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ホーム > 一般向け情報 > 研究トピック > 【第5回】ボルボックス胚のインバージョンには糖ヌクレオチド輸送体InvBに依存したECMベシクルの成長が必須である

【第5回】ボルボックス胚のインバージョンには糖ヌクレオチド輸送体InvBに依存したECMベシクルの成長が必須である

植木紀子(ビーレフェルト大学)


 緑色の球をミラーボールのようにくるくると回転させながら泳ぐボルボックス。この美しい球の形はどのように作られるのだろうか。ボルボックスの胚発生は、親の球体の内側で、ゴニディアル・ベシクルと呼ばれる透明な殻に包まれた状態で起こる。始めは胚が裏返しに作られ、インバージョンという形態形成運動の過程で正しい向きへとひっくり返るのが特徴だ。このインバージョンにゴニディアル・ベシクルが意外な役割を果たすことがわかった。

 我々は、インバージョンに異常があり表裏が逆のまま成体になる変異体InvBを単離した(図1)。内在性トランスポゾン「イダテン」を用いたタギング法で変異遺伝子を同定したところ、糖タンパク質の合成に関わる糖ヌクレオチド輸送体をコードしていた。更に、酵母で発現させたInvBタンパク質がGDP-マンノース輸送体としての活性を持つことを確認した。

図1
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図1 Volvox carteriの野生型とInvB変異体の成体。InvBではインバージョンが正しく行われないため、次世代の生殖細胞(矢印)が外側に露出した形になる。

 ゴニディアル・ベシクルは糖タンパク質に富むECM(extracellular matrix:細胞外基質)であり、変異体ではそのマンノース量が減少していることがレクチン蛍光染色から示唆された。このベシクルは胚発生の間に大きく成長して、胚の周りに空間を作る。ところがInvB変異体ではその成長が非常に遅く、ほとんど空間ができない(図2A)。我々はこの成長の遅いベシクルが変異体のインバージョン運動を物理的に妨げていると考え、微小な針で変異体の生殖細胞からベシクルを取り除いてみた(図2B)。するとその後、変異体の胚は正常にインバージョンを行ったのである(図2C)。

図2
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図2 ボルボックス胚発生とゴニディアル・ベシクル。A. 発生が進むにつれ野生型胚ではゴニディアル・ベシクル(赤矢じり)が大きくなるが、InvB胚ではその成長が遅れている。B. InvB生殖細胞からゴニディアル・ベシクルを取り除く実験。C. ゴニディアル・ベシクルのない状態で発生したInvB胚は正常にインバージョンした。野生型と同様、次世代の生殖細胞が内側に位置している。

 以上より、次のように結論した。1)ボルボックス胚がインバージョンというダイナミックな形態形成運動をするためには、周りに十分な空間が必要である。2)その空間を作るために、胚を包んでいるゴニディアル・ベシクルは、発生過程に合わせて能動的に大きくなっていく。3)その成長は、InvBを介してマンノース付加される糖タンパク質に依存すると考えられる。

文献:
Ueki, N., and Nishii, I. (2009). Controlled enlargement of the glycoprotein vesicle surrounding a Volvox embryo requires the InvB nucleotide-sugar transporter and is required for normal morphogenesis. Plant Cell 21: 1166-1181.


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