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18年度日本植物学会賞選考委員会—講評—

[お知らせ]  2006年8月23日

日本植物学会賞は、2004年度から従来の奨励賞に加え、大賞、学術賞、若手奨励賞および団体でもまた非会員でも顕彰の対象となる特別賞を制定し、植物学の研究業績に対して表彰を行っています。また、自薦や他薦、評議員推薦により才能ある若手研究者を発掘し、積極的に受賞候補者を推薦することができる体制がとられています。本年度の日本植物学会賞選考委員会は4月14日より選考作業を開始し、5月20日に東京大学にて選考委員会を開催し、さらにメールによる検討を加えて6月9日に第3回日本植物学会賞受賞者を決定いたしました。

大賞の受賞者は多数の評議員による推薦を受けた駒嶺穆会員に決定しました。駒嶺会員の研究業績としては、長年にわたる植物細胞培養系を用いた植物の分化全能性に関する研究があげられます。駒嶺会員は、植物の組織培養や細胞培養が始まったばかりの初期の研究段階において、細胞培養系の改良を行い、高頻度でかつ同調的に脱分化や増殖、さらに分化がおこる系を確立しました。また、確立した培養系を植物の分化全能性の解明に適用して、形態学、生化学、分子生物学の各局面から多角的に解析し、その機構を明らかにしました。特に、1)ニチニチソウやタバコ細胞の同調培養系を用いた細胞周期の機構に関する研究、2)ニンジン培養単細胞からの不定胚分化機構に関する研究、3)ヒャクニチソウ葉肉単細胞からの管状要素の分化転換・細胞分化機構に関する研究などで画期的成果をあげています。今回は、長年にわたる植物生理学・植物分子生物学の発展への多大な貢献と画期的な研究業績に対して、駒嶺会員に日本植物学会賞の最高賞である大賞を授与することを決定しました。

学術賞には、評議員により近藤孝男会員が推薦され、選考委員会において研究業績を検討した結果、同会員に学術賞を授与することを決定しました。近藤会員は、
シアノバクテリアを用いて生物の持つ時計機構に関する独創的な研究を展開し、多大な業績を上げています。特に、生物発光遺伝子を導入したシアノバクテリアを用いて概日時計を自動測定することに世界で初めて成功し、この系を利用して時計遺伝子kaiABCを発見しました。また、この遺伝子の発現制御を核とした生物時計の振動モデルの提案に至った研究成果は極めて高い評価を得ています。さらに、この振動が24時間になる原因を追及し、Kaiタンパク質の生化学的な解析からKaiCのリン酸化サイクルを明らかにするとともに、3つのKaiタンパク質とATPを試験管内で混ぜるだけで安定した24時間振動が発生することを発見し概日時計を初めて試験管内で構築し得たことは、非常に大きなインパクトを与える研究となりました。概日時計現象はすべての生物に共通する基本生命現象であるため、その成果は広範な研究に多大な影響を与えるものと期待されています。


奨励賞には評議員推薦と自薦とを合わせて12名の応募がありました。審査は、応募者のそれぞれの申請書と別刷りコピーを10名の選考委員全員に配布し、応募者の評点(5段階)と研究に関するコメント(評価表)を書いてもらうところから始めました。選考委員会において、各委員が付けた評点をそのまま得点として加算し、候補者に総合点の順位をつけました。これらをまとめて総合推薦順位表を作成し、各候補者の研究内容を中心に植物学会大会での発表など学会への貢献度を調査しながら議論しました。3名の選考を予定していましたが、評価が突出して高かった2名に留めることとしました。結果として、アイウエオ順で、相田光宏会員、彦坂幸毅会員に奨励賞授与を決定しました。

相田会員は、博士号取得後7年目で、Cell誌、Plant Cell誌、Development誌などに、共著も含め11篇の原著論文を発表しています。シロイヌナズナの突然変異体の解析から、NACドメインを持つ転写活性化因子CUC1及びCUC2が、胚発生において茎頂分裂組織の形成と子葉の分離で機能することを明らかにしました。また、シロイヌナズナのAP2型転写因子PLT1、PLT2の機能解析により、これらの遺伝子が根端分裂組織の形成・維持を促進する主要な経路を担っていることを示しました。高等植物の胚発生において、茎頂と根端の上下軸の分裂組織から器官が形成される過程の分子メカニズムを明らかにする独創的な研究として高く評価されています。

彦坂会員は、博士課程修了後12年目で、Nature 誌、Ecological Res.誌などに、共著も含め52篇の原著論文を発表しています。光合成系の光馴化をテーマとし、「植物は窒素あたりの光合成生産を最大化する」という仮説を立て、一日の光合成量を最大化する最適な光合成系窒素分配を計算しました。さらに、実際の植物の窒素分配について調べ、予測と現実が一致する事を明らかにしました。さらに温度馴化では温度—光合成曲線の変化が窒素分配の変化によることを数理モデルによって示し、実際の植物でも予測が正しい事を明らかにしました。彦坂会員が提唱した窒素分配の理論は、その後の多くの研究に引用されるなど、高く評価されています。また、温度馴化の研究では種間差の問題にも着手しており、今後の研究の発展が期待されています。


若手奨励賞には評議員推薦と自薦を合わせて9名の応募がありました。候補者の評価は奨励賞と同様の方法で行いました。この賞は、大学院生やポスドクなど、意欲にあふれた若手の研究者の奨励が目的です。若手奨励賞も日本植物学会の賞であり、最近の大会で積極的に発表していることも重要な条件になります。その結果、アイウエオ順で、北澤大典会員、森稔幸会員、吉原静恵会員の3名に若手奨励賞を授与することが決まりました。

北澤会員は、博士課程2年在学中で、PNAS誌などに共著を含め4編の原著論文を発表しています。アサガオをモデルとして利用することにより、蔓巻き性や回旋運動、頂芽優勢といった高等植物において普遍的な現象の根底に、重力応答が存在することを証明した画期的研究成果をあげています。今後の分子生物学的、分子遺伝学的解析により、植物が有する重力形態形成の分子機構の解明に発展すると期待されています。

森会員は、博士課程修了後4年目です。Nature Cell Biol.誌などに、5編の原著論文を発表しています。テッポウユリ雄原細胞を用いて、新規の雄性配偶子特異的タンパク質の単離に成功しました。このタンパク質の機能を分子生物学的、免疫学的、逆遺伝学的手法を駆使して解析し、植物の受精を決定づける不可欠な因子であることを証明しました。これらは独創性のある高いレベルの研究であり、今後の発展が期待されます。

吉原会員は、現在博士課程修了後4年目です。Plant Cell Physiol.誌などに10編の原著論文を発表しています。単細胞性シアノバクテリアの運動に必須な多数の線毛形成因子を同定し、太い線毛が運動に関わる機構であることを決定しました。一方、シアノバクテリアの正の走光性の光受容体としてフィトクロム様光受容体を発見し、これが赤色光を吸収するフィコシアノビリンを発色団としてもちながら青/緑色光で光変換する新種の光受容体であることを示しました。これらの研究は未知の吸収特性を示す光受容体の存在を提唱した先駆的研究であり、新たな重要な発見に繋がることが期待されています。


特別賞は一昨年から始まった日本植物学会賞のなかで最もユニークな賞です。植物科学や植物学会の発展に貢献のあった個人や団体を顕彰しますが、分野や年齢を問わず、また、毎年複数の分野で受賞者を出すことで植物科学の活性化をはかろうと創設されたものです。「技術」「教育」「その他」の分野で、評議員から推薦のあった個人や団体の他、自薦で応募された方について選考しました。

技術分野では、川窪伸光会員を顕彰することにいたしました。川窪会員は、近年発展が著しい電子的デジタル映像機器を用いて、発芽から枯死にいたる一連の植物の生活誌を記録し、多くの人が興味を持って鑑賞できる映像作品を作り上げました。また、これらの作品製作において、従来のアナログ的フィルム記録とは異なった新たな技術を開発しました。植物学会のウェブサイトの動画配信にも献身的に対応されており、その技術と魅力的画像を公開してきた功績に対して特別賞(技術)を授与することに決定しました。

特別賞の教育分野では、貝沼喜兵氏に賞を授与することになりました。貝沼氏は長年にわたり筑波大学付属駒場高校において生物を指導してこられ、日本で初めて枯草菌を用いた形質転換実験や組換えDNA実験を、高等学校で教材化し指導を行いました。これらは、「DNAが遺伝子本体である」ことを実験的に証明する新しい遺伝子教育の試みとなりました。貝沼氏の高校における生物教育の活性化に対する長年にわたる努力に対して敬意を表し、特別賞(教育)を授与することに決定しました。

特別賞のその他の分野として、首都大学東京牧野標本館を顕彰することに決定しました。牧野標本館は、故牧野富太郎博士の日本産野生植物種の所蔵標本を整理・保管するための標本館として設立されました。また、交換標本事業により外国産の植物標本も多数獲得しています。さらに、江戸時代に日本を訪れたシーボルトのコレクションなどを含む50万点もの植物標本を収蔵しています。一方、これらの標本を画像化してCDにおさめて、国内外に広く配布するなどの情報発信も積極的に行っています。このような熱意を持って継続的に標本管理にあたってきた牧野標本館の長年の功績に対して特別賞(その他)を授与することに決定しました。

以上の通り、平成18年度日本植物学会賞選考委員会は、第3回日本植物学会賞の各賞を9名と1団体に授与することを決め、6月9日会長に報告し、7月15日に開催された日本植物学会理事会で了承されました。また、日本植物学会第70回大会研究発表プログラムで公表しております。

平成18年度日本植物学会賞選考委員会
篠崎和子(委員長)、徳富(宮尾)光恵(幹事)、阿部美紀子、片岡博尚、田中一朗、西田治文、前島正義、丸田恵美子、矢原徹一、山本興太朗

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