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生物科学ニュース

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【キャリアアップへの招待】研究者としての歩み

2016年2月23日

社会から望まれる理学博士!? ー意外にあるキャリアパス

研究者としての歩み

株式会社ユーグレナ

取締役 研究開発部長

鈴木健吾

1.研究室に配属されるまで

 幼少期は、振り返ると理科辞典を枕にして寝るくらい理科が好きな少年であった。目の前で起こる現象が理科の物理や化学や生物の知識で説明できるということにとても大きな感動を覚えていた。そこからどっぷり科学の魅力に惹かれていった。空はなぜ青いのか、虹はなぜ複数の色で構成されるのか、水をシンクに流した時に渦が一定の方向で巻くこと、豆電球の明るさが直列と並列で変わること、塩水で鉄がさびやすいこと、アサガオの弦の巻き方が一定であることなど、目の前に起こる現象の疑問について、科学が自分の腑に落ちる理由を教えてくれた。その中では、生物はいろいろな分野の理解を前提とする条件が多く複雑であったので、相対的に腑に落ちやすい物理や化学分野をより好んで勉強していた。

 大学に入ってからは、社会に貢献する技術開発を行いたいという欲求が込み上げてきたのと、純粋な物理学や化学よりは複雑な生物を介した技術開発の方が研究の裾野が広そうということで農学部に進学することにした。結果的には、高等植物よりもデフォルメが進んでいて一見単純そうな単細胞の微細藻類でさえも理解できないことが多く、まるで細胞の中に一つの宇宙が存在するかのような想定外の複雑さに直面することになるだが。

2.研究対象としてのユーグレナ

 ユーグレナは、和名ではミドリムシという名前で親しまれている単細胞真核藻類の一種であるが、実に多種多様な魅力が詰まっている。顕微鏡を覗いてユーグレナを観察してみれば、植物のように光合成をするための葉緑体や、動物のように鞭毛を使って活発に動き回る様子が簡単に確認できる。これだけだと、単に珍しくて面白いだけということになるが、研究対象として捉えようとすると、なぜこのユーグレナはこのような生き物としての特徴を有することになったのか、そして他の生物が存在する一般環境中をどのように生き抜いてきたのかなどにおいてより深い研究テーマが得られる。

 ユーグレナは、進化の過程で原生動物が緑藻類を二次共生させる形で取り込んだといわれているが、厳密にはどのような進化を辿ってきたのかの正確な理解はされていない。ユーグレナの種としては淡水で育つものもいるが、海水で育つものもおり、その特徴は千差万別で、現在は形態学を中心に分類が進んでいる一方、ゲノム関連の情報についてはほぼ手付かずの状況である。生き物としてのルーツに関するアイデンティティーを解明しようとするだけでもとても興味をそそるものである。またその他にも、鞭毛と細胞を収縮させながら動くということについては、物理的にどのように推進力を得ているのかを調べること、如何にしてデンプンとは構造の違う炭水化物の一種であるアミロースの異性体であるパラミロンを作るのかということ、光や厳密にはその光質によって細胞自体の動き方を変えるのかなど、解明されていないことが多く、単に学術的なテーマだけをとっても一生を費やしたとしても終わりが見えない興味深いテーマがそこかしこに転がっているのである。

 一方、ユーグレナはバイオマスとしての産業用の利用用途が多岐にわたる。私が農学部の森林工学の講義にて教えられたワードであるが「バイオマスの5F」というものがある。バイオマスの利用用途は英語にして頭文字がFで始まる5つのワードに分けられ、付加価値の高いものから並べると、Food(食料)、Fiber(繊維)、Feed(飼料)、Fertilizer(肥料)、Fuel(燃料)となる。バイオマスの生産者は付加価値が高いものから順番に供給していくことで、事業者としての受益が最適化され社会的にも合理性が高いものになるという考え方である。ユーグレナも、Food関連で付加価値が高いものとして機能性食品としての利用用途が考えられ、その他に化粧品やバイオプラスチックの素材、畜産や養殖のシーンにおける飼料、土壌改良材としての肥料、ジェット機の燃料のFuelまで様々な利用用途が考えられる。

このように、ユーグレナは研究のテーマ設定の仕方によって社会において必要とされる商品・サービスを供給できる可能性が余すことなく多様に存在する素晴らしい研究対象であると考え、自身のライフワークに据えようと思っていて、その考えは今も変わっていない。研究対象としての魅力を最初に認知したのは、一つの論文に出会ってからで、その内容は火力発電所などの二酸化炭素排出源から二酸化炭素の排出を削減しつつ、人にとっての有効な食品を利用しようという構想が述べられたものであった。私がまだ、研究の具体的なアプローチも体系的に学んではいなかった、農学部の3年生から4年生にかけての時であった。

3.社会は大きなn-1の実験のフィールド

 研究を行うにおいて必要なことがある。それは研究テーマを正しく設定して真摯に真実を確かめる作業を続けることであり、それは必要条件なのだが、それ以外にも大切なことが存在する。研究を進める上で、必要な「人」「物」「金」「情報」を揃えることである。研究室をマネジメントするのに研究費が必要で、それを支える人や研究関連の機器をそろえるインフラが必要であるのと同様に、研究テーマを個別に考えるにおいてもそれぞれを揃えなければならない。

 当時、学部生の一人である自分が、ユーグレナで壮大なスケールの研究を行おうとしても、研究を行うための資源がとても乏しかった。具体的な実績もない20代の研究者が年間数千万円以上の研究費用を持って研究に臨もうとしても、現状の学術界の仕組みではほぼ不可能であった。その中での少ない解決策の一つとしては、企業として会社を設立し、会社の理念に共感し、将来を期待してくれる人や事業体からお金を集めることが選択肢として考えられた。2005年には、産学連携やバイオベンチャーの支援の動きが活発になり、一部の支援者に理解され会社を設立して、実験室レベルにとどまらない研究開発を始めることになった。そこで、研究者としての必要な資源「人」「物」「金」「情報」を比較的早期に揃えることができたのである。それらの資源を提供してくれる支援者に応えるために効率的に研究を行ってきた。ただ、会社を設立してからユーグレナの生産を行うことができるようになってからも世の中で販売して収益を上げるのには時間はかかり、順風満帆とはいかなかった。しかし、商品やサービスを販売するのに、買ってくれるか買ってくれないか、利用してくれるか利用してくれないか、それらの因果は明確に存在しているので、自分たちの収益をあげるための仮説の立案と検証の作業は研究に似ていて個人的にはとても興味深く楽しめるものであった。

 よく、壮大な展望を掲げて事業や研究を開始したことに対して、「リスクについては考えられないのですか。」「失敗したらどうするつもりですか。」などと聞かれることもる。自分としては、この世に生を受けた以上、何かを成し遂げてみたいという想いが強くあったので、普通のことしかしないで一生を終えることのほうが、リスクが大きく感じられる。そして、新しいことにチャレンジし続けたいという感覚は今も変わらない。自分本位の表現をすると、社会は一つしか存在しておらず、自分の人生の砂時計の砂が落ちきる前に、いろいろなことを試したいのだ。ただ、やみくもにリスクをとるのではなく、得られる成果を最大にするための努力を怠らない、利己的にならず関わる人は少なくとも幸せにしたいというスタンスをとってきたつもりである。

4.夢

 ユーグレナの研究を広く展開する中で、ライフサイエンスのドメインを中心とした産業の展開を本格的に開始することができ、食品や化粧品などの流通は、日本において100億円を超えるマーケットが存在している。その商品やサービスが需要され続ける限り、このユーグレナ関連の商品やサービスをグローバルに展開していくことにトライしたいと考えている。そして今も、ユーグレナと研究で出会ったときから変わらず、ユーグレナで地球における食糧問題やエネルギー問題などの世の中の不整合を解決したいという熱意を変わらずに持ち続けている。

最後に、会社を起ち上げる前からの今に至るまでの経緯や結果については、仲間をなしには実現できないことであった。社長以下、組織の皆に共通する理念があってこそで、自分たちを応援してくれた仲間をはじめ数々のステークホルダーに成果をもって応えられるように、研究活動、事業活動において邁進を続けるつもりである。


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