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JPR和文要旨バックナンバー

ホーム > Journal of Plant Research > JPR和文要旨バックナンバー > 2016年7月号(Vol.129 No.4)

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2016年7月号(Vol.129 No.4)

Current Topics in Plant Research

光合成、チラコイド形成、および葉緑体発達における膜脂質合成の役割

Kobayashi K (2015)

Role of membrane glycerolipids in photosynthesis, thylakoid biogenesis and chloroplast development. J Plant Res 129:565−580

葉緑体やシアノバクテリアのチラコイド膜は非常に特徴的なグリセロ脂質で構成されている。本論文では、光合成やチラコイド膜形成におけるこれらの脂質の役割について概説するとともに、シロイヌナズナの研究などで近年明らかとなってきた、葉緑体の発達制御への関与を紹介する。(pp. 565−580)

Taxonomy/Phylogenetics/Evolutionary Biology

クロララクニオン藻Gymnochlora stellata, Lotharella vacuolata, Partenskyella glossopodia の色素体ゲノムは、種間で高度な構造的保存性を示す

Suzuki S, Hirakawa Y, Kofuji R, Sugita M, Ishida K (2016)

Plastid genome sequences of Gymnochlora stellata, Lotharella vacuolata, and Partenskyella glossopodia reveal remarkable structural conservation among chlorarachniophyte species. J Plant Res 129:581−590

クロララクニオン藻は二次共生により緑藻を共生者とした藻類である。本論文ではGymnochlora stellataLotharella vacuolataPartenskyella glossopodiaの色素体ゲノム配列を解読し、種間でゲノムサイズ、遺伝子種、コード順などが高度に保存されていることを明らかにした。また、クロララクニオン藻の色素体がアオサ藻綱の種に由来することを示唆した。(pp. 581−590)

ボルネオにおいてアリとの共生関係が示された数種のムラサキシキブ属(シソ科)植物

Shota Nakashima, Emma Sarath, Hiroshi Okada, Kazune Ezaki, Dedy Darnaedi, Hirokazu Tsukaya, Akiko Soejima (2016)

Morphological and phylogenetic investigations for several cryptic ant-plants found in Callicarpa (Lamiaceae) from Borneo Plant Res 129:591−601

Callicarpaにはこれまでボルネオ固有の C. saccataがアリ植物として知られていた.この種は葉の基部に一対の袋をもちそこにアリが住んでいる.本研究では同属のC. barbataとC. tenerifolora の枝に空洞があること,そこにアリが営巣していることが確認された.分子系統解析の結果,これら3種の短系統が示された。(pp. 591−601)

Ecology/Ecophsiology/Environmental Biology

都市部生息地における侵入植物のアーバスキュラー菌根と内生糸状菌の感染:ポーランドのシレジア地方における研究

Ewa Gucwa-Przepióra, Damian Chmura, Kamila Sokołowska (2016)

AM and DSE colonization of invasive plants in urban habitat: a study of Upper Silesia (southern Poland) J Plant Res 129:603−614

侵入植物と内生菌の間の相互作用は植物の侵入に影響する可能性がある。ポーランドにおいて侵略性が異なる外来植物20種を対象に、菌根菌(AM)と内生糸状菌(DSM)の感染状況を調べた。うち75%はAMをもっていた。DSPは全ての種に見られたが、頻度は非菌根グループで低かった。(pp. 603−614)

葉の色は直達日射スペクトルの強エネルギー域を避けるように厳密に調整されている

Kume A, Akitsu T, Nasahara KN (2016)

Leaf color is fine-tuned on the solar spectra to avoid strand direct solar radiation. J Plant Res 129:615−624

直達日射と散乱日射のスペクトル分布を精密に測定し、光合成色素や葉の吸収スペクトルと比較した。葉や光化学系の吸収スペクトルは直達日射の強エネルギー波長域の吸収を避けていた。吸収スペクトルは色素、光化学系、葉組織構造によって、階層的に調整されていることが示唆された。(pp. 615−624)

マレーシア低地熱帯雨林における樹木の葉の気孔や毛(トリコーム)の生態分布

Ichie T, Inoue Y, Takahashi N, Kamiya K, Kenzo T (2016)

Ecological distribution of leaf stomata and trichomes among tree species in a Malaysian lowland tropical rain forest. J Plant Res 129:625−635

136種の樹木の葉の気孔形態等を調べた。多くの樹種が生活形に関係なく、隆起型か平坦型の気孔と、気孔周囲に毛を持っていた。林冠構成種は葉毛密度が高く、水利用効率の増加に貢献していた。一方、林床木は葉毛密度が小さかった。これは林内の垂直方向の環境変化に対する適応と考えられた。(pp. 625−635)

難貯蔵性種子の高温および水ストレス感受性

Wen B, Liu M, Tan Y, Q, Liu Q (2016)

Sensitivity to high temperature and water stress in recalcitrant Baccaurea ramiflora seeds. J Plant Res 129:637−645

Baccaurea ramifloraは、東南アジアの熱帯雨林の構成種の一つで、難貯蔵性種子をもつことが知られている。本種の種子発芽における高温および水ストレス応答を実験的に調べたところ、両者に対して明確な感受性が見られた。難貯蔵性種子植物は、普通種子植物に比べて熱帯雨林の孤立林化の影響を受けやすいことを示唆している。 (pp. 637−645)

木本植物の葉・茎・細根における窒素とリンの標高傾度にそったアロメトリー関係の不変性

Ning Zhao, Guirui Yu, Nianpeng He, Fucai Xia, Qiufeng Wang, Ruili Wang, Zhiwei Xu, Yanlong Jia (2016)

Invariant allometric scaling of nitrogen and phosphorus in leaves, stems, and fine roots of woody plants along an altitudinal gradient Res 129:647−657

500〜2300mの標高傾度に沿って224植物種の葉・茎・細根における窒素とリンの関係を調べた。窒素濃度とリン濃度は標高が上がるにしたがって低下したが、N:P比は増加した。葉、茎、細根において窒素濃度とリン濃度のスケーリング係数(べき乗式で回帰した際の回帰係数)はそれぞれ0.78、0.71、0.87となった。(pp. 637−645)

ヤマヨモギにおける食害と植物間コミュニケーションに対する反応の季節変動

Ishizaki S, Shiojiri K, Karban R, Ohara M (2016)

Seasonal variation of responses to herbivory and volatile communication in sagebrush (Artemisia tridentata) (Asteraceae). J Plant Res 129:659−666

ヤマヨモギでは被害個体が放出する匂いによって近隣個体も誘導抵抗性を示すが、その強さは季節変動する。本論文では、展葉期の被害が成長を抑制するため、この時期に匂いを受容すると強い誘導抵抗性を示すこと、一方で花序形成期には匂い受容後に種子繁殖が増加することを明らかにした。(pp. 659−666)

小型MRIで見たニセアカシア種子の吸水過程

Koizumi M, Kano H (2016)

Water entry for the black locust (Robinia pseudoacacia L.) seeds observed by dedicated micro-magnetic resonance imaging. J Plant Res 129:667−673

種皮が不透水性で物理的休眠を示すニセアカシア種子の吸水過程を、小型MRI (磁気共鳴画像法)で追跡した。熱水処理によりwater gapが形成された。吸水開始までの時間は処理温度で変化したが、吸水経路は一定であった。水はレンズから浸入し、背側に沿って広がり胚軸に達した後、腹側のヘソと幼根に至った。 (pp. 667−673)

リン・窒素可給性の異なるボルネオ熱帯林における樹木の栄養塩器官間配分

Ryota Aoyagi, Kanehiro Kitayama (2016)

Nutrient allocation among plant organs across 13 tree species in three Bornean rain forests with contrasting nutrient availabilities J Plant Res 129:675−684

窒素欠乏環境で生育する植物は、リン欠乏環境にある植物に比べ、葉の栄養塩濃度が低いなどの特性を持つことが知られてきたが、そのメカニズムは明らかにされてこなかった。本論文は、幹や根の主要な構成物質である細胞壁の栄養塩要求性の違いによって、窒素・リン欠乏時の葉への栄養配分の違いが生まれる可能性を示した。(pp. 675−684)

Morphology/Anatomy/Structural Biology

Tinantia anomala(ツユクサ科)におけるシュウ酸カルシウム結晶のとくに葯の発達にともなう微細構造的変化に関する研究

Joanna Gębura J, Winiarczyk K (2016)

A study on calcium oxalate crystals in Tinantia anomala (Commelinaceae) with special reference to ultrastructural changes during anther development. J Plant Res 129:685−695

T. anomalaでシュウ酸カルシウム結晶の分布を調べると、ほとんどの組織で結晶がみられた。とくに花粉形成の際、葯内でタペータム組織に多数の針状結晶が形成され、花粉が成熟すると減少した。電子顕微鏡観察の結果、針状結晶は小胞体由来の液胞様構造内で形成されていた。(pp. 685−695)

Genetics/Developmental biology

スズメノヒエ属(イネ科)の2倍体、倍数体、多倍体の種におけるDNA含量と生殖様式および分類学上の位置づけとの関係

Galdeano F, Urbani MH, Sartor ME, Honfi AI, Espinoza F, Quarin CL. (2016)

Relative DNA content in diploid, polyploid, and multiploid species of Paspalum (Poaceae) with relation to reproductive mode and taxonomy. J Plant Res 129: 697-710

スズメノヒエ属の47種(77系統)の種子を用い、胚と胚乳のDNA含量を解析した。その結果、ゲノムサイズ(1Cx値)の違いは、分類学上のグループ分けとの関連は見られたが、倍数性や生殖様式(有性生殖またはアポミクシス)とは明確な関連を示さないことが明らかになった。(pp. 697-710)

キャッサバオリゴアレイを用いたコレトトリカム属菌の感染によるキャッサバの遺伝子発現応答

Utsumi Y, Tanaka M, Kurotani A, Yoshida T, Mochida K, Matsui A, Ishitani M, Sraphet S, Whankaew S, Asvarak T, Narangajavana J, Triwitayakorn K, Sakurai T, Seki M (2016)

Cassava (Manihot esculenta) transcriptome analysis in response to infection by the fungus Colletotrichum gloeosporioides using an oligonucleotide-DNA microarray. J Plant Res 129:711-726

コレトトリカム属菌により引き起こされるキャッサバ炭疽病は深刻な被害をもたらす。本編では新規に作成したオリゴアレイを用いて、コレトトリカム属菌に対して耐性と感受性キャッサバ株の菌接種後の遺伝子発現解析から、耐性キャッサバ株から耐病性に関わる複数の遺伝子の発現上昇を観察した。(pp. 711-726)

著しい形質多型でハワイ諸島の広域ニッチを優占するハワイフトモモのゲノム解読

Izuno A, Hatakeyama M, Nishiyama T, Tamaki I, Shimizu-Inatsugi R, Sasaki R, Shimizu KK, Isagi Y (2016)

Genome sequencing of Metrosideros polymorpha (Myrtaceae), a dominant species in various habitats in the Hawaiian Islands with remarkable phenotypic variations J Plant Res 129:727-736

ハワイ諸島の固有優占樹木ハワイフトモモの新規ゲノム解読を行い、全長304,366,837 bp、N50長5,051,733 bpの良質なゲノム配列を得た。1個体ゲノム配列情報に基づいて過去の集団動態を推定したところ、本種はハワイ諸島へ少数個体が定着し、著しく個体群を成長させたが、その後にボトルネックを経験したことが示唆された。(pp. 727-736)

Physiology/Biochemistry/Molecular and Cellular Biology

ナシ台木種ホクシマメナシにおける2つの新奇アミノ酸輸送体の特徴と発現解析

Li H, Han J-L, Chang Y-H, Lin J, Yang Q-S (2016)

Gene characterization and transcription analysis of two new ammonium transporters in pear rootstock (Pyrus betulaefolia). J Plant Res 129:737−748

ホクシマメナのPbAMT1;3 は根で、 PbAMT1;5は葉で発現しているアンモニア輸送体であり、共にアンモニア濃度によって発現誘導される。PbAMT1;5の発現は日周性を示すこと、また酵母を使った取り込み実験からPbAMT1;3は高親和性輸送体であることなどを明らかにした。 (pp. 737−748)

ミヤコグサのβ-1,3-グルカナーゼの遺伝子発現と所在

Osuki K, Hashimoto S, Suzuki A, Araragi M, Takahara A, Kurosawa M, Kucho K, Higashi S, Abe M, Uchiumi T.(2016)

Gene expression and localization of a β-1,3-glucanase of Lotus japonicas J Plant Res 129:749−758

ミヤコグサのLjGlu1は、発現を抑制すると根粒数が増加する。LjGlu1の発現は、全身的な根粒着生の制御機構と関連していた。また、LjGlu1タンパク質には、β-1,3-グルカナーゼ活性があり、根表面の根粒菌に作用して感染を抑制している可能性が示された。(pp. 749−758)

光屈性を誘起したジャガイモ芽生えの重力屈性との相互作用および可逆性、側方移動

D. Vinterhalter, J. Savić, M. Stanišić, Ž. Jovanović, B. Vinterhalter (2016)

Interaction with gravitropism, reversibility and lateral movements of phototropically stimulated potato shoots. J Plant Res 129:759−770

フラスコ内で育てたジャガイモの芽生えに青色光を異なる方向から当て、光屈性と重力屈性の相互作用を調べたところ、両者が拮抗する方向では光屈性の強さによる競合が時刻に依存し、同方向の場合には相加作用が見られず、光源の位置を途中で変更した場合には光屈性の方向が可逆的であることが示された。(pp. 759−770)

新鮮な細胞の追加や培養液の全交換なしに2週間を超えて継続する緑藻クラミドモナスの光水素発生

Takafumi Yagi, Kyohei Yamashita, Norihide Okada, Takumi Isono, Daisuke Momose, Shigeru Mineki, Eiji Tokunaga (2016)

Hydrogen photoproduction in green algae Chlamydomonas reinhardtii sustainable over 2 weeks with the original cell culture without supply of fresh cells nor exchange of the whole culture medium J Plant Res 129:771−779

単細胞緑藻クラミドモナスは嫌気条件で光水素発生するが、一時的である。そこで、標記の簡便な継続的水素発生法を発見した。硫黄除去した100mL培養液での嫌気・強光条件の水素発生で、1日に1回、硫黄含有培養液を5mL追加し、細胞を好気条件に2時間おく回復時間を与えることで達成された。日数とともに水素発生能が向上し、世代を超えて維持されたが、好気条件でリセットされるので遺伝子変異ではないと考えられる。(pp. 771−779)

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