2005年12月号 (Vol.118 No.6)
褐藻植物接合子における雄性配偶子由来セントリオールの挙動と機能
Behavior and function of paternally inherited centrioles in brown algal zygotes.長里千香子(北海道大・北方生物圏フィールド科学センター)
褐藻植物では,有性生殖の様式(同型配偶子接合,異型配偶子接合,卵生殖)に関わらず,セントリオールは雄性配偶子に由来する.雄性配偶子由来セントリオールは分裂期前に複製し,紡錘体形成,細胞質分裂,オルガネラの分配に関わっていく様子が観察された. (p.361-369)
植物の磁気感受機構
Magnetoreception in plants.Paul Galland 1, Alexander Pazur2 (1Philipps-Universit?t Marburg, 2Ludwig Maximilians Universit?t M?nchen)
植物の磁気感受に関する研究の歴史は古く,生理学的な研究は少なくないが,いずれも現象論的な解析で,体系だった研究は少ない.細菌の磁性走性の機構として実証されているフェリ磁性以外にも,ラジアル対の機構やイオン・サイクロトロン共鳴の機構が注目されている.この両機構は,植物の磁気感受に関する今後の研究に理論的な枠組みを与えるものである. (p.371-389)
マメ科モデル植物ミヤコグサのアクティベーションタギングアプローチ
Activation tagging approach in a model legume, Lotus japonicus今泉隆次郎1, 佐藤修正2, 亀谷七七子3, 中村郁郎3, 中村保一2, 田畑哲之2, 綾部真一1, 青木俊夫1(1日本大・生物資源科,2かずさDNA研,3千葉大・院・自然科学)
マメ科モデル植物のアクティベーションタギングのために,新規に開発したタギングベクターを用いて約3,500のT-DNA挿入ラインを作製した.T-DNA近傍の11遺伝子のうち4遺伝子で転写物蓄積の増大が見られ,その性質は後代に遺伝した. (p.391-399)
イネ科の Aniselytron 属の葉の解剖学的知見は Calamagrostis 属(ノガリヤス属)からの独立を示す上で分類学的に重要である
Taxonomic significance of leaf anatomy of Aniselytron (Poaceae) as an evidence to support its generic validity against Calamagrostis s. l.Hai-Ying Ma, Hua Peng, De-Zhu Li (The Chinese Academy of Sciences, Peoples Republic of China)
イネ科のAniselytron属とCalamagrostis 属では,葉の解剖学的な特徴が顕著に異なる.解剖学的な違いに加え,生息地の違いを考え合わせると,Aniselytron属は,Calamagrostis 属から完全に分けられ,むしろ,イチゴツナギ亜科(Pooideae)とは別の亜科に近いと考えられる. (p.401-414)
イチイ科の遺存種である Amentotaxus argotaenia 群では遺伝子型の多様性が低く,集団構造化が顕著であることが ISSR フィンガープリントから解った
Low genetic diversity and significant population structuring in the relict Amentotaxus argotaenia complex (Taxaceae) based on ISSR fingerprinting.Xue-Jun Ge1, Xian-Long Zhou2, Zhong-Chao Li2, Tsai-Wen Hsu3, Barbara A. Schaal4, Tzen-Yuh Chiang5 (1Sun Yat-Sen University, China, 2South China Botanical Garden, China, 3Taiwan Endemic Species Research Institute, Taiwan, 4Washington University, USA, 5Cheng Kung University, Taiwan)
イチイ科の遺存種であるAmentotaxus argotaenia 群は三つの類縁種よりなる.これら三種の種内,種間の遺伝子型の多様性を集団内,集団間について,ISSRフィンガープリント法により調べた.その結果,集団内や種内での多様性は低く,小集団間での多様性が高いことが解った. (p.415-422)
フタバガキ科のNeobalanocarpus heimii における種子と実生段階の自殖と近交弱勢
Selfing and inbreeding depression in seeds and seedlings of Neobalanocarpus heimii (Dipterocarpaceae)内藤洋子1, 小沼明弘2, 岩田洋佳3, 陶山佳久4, 清和健二4, 奥田敏統5, Soon Leong Lee6, Norwati Muhammad6, 津村義彦7 (1 京都大・農, 2農環研, 3 農研センター, 4東北大・農, 5 国環研, 6 Forest Research Institute Malaysia, 7 森林総研)
マレー半島に分布するフタバガキ科Neobalanocarpus heimiiの種子と実生の自殖と近交弱性の程度を調査した.その結果,自殖由来の種は種子重が軽く,発芽率も低いことが示され,種子の発育段階から実生の成立までの段階で近交弱性が生じていることが明らかになった. (p.423-430)
シロイヌナズナ転写コアクチベーター MBF1s は主として核小体に局在する
Transcriptional coactivator MBF1s from Arabidopsis predominantly localize in nucleolus.杉川陽一1, 海老原利枝1, 津田賢一1, 丹羽康夫2, 山崎健一1 (1北海道大・地球環境科学, 2静岡県立大・食品栄養科学)
動物の MBF1 は,核移行によって標的遺伝子の発現を活性化する転写コアクチベーターであるが,シロイヌナズナの MBF1 は初めから主に核小体に存在していることを発見した. (p.431-437)
ウモウゲイトウにおいてアマランチンは cyclo-DOPA clucoside の段階でグルクロン酸が転移されて合成される
Amaranthin in feather cockscombs is synthesized via glucuronylation at the cyclo-DOPA glucoside step in the betacyanin biosynthetic pathway.佐々木 伸大1, 阿部 裕1, 和田 勝寛2, 香田 隆俊2, 合田 幸弘3, 足立 泰二4, 小関 良宏1 (1東京農工大・工・生命工, 2三栄源 F.F.I., 3国立医薬品食品衛生研, 4大阪大・VBL)
ウモウゲイトウの花弁の粗酵素抽出液において,UDP-glucuronic acid:cyclo-DOPA 5-glucoside 6´-O-glucuronosyltransferase 活性を見いだした.このことからアマランチンはベタニンがグルクロノシル化されて合成されるのではなく,ベタニンの前駆体である cyclo-DOPA glucoside がグルクロノシル化されて合成されていることが強く示唆された.(p.439-442)