ほとんどの日本人が知っている植物名のひとつは「タンポポ」である。しかし,ほとんどの日本人が知らない植物のひとつも「タンポポ」である。なぜなら,「タンポポ」という標準和名をもつ植物種は無いからだ。「タンポポ」とは総称名であり,日本在来種では,いわゆるカントウタンポポ,カンサイタンポポ,シロバナタンポポなど,帰化種では,セイヨウタンポポなどを含んでいる。植物分類単位で言えば,タンポポ属
Taraxacumが相当する。
実は,そんな「タンポポ」に,植物分類学者は悩まされてきた。そもそも,典型種間に多くの中間型が報告されるなど,タンポポ属には著しい形態変異がよく知られていたからだ。さらに,最近のDNA分析の結果,都市近郊では日本在来種と帰化種の間で,自然雑種が頻繁に起きていることが明らかになった。だから実際,事情を知る専門家にとって,都市近郊で採集された「タンポポ」の同定(種名を決定)は困難だ。いまのところ,自然の実態と種認識の分類との折り合いが上手くつかないからだ。ここでは,あえて種名を特定せず,「タンポポの一種」とした。
そんな人間様の学問事情もおかまいなしに,「タンポポ」は今日も咲くのである。黄色い花火のように。
第4回配信(2006年7月1日)「タンポポの一種」
Dynamic Behaviors of Silent Plants
静なる草木たちの躍動
キク科 タンポポの一種 Taraxacum sp. (Asteraceae)
黄色い花火:タンポポ開花
撮影地: 岐阜県山県市
撮影期間: 2006年5月4~25日
撮影・編集条件: 野外連続撮影