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生物科学ニュース

ホーム > 一般向け情報 > 生物科学ニュース > 【書評】長谷部 光泰会員 著 「食虫植物」 

【書評】長谷部 光泰会員 著 「食虫植物」 

2024年1月26日

みなさま

昨年末に発行された、長谷部 光泰 会員(基礎生物学研究所)著「食虫植物」の書評を、東北大学生命科学研究科の 別所-上原 奏子 博士にご担当いただきました。

なお、別所会員には、日本植物学会の邦文総説集「BSJ-Review」の最新号「植物に見られる多様な栄養繁殖戦略」の取りまとめもお願いしました。 BSJ-Review_14B_47-108.pdf

日本植物学会に送られてきた書評用の本は、会員サイトで紹介し、書評希望者に差し上げることにしています。書評は生物科学ニュースで紹介するほか、NAZUNA、JECONETなどのメーリングリストにも配信します。

日本植物学会事務局

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「食虫植物」書評

 (裳華房「食虫植物」HP https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-5876-1.htm

『どのページから読み始めても面白い。』

これが、本書をパラパラとめくった第一印象である。

本書はページ数にして300ページ超え、掲載されている図と写真は合わせて2,000枚以上という超ボリュームのある食虫植物の解説書だ。よくある捕虫葉の写真だけではなく、それ以外の器官(普通葉や花)の写真、現地での生態写真、電顕写真、詳細な模式図、分布地図がセットになって提示されているため、どのような環境に、どのような状態(形態・生理)で生息しているのか、背景知識まで詳しく知ることができる。本書の第1章では食虫植物とは何か、という定義に始まり、系統・分類・分布を概観している。つづく第2章〜第6章では、各目に属する食虫植物を種ごとに紹介しているが、「草姿概要」に始まり、「捕獲されるターゲット」、「他の生物との共生」に至るまで事細かに詳述されている。また、第7章では食虫植物のゲノム進化について最新研究を踏まえた考察がなされている。各所にあるコラムには、研究の裏話から、世界各地を渡り歩いた著者の体験を交えた鋭い洞察まで、読み応え抜群で読者を飽きさせない。

食虫植物は形が派手!植物なのに捕食する!という特徴から劇的な進化を遂げたと思われているが、実は一般的な被子植物の形態形成の仕組みを使い回していることや、少数遺伝子の変化により複雑な捕虫葉の初期段階を生み出せると著者は論ずる。しかしその一方で、同属の植物でも多様な形態を示すものもあり、ゲノムへの変異の蓄積パターンと生育環境の組み合わせによって異なる表現型が表出する妙も端々に語られている。今後、食虫植物の発生や生理、運動に関わる分子機構が明らかになれば、食虫植物の研究から通常の植物へと知識が還元される例も出てくるだろう。本書の帯の「食虫植物なくして植物は語れない」という言葉はこれらの知見をめぐって発されたものではと推察する。

2021年に発刊された福島健児氏の「食虫植物 進化の迷宮をゆく(岩波科学ライブラリー)」は軽妙洒脱な科学読み物であるが、こちらはより図鑑的な側面が強い。どちらも進化、発生という切り口からこれまで知らなかった食虫植物の世界を案内してくれる。師弟がそれぞれ執筆したこれらの2冊を併せ読めば、食虫植物についての知識は鉄壁だろう。2020年1月にはタヌキモが、2024年1月にはウツボカズラがScience誌の表紙を飾った。このことは、食虫植物にまつわる研究が、まさに現在進行中で重要な研究テーマの一つであることのあらわれだと言える。

 植物の多様性の進化をゲノム、分子(シグナリング)、細胞、生理、運動など全てのレベルから解析し尽くした著者により語られる食虫植物の世界、きっと皆様も覗きたくなったのではないだろうか。

(東北大学・大学院生命科学研究科・分子化学生物学専攻 別所-上原 奏子)


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