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2012年度の学会賞受賞者と講評

[お知らせ]  2012年6月15日

=第9回日本植物学会賞受賞者=

 第9回日本植物学会賞の各賞の受賞者が以下の通り決まりました。なお、授賞式と授賞講演は、日本植物学会第76 回大会(兵庫県立大学姫路書写キャンパス 平成24年9月16日)で行われる予定です。      
(敬称略)
<大賞>
和田正三 (九州大学 院 理学研究院)

<学術賞>
加藤雅啓 (東京大学名誉教授・国立科学博物館名誉研究員)
「極限環境に適応したカワゴケソウ科の分類学的・進化学的研究」

<奨励賞>
小口理一 (オーストラリア国立大学)
「光環境の変化に対する葉の光合成光順化および光阻害のメカニズム」
山田敏弘 (金沢大学 理工研究域自然システム学系)
「維管束植物に関する進化古植物学的研究」 
吉田聡子 (理化学研究所 植物科学研究センター)
「寄生植物ストライガの解析基盤の確立と寄生機構の解析」

<若手奨励賞>
岩崎貴也 (東京大学 院 総合文化研究科)
「日本の温帯林群集についての複合的アプローチによる歴史生物地理学的研究」
岩渕功誠 (京都大学 院 理学研究科)
「植物の強光適応を支える細胞核光定位運動—その仕組みと役割の解明—」
海老根一生(国立感染症研究所 寄生動物部)
「植物固有の膜融合制御因子の解析」
川出健介 (理化学研究所 植物科学研究センター)
「多細胞系で進行する葉のサイズ制御」 
平川有宇樹(モナシュ大学)
「維管束の幹細胞運命を制御するペプチドシグナルの研究」

<特別賞>
技術
河内孝之 (京都大学 院 生命科学研究科)
「モデル植物としてのゼニゴケに関する研究基盤整備」

教育
風間晴子 (国際基督教大学名誉教授)
「リベラルアーツ教育による研究者の育成と一般市民の科学への関心の深化を促す試み」

日本植物学会賞選考委員会


=第9回日本植物学会賞の選考結果報告=
 日本植物学会は、大賞を初めとして、学術賞、奨励賞、若手奨励賞、特別賞を制定し、植物学に関する研究業績と、日本植物学会員としての活動を通した植物学への貢献に対して表彰を行っています。選考にあたっては、自薦や他薦、評議員推薦など、多様な方式により、傑出した研究者を推薦し、才能ある若手研究者の応募を促す方式がとられています。
2012年度も例年同様多数のご推薦、ご応募を頂きました。そこで、2012年4月14日(土)に日本植物学会賞選考委員会を東京大学にて開催し、第9回日本植物学会賞受賞者を決定しましたので、此処に選考結果を報告致します。

<大賞>
 評議員による推薦を受けた4名の選考対象者について、研究業績、後進の育成、日本植物学会員としての植物科学への貢献等について、様々な角度より審議した結果、和田正三氏を大賞受賞者に決定しました。

和田正三 (九州大学 院 理学研究院)
「植物学会と歩んだ35年、葉緑体に学んで29年」
 和田正三氏は、長年にわたり植物の光形態形成機構と葉緑体の光定位機構の解明に取り組み顕著な業績をあげてこられました。光形態形成の代表的な実験材料としてシダ配偶体が知られていましたが、和田氏は光形態形成の研究を開始するにあたり、まず、様々なシダの中から光形態形成反応に敏感なホウライシダ配偶体を選び、光形態形成機構解析のオリジナルなモデル実験系を確立しました。この系を使って、細胞分裂や細胞伸長と光の関係に独創的な成果を上げてきました。特筆すべきこととして、シダからフィトクロムとフォトトロピンが融合した新たな光受容体ネオクロムの発見が挙げられます。また、シダで始まった葉緑体の定位運動の研究は、高等植物まで研究範囲を広げ、フォトトロピン2が強光下で誘発される光逃避運動を仲介していることを発見し、その働きを喪失した変異株は強光障害を生じることを示しました。この葉緑体の運動機構で重要な働きをするCHUP1、JAC1等のタンパク質を同定し、これらの分子とアクチンとの関係等、さらなる研究を続けておられます。植物学会においては、会長をはじめ、多くの学会の重要な役職を歴任し、植物学会に多大な貢献をされています。和田氏は植物学会誌Journal of Plant Researchにも深く関与されてこられました。編集長の時に雑誌表紙を現在のスタイルに変更し、和田氏ご自慢の植物写真も多く掲載されています。また、ご自身でも多数の論文をJournal of Plant Researchに投稿されています。掲載された複数の論文が論文賞を受賞していることからも分かる様に、和田氏のJournal of Plant Researchを良い雑誌にすることへの貢献は余人をもって代え難いところがあります。このような長年にわたる植物学会と学会誌への貢献と多岐にわたる研究業績に鑑み、和田正三氏が日本植物学会の大賞受賞者にふさわしいと判断しました。


<学術賞>
 3名の選考対象者について、研究業績のプライオリティー、独創性、国際的評価、植物科学の発展への貢献、日本植物学会員としての植物学会への貢献などについて審議した結果、加藤雅啓氏を学術賞受賞者に決定しました。

加藤雅啓 (東京大学名誉教授・国立科学博物館名誉研究員)
「極限環境に適応したカワゴケソウ科の分類学的・進化学的研究」
 加藤雅啓氏は、藻類から被子植物にいたるまできわめて広範な分類群を対象に、植物系統・分類学を基軸としながらも、比較形態学、古植物学、進化生物学、分子遺伝学などあらゆる手法を駆使して研究を進め、植物多様性の創出機構に関して独創的な仮説を数多く提唱してきました。中でもカワゴケソウ科研究は、それまで奇形学の域を出ていなかった研究を飛躍的に進化させた特筆すべき業績です。カワゴケソウ科は世界の熱帯・亜熱帯の川床に固着し常に激流にさらされるという極限環境に生活しており、茎・葉・根の区別が曖昧な特異な形態を示します。加藤氏はカワゴケソウ科の植物多様性を解明するためには当該群の全種を対象とすることが不可欠であるとの考えから、まず世界のカワゴケソウ科の野外調査を行い5新属、40種以上の新種を報告し、カワゴケソウ科が54属300種以上からなることを明らかにするとともに科内の分子系統解析を行いました。そして胚発生の比較から、「幼芽や幼根の喪失による上下軸の退化・消失と胚軸からの不定的な器官形成が起こることによって水平軸が獲得された」ことを明らかにしました。そしてこのボディプランの修正が、シュート頂分裂組織、根端分裂組織の有無や葉形成、根冠形成など科内での驚くべき多様化を引き起こし、その形態多様性は植物界において他に類例をみないほどであることを示しました。さらにまた形態多様性の背景となる遺伝子発現パターンの解析から、シュート頂の早期分化と器官レベルの境界不明確によって複合的な“葉”が生まれたとする解釈を提唱しました。これは古典形態学の常識を打ち破る大きな発見であり、進化形態学研究に新たな頁を開くものです。以上の加藤氏の貢献は日本植物学会学術賞に正にふさわしい研究として高く評価されます。


<奨励賞>
 12名の選考対象者について、まず、各審査員が、申請書類を基にした書面審査を行い、5段階評価とコメントを記した評価表を事務局に提出しました。選考委員会では、全委員の評点とコメントの集計結果を基にして合議により審議を進めました。選考に当たっては、日本植物学会大会に於ける研究発表の状況や、Journal of Plant Researchへの論文発表など、本学会における活動を考慮しつつ総合的評価を行いました。その結果、小口理一、山田敏弘、吉田聡子(五十音順)の3氏に奨励賞を授与することを決定しました。

小口理一 (オーストラリア国立大学)
「光環境の変化による葉の光合成馴化および光阻害のメカニズム」
 植物は多様な光環境下において、効率よく光合成を行うために様々な性質を変化させています。小口理一氏は、光強度上昇に対し光合成能力を上昇させる光順化と、光合成能力の低下を引き起こす光阻害のメカニズムについて、ニッチ分化や種の共存にかかわる種間差の要因を、葉内のCO2拡散など光合成における葉の解剖学的性質に着目して独創的な研究を展開してきました。特に、成熟葉における解剖学的な光順化メカニズムの研究成果は、多くの論文に引用され教科書や総説にも紹介されました。これらの室内実験での結果が野外でも起きていることを、冷温帯広葉樹林での野外実験により実証した点も評価されます。また、光阻害の原因である光化学系II の不活性化には、エクセス説とマンガン説のふたつのメカニズムが関与していることを明らかにするとともに、光阻害の程度を評価する標準手法であるクロロフィル蛍光測定法は過大評価する可能性があることを、独自に実験法を開発することにより示しました。順化能力の種間差や光阻害メカニズムに関するこれら一連の研究は、遺伝子レベルのメカニズム解明だけでなく、野外における光環境の変化が成長速度や生存にどのように影響するかという個体レベルの生態現象の理解や地球環境変動に対する生態系の応答予測の観点からも、将来の発展が大いに期待されます。

山田敏弘 (金沢大学 理工研究域自然システム学系)
「維管束植物に関する進化古植物学的研究」
 進化古植物学は、古植物学、比較形態学、発生生物学など様々な手法を駆使し、過去に起きた植物の進化を解明する研究分野です。山田敏弘氏は主に種子植物を対象とした進化古植物学的研究を行い、数々の独創的な成果を挙げてきました。特にダーウインが“忌まわしき謎”とし、未だに解けていない被子植物の起源解明にいどむ研究は特筆すべきものです。山田氏は正確な岩相を読む能力を生かし、最古の基部被子植物の化石であるトリメニア科の種子化石を北海道の白亜紀前期地層から発見しました。これは同科がかつて北半球にも存在したことを示し、被子植物の南半球起源説の根拠を否定することになり世界的に大きな反響を呼びました。さらにまた化石研究から発想を得た「幌型外珠皮」を突破口とし、現生植物の比較発生学だけでなく、形成遺伝子の解析を用いる分子発生学へと研究を広げ、外珠皮と葉との間に相同性があることを示し、初めて化石植物カイトニア類やディクティオプテリディウム類と被子植物の類縁性を示すことができました。これは被子植物の起源の解明に大きく貢献するものです。このように山田氏は、化石採集から始まって、比較形態形成、さらに遺伝子発現を加えたEvoDevo研究を行うことができる、数少ない研究者として、今後の活躍が大いに期待されます。

吉田聡子 (理化学研究所 植物科学研究センター)
「寄生植物ストライガの解析基盤の確立と寄生機構の解析」
 ハマウツボ科の寄生植物ストライガは、主に中東アジアやアフリカの半乾燥地帯で甚大な農業被害をもたらし、その寄生機構の解明は世界的に関心が高い。吉田聡子氏は、ストライガ寄生のしくみを解明する上で、ストライガと寄生宿主との細胞学的相互作用の理解が重要であると考え、寄生の瞬間をタイムラプス画像として撮影することに成功している。また、ストライガが同属植物に対して寄生を回避する動画の撮影にも成功している。一方、寄生の分子機構を理解する上で、分子生物学的アプローチも欠かせない。ストライガ ESTデータベースの構築にも貢献し、その過程で、ストライガゲノム中にイネ科特異的遺伝子配列を発見し、植物遺伝子の水平伝搬に関して新たな知見を提供している(Science誌、 2010)。現在は、寄生成立に必要な遺伝子の同定をめざして、次世代型シーケンサーによる大規模トランスクリプトーム解析およびゲノム解析を続けている。ストライガ近縁種やストライガ以外の寄生植物についても研究を広げ、寄生植物に普遍的な生命現象の解明に邁進することを期待する。最後に、受賞対象となった研究は、理化学研究所から開始したものであるが、それ以前の緑葉老化や植物—微生物相互作用に関する研究も、分野で高い評価を受けており、将来、独立した研究者となったときに振り返ってみるのもよいだろう。


<若手奨励賞>
 この賞は、大学院生やポスドクなどを対象とし、意欲にあふれた若手研究者を発掘し、顕彰することを目的としています。8名の選考対象者について、奨励賞と同様の方法で書面審査と合議による選考を進め、岩崎貴也、岩渕功誠、海老根一生、川出健介、平川有宇樹の5氏に若手奨励賞を授与することを決定しました。

岩崎貴也 (東京大学 院 総合文化研究科)
「日本の温帯林群集についての複合的アプローチによる歴史生物地理学的研究」
 約2万年前の最終氷期最盛期は、生物の分布に対して大きな影響を与えたとされています。その影響は、群集の構成種に共通する遺伝構造として現在も残っている可能性があります。岩崎貴也氏は、日本列島の温帯林群集について、最終氷期最盛期以降の分布変遷過程を解明すべく、複数の温帯林構成樹種に共通する遺伝構造に着目して独創的な研究を展開してきました。葉緑体DNA 非コード領域の変異の解析から、若狭湾周辺、中部地方南部、紀伊半島周辺などの地域が、最終氷期最盛期における温帯林群集の主要なレフュジア(逃避地)であった可能性が高いことを明らかにしました。また、地理情報システム上でモデル化された複数種の遺伝構造を比較・解析し、日本海側と太平洋側を分ける脊梁山脈など、実際の地理的障壁となる場所などに共通の遺伝的障壁を検出し、温帯林の歴史における地理的障壁の重要性を示しました。岩崎貴也氏の研究は、分子系統地理学的解析に加えて、地理情報システムや生態ニッチモデリングといった複数のアプローチを複合的に用い、分子系統地理学的研究から示唆された歴史シナリオの信頼性を検証した点が高く評価されました。これまで、個々の種についての各論がほとんどであった分子系統地理学的研究を、温帯林群集といった群集レベルの生物地理学にまで広げる研究アプローチは、植物学において将来の発展が大いに期待されます。


岩渕功誠 (京都大学 院 理学研究科)
「植物の強光適応を支える細胞核光定位運動ーその仕組みと役割の解明ー」
 岩渕功誠氏は、植物の細胞核が光条件によって移動する“核光定位運動”を種子植物で初めて見いだし、独創的な研究を展開してきました。これまでに、種子植物の核光定位運動には、フォトトロピンによる青色光の受容が刺激となること、また、アクチン繊維の構築変化が核の移動に関与することを細胞の長軸方向に走る太いアクチン繊維に沿って移動することを細胞生物学的に見事に証明しました。この発見は、これまで知られていなかったフォトトロピンと細胞核との関係を初めて示した例としても高い評価を得ています。岩渕氏は、独自に開発した手法を駆使して、細胞内のアクチン繊維の可視化のみならず核のDNA損傷の定量化にも成功しています。これにより、核光定位運動が紫外線照射によるDNA損傷を軽減させることを見いだしました。一般的に、種子植物が遺伝情報を紫外線照射から守る方法としては、アントシアニンの蓄積と葉の肥厚がよく知られています。しかし、これらの防御方法は時間を要するという欠点があります。一方、岩渕氏が見いだした核の光定位運動は1-3時間という短い時間で起こる現象であり、種子植物が獲得した新たな紫外線防御機構という点でも非常に興味深いものと言えます。最近、核の運動の進化的な側面にも視点を広げ、ゼニゴケの核光定位運動の解析にも着手しています。また、フォトトロピンによる光受容からアクチンによる運動へ至るまでの仕組みの全容解明に果敢に挑戦しようする研究姿勢は非常に頼もしいものがあります。岩渕氏の今後の活躍に大いに期待したいと思います。

海老根一生 (国立感染症研究所 寄生動物部)
「植物固有の膜融合制御因子の解析」
輸送小胞を介したゴルジ体や液胞などのオルガネラ間の物質輸送(膜交通システム)は真核細胞に普遍的な生命現象ですが、一方で進化の過程で生物種により多様化していることが知られています。海老根一生氏は、種子植物に特異的に存在する膜融合装置の機能を分子レベルで解明しました。小胞と標的膜の融合は、SNARE複合体と呼ばれる保存された膜融合装置により実行されます。VAMP727はこの複合体を構成するR-SNARE分子であり、類似の分子は種子植物のみに保存されていますが、この分子を含む複合体の機能を失った植物は正常な種子が形成できないことから、VAMP727が種子において貯蔵型液胞の発達に不可欠な機能を有していることを明らかにしました。またVAMP727とRab GTPaseであるARA6が協働して、植物では未知のエンドソームから細胞膜への輸送を制御することを発見し、ARA6の機能の増強によりシロイヌナズナが塩ストレスに強くなることを見いだしました。さらに次の研究の展開として、植物のARA6とマラリアやトキソプラズマのARA6様分子であるRab5Bを比較解析すべく、日本学術振興会特別研究員(PD)の申請先として国立感染症研究所を選び、採択後は同研究所の流動研究員として活躍しているなど、業績とともにチャレンジングな姿勢も高く評価したいと思います。植物分野のみならず生物学者としての大成が期待されます。

川出健介 (理化学研究所 植物科学研究センター)
「多細胞系で進行する葉のサイズ制御」
 川出健介氏は、多細胞で構成されている葉のサイズの制御機構について興味を持ち、葉の補償作用に重要な転写コアクチベーターANGUSTIFOLIA3(AN3)を基軸に、シロイヌナズナの葉のサイズ制御機構の研究を行って来ました。川出氏は野生型とan3変異型の細胞が1枚の葉で混在するキメラ葉を再現性よく誘導できる系を作製し、キメラ葉では野生型の細胞とan3変異型の細胞間でも細胞間コミュニケーションがあること、また、そのシグナルの機能する範囲が中肋を境に葉身の半分であること明らかにしました。また、AN3にGFPを融合させたタンパク質を使った実験から、葉原基内部組織でできたAN3が表皮組織に移動することを証明し、AN3を介した細胞層間の増殖協調性が葉のサイズ制御に必須であることを示しました。葉の補償作用は川出氏の所属していた研究室のメインテーマであるが、1枚の葉の中に異なる遺伝子発現をする細胞群をつくるキメラ葉を作製することで、同一組織内で目的の遺伝子が発現している細胞としていない細胞の比較を可能にしたこと、また、GFPを上手に使うことで、同じ分子でも細胞間移動できる分子と移動できない分子を染め分けられる様にしたことは、川出氏のオリジナリティーであり、審査委員の間で高い評価を得ました。現在は理論的な面からのアプローチにも挑戦中で、今後の発展が大いに期待されます。

平川有宇樹 (モナシュ大学 生物科学部)
「維管束の幹細胞運命を制御するペプチドシグナルの研究」
 維管束は植物の各器官を結ぶ長距離輸送経路として重要であり、その形成過程については多くの研究がなされてきました。しかし、形成過程における細胞分化の時空間的な制御の分子機構には未解明の部分が多く残されています。平川有宇樹氏は、ともに維管束幹細胞である前形成層細胞に由来する、篩部と木部の2種類の組織の分化のバランスを制御する機構に興味を持って研究をおこなってきました。平川氏は、木部分化阻害因子として同定されたTDIF(CLEファミリーのペプチド)に着目し、ペプチドの産生部位、細胞・組織レベルでの生理機能、受容体遺伝子の同定とその発現部位、ペプチドと受容体の生化学的な相互作用、シグナルの標的転写因子とその機能などを明らかにすることで、篩部と木部の発生において制御経路間にクロストークが存在することを示しました。さらに、TDIFシグナル伝達経路においてもWOXファミリーの転写因子が重要な役割を果たしていることを明らかにし、CLEペプチドとWOX転写因子という制御モジュールが分裂組織の活性調節に広く関わるという見方を導き出しています。これは分裂組織の進化や多様化を理解する上で重要な研究成果であり、極めて高い評価を受けております。現在は、受賞対象となった研究に進化という視点を取り入れ、維管束植物の発生進化を主なテーマとして研究を進めており、これからのますますの活躍と研究の展開を期待したいと思います。


<特別賞>
 特別賞は植物科学や日本植物学会の発展に貢献した個人または団体を、活動の形や、活躍する分野、年齢を問わず、広い視野から顕彰し、様々な面から植物科学の活性化を図ることを目的としています。今年度は「技術」「教育」の分野で、5件の推薦がありました。これらの選考対象者について書面審査を行った後、その集計結果を基にして、選考委員会で合議による審査を進めた結果、河内孝之、風間晴子の2氏に、それぞれ、特別賞(技術)と特別賞(教育)を授与することを決定しました。

【技術】
河内孝之 (京都大学 院 生命科学研究科)
「モデル植物としてのゼニゴケに関する研究基盤整備」           
 河内孝之氏は、陸上植物における苔類の系統上の位置づけを考えたとき、ゼニゴケはモデル植物として、植物科学の枠を広げるために大きな有用性を持つという先見に基づき、そのための研究基盤の整備をおこなってきました。河内氏の進めてきた基盤整備は、標準系統の確立、遺伝解析の基礎となる交配方法の確立、遺伝地図の作成、核ゲノムへの簡便な形質転換法の開発、葉緑体形質転換法の開発、T-DNA タギングによる遺伝子単離法の確立、相同性組換えによる遺伝子破壊法の確立、ゲノムの解読(進行中)、EST情報の整備といった材料や技術の面(これら自体、多岐にわたります)にとどまらず、情報や関心を共有する国際的な研究コミュニティーの確立、国際ワークショップの開催、それらをもとにした国内外の若手研究者を含む研究交流の推進などにもおよんでおります。その結果として、国内はもとより海外でもゼニゴケを新たに研究材料に加える研究者が着実に増加しつつあり、ゼニゴケは、日本から発信されたユニークなモデル植物として国際的に認知されるにいたっています。こうしたことは、植物科学の発展における貢献としてたいへんに大きなものであります。加えて、本会大会においてゼニゴケをテーマとしたシンポジウムがおこなわれ、本学会の若手会員の中からもゼニゴケを用いる研究者が現れており、植物学会の特別賞として相応しいものと高く評価されます。

【教育】
風間晴子 (国際基督教大学名誉教授)
「リベラルアーツ教育による研究者の育成と一般市民の科学への関心の深化を促す試み」
 風間晴子氏は“リベラルアーツ教育”による研究者の育成を掲げ、教育を行って来ました。その結果、風間氏に卒業論文の指導を受けた学生は、世界中の大学院に進学し、活躍しています。風間研究室に所属していた学生の特徴は、大学院を選ぶ時に、大学のブランド名ではなく、自分が研究したいことが出来そうな研究者のいる研究室を選んでいることです。そのため、風間研究室卒業生は、国内の特定の大学に偏ることなく、日本国内、さらには、海外にまで進出して学位を取得しています。現在、日本の私立大学からの大学院へ進学する割合は5%に達していません。それに比べ、風間研究室を卒業した学生の80%以上が国内外の大学院に進学し、30%以上が学位を取得しています。現在中堅研究者になっている方の中には、国内外の研究所のPIや国立大学の准教授として活躍されている方も多数おられます。大学院博士過程を持たない私立大学でのこれだけの人材輩出は、風間氏の教育の賜物として評価に値します。また、現在日本の植物学会を支えている他大学出身の40代の研究者の中には、風間氏の元で学生実習のTAとしてお世話になり、学問的影響を受けた研究者も多数います。このように、修士課程までしかない私立大学の教官でありながら、多くの若手研究者に影響を与えた風間氏の教育活動は特別賞受賞に値すると判断しました。


2012年度日本植物学会賞選考委員会
西谷和彦(委員長)、今市涼子(副委員長)、荒木 崇、石田健一郎、可知直毅、園池公毅、西田生郎、西村いくこ、馳澤盛一郎、峰雪芳宣

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