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2020年度(第17回)日本植物学会賞の選考結果報告

2020年6月 1日

=2020年度(第17回)日本植物学会賞の選考結果報告=

 公益社団法人日本植物学会は、大賞をはじめとして、学術賞、奨励賞、若手奨励賞、特別賞を制定し、植物学に関する研究業績、日本植物学会員あるいは非会員による学会への貢献に対して広く顕彰を行っています。選考にあたっては、自薦、他薦、代議員推薦などの幅広い募集形態により、多くの傑出した研究者、才能ある若手研究者に積極的応募を促す方式がとられています。

 2020年度も例年同様多数のご推薦、ご応募を頂きました。そこで、2020418日(土)に日本植物学会賞選考会議を開催し、第17回日本植物学会賞最終受賞候補者を決定しました。本年は、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、遠隔会議システムでの開催となりましたが、選考委員10名の内9名が参加し、残る1名については、事前に送付した資料に基づいて評価した結果とコメントを会議の場で参照して審議を進めました。審議の結果は、会長により承認され、受賞者が決定しましたので、ここに選考結果を報告いたします。

【大賞】
 大賞への応募は、今回1名のみであったため、まず、あらかじめ絶対評価により各委員が審査を行いました。その結果、全委員から選考対象者である町田泰則会員を大賞に推したいとの意見が寄せられ、研究業績、後進の育成、日本植物学会員としての植物科学への貢献等から全員一致で町田泰則会員を大賞受賞者として決定いたしました。

町田泰則(名古屋大学・名誉教授)

 町田泰則氏はこれまでに植物の細胞分裂と葉の形態形成に関する研究において世界的に優れた業績を挙げ、植物科学の発展に大きく貢献されました。農林水産省植物ウイルス研究所においてクラウンゴール腫瘍形成のしくみに関する研究を開始し、アグロバクテリウムのT-DNAが植物細胞へ転移する機構、またT-DNAがコードする6b遺伝子が植物細胞の増殖を誘導する機構を解明されました。名古屋大学に着任後は植物細胞の分裂制御の研究にも着手し、分裂進行の鍵因子としてCKキネシンーNPK1 MAPKKキナーゼ複合体を同定されました。その詳細な解析からこの複合体がフラグモプラスト微小管の脱重合を促進することでフラグモプラストの拡大成長を制御するという全く新しい制御機構を明らかにし、細胞分裂研究の分野で高く評価されています。また、近年は葉の発生と分化を司る分子機構に関する研究に邁進し、葉の左右対称性を決定する転写、エピジェネティック制御機構を明らかにされています。これらの業績をもとに、1987年には日本植物学会奨励賞、また2013年には日本植物学会学術賞を受賞されました。町田氏はこれらの研究活動と平行し、文部科学省特定領域研究「植物メリステムと器官の発生を支える情報統御系」の領域代表、日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業「環境に対する植物の分化応答機構」のプロジェクトリーダーを務め、異分野の若手研究者を一堂に会して研究を進めることで関連分野の発展や後進の育成に尽力されました。さらに、同氏は、日本植物学会の評議員、将来計画委員、第74回大会会長を初めとする学会役員を歴任し、本学会の持続的な発展を牽引してこられました。このように長年にわたり日本植物学会および植物科学の発展に多大な貢献をされた町田氏の功績は極めて顕著であり、日本植物学会賞大賞にふさわしいと判断いたしました。

【学術賞】
 学術賞への応募も今回1名のみであり、選考対象者について、研究業績のプライオリティー、独創性、国際的評価、植物科学の発展への貢献などについて審議した結果、飯田秀利会員を学術賞受賞者として選出しました。

飯田秀利(東京学芸大学 教育学部生命科学分野 名誉教授兼研究員)
「植物固有のカルシウム透過性機械受容チャネルの発見とその植物成長と機械刺激応答における役割の解明」

 飯田秀利氏は、植物の成長に影響を与える環境要因の一つである機械刺激に着目し、その受容と応答の分子機構の解明に向けて、その鍵因子を世界に先駆けて発見し、独創性の高い研究を展開し、この分野の発展を先導しました。飯田氏は出芽酵母の性接合に関する研究の過程で、世界で初めて真核生物における伸展活性化カルシウムイオンチャネルの構成サブユニットMID1を発見しました。その研究を基盤として、出芽酵母を利用した植物の機械刺激受容カルシウムチャネルの単離に挑戦し、酵母mid1変異体の致死性を相補するシロイヌナズナ遺伝子MCA1およびそのパラログMCA2の単離に成功しました。この植物固有のカルシウム透過性機械刺激受容チャネル候補の発見は、植物の成長や形態形成における重要性が古くから認識されていたものの分子機構の理解が進んでいなかった機械刺激受容・応答の研究分野に、大きく発展する契機をもたらしました。近年植物の形態形成において成長による変形により生じる力が重要な役割を果たすというメカノバイオロジー視点の研究が展開される中、形態形成へのMCA1/2の関与が報告されており、国際的にも植物のメカノセンシング・メカノトランスダクションの分子レベルでの研究を先導したと言えます。飯田氏は、植物細胞を用いて、細胞膜の変形によりMCA1依存的に細胞内カルシウムイオン濃度上昇が引き起こされることを示し、機械刺激受容とMCA1/2の機能を結びつけました。また、シロイヌナズナを用いた解析から、MCA1/2が低浸透圧、重力等の刺激によりカルシウムシグナルを発生させること、根が培地の硬さを感受するのにMCA1が関係することなどを明らかにし、MCA1/2の個体レベルでの機能を明らかにしました。さらに飯田氏は、植物生理学的解析に留まらず、機能ドメインやサブユニット構造を明らかにするとともに、構造生物学的解析も進め、MCA2が動物や原核生物で知られているイオンチャネルの構造とは異なることを示し、イオンチャネル研究分野にも大きなインパクトを与えました。
 飯田氏が、文系学部での限られた研究環境にもかかわらず独創的研究に精力的に取り組み、基礎植物学に大きく貢献していることは疑いようがなく、飯田氏の業績は日本植物学会学術賞に、まさに、ふさわしいと評価されます。 

【奨励賞】
 奨励賞は3名の選考対象者がおりました。まず、各審査員が、申請書類を基にした書面審査を行い、評価とコメントを記した評価表を作成しました。次に全委員の評点とコメントの集計結果を基にして合議により審議を行いました。選考に当たっては、応募書類と資料にもとづき、研究内容、研究分野、日本植物学会大会に於ける発表の状況やJournal of Plant Researchでの論文発表など、本学会における活動を考慮しつつ総合的に評価しました。いずれの応募者も賞の候補者としてふさわしい研究活動を展開されていることが応募書類から読み取れました。応募書類に書かれた研究内容の重要性やインパクトに加えて、それらが、どこまで原著論文として公表されているかを重視して選考した結果、優れた研究を行い、将来の発展が期待される若手研究者として、池田 啓会員を奨励賞受賞者として選出しました。

池田 (岡山大学 資源植物科学研究所)
「高山植物を例にした植物の適応進化機構に関する研究」

 系統地理学の研究は近年のDNA解析技術の発展に伴い、様々な生物に対して盛んに行われてきました。多くの研究は,生物の地球上における分布から歴史プロセスを推測することを目指し,中立な遺伝マーカーの多型に見られる地理的パターン(遺伝構造)を明らかにしてきたのに対し,池田 啓氏は従来の遺伝マーカーを用いた解析に加えて、生理機能に重要な働きを持つ適応的遺伝子の多型に着目して、自然選択の影響を受けて作られたと思われる遺伝構造を明らかにする研究を展開し、その遺伝子の機能と適応的意義まで踏み込んだ研究を行ってきました。具体的には、北半球の寒冷な地域に分布する高山植物が,植物の生育を左右する日長や気温に関して幅広い環境に生育することに着目し,高山植物を対象にして研究を進めてきました。
 特に植物の生理応答に重要な機能をもつ遺伝子としてフィトクロムに着目し、モデル植物シロイヌナズナと同じアブラナ科に属する ミヤマタネツケバナとその姉妹種 Cardamine bellidifolia においては,高緯度に分布する系統と低緯度の系統でフィトクロム遺伝子に違いがあることを見いだしました。そして感受性を調整して地域ごとに応答性の異なる生理機構をもつことが,植物にとって環境の異なる地域に適応した進化を遂げるという新しい仮説を提唱しました。これらの研究成果は査読付き英文誌に39報の論文として発表されています。
 池田氏は、このように系統地理学と生理学・遺伝学を融合した分野横断的なアプローチで研究に取り組んでおり、今後の進展が大いに期待されます。

【若手奨励賞】
 若手奨励賞には9名の応募がありました。本賞は、大学院生やポスドクなど意欲にあふれた若手の研究者を顕彰することを目的としています。審査にあたってはまず、各審査員が、申請書類を基にした書面審査を行い、5段階評価とコメントを記した評価表を作成しました。次に全委員の評点とコメントの集計結果を基にして合議により審議を行いました。その結果、応募者のレベルが高かったこと、応募人数も比較的多かったことから、4名を選出することとしました。そして、総合的評価が高かった戸田会員、杉山会員、鈴木会員、藤井会員の4名を若手奨励賞受賞者として選出しました。

杉山友希(ケンブリッジ大学セインズベリー研究所(申請時:情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所))
「二次細胞壁の形成を制御する細胞骨格付随タンパク質の研究」

 植物の木部は、水の通導と植物体の機械的支持に大きな役割を果たしており、そのどちらにも、二次細胞壁の形成が重要な役割を果たしています。導管は、個々の細胞に由来する導管要素の連なりとして形成されるため、細胞間をつなぐ壁孔が適切に形成されなければ、通導機能を果たすことができません。しかし、二次細胞壁形成の空間的パターンを制御して壁孔を形成するメカニズムの詳細は不明でした。
 杉山友希氏は、導管特異的に発現する遺伝子の中から、導管分化させた培養細胞における細胞内局在を指標に、二次細胞壁のパターン形成の制御にかかわるIQD13WALそしてBDR1という3つの遺伝子を同定しました。そしてIQD13が壁孔の形を制御し、WALBDR1が壁孔の縁構造の形を制御するという発見は、二次細胞壁のパターン形成メカニズムの研究を大きく進展させたものとして高く評価できます。さらに、IQD13は微小管との相互作用を通して、WALはアクチンとの相互作用を通してパターン形成を制御していることも見出しており、二次細胞壁の形成における細胞骨格の重要性を明らかにした結果としても重要な発見です。
 杉山氏の一連の研究は、細胞壁形成の制御機構の解明に大きく貢献するものです。今後は、篩管の発生機構にも研究を広げていく予定であるとのことであり、植物科学における関連研究をますます進展させていくことを期待したいと思います。

鈴木重勝(国立環境研究所)
「多様な系統の真核藻類を中心とした栄養様式の変化に伴うゲノム進化に関する研究」

 多くの藻類は緑藻や紅藻を二次共生として色素体を獲得しました。この過程で共生者のゲノムは縮小し、ヌクレオモルフという残骸核に縮退すると考えられています。しかし、ヌクレオモルフへの縮小・消失過程やヌクレオモルフ遺伝子の発現調節には不明な点が多かったです。また緑藻のなかには、光合成能力を失い寄生性に特化した種もあり、その進化過程でもゲノム縮退が起こりえます。鈴木氏は、クロララクニオン藻やクリプト藻のヌクレオモルフのゲノム解読を進め、ヌクレオモルフゲノムは縮小拡大を繰り返しながら現在のゲノムサイズになったこと、クロララクニオン藻の共生者の起源がハネモ目の近縁種の緑藻であること、ヌクレオモルフ遺伝子の発現は不均一で発現調節機構を失うことで自律性がなくなることを解明しました。また寄生性緑藻のプロトテカのゲノム解析も進め、プロトテカの光合成能の消失が複数回独立に起き、収斂進化していることを示しました。さらに、捕食性バクテリアのゲノム解読も進め、捕食性の獲得とともに、DNA新生経路やアミノ酸合成経路の一部を消失したことを明らかにしました。
 鈴木重勝氏の一連の研究は、真核藻類・プロティストの従属栄養性、光独立栄養性、混合栄養性という多様な栄養獲得方式の進化の解明に大きく貢献するものであり、今後の植物科学における本分野の進展を大いに期待させるものです。

戸田絵梨香(東京都立大学大学院 理学研究科)
「イネin vitro 受精系を用いた植物多精受精卵の発生過程および受精卵発生における雌雄配偶子の機能差に関する解析」

 被子植物の卵細胞は組織の奥深くに埋め込まれて存在します。受精を自在に操作し、受精卵を実験発生学的に解析することは、被子植物において容易ではありません。そのために大きな力を発揮するのが、胚珠組織から取り出した卵細胞と花粉から取り出した精細胞を電気融合により受精させる、in vitro受精の技術です。
 戸田絵梨香氏は、イネin vitro受精を駆使し、受精卵発生に対する配偶子の雌雄差の問題に取り組みました。はじめに卵細胞と精細胞の数を変化させ、倍数性受精卵を作出しました。受精卵の発生は、卵細胞過剰に寛容な一方で、精細胞過剰の影響を受けやすいことを示しました。さらに亜種間交雑とSNPs情報を用いた解析により、受精後4時間で母親アリル特異的に発現する遺伝子は検出されないものの、父親アリル特異的発現を示すものは23遺伝子検出されることを示しました。さらにイネ受精卵への物質導入技術を確立したことで、23遺伝子のうち転写因子をコードするOsASGR-BBML1は、受精卵の発生誘導に深く関わることが示されました。また戸田氏は、イネ受精卵への物質導入により、遺伝子組み換えを必要としない高効率なゲノム編集も達成しました。
 一連の研究により、戸田氏は雌雄配偶子の機能差を示し、精細胞ゲノムによる受精卵発生制御の理解を大きく前進させました。その一貫した高い顕微技術から、今後のさらなる展開が期待されます。

藤井 (京都大学大学院 理学研究科)
「脂質合成の人工制御系を用いた葉緑体分化機構の解明」

 暗所の黄化実生に発達するエチオプラストが、光依存的に葉緑体に分化する現象は、色素体分化研究の実験系として古くから多くの研究者の関心を集めてきました。エチオプラストは、プロラメラボディ(PLB)と呼ばれる特徴的な構造体をもちますが、PLBは光照射後にチラコイド膜に分化・発達します。しかし、この大胆で劇的な変化を引きおこす分子レベルのしくみについては、まだよく分かっていません。
 藤井 祥氏は、チラコイド膜に豊富に含まれるガラクト糖脂質であるMGDGとDGDGに注目し、これらの糖脂質の欠失が、色素体膜の構築にどのように悪影響するかを解明することで、色素体分化研究を開始しました。MGDGはガラクトースを1残基有するグリセロ脂質で、DGDGはMGDGにもう1分子ガラクトースが結合した膜脂質です。MGDGを欠く変異体では、PLBの形成に異常はなかったので、DGDGもPLBの形成には不要であると多くの人は予想しました。しかし、藤井氏は、この予想を覆し、DGDGのみを欠失する変異体ではPLBの形態が異常になることを発見し、植物学会(野田大会)およびPlant Physiology誌に発表しました。また、ガラクト脂質の合成を人工的に抑制すると、エチオプラストから葉緑体への分化が阻害されることも見出しました。特定の糖脂質の生合成が、正常な脂質・タンパク質複合体の構築に先行して必須であることを示唆する重要な発見です。
 現在、藤井氏は、プラスチドでみられる核様体と膜との結合に注目し、その分子機構の解明を手がかりに、プラスチド分化研究に新たな展開を模索しています。今後の研究の発展と、新たな発見を楽しみにしています。

【特別賞】
 特別賞に関しては、今回残念ながら応募がありませんでした。

2020年度日本植物学会賞選考委員会

園池公毅(委員長)

伊藤元己、川合真紀、杉本慶子、西田生郎、野口 航、東山哲也、
宮尾光恵、森田(寺尾)美代、綿野泰行


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