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日本植物学会賞(2008年度)の選考結果報告

[お知らせ]  2008年8月 7日

 日本植物学会は,大賞,学術賞,奨励賞,若手奨励賞,特別賞を制定し,植物学の研究業績と植物学への貢献に対して表彰を行っています.また,自薦や他薦,評議員推薦により,才能ある若手研究者を発掘し,積極的に受賞候補者を推薦することができる体制がとられています.本年度の日本植物学会賞選考委員会は,5月12日(月)東京大学にて選考委員会を開催し,さらに電子メールによる検討を加えて6月16日に第4回日本植物学会賞受賞者を決定いたしました.本年度はどの賞に関しても評議員推薦が少なく,受賞者数も例年より少なくなっております.来年度は数多くの方の推薦,応募を期待いたします.

<大賞>
評議員による推薦を受けた2名を対象として,研究業績,後進の育成,植物学会への貢献ならびに植物科学全般への貢献等を審議し,黒岩常祥会員に,大賞を授与することを決定しました.
 黒岩会員は,植物や粘菌のミトコンドリアと葉緑体の分裂・増殖・遺伝のしくみの研究で,幅広い分野で独創的な研究を展開し,多大な業績を上げています.とくに,ミトコンドリアと葉緑体の核様体の発見,多重分裂リングの発見,それらの分裂・増殖における役割の解明,ミトコンドリアと葉緑体の細胞質遺伝の分子機構の解明では,独創的な研究成果とともに独自の材料・解析技術の開発も高く評価されています.また,原始紅藻”シゾン”の研究では材料の探索から着手して独自のモデル生物分野を開拓し,ゲノムの完全解読をはじめとした多くの研究が展開されてきました.これらの研究業績により,2005年には日本植物学会学術賞を受賞されています.さらに,日本植物学会長として本学会の発展にも大きく貢献され,その後も学術会議等において,植物学の発展に尽力されています.長年にわたる植物学への多大な貢献と多岐に渡る研究業績において,黒岩会員は日本植物学会賞の最高賞である大賞にふさわしいと判断しました.

<学術賞>
 評議員により推薦を受けた4名を対象とし,研究業績のプライオリティー,独創性,国際的評価,ならびに植物科学の発展への貢献について検討した結果,長谷部光泰会員に学術賞を授与することを決定しました.
 長谷部会員は,コケ植物のヒメツリガネゴケを中心にした陸上植物において独創的な研究を展開し,全ゲノム解読を始めとして,分類学,遺伝学,生理学など,多様な生物学分野において多大な業績をあげています.陸上植物には多様な形態を持った植物群がありますが,従来は被子植物以外には遺伝子工学技術が利用できるモデル植物がありませんでした.長谷部会員は,国際共同研究によるコケ植物ヒメツリガネゴケ,シダ植物イヌカタヒバの全ゲノム解読成功に大きな貢献をしました.さらに,ヒメツリガネゴケにおいて,自由に遺伝子操作ができるような実験系を確立し,陸上植物の形態的多様性進化の背景にある形態形成遺伝子制御ネットワークの進化を次々に明らかにしてきています.長谷部会員の研究は,植物の系統進化と多様性の解明を出発点にして,その背景にある分子生物学的機構の進化に焦点をあてたものであり,ゲノム科学研究および進化発生学研究へと発展させた一連の研究は,独創的なもので世界におけるこの領域の主要な研究の牽引力ともなっています.また,これまでの研究成果は,「ERATO 長谷部分化全能性進化プロジェクト」として,植物細胞の全能性の解明へ向けてさらなる発展を遂げています.

<奨励賞>
 評議員推薦と自薦とを合わせて10 名の選考対象者がいました.審査は,応募者のそれぞれの申請書と別刷りを選考委員全員に配布し,応募者の評点(5段階)と研究に関するコメント(評価表) を書いてもらうところから始めました.選考委員会において,各委員が付けた評点を加算し,候補者の総合点とし,これらをまとめて総合推薦順位表を作成し,各候補者の研究内容を中心に植物学会大会での発表など学会への貢献度を調査しながら議論しました.結果として,総合的評価の高かった2名,野口航会員,堀口吾朗会員(五十音順)への奨励賞授与を決定しました.
 野口航(のぐちこう)会員は,博士学位取得10年目で,Plant Cell Environment誌,Plant Journal誌,Plant Cell Physiology誌などに26編の原著論文を発表し,すでに総説も和文英文合わせて8編を発表しています.野口会員は,植物の呼吸系が環境変動にどのように応答するのか,あるいは呼吸で生成されるATPはどのように利用されているのか,という植物の呼吸の基本的な命題に取り組んで研究を行っています.そして,ATP合成とは共役しない代替酸化酵素(Alternative Oxidase)が植物の呼吸において重要な役割を担っていることや,呼吸によって合成されたATPが緑葉におけるタンパク質代謝や炭水化物の転流過程で多く消費されていることを明らかにしています.また,呼吸と光合成の相互作用を明らかにするために緑葉で直接酸素発生と光合成を同時測定できる実験系を独自に開発し,生理学的測定と変異体解析を行うなど,植物の呼吸の環境応答を研究する第一人者として国際的に高く評価されています.
 堀口吾朗(ほりぐちごろう)会員は,博士学位取得9年目で,Genes & Development誌,PNAS誌,Plant Physiology誌,Plant Journal誌などに20編の原著論文を発表し,すでに総説も和文英文合わせて8編を発表しています.堀口会員は,大学院生時代における脂質代謝の解析に加え,学位取得後は,維管束系の分化過程や植物の葉の発生といった,高次形態形成のシステムの理解に向け,分子遺伝学的手法を駆使して取り組んできています.その結果,道管の分化スイッチングに必須な因子の解明,また葉の形態形成の理解の上で重要と考えられる細胞分裂と細胞伸長の共役に関する理解を進めてきました.特に,葉の原基で特異的に発現し,葉の細胞数を正に制御する重要因子・AN3遺伝子のクローニングは注目に値します.すなわちAN3の機能解明は,それ自身,葉の形成の鍵となる因子の理解になるばかりでなく,堀口会員の研究成果から,細胞分裂と細胞伸長の制御系がどのように関連し合うのかを解明する上でも,重要な基盤となることが明確に示されており,今後が世界的にも注目されているからです.このように堀口会員は,すでに当該分野の研究の推進役として国際的に高く評価されており,ますますの活躍が期待されています.

<若手奨励賞>
 若手奨励賞には評議員推薦と自薦を合わせて5名の選考対象者がいました.候補者の評価は奨励賞と同様の方法で行いました.この賞は,大学院生やポスドクなど,意欲にあふれた若手の研究者の表彰が目的です.最近の大会で積極的に発表していることも重要な条件になります.その結果,吉田啓亮会員への若手奨励賞授与を決定しました.
 吉田啓亮(よしだけいすけ)会員は,本年3月に博士課程を修了し学位を取得したばかりですが,Plant Cell Physiology誌に3編の原著論文を発表し,総説も4編発表しています.吉田会員は,植物の光防御機構としてのミトコンドリアの役割に興味を持ってこれまで研究を行っています.そして,ミトコンドリアの持っているシアン耐性呼吸経路が光合成の際に生じた過剰な還元力の散逸系として働き,光防御に重要な役割を果たしていることを明らかにしました.さらに,光合成条件下ではミトコンドリアの呼吸系の機能が遺伝子発現を介して光合成によって制御されていることも明らかにしています.これらの研究成果に関してはすでに国際会議で二回の招待講演を行うなど,この分野では将来を嘱望されている若手研究者です.現在は,変異体を用いたタンパク質分子レベルの機能解析や電子伝達反応の新しい測定系の開発にも取り組んでおり,今後さらにインパクトのある生理学的研究成果に発展することが期待されます.

<特別賞>
 特別賞は2004 年から始まった日本植物学会賞のなかで最もユニークな賞です.植物科学や植物学会の発展に貢献のあった個人や団体を,分野や年齢を問わず選考して顕彰し,さまざまな面から植物科学の活性化をはかろうと創設されたものです.「技術」「教育」「その他」の分野で,評議員から推薦のあった個人や団体の他,自薦で応募された方について選考しましたが,本年は推薦数も少なく,また貢献等の内容を検討した結果,該当なしといたしました.来年度は,評議員から推薦,自薦問わず数多くの応募が集まるよう期待いたします.

2008年度日本植物学会賞選考委員会
伊藤元己(委員長),佐藤忍(幹事),
井上 勲,今市涼子,甲山隆司,高橋秀幸,
田坂昌生,塚谷裕一,久堀 徹,三室 守

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