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【書評】寺島一郎(著)/太田次郎・赤坂甲治・浅島誠・長田敏行(編集) 新・生命科学シリーズ  『植物の生態--生理機能を中心に--(改訂版)』

[お知らせ]  2025年1月21日

『植物の生態--生理機能を中心に--(改訂版)』の書評を、早稲田大学人間科学部・東邦大学理学部・東京農業大学国際食料情報学部非常勤講師の山﨑淳也博士にご担当いただきました。  日本植物学会事務局

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寺島一郎(著)/太田次郎・赤坂甲治・浅島誠・長田敏行(編集)
新・生命科学シリーズ  『植物の生態--生理機能を中心に--(改訂版)』
裳華房 A5判/288頁/2色刷/定価3300円(本体3000円+税10%)/2024年10月5日
発行/ISBN 978-4-7853-5877-8

https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-5877-8.htm

本書は裳華房から発行されている新・生命科学シリーズの一冊で2013年に出版された
『植物の生態--生理機能を中心に--』の改訂版である。著者は本書の冒頭で、「ずいぶん
厚い本になった」と記されているが、よくこれだけのサイズに重要な内容が収まっている
なと驚いた。本書で取り扱われている植物生態学、植物生理学、植物形態学は1冊でかな
りの厚みがあったり、分冊化されていたりすることが多い。例えば、植物生理学分野では
大判の『テイツ/ザイガー 植物生理学・発生学』が教科書や参考書として使われている
が、こうした専門書を学生が個人で所有するにはハードルが高い。

 掲載内容は順に、生態学の概要、植物の進化、植物形態学、植物と水、光環境と光合成
、呼吸、栄養塩吸収、成長解析、陸域生態系について、植物生理生態学の基本的内容から
最新の内容まで含まれている。著者は植物について学ぶ時間の不足を感じており、幅広く
取り上げている。とりわけ本書の特徴である数式を使った解説が随所に丁寧になされてい
る。また解説の不足分や演習問題などは電子版の「補遺」があり、ダウンロードしてさら
なる学習ができるよう配慮されている。5章では植物と水の関係が取り扱われているが、
水ポテンシャルやハーゲン・ポアズイユの式などが登場する。6章から8章までは植物と光
との関係が取り扱われ、群落内の光環境やファーカーの光合成モデル式などが登場し、植
物生理生態学は定量化の学問であるという信念が強く現れている。さらに、7章では光合
成の初期過程における電荷分離、8章では励起エネルギーの熱散逸、11章では樹木の成長
解析を考える上でのパイプモデルなどについても詳述されている。このように本書は、物
理や化学の内容、数式を積極的に取り入れている。著者のいう、「丁寧に(優しく)」解
説するということは、決して「平易に(易しく)」解説するものではないことを示すもの
である。

 しかし近年、文理融合型学部の設置や入試方式の多様化により、環境系や生命系学部に
物理や化学への苦手意識の高い学生や、高校で文系コースを履修した学生も在籍している
。そのため、講義も数式や物理化学的内容を少なめにしたり、講義時間の関係でやむなく
丁寧な説明を避けて進めたりすることもある。しかし本書は、植物の生理的機作と周りの
物理的要因との関係を解明するならば、こうした内容は絶対に避けて通れないことを真正
面から教えてくれる。

 さらに本書では、「How」と「Why」という2つの疑問の重要性も記されている。これ
らをともに解明することが植物生理生態学の大きな目的である。したがって、どのような
細胞や組織、器官をもち(形態学)、どのような生理機能をもち、どのように成長し(生
理学)、どのような生活を行っているのか(生態学)を俯瞰的に捉える必要がある。これ
からは研究室で遺伝子発現を研究している人が野外調査に(許可が降りれば)同行してみ
たり、逆に野外調査がメインの人が遺伝子の研究を(許可を得て)見学したりすることも
重要である。自分の専門領域だけでなく、周りを少しでも知っておくと、植物の営みを理
解する手がかりも多くなるだろう。

 本書は、講義で教科書や参考書として使用するだけでなく、研究室での輪読にも最適で
あり、ちょっとした時に手にとって調べ物ができるコスパの高い本である。そして、「植
物っておもしろい(ちょっと難しいけど...)」と改めて思わせてくれる一冊である。

(早稲田大学人間科学部・東邦大学理学部・東京農業大学国際食料情報学部非常勤講師 
山﨑淳也)


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