日本植物学会

  • 入会案内
  • マイページログイン
  • 寄付のお願い
  • よくあるご質問
  • BSJ_pr
  • JPR_news
  • YouTube
  • English

生物科学ニュース

ホーム > 一般向け情報 > 生物科学ニュース > 【キャリアアップへの招待】高度研究系マネジメント人材としてのリサーチ・アドミニストレーター(URA)

【キャリアアップへの招待】高度研究系マネジメント人材としてのリサーチ・アドミニストレーター(URA)

2016年2月23日

社会から望まれる理学博士!? ー意外にあるキャリアパス:

高度研究系マネジメント人材としてのリサーチ・アドミニストレーター(URA

URAとして見えるものと感じるものを大学経営に活かす仕事とは~

国立大学法人岡山大学

学長特命(研究担当)

リサーチ・アドミニストレーター

佐藤 法仁

1.はじめに

いまの世の中には、実に様々な職(職業、職種、職階など)があります。一昔前まではなかったものや、いまはその役割を終えたものもあります。サイエンスの世界での「研究者」、「ポスドク」、「研究補助員」などは良く知られているかと思います。アカデミアの世界では、「教授」、「准教授」、「講師」、「助教」などの職階は馴染み深いと思います。しかし、例えばアカデミアである大学では、これらの職だけで組織が成り立っている訳ではありません。大学にも係長、課長、部長、本部長、機構長、理事などのさまざまな職があり、教授などの職はその一部に過ぎません。そこで今回、大学を経営するひとつの職として「リサーチ・アドミニストレーター」を取り上げるとともに、その職を通して見えるもの、感じるものを私なりにご紹介したいと思います。

2.リサーチ・アドミニストレーター(URA)とは

 皆さんの中には、「URA」という職を耳にしたことがあるかもしれません。URAとは、「University Research Administrator」の略で、日本語では、「リサーチ・アドミニストレーター」と呼ばれています。2012年に文部科学省が「リサーチ・アドミニストレーターを育成・確保するシステムの整備」1)という事業を実施したことにより、その知名度が上がったように思います。

URAは、「研究面から大学などの運営・経営に直接かかわる高度研究系マネジメント人材」です。つまり、教員でも事務職員でもなく、大学を研究面から経営する人、学長や理事らと同じ立ち位置・視点の人のことを指します。ただ、わが国におけるURAがどのような仕事をしているのか、どのような組織での位置付けとなっているのかなどは、所属している組織によって異なるのが実情であり、必ずしもマネジメント人材ではなく、サポート人材として位置づけられていることもあり、その点は今後のURAの制度と人材運用の大きな課題のひとつでもあります。

3.岡山大学リサーチ・アドミニストレーターとは

岡山大学のURAは、2012年に山本進一理事(研究担当)・副学長の発案と、森田潔学長の強いリーダーシップにより、大学の自主経費によって設置されました。執行部の研究系ブレーン組織としての位置付けであり、学長直属のもと、理事(研究担当)・副学長をパートナーとして、研究系の大学運営にダイレクトに携わります2)

 その仕事内容は実に幅広いです。例えば、教員の研究アドバイザーでもあり、学内資金配分を行うための評議員、大学の研究系運営に関わる経営企画者、時に経営者としての役割を担います。また、自然科学系では、研究の社会実装が叫ばれる世の中でもありますが、その際には企業との連携なども重要になってきます。そのため大学を代表して、企業代表者と折衝を行うこともよくあります。また行政や一般の方々に対しても、大学を代表しての対応が求められます。とても責任の重い職でもあります。

岡山大学URAは現在、8名が在籍しています(2016年2月現在)。それぞれ専門分野や経歴、年齢、国籍もバラバラです(8名のうち各1名が中国籍とフランス国籍)。全員、博士号を取得していますが、これは岡山大学URAになるためには、必ず博士号が必要であると規定で定められているためです。これは、「博士号を取得するために、学術的な研究を行い、その中で学術的な視点を養い、その成果を学術的にまとめ、いくつもの審査を受けた」という過程を経験していることが、研究機関である大学において重要な点であるとしているからです。また自然科学のある分野での国際舞台では、博士号のあるなしで大きく立ち位置が変わることも少なからずあります。岡山大学URAは、学内だけで仕事をしているのではなく、学外や海外での仕事の方が多いとも言えます。そこにいる時は、岡山大学や日本を代表して発言していることもあるため、博士号を取得していることが条件となっています。

また、岡山大学URA組織で特徴的なのが、組織には長がいないという点です。よくありがちなのが、URA室長、副室長、係長などのピラミッド式の組織体制ですが、岡山大学における組織体制は、学長配下のもとURAは全員横一列で同じという立ち、フラットな組織体制となっています。もちろん、シニアには敬意をもって接することは礼節として当然ですが、仕事の内容によっては、年齢の若いURAの依頼でシニアが動いてもらうことも多々あります。このフラットな組織体制は、誰もが自分のやりたいこと、やるべきことに責任を持って行動に移すための「やりやすさ」からなっています。また前述したように岡山大学URAは経営する立場、マネジメントする立場です。経営する立場の人に1~8まで序列をつけて仕事をしているようでは、柔軟かつ迅速なマネジメントができる訳がありません。岡山大学では、この組織体制が現在のところより良い組織運用となっています。

岡山大学リサーチ・アドミニストレーター(右から5番目が森田潔学長、その左が山本進一理事(研究担当)・副学長、左から4番目が著者)

4.岡山大学URAになる人とは

岡山大学URAになる人はどんな人?、どんなキャリアを積んで来ている人?、という点を少し触れたいと思います。8人全員を紹介するのは無理ですし、他の人のことを私が言うのも失礼になりますので、(あまり参考にならないかもしれませんが)私自身のことでご紹介したいと思います。

私ははじめての大学では、神学を学びました。クリスチャンでもなく、牧師になりたい訳でもなく、ただ選んだ大学の神学部が「必修が1教科(4単位)、聖書学のみ。他は自分で好きな教科を取って良い」というものだったからです。当時(いまもそうですが)、私はやりたいことが沢山ありました。そのため、このカリキュラムは願ったり叶ったりでした。在籍3年間の間に、神学をはじめとする宗教学はもちろん、考古学や社会学、法律・行政学などの人文・社会科学分野、生物学や物理学、工学などの自然科学分野など、実に幅広い分野を学びました。気がつけば3年間で200単位以上の教科を取得していました。これでは飽き足らず、大学院のより深い学術を勉強したいと思い、3年生から大学院に飛び入学しました3)。大学院では、法政策と生命倫理を主として学位を取得しました。その後、企業に勤め、また再び大学に戻ったりと、20代は本当にいろいろな分野でスキルとキャリア、そして幅広い人的ネットワークを築きました。

岡山大学URAに応募した理由は、ただ単純に「面白そう」という点と、「アカデミア(大学)とビジネス(企業)」、「国立大学と私立大学」、「人文・社会科学と自然科学」、それぞれでキャリアを重ねて来た人間がお役に立てるのではないだろうかと考えたからです。実際、着任して今の仕事をしていると、今までのキャリアが実に役立ちます。

5.URAとして働く上での心構え

 前述したように、岡山大学URAは大学を直接運営する高度研究系マネジメント人材です。大学を代表することや自分より年齢もキャリアも上の方に対応し、時に辛い要請を呑んでもらうよう説得や指示することもあります。そのような職を(こな)す上で、自分の職に対して矜持を持つことは重要だと感じています。ただ、矜持だけでは成り立たないこともあり、岡山大学URAとしての心構えも大切だと思います。これは、本誌を読んでおられる研究者、特に大学院生や若手研究者の方々にも通じることがあるのではないかと思いますので、少し精神論のような感じになるかもしれませんが、私なりに感じる点をご紹介したいと思います。

(1)「AB」ではなく、「C」を提案できる

研究の世界では、時として批判的視点に立ったものの見方が求められます。これについての良し悪しの議論はしませんが、ただ批判的であることだけでは何も生み出さないと思います。研究や大学経営でも、また日常生活でも、先に進むには、「提案する能力」がとても大切になると考えます。少し乱暴な言い方になりますが、それが良いか悪いかは少し勉強・経験すれば誰でも何とでも言えることだと思います。それよりも、「これはこの点が科学的に不十分な気がします。この点を克服するには、この実験やあの機器を使えばいいのではないでしょうか?それに~」というように、「AかBではなく、Cを提案できる」という能力は、自分自身の仕事に対してもより良い方向性を導くものだと考えます。

(2)「作業」と「作法」の違いを理解する

 ちょっと昔話となりますが、ある時に華道の真似事をしていました。皆さんご存じのように、花を切ったりするのですが、その時の私は「ただハサミで花を切る」という「行為」をしていました。その時にある人から、「あなたがしているのは作業であって作法ではない」と厳しく言われたことがあります。当時はその言葉の意味がよく理解できませんでした。しかし、いろいろな分野でキャリアを重ねて行く中で、「作業」と「作法」の違いに気づいたことがあります。それはAという航空会社の飛行機とBという航空会社の飛行機に乗った時です。Aの搭乗員は作業の中にも作法をきちんと(こな)して乗務を行っている感じを受け、後者はただ作業という点でのみ乗務を行っている感じを受けました。その時、物事には「作業」と「作法」の違いがあり、それを使い分けないといけないということに気がつきました。URAとして、厳しいことや難しいことを教員や事務職員に依頼することもあります。ただ作業として「これをやってください」と指示・命令することは容易いです。しかし、経営であれ、研究であれ、そこには何頭の「作法」と言うものが、どこの世界にもあるものです。これを無視して効率的に物事を進めることも可能ですし、時にそうする場合もあります。しかし、作法を弁えて行動することは、物事をうまく動かすひとつの大きな点であると今の職に就いて改めて感じています。

(3)異分野に触れる

得てして分野が違う話を聞くと急に睡魔が襲ってくることがあります(理解できます)。また、研究を突き詰める中で自分以外の専門分野にはなかなか触れる機会が少なくなってくることもあります。自分と違う分野、異分野に触れることは時としてその人のストレスとなることがあるかもしれませんが、視点を変えてみる、違う立場を理解する、引いてはその違いを自分の立場に当てはめると新しい道を拓くことができるなど、ポジティブに働くことも多いと感じます。大学を経営していると、「あのURA(あるいは役員)は、A学部・研究科出身だから、A分野には力を入れている」と思われるのは本意ではありません4)。大学の経営、研究室の主宰には、異分野を受け入れ、それと上手く付き合う能力が必須だと感じます。

(4)いろいろな属性を持つ

皆さんが挨拶する時は、「○○大学△△学部××研究室の佐藤法仁です」と言うと思いますが、逆の見方をして「佐藤法仁は○○大学△△学部××研究室の所属です」の他に何か別の所属を言えるでしょうか。ひとつの組織にいることが良い悪いの話ではないですが、いろいろな組織の肩書(属性)を持つことは、前述の「異分野」と同じように、違う視点を与えてくれます。ぜひ皆さんもキャリアを重ねて行く中で、いろいろな属性を持ち、各々で出会う方々から役立つものを貪欲に吸収して行って頂ければと思います。

(5)翻訳する力を持つ

 私は仕事で海外に行くことが多いですが、その時は時間があれば図書館や本屋さんに行くようにしています。そこで思うのは、母国語が英語でない海外の専門書コーナーに行くと、並ぶのは英語の書籍ばかり。他方、日本の専門書コーナーに行くと、英語雑誌もありますが、日本語に翻訳された書籍が並んでいます。どんな難しい分野でも日本語さえ読めれば、その本を手にすることができますし、勉強することができます。これは実に凄いことです。日本人にはその人すべてにどのような学問でも自由に学べる環境があるということです。これは単に「外国語からの翻訳」ということですが、経営や研究でもこの「翻訳」ということがとても大切になると思います。例えば、研究プレスリリースに専門用語ばかり使っていませんか?、自然と略語を口にしていませんか?、専門用語を並べることが専門を主張することではありません。自分の言葉を相手に分かりやすく翻訳するということは、自分やその立場を知ってもらう上でとても重要なことだと思います。「どうしてこの研究が世界で一番でなければいけないのですか?」という質問が寄せられたとしたら、その人がわかる言葉で、適格に説明できなければ研究者、大学経営者ではないと思います。また、海外で成功したものや流行のものをそのまま日本に持ち込んでも上手くいかないこともあります5)。それが日本で馴染むものなのか、どこをどうすれば馴染むようになるのかをよく分析することも物事の問題を解決に導くひとつの鍵になると考えます。

(6)源泉は人であり、人の人生を左右している自覚を持つこと

 最後に私が一番大切にしている点として、「人」を挙げたいと思います。学術もイノベーションも、大学経営も研究活動も、突き詰めるとその源泉は「人」です。人が動くからこそ、物事が動きます。至極当然のことですが、そこには「その人の人生がある」ということを自覚しておく必要があります。「大きな研究助成に採択されて、ポスドクを何人も雇用できた」、「URAの整備事業に採択され、URAを10人雇用できるようになった」、「残りの資金が少ないのでA拠点の来年度研究費は半額にしよう」などは、そこに人の人生が大きく動いている自覚を持つことです。その判断が、その人の人生を大きく変える(結婚、離婚、出産、死亡など)ことになります。私事ですが、私は妻とある研究所で出会いました。その研究所には大学の研究研修助成金制度に採択されたことで行くことが出来ました。それに指導教員や受け入れ教員の許可があったこともあります。また大学のその制度も文部科学省の助成金事業があったからこそであり、それに大学の人が応募して事業採択されたからです。そして文部科学省の人が、「こんな助成金事業があれば研究が活性化するのではないか」と事業案を考え、省内調整と財務省から予算を引き出して来たことによります。つまりそれぞれの過程で関わった数多くの方々が私と妻、子ども(子孫)の人生を変えているのです。少し大げさかもしれませんが、皆さんも人の人生を変える立場にいることを決して忘れないでください。それを忘れて学術のみに嵌るとそれはただの自分ひとりの趣味でしかありません。趣味で数多くの人の人生に迷惑を掛けるのはやめて頂きたいと、個人的には思います。

6.おわりに

私が見える、感じる点で書かせて頂きましたが、本誌を読まれている皆さんに、URAとはどのような職であり、そのひとりはどのような考えで仕事をしているのかを感じて頂けると幸いです。私もそうですが、わが国におけるURAはまだ出来たばかりの職であり、まだまだ整備や教員や事務職員、社会の理解も必要です。大学の研究力を上げるならば、「URAを雇用するよりもポスドクを雇用した方が論文数も上がる」という見方もあるかもしれません。それが正しいかどうかはわかりませんし、その判断をするにはまだ時間を要することだと思います。つまり、URAという職は「いま試されている職」でもあるということではないでしょうか。これは研究者でも同じですし、いろいろな職でも同じことです。ただURAは、いまこの肩書を持っている人が不甲斐なければ、この職は消えて行くことになり、大きな成果を残せば後世に引き継がれる職となります。そのどちらかを左右する立場にいるというのは、非常にチャレンジ精神をくすぶる上に、大きなやりがいを見出す職だと感じます。もし皆さんの中で、URAに興味や関心がある、あるいは「うちの大学のURAをなんとかしたい」、「うちの大学にURAを導入したいが何をすればいいのかわからない」という場合などは、お気軽に岡山大学URAまでご連絡ください。私たちは「共に出来ることは共に」、それが岡山大学だけが汗をかくことになったとしても他大学・研究機関、引いてはわが国の研究力や科学技術が振興すれば、より良いという姿勢をとても大切にしています。皆さんと共に、わが国の学術やイノベーションを盛り上げて行ければと思います。

<補注>

1)文部科学省:リサーチ・アドミニストレーター(URA)を育成・確保するシステムの整備. 2012. http://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/ura/

2)国立大学法人岡山大学:岡山大学リサーチ・アドミニストレーター(URA)執務室. 2015. http://ura.okayama-u.ac.jp/

3)当時、飛び級をするには、大学学部を3年次単位取得退学する必要がありました。そのため、学士号が取得できませんでした。博士号や修士号があっても学士号がないと、教員免許や博物館学芸員資格、司書、司書教諭などが受け取れないなどのデメリットがありました。私は、大学院修了後、独立行政法人大学評価・学位授与機構の審査を受けて学士号を取得しました。この人とは違う経験も大学運営をする中で役立っています。

4)それぞれの大学や研究機関のやり方があるかと思いますが、学長や理事は教員としての研究を行うべきではなく、専念義務のもと大学経営に注力すべきだと考えます。大学経営は、研究の片手間で行えるものでも、研究は大学経営の片手間でも行えるものではないと思います。これは高度研究系マネジメント人材として大学を動かすURAでも同じことだと思います。

5)例えば、「世界大学ランキング」というものがあります。海外のいろいろな企業などが世界中の大学をランキング付けしています。このランキングには様々なカラクリがあり、日本の大学には不利であったり、該当しないものもあります。また前年度と本年度ではランキングに用いられる「指標」が変わるため、前年度との順位比較はまったく意味がありません。しかしそれらのことを度外視して、ただ単純かつセンセーショナルに日本の大学のランキングの上下だけを伝えることは極めて問題です。これも海外の制度をそのまま日本に当てはめている例のひとつと思います。

参考1:大学研究力強化ネットワーク:平成27年度第2回大学研究力強化ネットワーク・カンファレンスを開催(2015/9/25開催). 2015. https://www.runetwork.jp/activity/detail.php?id=12

参考2:大学研究力強化ネットワーク:Times Higher Education世界大学ランキングに関する申し入れについて. 2015. https://www.runetwork.jp/activity/detail.php?id=14


« 生物科学ニュースのトップへ戻る