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ホーム > 一般向け情報 > 生物科学ニュース > 【書評】高橋 英樹 (北海道大学名誉教授・日本植物学会元会員) 著 「サハリン島の植物」

【書評】高橋 英樹 (北海道大学名誉教授・日本植物学会元会員) 著 「サハリン島の植物」

2024年4月26日

みなさま

露崎 史朗 日本植物学会会員による、高橋 英樹 氏(北海道大学名誉教授・日本植物学会元会員)著「サハリン島の植物」の書評を掲載します。

<書誌情報>

北海道大学出版会 B5 版 798頁、定価28,000円(本体)、2024年2月29日発行

ISBN 978-4-8329-8241-3 C3045

目次などは、北海道大学出版のHPをご覧ください。

https://www.hup.gr.jp/items/83040939

 サハリン(樺太)と聞くと、今のご時世だと、行くのは極めて困難ということが頭に浮かんでしまう。歴史的事情から、戦前は樺太の植物に関する研究は豊富である。その結果、サハリンは、日本の植物分布を知る上で鍵となる地域であることが、次々と明らかにされた。サハリンの真ん中あたりにあるシュミット線は、幾つかの日本固有種(厳密にはサハリンにも分布するので、今では、日本固有ではないが)やササの北限となる。動物だが、北海道とサハリンの間には、両生類や爬虫類の分布境界となる八田線がある。なんとかして行って見たいものだが、それは叶わないと思うので、その代わりと言ってはなんだが、本書を読むと、様々な植物種の分布を思い描く大きな手助けになるのではなかろうか。

 1000種を越える植物種のリストは、理由はさておき、ほとんどの種に和名があることが示されている。分類にあたっては、近年の遺伝子解析等の成果までを取り入れた最新のものとなっている。分類がロシアと日本で異なるのを整理されているのもいい。日本とロシアでは、学名が違うことが、結構あるので、20年前に本書があればシベリアやアラスカの調査はもっと楽だったのにと思ったりもする。結構、ポイントだと思うのは、標本庫所蔵標本を良く確認しており、補遺には所蔵標本庫が整理され、国内で現物を見る事ができる可能性を知ることができる。参考文献の項も重要で、30ページ弱の中に、日本語、英語、ロシア語の文献が整理されている。ありがたいことに、自分にはさっぱり分からないロシア語は、英語に直されている。

 各種に個性的な説明がつき、いろいろ考えさせられる。例えば、「分布していてもおかしくはない」、「分布するかどうか確認を要する」、「確かな記録はない」、「在来の可能性があるように思う」など、今後の研究ネタとなる独特の記載が随所になされている。本書の特徴は、その個性にあると言えるかもしれない。分布論も面白い。サハリンの帰化種の多くは北海道経由だが、そうではない種が2割ある。どのようなルートを辿ったのだろう。また、それぞれの帰化種の優占度が、サハリンと北海道では異なるという知見も興味をそそられる。サハリン全域では、ショウジョウバカマが、サハリン州ではイチイやオオバボダイジュが、絶滅危惧種とのこと。ミヤコザサ節の分布の説明では、「当該地域での現地調査が必要」とされる。やはり、現地で生えているところを見たくなる。これらを含めた、種の保全と帰化植物問題についても一石を投じている。

 北海道に移入した北方系の植物は、サハリン経由の樺太系と千島列島経由の北太平洋系に分けられるそうだ。本書は「千島列島の植物」(北大出版会, 2015年)に続くものであり、千島列島も状況はサハリンと同じであるが、両書を合わせて見ると、北太平洋系を含めた、北海道の植生、そして日本の植物種と植生の分布への理解と探求心が深まるに違いない。本書と「千島列島の植物」は、北方に夢を馳せる、天真「らんまん」な牧野富太郎ばかりでなく、全ての植物愛好者・研究者が活用できる書だといえよう。ただし、スエコザサは、シュミット線が北限ではなく、サハリンにも北海道にも分布していない。いつの日か、サハリン(ロシア)研究が、何の障壁もなくできるよう祈りつつ。

 

 北海道大学大学院地球環境科学研究院・統合環境保全分野・教授 露崎 史朗


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