2013年09月号 (Vol.126 No.5)
2013年JPR-Best Paper賞及びMost-cited Paper賞
Nishida I (2013) 2013 Awards for Journal of Plant Research publications. J Plant Res. 126:587-588Journal of Plant Research (JPR)編集委員会は、Ishizaki et al. (2012)と Sakio and Masuzawa (2012)を2013年のBest Paper賞受賞論文と決定した。また、ISIのデータベースに基づき、2010年にJPR誌に掲載された論文のうち最も引用回数の高い論文として、Obayashi and Kinoshita (2010)をMost-cited Paper賞受賞論文に決定した。いずれもJPRを代表する好著として讃えたい。(p.587-588)
植物の抗重力反応(総説)
Soga K (2013) Resistance of plants to gravitational force. J Plant Res 126: 589-596私たちは、植物が重力に耐える体を作る反応を抗重力と名づけ、その特性と機構を過重力環境や微小重力環境を利用して解析してきた。その結果、植物は、重力の大きさの対数に応じて茎の細胞壁強度を増加させるとともに、茎を太く短くすることによって重力に対抗していることが明らかになった。(p.589-596)
中国南西部産ジャノヒゲ連 (ユリ科)33種の核型解析
Wang G-Y, Meng Y, Yang Y-P (2013) Karyological analyses of 33 species of the tribe Ophiopogoneae (Liliaceae) from Southwest China. J Plant Res 126: 597-604中国南西部産のジャノヒゲ属26種、ヤブラン属2種、ペリオサンテス属5種の染色体数と核型を調べ、ジャノヒゲ連内の核型の特徴とその変異の詳細な様子を明らかにした。結果はジャノヒゲ属、ヤブラン属、ペリオサンテス属が各々単系統であることを支持した。(p.597-604)
ヨーロッパにおけるユキノシタ科Micranthes属の系統分類
Prieto JAF, Arjona JM, Sanna M, Pérez R, Cires E (2013) Phylogeny and systematics of Micranthes (Saxifragaceae): an appraisal in European territories. J Plant Res 126: 605-611最近ユキノシタ属Saxifragaから分けられたMicranthes属について、核ITSと葉緑体rbcLを用いた分子系統解析を行い、イベリア半島に自生する数種がMicranthes属のArabisa節に含まれることを示した。この結果は形態を用いた従来の分類体系と一致する。(p.605-611)
ラン科ムカゴサイシンと共生する新規分類群の担子菌
Nomura N, Ogura-Tsujita Y, Gale SW, Maeda A, Umata H, Hosaka K, Yukawa T (2013) The rare terrestrial orchid Nervilia nipponica consistently associates with a single group of novel mycobionts. J Plant Res 126: 613-623ムカゴサイシンと言う珍奇なランを御存知だろうか? 暖温帯の平凡な二次林に生育するが、個体は稀にしか発見できないために神出鬼没と考えられている。このムカゴサイシンの共生菌を解析したところ、既知の科に属さない担子菌の新規分類群の塩基配列が、広範な集団から検出された。(p.613-623)
大峯山系弥山におけるシラビソ縞枯林の劣化とシカ個体群の影響
Tsujino R, Matsui K, Yamamoto K, Koda R, Yumoto T, Takada K-I (2013) Degradation of Abies veitchii wave-regeneration on Mt. Misen in Ohmine Mountains: effects of sika deer population. J Plant Res 126: 625-634大峯山系弥山のシラビソ縞枯林の劣化とシカ個体数密度(57.3頭/km2、2009年)、林床植生の関係を調査した。コケで覆われていた縞枯れ帯の林床植生はイトスゲやコバノイシカグマなどに変化し、シカ採食圧の影響を受けてシラビソと縞枯林の更新は妨げられていると考えられた。(p.625-634)
小笠原諸島固有の絶滅危惧植物ハザクラキブシの全個体ジェノタイピング
Kaneko S, Abe T, Isagi Y (2013) Complete genotyping in conservation genetics, a case study of a critically endangered shrub, Stachyurus macrocarpus var. prunifolius (Stachyuraceae) in the Ogasawara Islands, Japan. J Plant Res 126: 635-642小笠原諸島の絶滅危惧植物ハザクラキブシを対象に、既知の全個体15個体と種子から発芽した実生について、マイクロサテライトマーカーを用いたジェノタイピングを行なった。その結果、未発見の花粉供給個体の存在や孤立した個体におけるレアアリルの存在が明らかとなった。(p.635-642)
メキシコ中部の亜乾燥地に生育するOpuntia属3種の種子発芽に菌類と光が与える影響
Delgado-Sánchez P, Jiménez-Bremont JF, Guerrero-González ML, Flores J (2013) Effect of fungi and light on seed germination of three Opuntia species from semiarid lands of central Mexico. J Plant Res 126:643-649メキシコ中部に生育するOpuntia 属の種子発芽は、種皮が菌類に分解されることで促進される。本論文では、菌類による種皮の分解が明条件下でより促進されることを明らかにした。また、種皮を菌類に分解させたとき、形成後数年が経過した種子で発芽率が最も高くなることも示した。(p.643-649)
中国雲南省哀牢山における第三紀遺存種スイセイジュ(Tetracentron sinense)個体群の構造と維持
Tang CQ, Peng M-C, He L-Y, Ohsawa M, Wang C-Y, Xie T-H, Li W-S, Li J-P, Zhang H-Y, Li Y, Yang X-M, Li G-S (2013) Population persistence of a Tertiary relict tree Tetracentron sinense on the Ailao Moubntains, Yunnan, China. J Plant Res 126: 651-659中国雲南省哀牢山脈東面に生育する第三紀遺存落葉高木スイセイジュの個体群構造とその維持機構をサイズ、樹齢分布から明らかにした。強い攪乱が加わる不安定立地に微小な種子を大量に作り、容易に侵入できることが他種による競争排除を回避して個体群を維持していると結論した。(p.651-659)
アジアモンスーン影響下の落葉広葉樹林の水利用:林冠と林床の水利用の寄与
Jung E-Y, Otieno D, Kwon H, Lee B, Lim JH, Kim J, Tenhunen J (2013) Water use by a warm-temperate deciduous forest under the influence of the Asian monsoon: contributions of the overstory and understory to forest water use. J Plant Res 126: 661-674下層植生が良く発達した韓国の落葉広葉樹林において、森林上層と下層からの蒸散量はそれぞれ174mmと22mmであった。植生からの蒸散は生態系蒸発散量の55%であり、土壌や樹冠遮断による蒸発影響が大きかった。モンスーン時には総蒸散量は大幅に減少し、上層と下層の蒸散比も低下した。(p.661-674)
自然変異によるトウガラシの温度反応性形質は異なる熱帯地域において潜在化する
Koeda S, Hosokawa M, Saito H, Doi M (2013) Temperature-sensitive phenotype caused by natural mutation in Capsicum latescent in two tropical regions J Plant Res 126:675-684熱帯地域の植物は常温域での温度変化しか経験しない。そのため、わずかな温度変化であっても、在来地では経験することのない温度に遭遇すると、隠れていた形質が顕在化すると推測される。本論文では熱帯地域よりトウガラシを収集し、その可能性を検証した。(p.675-684)
連続的なライグラスの再成長と根の硝酸吸収によって誘導されるサイトカイニンとの相関
Wang X-L, Wang J, Li Z-Q (2013) Correlation of continuous ryegrass regrowth with cytokinin induced by root nitrate absorption. J Plant Res 126: 685-697落葉させた後のライグラスの連続的な再成長に対する硝酸イオンとサイトカイニンの添加による影響を調べた。その結果、根で吸収された硝酸イオンによって誘導されたサイトカイニンが、落葉後のライグラスの再成長にとって鍵となる役割を持つことを示した。(p.685-697)
Gonium pectoral (緑藻植物門ボルボックス目) の卵割、不完全なインバージョン、及び原形質連絡
Iida H, Ota S, Inouye I (2013) Cleavage, incomplete inversion, and cytoplasmic bridges in Gonium pectoral (Volvocales, Chlorophyta). J Plant Res 126: 699-707本論文では、ボルボックス目藻類における多細胞進化の初期段階にある種と考えられているGonium pectoralの原形質連絡を卵割期とインバージョン期の両ステージで観察した。原形質連絡や表層微小管の存在から、他のボルボックス目藻類と同様に、それらが不完全なインバージョンに関わっていることが示唆された。(p.699-707)
フィロノマ属(フィロノマ科)の花の形態と構造:分類と進化学的意味
Tobe H (2013) Floral morphology and structure of Phyllonoma (Phyllonomaceae): systematic and evolutionary implications. J Plant Res 126: 709-718葉の上に花序をもつ中南米固有のフィロノマ属(科)の花は、120年以上前に記載されて以来調べられたことがない。この解剖研究によって、幾つかの記載、特に雌蕊の構造について大きく修正した。モチノキ目の他の科と比較し、花の構造はハナイカダ科と似ていることを明らかにした。(p.709-718)
トマト果実初期発達過程における果皮と胚珠の細胞壁多糖分布の変化
Terao A, Hyodo H, Satoh S, Iwai H (2013) Changes in the distribution of cell wall polysaccharides in early fruit pericarp and ovule, from fruit set to early fruit development, in tomato (Solanum lycopersicum). J Plant Res 126: 719-728トマトでは、受粉直後に急激な細胞の分裂・膨張を行うことで子房から果実へと変遷するが、そのときの細胞壁成分の構成と分布は不明である。本論文では、初期の果皮組織の急激な成長時にペクチン含量が高まること、胚珠においてアラビノガラクタンが特徴的に局在することを示した。(p.719-728)
トルコの高塩環境に自生するSphaerophysa kotschyanaの抗酸化系
Yildiztugay E, Ozfidan-Konakci C, Kucukoduk M (2013) Sphaerophysa kotschyana, an endemic species from Central Anatolia: antioxidant system responses under salt stress. J Plant Res 126: 729-742Sphaerophysa kotschyanaは、高塩環境に自生しているトルコの絶滅危惧種である。本論文では、NaClストレスに対する活性酸素生成および消去系の応答を調べ、本種が抗酸化系酵素の活性を上昇させることで、高塩環境下でも生育できる能力があることを明らかにした。(p.729-742)
ビートシビアカーリートップウィルス (BSCTV)に感染したシロイヌナズナの病徴組織でのインベルターゼ活性の変化
Park J, Kim S, Choi E,Auh C-K, Park J-B, Kim D-G, Chung Y-J, Lee T-K, Lee S (2013) Altered invertase activities of symptomatic tissues on Beet severe curly top virus (BSCTV) infected Arabidopsis thaliana. J Plant Res 126: 743-752ビートシビアカーリートップウィルス (BSCTV)に感染したシロイヌナズナが示す全身的病徴とショ糖代謝との関連について、感染した花茎におけるインベルターゼ遺伝子の転写レベルと酵素活性について調べたところ、インベルターゼと細胞周期関連遺伝子などの発現パターンに相関があった。(p.743-752)