2013年11月号 (Vol.126 No.6)
地中海産分類群に着目したカワツルモ複合体の包括的系統解析
Ito Y, Ohi-Toma T, Murata J, Tanaka N (2013) Com-prehensive phylogenetic analyses of the Ruppia maritima complex focusing on taxa from the Mediterranean. J Plant Res 126:753−762カワツルモ複合体について、葉緑体DNA、核DNAのITS領域およびphyB遺伝子を併用した包括的分子系統解析を行なった。固有種を含む複数種が報告されてきた地中海には、二倍体系統、複数の四倍体系統および葉緑体捕獲によって生じた四倍体系統が存在することを明らかにした。(p.753-762)
小笠原諸島産固有木本種シマホルトノキにおける分布地域と生育環境の違いに対応した遺伝的分化
Sugai K, Setsuko S, Nagamitsu T, Murakami N, Kato H, Yoshimaru H (2013) Genetic differentiation in Elaeocarpus photiniifolia (Elaeocarpaceae) associated with geographic distribution and habitat variation in the Bonin (Ogasawara) Islands. J Plant Res 126:763−774小笠原産固有種のシマホルトノキにおける島間、島内、及び生育環境間の遺伝的変異の存在様式をEST-SSRマーカーを用いて調べた。その結果、母島では単一の遺伝的グループのみが認められたのに対し、父島列島では2つの遺伝的グループに分化し、それらは湿性林と乾性林という生育環境の違いに対応していた。(p.763-774)
温室生育下でのズッキーニとキュウリの光合成および抗酸化機構に及ぼす過剰ホウ素の影響
Landi M, Remorini D, Pardossi A, Guidi L (2013) Boron excess affects photosynthesis and antioxidant apparatus of greenhouse Cucurbita pepo and Cucumis sativus. J Plant Res 126:775−786ホウ素過剰条件でズッキーニはキュウリと比較して過剰害をより大きく受けた。培養液に10mgホウ素/Lを加えた条件でキュウリのクロロフィルb含有量など光合成系および抗酸化機構の一部は適応的応答を示したが、ホウ素過剰の害作用を打ち消すには十分ではなかった。(p.775-786)
イネの遺伝品種における嫌気条件下の子葉鞘伸長とデンプン分解活性及び炭水化物レベルの関係
Pompeiano A, Fanucchi F, Guglielminetti L (2013) Amylolytic activity and carbohydrate levels in relation to coleoptile anoxic elongation in Oryza sativa genotypes. J Plant Res 126:787−79429品種のイネについて、嫌気条件下の子葉鞘伸長とデンプン分解活性及び炭水化物レベルの関係について調べ、イネが嫌気条件でも発芽できる原因は、胚乳よりはむしろ胚のαアミラーゼ活性と炭水化物レベルの上昇と強く相関することを示した。(p.787-794)
Vitreoscillaヘモグロビン遺伝子を発現する雑種ポプラ(Populus tremula×tremuloides)の食害応答: 食害葉と未食害葉におけるヘモグロビンおよびストレス関連遺伝子の発現
Sutela S, Ylioja T, Jokipii-Lukkari S, Anttila A-K, Julkunen-Tiitto R, Niemi K, Mölläri T, Kallio PT, Häggman H (2013) The responses of Vitreoscilla hemoglobin-expressing hybrid aspen (Populus tremula × tremuloides) exposed to 24-h herbivory: expression of hemoglobin and stress-related genes in exposed and nonorthosti-chous leaves. J Plant Res 126:795−809偏性好気性細菌であるVitrescillaのヘモグロビン遺伝子を植物に導入すると、その成長が促進され代謝が変動することが知られている。本論文ではVitrescillaヘモグロビン遺伝子を発現させた雑種ポプラを用いて、キリガの一種に葉を食害させた時のトランスクリプトーム解析を行なった。(p.795-809)
ヒャクニチソウ木部形成培養において、キトサン及び菌由来エリシターは、管状要素分化を阻害し、ストレスリグニン様物質の蓄積を促進する
Takeuchi C, Nagatani K, Sato Y (2013) Chitosan and a fungal elicitor inhibit tracheary element differentiation and promote accumulation of stress lignin-like sub-stance in Zinnia elegans xylogenic culture. J Plant Res 126:811−821ヒャクニチソウ木部形成培養系を用い、キトサン及び灰色カビ病菌由来エリシターの、木部分化及びリグニン化への影響を解析した。培養過程でのエリシター添加は、管状要素分化を阻害し、細胞外リグニン様物質の蓄積を促進した。本結果から、エリシターが木部分化の各過程に与える影響を考察した。(p.811-821)
カリフラワーOr変異体の脱黄化過程に見られる光酸化ストレス応答の亢進
Men X, Sun T, Dong K, Yang Y (2013) Or mutation leads to photo-oxidative stress responses in cauliflower (Brassica oleracea) seedlings during de-etiolation. J Plant Res 126:823−832カリフラワーOrangeは、β-カロテンが高レベルに蓄積する変異体である。本論文では、脱黄化過程に伴う色素蓄積、色素体形成、タンパク及び遺伝子発現応答を調べ、変異体では、抗酸化系やキサントフィルサイクル系等の光酸化ストレス防御応答の亢進が起きていることを見出した。(p.823-832)
低温ストレス応答におけるCa2+シグナリングを介したシロイヌナズナMEKK1のリン酸化
Furuya T, Matsuoka D, Nanmori T (2013) Phosphorylation of Arabidopsis thaliana MEKK1 via Ca2+ signaling as a part of the cold stress response. J Plant Res 126:833−840シロイヌナズナMAPKKK、MEKK1が低温ストレス依存的にリン酸化され、そのリン酸化はCa2+シグナルの阻害により消失した。さらにCa2+/CaM依存受容体型キナーゼCRLK1がin vitroでMEKK1をリン酸化することが示された。よって、CRLK1がMEKK1の上流因子であることが示唆された。 (p.833-840)
カリフラワーモザイクウィルス35Sエンハンサーはシロイヌナズナにおいて挿入部位のヒストン修飾に変化をもたらす機能を持つ
Chen X, Huang H, Xu L (2013) The CaMV 35S enhancer has a function to change the histone modification state at insertion loci in Arabidopsis thaliana. J Plant Res 126:841−846シロイヌナズナにおけるカリフラワーモザイクウィルス35Sエンハンサーの挿入部位を解析した結果、H3K27meの減少とH3K4me3の増加が観察された。この結果から、エンハンサー配列はゲノム中でヒストン修飾に一定の変化を誘導し、クロマチン状態に影響を与えている可能性が示された。(p.841-846)
Phototropin 2はイチゴ果実において青色光で誘導されるアントシアニン蓄積に関わる
Kadomura-Ishikawa Y, Miyawaki K, Noji S, Takahashi A (2013) Phototropin 2 is involved in blue light-induced anthocyanin accumulation in Fragaria x ananassa fruits. J Plant Res 126:847−857果実でのアントシアニン蓄積には光が関わっている。本論文では、イチゴ果実でのアントシアニン蓄積に対する可視光の効果を解析し、青色光が効率良くアントシアニン蓄積を誘導し、青色光受容体の一つであるフォトトロピン2がこの過程で働くことを見出した。(p.847-857)
オオカナダモの茎による紅葉誘導の調節作用
Momose T and Ozeki Y (2013) Regulatory effect of stems on sucroseinduced chlorophyll degradation and anthocyanin synthesis in Egeria densa leaves. J Plant Res 126: 859−867オオカナダモの切断葉をショ糖溶液、明所で培養すると紅葉が誘導されるが、茎に付いた葉では、切断葉と同様に葉内の可溶性糖量が増加し、クロロフィルが減少するにもかかわらず、紅葉が誘導されなかった。このことから、葉の紅葉現象は茎によって調節されていることが示唆された。(p.859-867)
謝辞
J Plant Res 126:871-872この1年間、論文審査に協力いただいた方々のお名前を記し、謝意を表す。(p.871-872)