植物の美しさに,「花」は必要ない。と思うのは,シダの潤いのある緑を感じるときである。とくに湿性林の林床で,木漏れ日を受けて光り輝く姿には,静かな威厳さえ感じる。植物耽美主義(?)の立場から言わせてもらえれば,シダは,押し葉標本にしても,写真にしても,おさまりが良く,独特の美的感覚を刺激する。
その美の本質とは何か?いささか強引だが,その「美」は直感的に理解できる羽状分岐を基本とするフラクタル(自己相似性)構造に由来するのではないか。シダは薄暗い林床で,自然界に潜む数学美を具現化しているのだ。そのなかでヤブソテツは最も単純な羽状ではある。
そんな耽美主義的シダ観を学生実習で披露すると,「葉柄基部の褐色鱗片が,おどろおどろしい」とか,「胞子嚢のぶつぶつで寒気がする」などと,ささやきが聞こえてくる。あぁ,意見・感性の多様性は尊重すべきなのである。
第3回配信(2006年5月29日)「ヤブソテツ」
Dynamic Behaviors of Silent Plants
静なる草木たちの躍動
オシダ科 ヤブソテツ Cyrtomium fortunei J.Sm. (Dryopteridaceae)
撮影地: 岐阜県山県市
撮影期間: 2006年4月10日~5月20日 (41日間)
撮影・編集条件: 野外連続撮影後,夜間映像削除