静なる草木たちの躍動

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第7回配信(2006年10月4日)「コムラサキ」

Dynamic Behaviors of Silent Plants
静なる草木たちの躍動

クマツヅラ科 コムラサキ Callicarpa dichotoma K. Koch (Verbenaceae)

 秋の日,沢沿いで木漏れ日に光るコムラサキ Callicarpa dichotoma に出会えれば一生の得である。日本産ムラサキシキブ属植物の中でひときわ華麗といえる。山野で普通の種であるムラサキシキブ C. japonica より,丈も葉も小型なのに,深紫色の果実を,枝がしなるほど,たわわとつける。小さく地味な薄紫色の花からすれば,果実のその美しさは荘厳でさえある。高貴な紫色は,この果実の色を基準とするのではないかと思うほどだ。
 実つきの良さは,自らの花粉で結実できる自家和合性による(ムラサキシキブは自家不和合性で実つきは悪い)。一つの花に,タネとなる胚珠が4つしかないのに,花粉は4つの葯にたっぷり数千個も備えている。自殖なら,こんなに花粉を作らなくてもいいのにと思ってしまう。でも,大量の花粉は,受精以外に重要な役割を果たしているようだ。訪花者を誘う餌である。この花には,ほとんど花蜜がない。にもかかわらず,他株と花粉媒介してくれる昆虫たちは花粉を求めてやってくる。自殖可であるとはいえ他殖も捨てがたいのか。
 花粉本来の機能が雄性配偶子の入れ物であることからすれば,餌としての花粉の役割は奇異である。性の営みの一部を動物行動に依存する動物媒花植物であればこそ。動物界には見られない不思議なサガである。果実は開花からおよそ3ヶ月で成熟する。

撮影地: 岐阜県山県市
撮影期間: 2005年6月31~9月17日 
撮影・編集条件: 野外連続撮影

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