2009年11月号 (Vol.122 No.6)
ゼンマイと渓流沿い植物ヤシャゼンマイの雑種集団における遺伝的構造の解析
Yatabe Y, Tsutsumi C, Hirayama Y, Mori K, Murakami N, Kato M (2009)Genetic population structure of Osmunda japonica, rheophilous Osmunda lancea and their hybrids. J Plant Res 122: 585-596
Gap-CpとESTライブラリーに基づいて開発した9つの核マーカーを解析した結果、ヤシャゼンマイとゼンマイの間では比較的明瞭な遺伝的分化がみられた。しかし、F2世代以降の雑種個体が含まれており、浸透性交雑が起こっている可能性が示唆された。(p.585-596)
サクライソウ属(サクライソウ目サクライソウ科)の発生学:他の単子葉植物から独立している証拠
Tobe H, Takahashi H (2009),Embryology of Petrosavia (Petrosaviaceae, Petrosaviales): evidence for the distinctness of the family from other monocots. J Plant Res 122:597-610
近年の分子系統解析は、東~東南アジア固有の腐生植物サクライソウ属は、日本固有植物オゼソウ属とともに単子葉植物内に独立目サクライソウ目をつくることを示している。本研究では雌雄生殖器官の発生学の研究を行い、2属が形態的にも他の単子葉植物と異なることを証明した。(p.597-610)
中国フンシャンダク砂地の砂丘上と低地に生育するヤナギ科(Salix gordejevii)植物の単葉レベルでの可塑性
Su H, Li Y, Lan Z, Xu H, Liu W, Wang B, Biswas DK, Jiang G (2009)Leaf-level plasticity of Salix gordejevii in fixed dunes compared with lowlands in Hunshandake Sandland, North China. J Plant Res 122:611-622
砂丘上の個体の葉は低地の個体と比較して、面積が半分以下で、葉厚や表面のワックス層が厚く、密な毛に覆われ、表皮細胞が小さく、高濃度のプロリン、糖類が含まれていた。水ポテンシャルや光合成特性にも差があった。生育環境による葉の大きな可塑性が乾燥地での適応性を高めていた。(p.611-622)
24℃を下回ると起こるセーシェル産トウガラシの劇的な葉の形態変化
Koeda S, Hosokawa M, Kang BC, Yazawa S (2009)Dramatic changes in leaf development of the native Capsicum chinense from the Seychelles at temperatures below 24°C. J Plant Res 122:623-631
セーシェル産トウガラシを日本で栽培すると季節的な葉の発達異常が起こることを見出した。葉の形態異常は温度依存的に生じ、24℃を下回ると起こることを明らかにした。また、葉の形態異常には少なくとも細胞分裂活性の変化および分裂方向の異常が関与すると考えられた。 (p.623-631)
DREBタンパク質の転写抑制因子であるDEAR1はシロイヌナズナの植物防御と凍結ストレス応答に関与する
Tsutsui T, Kato W, Asada Y, Sako K, Sato T, Sonoda Y, Kidokoro S, Yamaguchi-Shinozaki K, Tamaoki M, Arakawa K, Ichikawa T, Nakazawa M, Seki M, Shinozaki K, Matsui M, Ikeda A, Yamaguchi J (2009)DEAR1, a transcriptional repressor of DREB protein that mediates plant defense and freezing stress responses in Arabidopsis. J Plant Res 122: 633-643
DREBドメインとEARモチーフを持つ転写抑制因子DEAR1は低温応答と病原体応答の両方に関与することが明らかとなった。すなわち、DEAR1は生物的ストレスおよび非生物的ストレスのシグナル伝達経路においてクロストークの鍵となる抑制型転写制御分子と結論した。(p.633-643)
発熱植物ザゼンソウの肉穂花序におけるユビキノンプールのin vivoにおける還元状態
Kamata T, Matsukawa K, Kakizaki Y, Ito K (2009)In vivo redox state of the ubiquinone pool in the spadices of the thermogenic skunk cabbage, Symplocarpus renifolius. J Plant Res 122:645-649
ザゼンソウの肉穂花序におけるユビキノン(UQ)のin vivoにおける還元状態を解析した。その結果、UQ9およびUQ10の還元レベルは肉穂花序における発熱の程度に影響されることなく、それぞれ40-75%および35-60%の範囲にあることが明らかとなった。(p.645-649) (p.645-649)
機械刺激はシロイヌナズナの支持組織構築に関与する遺伝子群の発現を上昇させる
Koizumi K, Yokoyama R, Nishitani K (2009)Mechanical load induces upregulation of transcripts for a set of genes implicated in secondary wall formation in the supporting tissue of Arabidopsis thaliana. J Plant Res 122:651-659
支持組織構築における機械刺激の役割を調べるために、花茎重量の半分の荷重を花茎に取り付けて遺伝子発現を調べたところ、二次壁肥厚に関わる酵素や転写因子の遺伝子発現が上昇した。この結果は、支持組織の構築制御に、荷重を感知する機構が関与することを示唆している。(p.651-659)