JPR和文要旨バックナンバー

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2010年01月号 (Vol.123 No.1)

第123巻の特集について

Tsukaya H (2010)
A series of JPR symposia in Volume 123. J Plant Res 123:1-2

第123巻となる2010年には、JPRシンポジウムを複数企画しています。最初の第1号には葉の発生と進化の特集、次号には細胞質遺伝発見の百周年記念特集と続く予定です。(p.1-2)

葉の発生と進化

Tsukaya H (2010)
Leaf development and evolution. J Plant Res 123:3-6

葉形態形成に関する論文発表は、シロイヌナズナを用いた研究の始まった1990年代初期から年々増加している。20年近く経った現在では、多くの知見が蓄積し、それを背景として葉の形態のエボデボ研究も始まっている。ここではそうした進展を総覧するとともに、本特集でとりあげた総説群とその背景を概観した。(p.3-6)

KNOX1遺伝子による葉の形づくりの制御

Uchida N, Kimura S, Koenig D, Sinha N (2010)
Coordination of leaf development via regulation of KNOX1 genes. J Plant Res 123:7-14

KNOX1遺伝子は、茎頂分裂組織(SAM)での発現を介して、その形成や維持に関わる。一方、葉原基におけるその発現領域や活性の変化は、植物の多様な葉の形づくりに関わる。KNOX1遺伝子のSAMでの役割と葉原基での役割が、如何に分離して制御され得るのか、を論ずる。(p.7-14)

葉形態のQTL解析

Pérez-Pérez J M, Esteve-Bruna D, Micol JL (2010)
QTL analysis of leaf architecture. J Plant Res 123:15-23

作物およびモデル植物のシロイヌナズナにおける葉の形態の自然多型に関するQTL解析について、概説した。トランスクリプトーム解析やメタボローム解析のような、ゲノムレベルでの高速解析を組み合わせることで、QTL座位の責任遺伝子におけるヌクレオチド多型の同定はより容易となる。(p.15-23)

雑草もチェンジ:複葉形成の新たなモデルシステム・ミチタネツケバナ

Canales C, Barkoulas M, Galinha C, Tsiantis M (2010)
Weeds of change: Cardamine hirsuta as a new model system for studying dissected leaf development. J Plant Res 123:25-33

シロイヌナズナに近縁なミチタネツケバナ(Cardamine hirsuta)について、植物の形態の多様性を遺伝学的に理解する上での有力なモデル系として概説した。ミチタネツケバナは複葉を持つ。特にここでは、その複葉形成メカニズムをシロイヌナズナにおけるシュート頂分裂組織の形態形成メカニズムと比較することで、形態進化の仕組みを考察する。(p.25-33)

単面葉の発生進化学的研究:イグサ属植物をモデル系として

Yamaguchi T, Tsukaya H (2010)
Evolutionary and developmental studies of unifacial leaves in monocots: Juncus as a model system. J Plant Res 123:35-41

単面葉とは、単子葉植物でよく見られる葉身が背軸面(裏面)だけで構成される葉であり、独自の進化学的・発生学的研究材料を展開可能な優れた研究材料となりうる。本稿では単面葉研究の背景や意義、そして我々が構築した独自の分子遺伝学的研究システムを紹介する。(p.35-41)

種子植物のシュート頂と葉における遺伝子発現パターン:同形形質か相同形質か

Floyd SK, Bowman JL (2010)
Gene expression patterns in seed plant shoot meristems and leaves: homoplasy or homology? J Plant Res 123:43-55

種子植物の解析から判明してきたシュート頂におけるさまざまな制御遺伝子について、それ自身あるいはそのホモログの働きを葉の発生に関して調べてみると、極めて類似した機能を果たしていることが分かる。特に多くの被子植物の葉におけるmarginal blastozoneの働きはシュート頂の働きと酷似している。その類似について、祖先型のシュート系からの進化を念頭に議論した。(p.43-55)

塩基配列系統解析により見出された熱帯アフリカ,カリブ諸島,ハワイ諸島の間の大陸間分化

Namoff S, Luke Q, Jimnéz F, Veloz A, Lewis CE, Sosa V, Maunder M, Francisco-Ortega J (2010)
Phylogenetic analyses of nucleotide sequences confirm a unique plant intercontinental disjunction between tropical Africa, the Caribbean, and the Hawaiian Islands. J Plant Res 123:57-65

ハワイ諸島、カリブ諸島〜メキシコ、アフリカに分布するヒルガオ科のJacquemontia ovalifolia群の系統関係を核と葉緑体DNA塩基配列に基づいて明らかにした。その結果、この植物群は上記3地域に沿った分化を起こしていることが判明した。(p.57-65)

新規日本産株を用いたコナミドリムシおよび近縁藻類の再定義

Nakada T, Shinkawa H, Ito T, Tomita M (2010)
Recharacterization of Chlamydomonas reinhardtii and its relatives with new isolates from Japan. J Plant Res 123:67-78

コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii;緑藻綱オオヒゲマワリ目)は全ゲノムが解読されたモデル藻類の一種だが、分布や近縁種との分類に混乱がある。今回、コナミドリムシと近縁種 C.globosa の新規日本産培養株が分離され、形態、系譜、系統、交雑の研究から本種と近縁種の種分類が再整理された。(p.67-78)

高緯度北極陸上生態系における生態系純生産量に対する制限要因の季節変化

Uchida M, Kishimoto A, Muraoka H, Nakatsubo T. Kanda H, Koizumi H (2010)
Seasonal shift in factors controlling net ecosystem production in a high Arctic terrestrial ecosystem.J Plant Res 123:79-85

高緯度北極の極地半砂漠において、生態系純生産量(NEP)の制限要因について解析を行った。その結果、夏季には優占するキョクチヤナギの被度と成長、PPFD、降水がNEPの変動要因になっているが、秋季には主にコケの含水量がNEPを左右していることが明らかになった。(p.79-85)

シロイヌナズナの同質倍数体において減数分裂時の無対合により生じた異数性

Wei F, Zhang G-S (2010)
Meiotically asynapsis-induced aneuploidy in autopolyploid Arabidopsis thaliana. J Plant Res 123:87-95

減数分裂時の無対合をもたらすasy1変異をもつシロイヌナズナから、同質4倍体を作出し、染色体の挙動を調べた。その結果、相同染色体の無対合により異数性が生じること、染色体が増える異数性は雌性配偶体から、減る異数性は雄性配偶体から伝わりやすいことが示された。(p.87-95)

コムギ・ライムギ異質倍数体における染色体断片のゲノム間およびゲノム内転移

Fu S, Tang Z, Ren Z (2010)
Inter- and intra-genomic transfer of small chromosomal segments in wheat-rye allopolyploids. J Plant Res 123:97-103

コムギとライムギの交配によって異質倍数体を新たに作出し、世代ごとに染色体構成を調べた。その結果、異質倍数体ではライムギ染色体の末端領域が不安定であり、ゲノム間およびゲノム内での転座が起きていることが示された。(p.97-103)

耐性の異なる品種の比較によるオオムギの耐塩性機構の解明

Ligaba A, Katsuhara M (2010)
Insight into the salt tolerance mechanism in barley (Hordeum vulgare) from the comparisons of cultivars that differ in salt sensitivity. J Plant Res 123:105-118

耐塩性の弱いオオムギ品種I743との比較生理学・分子生物学的研究から、オオムギ品種K305の強い耐塩性は、塩ストレス下で過剰の細胞内Na+を液胞に輸送して区画化する能力が高く、地上部でのNa+増加を抑制し、優れたK+恒常性の維持能力をもつためであることが示された。(p.105-118)

Linum usitatissimumにおけるマイクロサテライトマーカーの開発とその特徴

Deng X, Long S, He D, Li X, Wang Y, Liu J, Chen X (2010)
Development and characterization of polymorphic microsatellite markers in Linum usitatissimum. J Plant Res 123:119-123

アマ(Linum usitatissimum)のマイクロサテライトマーカーを35種類開発して、これらの特性を調べた。その結果、遺伝子座あたりアリル数が2-6、HO が 0.125-0.375、HEが0.233- 0.842であり、有用なマーカーであることがわかった。(p.119-123)

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