2008年03月号 (Vol.121 No.2)
スバールバル・ニーオルスンの高緯度北極ツンドラ生態系の炭素固定における維管束植物優占種の光合成特性とバイオマス分布の役割
Muraoka H, Noda H, Uchida M, Ohtsuka T, Koizumi H, Nakatsubo T (2008) Photosynthetic characteristics and biomass distribution of the dominant vascular plant species in a high Arctic tundra ecosystem, Ny-Ålesund, Svalbard: implications for their role in ecosystem carbon gain. J Plant Res 121:137-145高緯度北極ツンドラ生態系に優占する遷移段階の異なる維管束植物3種の光合成特性とバイオマス分布を調査した.葉の窒素含量と光合成能は遷移後期種で高く,また維管束植物の被度も遷移の進行に応じて高かった.植生の純一次生産量の空間分布はこれらの要因に応じていた.(p.137-145)
クローナル植物スズランにおけるラメットおよびジェネットの繁殖動態
Araki K, Ohara M (2008) Reproductive demography of ramets and genets in a rhizomatous clonal plant Convallaria keiskei. J Plant Res 121:147-154遺伝的に識別したスズランのラメットを掘り起こし,開花動態の経年調査と地下茎の連結状況より,クローン成長と種子繁殖の回数及び時期に関する解析を行った.その結果,ラメットはクローン成長後に開花し,ジェネットレベルでは開花の方がより多く行われることが示唆された.(p.147-154)
照葉樹林におけるハイノキ属樹5種の樹形とアロメトリーの種間差
Abe N, Yamada T (2008) Variation in allometry and tree architecture among Symplocos species in a Japanese warm-temperate forest. J Plant Res 121:155-162ハイノキ属5種(ハイノキ,シロバイ,クロキ,カンザブロウノキ,ミミズバイ)の樹形とアロメトリーを比較し,その種間差に潜む生態学的な意義を考察した.これら5種の樹形の種間差には,更新ニッチ分化と関係したトレードオフ以外に,繁殖や力学的な制約が重要であることがわかった.(p.155-162)
シュンラン属(ラン科)におけるCAM型光合成の生態的および進化的意義
Motomura H, Yukawa T, Ueno O, Kagawa A (2008) The occurrence of crassulacean acid metabolism in Cymbidium (Orchidaceae) and its ecological and evolutionary implications. J Plant Res 121:163-177シュンラン属(Cymbidium)における光合成型と生活形の相関を調べた.シュンラン属では3つの光合成型(strong CAM, weak CAM, C3)が分化していた.CAMの発現する種はすべて着生であるのに対し,地生の種はC3代謝しか発現していなかった.また熱帯低地林の樹冠へ進出した種はすべてstrong CAMとなった.(p.163-177)
キュウリ子葉のクチクラワックスに対するUV-B照射の影響
Fukuda S, Satoh A, Kasahara H, Matsuyama H, Takeuchi Y (2008) Effects of ultraviolet-B irradiation on cuticular wax of cucumber (Cucumis sativus) cotyledons. J. Plant Res 121:179-189キュウリ芽生えにUV-Bを照射し,子葉の表面微細構造,ならびにクチクラワックス層の量と組成に対する影響を調べた.UV-Bによる子葉表面の光沢の形成と構造の変化,ワックス量との関係が明らかになった.また,UV-Bがワックス生合成系に影響を与えることが示唆された.(p.179-189)
異なる光と温度条件下での天山報春(Primula nutans)の光合成特性と個体の炭素収支
Shen H, Tang Y, Muraoka H, Washitani I (2008) Characteristics of leaf photosynthesis and simulated individual carbon budget in Primula nutans under contrasting light and temperature conditions. J. Plant Res 121:191-200光と温度条件の大きく異なる自生地,および栽培条件下で天山報春の光合成特性及び個体の炭素収支を調べた.その結果,光条件は天山報春の光合成特性に最も大きな影響を及ぼし,比較的明るくて冷涼な環境下で生育した植物は最大光合成速度及び個体の純生産が高いことが明らかになった.(p.191-200)
クワ巨細胞に形成される細胞壁嚢の微細構造と免疫化学的特徴
Katayama H, FujibayashiY, Nagaoka S, Sugimura Y (2008) Ultrastructural and immunochemical features of the cell wall sac formed in mulberry (Morus alba) idioblasts. J. Plant Res 121:201-205クワ葉に存在する巨細胞では,細胞壁が陥入して細胞壁嚢が形成される.この細胞壁嚢の肥大化に伴い,モノクロ−ナル抗体(JIM 5,7)で検出できるホモガラクツロナンは消失した.一方,キシログルカンはセルロースラメラから分岐した微繊維に検出された.(p.201-205)
ソラマメVfPIP1遺伝子をシロイヌナズナで発現させると乾燥耐性が改善される.
Cui X-H, Hao F-S, Chen H, Chen J, Wang X-C (2008) Expression of the Vicia faba VfPIP1 gene in Arabidopsis thaliana plants improves their drought resistance. J. Plant Res 121:207-214ソラマメのアクアポリンをコードすると推定されるVfPIP1遺伝子を発現させたシロイヌナズナ形質転換は,野生型に比べて,成長は早く,蒸散速度は低く,乾燥耐性は高く,気孔閉鎖速度は有意に高いことが分かった.この結果はVfPIP1の発現が,気孔閉鎖促進を介して乾燥耐性を高めていることを示唆している.(p.207-214)
ウラゲノギクDREB2様遺伝子のクローニングと発現解析および転写制御の研究
Liu L, Zhu K, Yang Y, Wu J, Chen F, Yu D (2008) Molecular cloning, expressional profiling and trans-activation property studies of a DREB2-like gene from chrysanthemum (Dendranthema vestitum). J. Plant Res 121:215-226ウラゲノギクよりDREB様遺伝子,DvDREB2Aを単離した.この遺伝子の発現は高温や低温,乾燥,ABA, 塩により影響を受けることが定量RT-PCRの解析で分かった.この結果は,この遺伝子が DREB転写因子の新しいメンバーの一つであることを示唆している.(p.215-226)
ブロモキシニルによる植物の細胞死誘導の原因はサイトゾル酸性化の可能性がある
Morimoto H, Shimmen, T (2008) Primary effect of bromoxynil to induce plant cell death may be cytosol acidification. J. Plant Res 121:227-233農薬であるブロモキシニルは外液が酸性の条件でのみ,オオシャジクモの原形質流動の阻害と細胞死を誘導した.この結果から,ブロモキシニルはサイトゾルの酸性化により,細胞死を誘導する可能性が示唆された.花粉管において,ブロモキシニルによるサイトゾル酸性化が示された.(p.227-233)
トマトのER型低分子量熱ショックタンパク質の持つ分子シャペロン活性
Mamedov TG, Shono M (2008) Molecular chaperone activity of tomato (Lycopersicon esculentum) endoplasmic reticulum-located small heat shock protein. J. Plant Res 121:235-243トマトのLeHSP21.5は,その配列と局在性からER型スモールヒートショックプロテインと推察される.我々は,組換えLeHSP21.5が高温下でタンパクを保護する分子シャペロン活性を有する事をin vitroで明らかにした.(p.235-243)
モデルマメ科植物ミヤコグサのスプリットルート法を用いた根粒形成のオートレギュレーションに関する研究
Suzuki A, Hara H, Kinoue T, Abe M, Uchiumi T, Kucho K, Higashi S, Hirsch AM, Arima S (2008) Split-root study of autoregulation of nodulation in the model legume Lotus japonicus. J. Plant Res 121:245-249ミヤコグサのスプリットルート法を用いて解析したところ,根粒形成のオートレギュレーション(AUT)誘導には少なくとも5日必要であり,そのシグナルは感染糸形成を阻害していた.また変異を持つ根粒菌を用いた実験から,根粒菌が固定した窒素はAUTを誘導しないと考えられた.(p.245-249)