2016年1月号(Vol.129 No.1)
SV, Wang L, Han M, Jin JH (2016) A new find of the fossil Cyclosorus from the Eocene of South China and its paleoclimatic implication. J Plant Res 129: 3-12
中国、海南島の始新世Changchang層から発見された栄養葉・胞子葉・胞子嚢群・胞子嚢・胞子が保存された化石を基に、新種Cyclosorus scutum Naugolnykh, Wang, Han et Jinが記載された。本化石は、当時の気候が温暖・多湿であったことを示唆する。(pp. 3−12)
パーオキシダーゼPx5は、カビ毒産生性カビに対する抵抗性トウモロコシ系統において高度に保存された配列を持ち、カビと昆虫に対する抵抗性を向上させる
Dowd PF, Eric T. Johnson ET(2016) Maize peroxidase Px5 has a highly conserved sequence in inbreds resistant to mycotoxin producing fungi which enhances fungal and insect resistance. J Plant Res 129:13−20
カビに抵抗性を示すトウモロコシ系統ではパーオキシダーゼの一つPx5において特定のアミノ酸配列が保存されているを示した。この配列を持つ分子種を過剰発現させたトウモロコシのカルスではカビ抵抗性と害虫抵抗性とが向上した。 (pp. 13−20)
東アジアで最も広く分布するタケ、モウソウチクにおける単一クローンの優占
Isagi Y, Oda T, Fukushima K, Lian C, Yokogawa M, Kaneko S (2015) Predominance of a single clone of the most widely distributed bamboo species Phyllostachys edulis in East Asia. J Plant Res 129:21-27.
モウソウチクの活発な分布拡大は様々な生態的問題をもたらしている。日本から中国に及ぶ広域な分布範囲から採集したサンプルを対象に遺伝解析を行ったところ、開花結実を伴う有性生殖は世代交代に機能せず、単一クローンが2,800 kmにもわたって分布していることが明らかになった。(pp. 21−27)
シラカンバの木部における道管グループ化(vessel grouping)の空間的変化
Zhao X (2015) Spatial variation of vessel grouping in the xylem of Betula platyphylla Roth. J Plant Res 129:29−37
道管がグループ化して存在すると水輸送に影響があると考えられるが、その樹木内分布はよくわかっていない。本研究により根から樹冠に向かうにつれ道管のグループ化は増大し、材を横切って内側から外側に向かうと幹や枝ではグループ化が減少し、根では変化しないことが判明した。 (pp. 29−37)
グルタミン酸はシロイヌナズナおよびソラマメの気孔閉鎖に機能する
Riichiro Yoshida, Izumi C. Mori, Nobuto Kamizono, Yudai Shichiri, Tetsuo Shimatani, Fumika Miyata, Kenji Honda, Sumio Iwai (2016) Glutamate functions in stomatal closure in Arabidopsis and fava bean. J Plant Res 129:39-49
高等植物において気孔はガス交換や水分調節において重要な機能を担う。そのシグナル伝達にはアブシジン酸や青色光を始め様々な内的、外因因子が関わるが、本論文ではアミノ酸の一つであるグルタミン酸が新たな気孔閉鎖因子として機能することを生理、遺伝学的な側面から明らかにした。(pp. 39-49)
キャッサバ根のプロテオーム解析によって明らかになる貯蔵根成熟過程
Naconsie M, Lertpanyasampatha M, Viboonjun U, Netrphan S, Kuwano M, Ogasawara N, Narangajavana J (2016) Cassava root membrane proteome reveals activities during storage root maturation. J Plant Res 129:51−65
これまでほとんど解析さたことのないキャッサバの貯蔵根において、その蛋白質を水溶性のものと膜タンパクに分けて成熟過程ごとにプロテオーム解析を行った。膜タンパクにおいてタンパクのホールディングや分解に関するものと細胞構造に関係するタンパクが成熟初期に多く発現していた。 (pp. 51−65)
耐塩性イネ在来種ノナボクラのOsHKT2;2/1が塩ストレス下で媒介するNa+輸送は、根における有害なNa+蓄積を潜在的に助長させうる
Suzuki K, Costa A, Nakayama H, Katsuhara M, Shinmyo A, Horie T (2016) OsHKT2;2/1‑mediated Na+ influx over K+ uptake in roots potentially increases toxic Na+ accumulation in a salt‑tolerant landrace of rice Nona Bokra upon salinity stress. J Plant Res 129:67−77
耐塩性イネノナボクラのOsHKT2;2/1はNa+-K+共輸送体である。本論文では、高塩環境下で増強するOsHKT2;2/1のNa+単輸送活性はK+輸送活性を圧倒し、結果的にOsHKT2;2/1経由のNa+吸収を増加させ根におけるNa+蓄積を助長する可能性を示唆した。(pp. 67−77)
硝酸カルシウム高濃度下におけるキュウリ芽生えの光合成とC-Nバランスに対するスペルミジンの緩和効果
Jing Du, Sheng Shu, Qiaosai Shao, Yahong An, Heng Zhou, Shirong Guo, Jin Sun (2016) Mitigative effects of spermidine on photosynthesis and carbon-nitrogen balance of cucumber seedlings under Ca(NO3)2 stress J Plant Res 129:79-91
高濃度の硝酸カルシウムをキュウリ芽生えに与えると成長や光合成が阻害されるが、スペルミジンを葉に投与すると、硝酸やアンモニアの含量が減るとともに炭水化物含量が増加する。スペルミジンは窒素代謝酵素の活性を高めて光合成能力を上げ、C/Nバランスの維持能力を高めることで成長阻害を緩和していると考えられる。(pp. 79-91)
シロイヌナズナのRAB5活性化因子VPS9のカルボキシル末端領域の機能解析
Sunada M, Goh T, Ueda T, Nakano A (2015) Functional analyses of the plant-specific C-terminal region of VPS9a: the activating factor for RAB5 in Arabidopsis thaliana. J Plant Res 129:93−102
植物には,動物にも保存されたRAB5と植物に特異的なRAB5の2種類のRAB5グループが存在し,エンドソーム周辺の輸送を制御している.本論文では,これらのRAB5の共通の活性化因子であるVPS9aのC末端領域が,VPS9aの局在と機能における役割を明らかにした. (pp. 93−102)
糸状菌病原体うどんこ病菌の感染菌糸を取り巻く宿主シロイヌナズナアクチン繊維構造の動的解析
Inada N, Higaki T, Hasez awa S (2015) Quantitative analyses on dynamic changes in the organization of host Arabidopsis thaliana actin microfilaments surrounding the infection organ of the powdery mildew fungus Golovinomyces orontii. J Plant Res 129:103−110
生きている植物にのみ感染する絶対寄生の糸状菌病原体うどんこ病菌は、宿主植物のアポプラスト内に吸器と呼ばれる感染菌糸を形成する。本論文では定量的ライブイメージング解析により、吸器を取り巻く宿主シロイヌナズナのアクチン繊維密度が吸器の成熟に伴って上昇することを明らかにした。(pp. 103−110)