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JPR和文要旨バックナンバー

ホーム > Journal of Plant Research > JPR和文要旨バックナンバー > 2010年05月号 (Vol.123 No.3)

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2010年05月号 (Vol.123 No.3)

国際シロイヌナズナ研究会議(横浜):2010年を越えて発展するシロイヌナズナ研究を目指して

Shinozaki K (2010)
The ICAR2010 for devel-opment of Arabidopsis research beyond 2010. J Plant Res 123:265-266

2000年の全ゲノム配列の決定終了後、国際的な協力で進められた研究プロジェクトにより植物の基本的機能に関わる重要な遺伝子が明らかになり、植物システムの理解が飛躍的に進歩した。ICAR2010において、研究プロジェクトの成果の発表と、今後の植物科学の発展の方向が議論される。(p.265-266)

日本におけるシロイヌナズナ研究:1985年から2000年までの萌芽時代の記録

Okada K (2010)
Start of Arabidopsis research in Japan: personal memoir of the seedling stage 1985-2000. J Plant Res 123: 267-273

現在シロイヌナズナは植物科学の基盤を担う国際的なモデル植物となっており、日本のシロイヌナズナ研究は欧米の研究と歩調を合わせて発展してきた。本稿では、日本におけるシロイヌナズナ研究の展開の基礎を作った1985年から2000年の間の研究基盤整備の歴史を概観する。(p.267-273)

植物のツイッター:140アミノ酸以内のリガンドによる気孔の分布パターンの制御

Rychel A L, Peterson K M., Torii K U (2010)
Plant twitter: ligands under 140 amino acids en-forcing stomatal patterning. J Plant Res 123:275-280

陸上植物のガス交換と蒸散に気孔は重要な役割を担う。最近の研究成果から、気孔の分布パターンは、EPIDERMAL PATTERNING FACTOR-LIKE (EPFL)と呼ばれる一連のペプチドにより制御されていることが明らかになった。EPFL遺伝子はコケやシダゲノム上にも存在することから、気孔の進化との密接な関わりが示唆された。(p.275-280)

葉の背腹性制御に関する展望

Szakonyi D, Moschopoulos A, Byrne M E (2010)
 Perspectives on leaf dorsoventral polarity. J Plant Res 123:281-290

幹細胞から成熟葉の完成までの発生の過程には、真正双子葉植物のモデル・シロイヌナズナの研究から、数多くの遺伝子の関与が見いだされてきた。葉の発生制御に関してとりわけ注目すべきは、葉の背腹性確立の機構である。これに関しては転写因子、クロマチン修飾、DNA修飾、低分子RNAや翻訳制御、翻訳後制御などの関与が知られている。本総説ではこれら知見を概観し、未解決の課題を指摘しつつ今後を展望する。(p.281-290)

ゲノムワイドなメタボロタイピングと代謝システムの解明に向けて:大規模バイオリソースの代謝プロファイリング

Yokota- Hirai M, Sawada Y, Kanaya S, Kuromori T, Kobayashi M, Klausnitzer R, Hanada K, Akiyama K, Sakurai T, Saito K, Shinozaki K (2010)
Toward genome-wide metabolotyping and elucidation of me-tabolic system: metabolic profiling of large-scale bio-resources. J Plant Res 123:291-298

ポストゲノム時代では代謝の全体像を俯瞰する視点での研究が可能だが、分析技術の難しさのため、メタボロームデータの蓄積は他のオミクスに比べ十分でない。本稿では、計約3,000種のシロイヌナズナ変異体とアクセッションについて36代謝物を定量分析し、データを公開する。(p.291-298)

シロイヌナズナにおける遺伝子メチル化の制御

Inagaki S, Kakutani T (2010)
Control of genic DNA methylation in Arabidopsis. J Plant Res 123:299-302

多くのモデル生物において、DNAメチル化をゲノムワイドに解析することで、発現している遺伝子の転写領域がメチル化されていることがわかってきた。遺伝子のメチル化を制御する機構を理解するのに、シロイヌナズナを用いた遺伝学的なアプローチが有効かもしれない。(p.299-302)

抑制、それとも伸長?イネが洪水に適応するための対照的な生存戦略

Nagai K, Hattori Y, Ashikari M (2010)
Stunt or elongate? Two opposite strategies by which rice adapts to floods. J Plant Res 123:303-309

浮イネは、洪水時に水位の上昇に伴い節間伸長を行い、葉を水面上に出すことで呼吸を確保し深水状態でも生存できる。一方、冠水耐性イネは洪水が引くまで水中での茎葉伸長を抑制し、エネルギー消費を抑えることで洪水に適応している。この2つの対照的な生存戦略について概説する。(p.303-309)

ATTED-IIにおける共発現景色: 種々のパスウェイに対する遺伝子リストと遺伝子ネットワークの利用法

Obayashi T, Kinoshita K (2010)
Coexpression landscape in ATTED-II: usage of gene list and gene-network for various types of pathways. J Plant Res 123:311-319

発現パターンが類似の遺伝子群には機能的関係が期待できることから、近年そのような遺伝子共発現性を利用した逆遺伝学がよく利用されている。本総説ではATTED-IIの共発現データを用いた実験成功例をまとめることで、アプローチならびにターゲット遺伝子の特徴を概説する(p.311-319) 【2013年 JPR論文賞受賞】

中国中南部のホットスポットにおける稀少常緑樹 Magnolia cathcartiiにおける遺伝的多様性と保全的評価

Zhang, X-M, Wen J, Dao Z-L, Motley T, Long C-L (2010)
Genetic variation and conservation as-sessment of Magnolia cathcartii (Magnoliaceae) pop-ulations in China, a rare evergreen tree from the South-Central China Hotspot in the Eastern Himalayas. J Plant Res 123:321-331

Magnolia cathcartiiにおいて,遺伝的多様性を解析した。集団内の遺伝的多様性は低く,特に移植集団で顕著だった。遺伝的多様性が低かった理由としては,いくつかの要因が挙げられる。移植集団はこの種の遺伝的多様性を十分にカバーしているとは言えない。(p.321-331)

不等毛植物門ラフィド藻綱の系統分類と砂浜生息性の新属新種Chlorinimonas sublosa gen. et sp. nov.の記載

Yamaguchi H, Nakayama T, Murakami, A, Inouye I (2010)
Phylogeny and taxonomy of the Raphi-dophyceae (Heterokontophyta) and Chlorinimonas sublosa gen. et sp. nov., a new marine sand-dwelling raphidophyte. J Plant Res 123:333-342

不等毛植物門ラフィド藻綱の新属新種Chlorinimonas sublosaを記載した。形態及び分子系統解析の結果、本藻はHeterosigma属に近縁であるが、形態的に属レベルで異なることが判明した。また本藻綱内での淡水への進出は一度であったことが示唆された。(p.333-342)

有用で長命な先駆樹種ウダイカンバの葉緑体DNA系統地理

Tsuda Y, Ide Y (2010)
Chloroplast DNA phylo-geography of Betula maximowicziana, a long-lived pioneer tree species and noble hardwood in Japan. J Plant Res 123:343-353

有用広葉樹ウダイカンバの葉緑体DNA変異を調べ、供試25集団は東北地方中部を境にその南北で2つのグループに分かれることを明らかにした。さらに核DNAを用いた先行研究との比較から、両グループ間の歴史的な花粉流動には方向性があったことが示唆された。(p.343-353)

アリ散布種子をもつカキノハグサ(ヒメハギ科)の集団内遺伝構造の解析

Nakagawa M (2010)
Fine-scale genetic structure within plots of Polygala reinii (Polygalaceae) having an ant-dispersal seed. J Plant Res 123:355-362

アリ散布種子をもつ林床生草本植物カキノハグサの集団内遺伝構造をアロザイム酵素多型により解析した結果、明瞭な血縁構造が認められ、種子の散布範囲が制限されていることが示唆された。また、血縁構造の強さは集団内の個体の集合(パッチサイズ)と対応することが見出された。(p.355-362)

ムスカリ(Muscari armeniacum)におけるガム物質の形成:ホルモン制御とガム物質の化学組成

Miyamoto K, Kotake T, Sasamoto M, Saniewski M, Ueda J (2010)
Gummosis in grape hyacinth (Muscari armeniacum) bulbs: hormonal regulation and chemical composition of gums. J Plant Res 123:363-370

ガムは、病原体の感染や昆虫の食害等を受けた際に植物体傷口に分泌されるコロイド状多糖である。今回、ムスカリのガム形成のホルモン制御とガム化学組成を調べた。チューリップとの比較から、球根植物間で形成に主導的役割を担う植物ホルモンと生合成系が異なることが示された。(p.363-370)

インゲンの窒素栄養状態が糖による光合成抑制効果に与える影響

Araya T, Noguchi K, Terashima I (2010)
Effect of Nitrogen Nutrition on the Carbohydrate Repression of Photosynthesis in Leaves of Phaseolus vulgaris L. J Plant Res 123:371-379

窒素栄養状態と葉の炭水化物量が、葉の光合成能力に与える影響を調べた。葉のデンプン量と光合成速度には負の相関が見られた。光合成速度と炭水化物の関係は窒素栄養間で差がないことから、葉の窒素欠乏は炭水化物量を増加させることで光合成速度を低下させている可能性が高い。(p.371-379)

葉緑体集合反応における信号の伝達速度

Tsuboi H, Wada M (2010)
Speed of signal trans-fer in the chloroplast accumulation response. J Plant Res 123:381-390

ホウライシダ配偶体細胞の一部に赤色または青色微光束を照射し、光照射部位から様々な距離にある葉緑体が光照射部位へ動き始めるまでの時間を測定した。この距離と時間の関係から、信号が細胞内を伝わる速さは波長や光強度によらず、細胞の種類によって一定であることがわかった。(p.381-390) 【2011年 JPR論文賞受賞】

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