会長挨拶

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第30代(公社)日本植物学会会長就任にあたって

会長 三村 徹郎(神戸大学教授)

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 2017年3月からの二年間、公益社団法人日本植物学会の会長をお引き受けすることになりました、神戸大学の三村徹郎です。日本で最も長い歴史を持つ植物科学系学会である本学会において、かつ大学院生の時に植物学会で発表をさせて頂いてから35年以上の間、大会での発表、JPRへの論文掲載、あるいは学会運営へも参加させて頂いて来た私個人の歴史においても大きなウェイトを占める本学会で、会長を務めさせて頂けるということに改めて身が引き締まる思いです。微力ながら、精一杯日本の植物科学のために努力していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 昨年は、本学会の会員でもある大隅良典さんがノーベル賞を受賞され、日本中が喜びに湧きましたが、その受賞会見の席で大隅さんが述べられたように、日本の基礎科学は、その喜びとは反対に大きな転換期を迎えつつあることは、皆さまも良くご存知の通りです。昨年の戸部前会長のご挨拶にもある通り、本学会においても会員数の減少が続いており、専門家としての植物系科学者や植物科学を志す学生・院生の数が減りつつあることは間違いないでしょう。研究の場である大学や研究所でも、厳しい予算の削減などが続いています。しかし、これは植物科学にのみ限られたことではなく、人口減少の時代に入りつつある日本では当然の現象の一つとして受入れざるを得ないのかもしれません。そのような社会背景の中で、私たちの(公社)日本植物学会が果たしていかなければならない課題が何なのかを考えて行きたいと思います。

 日本植物学会は、平成24年の夏に、これまでの社団法人から、公益目的の事業を行う学術団体(公益社団法人)へと生まれ変わりました。その事業目的には大きな柱が二つあり、(公益事業1)学会誌及び学術図書の発行、及びインターネットによる植物学と関連技術の最新情報公開と、(公益事業2)研究発表大会及びシンポジウム・学術講演会・講習会の開催及び関連団体との協働による植物科学の発展と関連技術の振興の推進、が掲げられています。

 公益事業1の中心はJPRの発行であり、公益事業2の中心は毎年の大会開催です。この二つがこれまで通り、本学会の最も重要な事業であることは論を待ちません。植物学会は、他の多くの植物系学会と異なり、植物を研究対象とする全ての分野を網羅しており、JPR、毎年の大会のいずれにおいても幅広い題材を扱った研究が発表されています。一方で、近年の研究の多くは深い専門性が要求されますから、植物学会のような広い分野を対象とする学会は、その幅広さが会員の皆さんの魅力になることが重要だと思われます。大隅さんのノーベル生理学・医学賞受賞について、あるブログ(「わがまま科学者」)に、「大隅さんが、液胞の発達している植物細胞(酵母細胞)になじみがあったから、オートファジーの研究に気づいたということでしょう。植物を知っている強みが、結果的に医学に役立ったということで、いろいろなバックグラウンドがある研究者がいろいろやることが大切であると思います」と述べられていました。普段は自分の専門分野に特化していても、その周囲に広がる知の世界を、どこよりも広く見渡せることが出来るのが(公社)日本植物学会の最も大きな強みです。その魅力を会員の方々一人一人が実感出来るものにしていくことが大事だろうと考えています。

 また、二つの事業には、「(インターネットによる)植物学と関連技術の最新情報公開」や「学術講演会・講習会の開催及び関連団体との協働による植物科学の発展と関連技術の振興の推進」が掲げられています。これは、本学会が、会員や関連研究者のみに閉じられたものではなく、「植物科学」の成果やその重要性を、広く社会一般の方々にも知って頂く努力をすべきということを表しているのだろうと思っています。

 植物学会のホームページは、毎年約500万ヒット(100万以上のページビュー)の訪問があります。会員以外の方々もたくさん来られ、研究トピックスや植物学用語集、あるいは草木躍動といった広く多くの方々にご興味をお持ち頂ける情報が載っていますし、(一社)日本植物生理学会や日本植物細胞分子生物学会と協力して立ち上げた「植物科学への誘い」というコーナもあります。これら植物科学の多様な情報を発信していくことは、本学会に課せられた重要な業務です。今後も、これらの情報を少しずつでも新しくして、社会に発信していくことが大事な役割になると思われます。今年9月の野田大会の理事会シンポジウムでは、「あなたの研究は伝わっていますか?(仮題)」という標題の下、研究のアウトリーチ活動やサイエンスコミュニケーションが取り上げられると聞いています。これも、研究活動を広く伝えて行くことの重要さが共通理解となりつつあるためでしょう。

 最近、読売新聞の朝刊小説「愛なき世界」において、三浦しをんさんが基礎植物科学を志す若者群像を描いて下さっていて、私も毎朝、それを拝見することを楽しみにしていますが、このような活動を通じて、植物学や基礎科学を社会に根付かせていくことが、将来の植物学の発展に何よりも大事だろうと思います。研究は、一人のスーパースターが大きな役割を果たすこともできるでしょうが、植物科学を広く社会に受入れてもらうためには、今植物科学に携わる一人一人の方々全ての協力が必要です。

 植物は、鳥や昆虫、あるいは天文などとともに、愛好家が多い自然科学の一大分野です。私たちの周りにいらっしゃるたくさんの方々ともに、植物のありうる姿を追い求め、それを深く大きな研究へと広げられる場に出来る学会となるよう、皆さまとともに進んで行くことが出来ればと思いますので、今後もどうぞよろしくお願いいたします。