2005年10月号 (Vol.118 No.5)
葉緑体分裂装置の起源と進化
Origin and evolution of the chloroplast division machinery.宮城島進也 (Michigan State University)
葉緑体はシアノバクテリアの細胞内共生体を起源としており,その分裂増殖は,シアノバクテリア由来の機構の一部と,色素体分裂(PD)リング,ダイナミンリング等の宿主真核細胞により加えられた構造の複合装置によって行われる.この色素体の分裂機構の主要な部分は,紅色,緑色植物に加え,二次共生由来の葉緑体にも共通していると考えられる.(p.295-306)
異なる光環境に生育するアオキ樹冠における葉面積密度の可塑性
Plasticity in leaf-area density within the crown of Aucuba japonica growing under different light levels.Md. Sohrab Ali, 菊沢喜八郎(京都大・農・森林生物)
アオキにおいて,樹冠における単位体積あたりの葉面積(葉面積密度)の分布,またそれにもっとも大きく影響する要素は何かを調べた.葉面積密度には,単位体積あたりの当年に伸長成長を示した枝数がもっとも大きな効果をおよぼしていた.(p.307-316)
色素体DNA塩基配列からの推定に基づくペニオケレウス属(サボテン科)の系統関係
Phylogenetic relationships in Peniocereus (Cactaceae) inferred from plastid DNA sequence data.Salvador Arias1, Teresa Terrazas2, Hilda J. Arreola-Nava2, Monserrat V?zquez-S?nchez2, Kenneth M. Cameron3 (1Universidad Nacional Aut?noma de M?xico, 2Montecillo, Estado de M?xico, 3The New York Botanical Garden)
サボテン科のペニオケレウス属(Peniocereus)17種,巨大柱状サボテン連(Pachycereeae)のすべての属の代表種,三角柱連(Hylocereeae)の4属,並びに外群として特殊柱状サボテン連B(Calymmantheae),南米サボテン連(Notocacteae), 有毛柱状サボテン連(Trichocereeae)の3連を含む98分類群について色素体DNA内のrpl16 および trnL-F領域の塩基配列を解読した.その結果は,ペニオケレウス属,巨大柱状サボテン連がいずれも単系統でないことを示している.(p.317-328)
不等葉性によってもたらされたアオキのシュート形態,生態学的解釈
Shoot morphology of Aucuba japonica incurred by anisophylly: ecological implications.Md. Sohrab Ali, 菊沢喜八郎(京都大・農・森林生物)
アオキではシュート上の2対目と4対目の対生につく葉の一方が他方より大きいという特徴(不等葉性)がある.この性質が樹冠拡張と相互被陰回避にどの程度貢献するかを考察した.(p.329-338)
セイヨウトネリコの葉緑体マイクロサテライト領域増幅用プライマーの開発とそれを用いた解析
Characterization and primer development for amplification of chloroplast microsatellite regions of Fraxinus excelsior.M. E. Harbourne1, 2, G. C. Douglas2, S. Waldren1, T. R. Hodkinson1 (1University of Dublin, Trinity College, 2Teagasc, Kinsealy Research Centre)
セイヨウトネリコの葉緑体DNAの5つの遺伝子座について、増幅用のプライマー対を検討し,モノヌクレオチド マイクロサテライトを含む領域を増幅できる3対のプライマーの開発に成功した.これを用いて,ヨーロッパ各地とアイルランドのセイヨウトネリコのハプロタイプ変異のレベルが高いことを示した.(p.339-341)
ダイズの小葉には先端から基部にかけての成長速度の勾配がない
Glycine max leaflets lack a base-tip gradient in growth rate.Elizabeth A. Ainsworth1, Achim Walter2, Ulrich Schurr2 (1University of Illinois, 2Institute Phytosphere (ICG-III))
双子葉植物の葉の展開に関する定説によると葉の基部の成長は先端部より速いことになっている.しかし,ダイズの小葉の展開を様々な条件下で微速度ビデオ撮影などの方法で解析したところでは,他の植物種での観察結果とは異なり,最大の成長速度は午前2時に見られ,基部の成長の方が早いというパターンは見られなかった.(p.343-346)
菌類のエリシター処理と傷害処理に対し、栽培イネとは発現応答が異なる野生イネ(Oryza grandiglumis)の転写産物の解析
Analysis of differentially expressed transcripts of fungal elicitor- and wound-treated wild rice (Oryza grandiglumis).Kyung Mi Kim1, Sung Ki Cho2, Sang Hyun Shin1, Gyung-Tae Kim1, Jai Heon Lee1, Boung-Jun Oh3, Kyung Ho Kang4, Jong Chan Hong5, Jun Young Choi6, Jeong Sheop Shin2, Young Soo Chung1 (1Dong-A University, 2Korea University, 3Jeonnam Biotechnology Research Center, 4National Crop Experiment Station, Rural Development Administration, 5Gyeongsang National University, 6Sangmyung University)
菌類のエリシター処理と機械的傷害処理を施した野生イネ(Oryza grandiglumis) より作成したcDNA ライブラリーと,葉への病原感染を行った栽培イネ(Oryza sativa)より作成したESTsの間で,マイクロアレーによる発現の比較を行った.両者で発現の異なる遺伝子を推定タンパク質の機能別に分けると,野生イネでは栽培イネに比べ,防御反応,輸送などに関わる遺伝子に発現の高いものが多いという結果が得られた.(p.347-354)
ソバ(Fagopyrum esculentum Moench)における鉛の超集積と耐性
Pb hyperaccumulation and tolerance in common buckwheat (Fagopyrum esculentum Moench).田村英生1, 本田宗央2, 佐藤健3, 蒲池浩之4 (1中部電力(株)・エネルギー応用研究所,2岐阜・生物技研,3岐阜大・工,4富山大・理・生物圏環境)
鉛汚染土壌で生育させたソバは,地上部,とりわけ葉に高濃度の鉛を集積し,新規の鉛超集積性植物 (Pb hyperaccumulator)であることが示された.更に,生分解性キレート剤であるメチルグリシン二酢酸 (MGDA)の土壌への添加は,ソバによる鉛の吸収を促進した.(p.355-359)