植物学会賞受賞者を決定いたしました。本年度も例年同様多数の推薦、応募がありました。今後も数多くの方の推薦、応募を期待いたします。

<大賞>
 評議員による推薦を受けた3名の選考対象者について、研究業績、後進の育成、植物学会への貢献ならびに植物科学全般への貢献等を審議し、増田芳雄氏に、大賞を授与することを決定しました。

増田芳雄(大阪市立大学 名誉教授)
「オーキシンと40年」
 増田芳雄氏は、長年にわたってオーキシンの作用機構解明に取り組み、顕著な研究業績をあげられました。研究初期には、オーキシンが細胞膜透過性を上げるとともに、RNA合成及び遺伝子発現を調節して細胞成長を促すことを明らかにされました。これは、後の膜生理学や分子生物学の隆盛の先駆けとなった重要な研究成果でした。引き続き、細胞成長を最も直接的に制御する細胞壁の特性に焦点を当てた独創的な研究を展開し、オーキシンが細胞壁構成多糖の代謝を調節して細胞壁の力学的性質を変化させ細胞成長を誘導することを明らかにされました。この成果は、それまで単なる不活性な構造体として位置づけられていた細胞壁が、実はダイナミックに代謝的変化をしながら植物細胞の多様な生理機能において重要な機能を果たしている事実を世界に認識させた、特筆すべき発見です。このような研究を基として、我が国ではその後、細胞壁代謝、細胞成長及び分化、そして環境応答に関する生理学、生化学、並びに分子生物学が飛躍的に発展しました。増田氏はまた、日本植物生理学会会長、国際植物成長物質会議会長、国際植物生理学連合副会長などを歴任され、植物学の発展にも多大な貢献をされました。多くの著作の執筆や放送大学での活動を通した植物学の普及、啓蒙、教育も増田氏の大きな功績ですが、中でも植物学及び植物学者の歴史に関する優れた業績は他者の追随を許さないものです。日本植物学会でも、百年史(日本の植物学百年の歩み)の編集などで同氏ならではの重要な役割を果たして来られました。このような長年にわたる植物学への貢献と多岐にわたる研究業績に鑑み、増田氏が日本植物学会賞の最高賞である大賞にふさわしいと判断いたしました。
(保尊隆享委員 記)

<学術賞>
 評議員により推薦を受けた2名の選考対象者について、研究業績のプライオリティー、独創性、国際的評価、ならびに植物科学の発展への貢献について検討した結果、島崎研一郎氏に学術賞を授与することを決定しました。

島崎研一郎(九州大学 院 理学研究科)
「青色光による気孔開口の分子機構」
 島崎研一郎氏は、気孔の開口メカニズムの研究を長年に渡り展開し、光生物学分野の第一人者として国内外から高く評価される業績をあげています。気孔の光応答はCharles Darwinの子息Francis Darwinによって1898年に記載されていることからもわかるように、光合成や蒸散の調節と関連付けて多くの研究者の関心を集めてきました。島崎氏は、この気孔開口に関わる主要な分子の実体を明らかにしました。すなわち、①気孔の光応答の光受容体が青色光受容体フォトトロピンであること、②フォトトロピンにより受容された光シグナルは細胞膜H+-ATPaseを活性化すること、③その結果、孔辺細胞はH+を細胞外に放出し、細胞内へのK+やスクロースの蓄積・浸透圧上昇・水の取り込みと細胞膨張という連鎖を引き起こして気孔が開くという分子機構を、孔辺細胞のプロトプラストを用いた電気生理学的研究や、シロイヌナズナの分子遺伝学的研究により詳らかにしました。これらの成果は、均一の材料を大量に得ることが困難な孔辺細胞という対象に敢えて取り組み、独創的な発想と明確な戦略・展望に基づく研究を進められた結果であることは、その業績の質と量が実証しています。今日では、青色光による気孔開口は光受容から応答までが孔辺細胞という単一の細胞で完結する最も分子機構解明の進んだ光応答モデルとして多くの著作に引用されており、島崎氏の貢献は日本植物学会学術賞に正にふさわしい研究として高く評価されます。
(篠村知子委員 記)

<奨励賞>
 評議員推薦と自薦とを合わせて、14名方から申請書と別刷が提出されました。まず、選考委員全員が、申請書と別刷を審査し、5段階評価とコメントを記した評価表を提出しました。選考委員会では、各委員の評点とコメントをもとに、各候補者の研究内容を中心に、植物学会大会での発表など学会への貢献度も考慮しつつ議論しました。その結果、総合的評価の高かった、阿部光知、角川洋子、曽我康一(五十音順)の3氏への奨励賞授与を決定しました。

阿部光知 (東京大 院 理学系研究科)
「高等植物茎頂部における分化誘導機構の分子遺伝学的研究」
 阿部光知氏は、シロイヌナズナの分子遺伝学を駆使した研究を展開し、高等植物の茎頂部の分化について独創性の高い優れた成果を発表してきました。阿部氏の研究は、主に、茎頂分裂組織における表皮細胞分化の研究とフロリゲンによる花芽分化の研究の二つからなります。前者では、L1層特異的遺伝子発現制御機構を解明し、この発見は多くの国際誌の総説等でも紹介され重要性が認識されています。植物ホルモンオーキシンとの関連性も示されたことから、発生遺伝学的研究から生理学までの広範な研究に影響を与えるものとして高く評価されています。一方、後者の研究は、古くから植物科学で最も注目される現象の一つである花成ホルモンフロリゲンの実態に挑むもので、発表論文は2005年のScience誌が選ぶBreaking-through of the Yearの第3位に選ばれているほか、関連論文は日本植物学会の論文賞にも選抜されています。篩管組織を情報分子の輸送経路としてとらえ、フロリゲンの輸送の仕組みの解明に果敢に挑戦しようする研究姿勢は非常に頼もしいものがあります。今後も新たなテクノロジーを積極的に利用し、さらなる展開を模索しようとする阿部氏の今後の活躍に大いに期待したいと思います。
(西村いくこ委員 記)

角川洋子(東京大 院 理 附属植物園)
「シダ植物における種分化過程の解析」
植物の多様化と進化は、種の適応分化によって起るので、種分化の過程の解析は重要な課題です。同形胞子シダ植物は配偶体を使った実験が容易であり、全遺伝子座のホモ接合個体を作成できる利点をもっています。角川洋子氏は、分類形質が乏しいシマオオタニワタリ類について分子系統解析や、人工交配による雑種形成率解析を行なって、遺伝的分化に伴って生殖的隔離が増大することをシダ植物ではじめて示し、さらに、この類が生態的にも異なる隠蔽種からなることを明らかにしました。ミゾシダ類、ミズワラビ類に研究を拡げ、シダ植物の種の実体の解明に大きく貢献しました。ゼンマイ科の分子系統解析により、従来の分類体系を覆す新説を提唱するとともに、原始的な本科の属・亜属間の分岐年代を推定しました。川岸の環境に適応したゼンマイ類の渓流沿い種ヤシャゼンマイの種分化過程をゲノムレベルで明らかにするために、独自にESTライブラリーを作成し、遺伝地図の作成や配偶体における分子マーカーの解析を行ないました。また、分子マーカーを用いて、ゼンマイとヤシャゼンマイの間で遺伝子浸透が起きていることを明らかにしました。このような大きな成果を上げ、現在、作成したホモ接合のDoubled haploid個体等を用い、細葉など適応的な形質に着目して、種分化過程における自然選択の働きについてゲノムレベルの解明を進めており、将来の発展が大いに期待されます。
(加藤雅啓委員 記)

曽我康一(大阪市立大 院 理学研究科)
「植物が重力に対抗できる体を構築するメカニズムの解析」
 植物は地球上で重力に抵抗、対抗しながら生活環を営んでいます。そのための「抗重力反応」は特に陸上で重要であり、植物の祖先が海から陸に上がって以来数億年に及ぶ陸上植物としての進化、繁栄を支えてきたといえます。しかし、植物の重力応答に関する研究の大部分は重力屈性に関するものであり、抗重力反応のメカニズムについてはほとんどわかっていませんでした。曽我康一氏は、遠心過重力環境を利用した独創的な研究を行い、数々の新規事実を明らかにしました。抗重力反応では細胞壁が重要な役割を果たしていますが、その際、2種の細胞壁多糖の分解酵素の合成レベルとアポプラストpHの調節によって細胞壁物性が決定されることを示しました。また、細胞壁強度の増加と並ぶ抗重力反応の主要なメカニズムとして、γ-チューブリン及びカタニン遺伝子の一過的発現を介した表層微小管の配向変化を見出しました。さらに、抗重力反応における重力シグナルの受容機構は重力屈性の場合とは独立であり、機械刺激受容チャネルが直接的に関わることを指摘しました。これらの曽我氏の研究成果は、抗重力反応の全容の理解に大いに貢献するものであり、国際的に高く評価されています。今後、抗重力反応におけるシグナルの変換・伝達機構や陸上植物の進化過程の解明へと研究を発展させることが期待されます。
(保尊隆享委員 記)

<若手奨励賞>
 この賞は、大学院生やポスドクなど、意欲にあふれた若手の研究者の表彰を目的としています。若手奨励賞には評議員推薦と自薦を合わせて、10名の方から申請書と別刷が提出され、奨励賞と同様の方法で選考しました。その結果、石田喬志、大田修平、小田祥久(五十音順)の3氏への若手奨励賞授与を決定しました。

石田喬志(理化学研究所 植物科学研究センター)
「細胞の形態形成を担う分子メカニズムの解析」
 石田喬志氏は細胞骨格や細胞周期など、細胞内で起こる現象と植物の形態形成との関係に興味を持ち研究を行って来ました。大学院では微小管を構成するタンパク質であるチューブリンの様々な変異体を用い、根や茎の軸が右や左にねじれる現象と変異チューブリンの関係を調べました。その結果、変異体の細胞内での微小管の配向と軸のねじれの方向に相関があること、また、右にねじれる変異体と左にねじれる変異体とで、微小管の動態にちがいがある事を見つけました。この研究で細胞内の微小管の動態から器官、個体レベルの形態形成へのつながりを示したことは、国内外で高く評価されています。学位取得後は、研究対象を細胞周期と核内倍加周期の切り換え機構に変更し、根端分裂組織では、オーキシンがTIR1/AFB-AUX/IAA-ARF経路によってサイクリン依存性キナーゼなどの細胞周期制御因子群の蓄積量を正に制御していることを見つけました。また、細胞分裂周期と核内倍加周期の切り替えに異常を持つ変異体の解析から新たにみつけたSUMO E3 ligase HPY2がその活性を通じて分裂組織における細胞周期制御因子を正に制御している事を発見しました。これらの研究は根端メリステムを形成する一連のシグナル伝達システムを明らかにしたことでも意義深い研究と考えられます。所属して来た各々の研究室で、確実に重要な研究成果を上げており、今後の研究も期待でき、次代を担う若手研究者であると評価できます。
(峰雪芳宣委員 記)

大田修平(山形大 院 理工学研究科)
「海産微細藻類クロララクニオン植物の分類および生活環の研究」
 クロララクニオン植物はまだまだ不明な点が多い海産微細藻類で、現在まで8属14種が記載されています。本グループが多くの研究者により注目されている理由は、葉緑体が細胞内二次共生によって獲得されたこと、宿主生物はケルコゾアであり共生藻は緑藻であること、そして共生藻の痕跡的核「ヌクレオモルフ」を保持していることが挙げられます。大田修平氏はクロララクニオン植物の生物多様性解明を目的に、記載分類・分類体系の検討、個々の種の生活環解明などの研究を真摯に続けてきています。その過程で、クロララクニオン植物門構成種の半数の2属7種を記載し、その中には葉緑体1個、ミトコンドリア1‐2個、ゴルジ体1個という直径3μm程度のピコサイズの種も記載しております。また大田氏の研究の特徴として、記載分類、分子系統に留まらず、常にそれぞれの種に適した培養条件の探索と培養株の確立、微速度顕微鏡装置による種固有の生活環の解明に努力してきており、その成果は国際的にも高い評価を得てきました。今後もクロララクニオン植物に加えてケルコゾア生物や有毒渦鞭毛藻について、培養株の確立を基盤にしての藻類・原生動物の分類学的研究に関してさらなる発展が期待されています。
(本村泰三委員 記)

小田祥久(東京大 院 理学系研究科)
「シロイヌナズナ培養細胞の新規道管分化誘導系を基盤とした微小管による細胞内空間制御機構の解析」
 小田祥久氏は、特徴的な二次細胞壁パターンを示す木部道管の分化過程における微小管の役割を研究するために、シロイヌナズナの懸濁培養細胞から道管を誘導する系を確立し、研究を行って来ました。この実験系を使って局所的に表層微小管が消失した所に壁孔が形成されることを見つけました。この壁孔形成機構を調べるために、GeneChipによる網羅的な遺伝子発現解析で見つかった分化特異的に発現が誘導される遺伝子群の中から、新奇微小管結合タンパク質MIDD1を同定しました。GFPやRNAi法等を使った研究からMIDD1は微小管の先端に局在し微小管の動態に関与している可能性を示しました。MIDD1は細胞膜との関係でも今後注目される微小管結合タンパク質と考えられ、今後新しい形の微小管結合タンパク質としてより注目される事が予想されます。言うまでもなく、シロイヌナズナには豊富なゲノム情報と遺伝学的な知見が蓄えられています。そのため、シロイヌナズナでの有用な培養細胞系は、今後、植物の分子、細胞レベルで研究に重要な役割を果たすと考えられています。小田祥久氏の開発したシロイヌナズナの培養細胞系は、独特の改良が加わり、従来のシロイヌナズナ培養細胞系に比べ、より有用で今後植物学の発展に貢献する事ができると考えられます。この系を使い、さらに改良する事で、今後の植物細胞生物学研究の発展が大いに期待されます。
(峰雪芳宣委員 記)

<特別賞>
 特別賞は植物科学や植物学会の発展に貢献のあった個人や団体を、分野や年齢を問わず選考して顕彰し、さまざまな面から植物科学の活性化をはかろうと創設されたものです。今年度は「技術」「教育」「その他」の分野で、評議員から6件の個人や団体の推薦がありました。各候補について2段階評価を行い、その集計結果をもとに選考委員会では評価の高かった候補者を中心に選考を行いました。その結果、国立環境研究所微生物系統保存施設、教育目的遺伝子組換え実験支援者グループ、サントリーホールディングス(株)青いバラ開発チームを授賞者と決定しました。

技術: 国立環境研究所 微生物系統保存施設
「国立環境研究所微生物系統保存施設における藻類リソースの系統保存および提供」
国立環境研究所微生物系統保存施設(NIESコレクション)は1983年に設立され、藻類、特に微細藻類の系統保存と保存株の提供を行ってきました。その間、笠井文絵氏はNIESの主要メンバーとして活躍されてきました。2002年には文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクトの藻類保存の中核機関にも採択されています。現在、約3000株(約400属800種)が保存され、約800株は液体窒素中で凍結保存されており、2000株余りは1週間から6ヶ月間隔で継代培養が続けられています。NIESコレクションは国内最大であり、英国CCAP、ドイツSAG、米国UTRX、CCMPに匹敵するものです。分譲可能な株として約2200株が公開されており、ここ5年間で国内外350機関の研究者に毎年600-1000株を提供しています。NIESコレクションには様々な藻類分類群が含まれており、例えば日本各地の富栄養湖から分離されたミクロキスティス300株、シャジクモ類などの絶滅危惧種、さらには日本人が開発してきたモデル生物であるクラミドモナス、クロレラ、シアニジオシゾンなどが保存されています。今後の環境問題、エネルギー問題を考える時に、藻類は主役となる生物群であると考えられます。NIESコレクションは、国内外の研究者との連携、藻類関連のコミュニティネットワークの核として藻類リソースとしてますます発展していくものと考えられ、我が国における藻類系統保存に対する笠井氏の大きな貢献は、植物学会の特別賞として相応しいものと高く評価されました。
(本村泰三委員 記)

その他:教育目的遺伝子組換え実験支援者グループ
「遺伝子組み換え植物に関する研究基盤構築と理解増進に関する貢献」
 遺伝子組換え植物を用いる実験は、現在の植物科学にとって不可欠の要素となっており、さらに、遺伝子組換え作物や様々なバイオテクノロジーへの応用を通じて、社会にも大きな影響力を与えています。この新しい実験技術が我が国で普及してきた背後には、技術開発ばかりではなく、その新しい技術を受け入れるための国内法令の整備や、社会的受容を促すための教育普及の努力がありました。鎌田博教授をはじめとする「教育目的遺伝子組換え実験支援者グループ」は、様々な機会を捉えてこの革新的な技術の普及に必要な国内規定や関係法令の整備に貢献し、さらに、我が国の初等中等教育に「遺伝子組換え実験」が普及する契機となる様々な支援を行いました。2001年から2010年までの間に筑波大学と東京農工大学で開催された「組換えDNA実験教育研修会」は27回におよび、日本全国からこれらの研修に参加した中高等学校の教員数は608名にのぼります。これらの研修会で蒔かれた実験教育の種は、その後、多くの中高等学校に直接・間接の影響を与え、今では全国で毎年1万人以上の生徒が遺伝子組換え実験を経験していると推定されます。これら一連の献身的な努力は、我が国の遺伝子組み換え植物に関する研究基盤構築と理解増進に大きく貢献しており、植物学会の特別賞にふさわしいものと高く評価されました。
(小保方潤一記)

その他:サントリーホールディングス(株)青いバラ開発チーム
「遺伝子組換えによる青いバラ、カーネーションの開発と商業化」
 花の色素についての研究は、日本でも多くの質の高い研究が行われてきました。ツユクサのアントシアニンであるコンメリニンの単離結晶化から構造決定に至る一連の研究や、アサガオにおける液胞pHがもたらす花色変化の研究、などはその一例です。
 アントシアニジンには、シアニジン、ペラルゴニジン、デルフィニジンの3つが知られています。このうち青色をもたらすのがデルフィニジンです。バラ、カーネーション、キク、ユリなどは、デルフィにジンを合成するために必要なフラボノイド3’、5’-水酸化酵素を欠いているために、青色や紫色の品種がありませんでした。
 サントリーの研究チームは、まず、白いカーネーションにペチュニアやパンジーのフラボノイド3’、5’-水酸化酵素やジヒドロフラボノールレダクターゼを発現させることで、青いカーネーションを得ました。バラについては、パンジーのフラボノイド3’、5’-水酸化酵素を導入したもののうちの数品種において、デルフィニジンの高蓄積体を得ることに成功しました。これらの高蓄積体は、液胞のpHが相対的に高いなど、種々の特徴が揃っていることも分かりました。カルタヘナ法にもとづく、これらの遺伝子組み換え生物の生物多様性への影響評価をへて、青色のカーネーションは1996年から、バラは2009年から市販されています。
 これらの一連の成果は、遺伝子組換え技術の粋を尽くしたものであり、技術的に高く評価できます。さらに、バイオテクノロジーが身近なものであることを示す一例として、中学、高校の教科書にも掲載され、社会的にも好意的に受け入れられています。選考委員会は、サントリーチームが、遺伝子組み換え植物の社会的受容にも大きく貢献していることも高く評価しました。
(寺島一郎委員 記)                       

2011年度 日本植物学会賞選考委員会
寺島一郎(委員長)、小保方潤一、加藤雅啓、
篠村知子、園池公毅、西谷和彦、西村いくこ、
保尊隆享、峰雪芳宣、本村泰三


« お知らせのトップへ戻る