JPR和文要旨バックナンバー

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2012年03月号 (Vol.125 No.2)

ゼニゴケ類でみられる無極性胞子母細胞の進化:分子系統解析からわかること

Shimamura M, Itouga M, Tsubota H (2012) Evolution of apolar sporocytes in marchantialean liverworts: implications from molecular phylogeny. J Plant Res 125:197-206

タカネゼニゴケとチチブゼニゴケで、コケ植物では例外的な無極性胞子母細胞(核分裂に先立つ葉緑体の配分や細胞質のくびれがない)を報告した。分子系統解析は、無極性胞子母細胞がゼニゴケ類の一部で起きた胞子体組織の退化に伴い、多系統的に獲得されたことを示唆した。(p.197-206)

日本の落葉広葉樹林構成種4種についての葉緑体DNA変異を用いた比較分子系統地理学的研究

Iwasaki T, Aoki K, Seo A, Murakami N (2012) Comparative phylogeography of four component spe-cies of deciduous broad-leaved forests in Japan based on chloroplast DNA variation. J Plant Res 125: 207-221

日本の落葉広葉樹林構成種4種について葉緑体DNAにおける遺伝構造を調べた結果、日本海側地域、関東地域、南西日本地域の3地域間での遺伝的分化が共通して見られた。他の結果とも合わせ、最終氷期最盛期に落葉広葉樹林はこれら3地域を更に細分化した6地域に分断され、氷期後にそれらから海岸線に沿った分布拡大や高標高地域への分布縮小が起きたと考察した。(p.207-221)

日本列島のミヤマハタザオは集団の分断化によって遺伝子型がランダムに固定した

Higashi H, Ikeda H, Setoguchi H (2012) Population fragmentation causes randomly fixed genotypes in populations of Arabidopsis kamchatica in the Japanese Archipelago. J Plant Res 125: 223-233

周極高山植物の南端集団は、後氷期の温暖化によって集団が分断化した影響を強く受けたと考えられる。本稿は、ミヤマハタザオの系統地理解析によって、その影響を明らかにした。ほとんどの集団が独自な遺伝子型のみを保有していたことは、過去に強い遺伝的浮動が生じて遺伝子型が固定したことを示している。(p.223-233)

葉緑体DNA5領域を用いた中国産ホウライシダ属の系統解析

Lu J-M, Wen J, Lutz S, Wang Y-P, Li D-Z (2012) Phylogenetic relationships of Chinese Adiantum based on five plastid markers. J Plant Res 125: 237-249

ホウライシダ属は過去の分子系統学的研究で単系統性が疑問視されていたが、本研究において単系統であることが示された。また中国における従来の分類体系は系統を反映していないことがわかった。このことは、これまでの分類に用いられてきた葉形に収斂進化が起きていることを示している。(p.237-249)

旱魃がスイスの草原構成種の生理的特性に及ぼす影響

Signarbieux C, Feller U (2012) Effects of an extended drought period on physiological properties of grassland species in the field. J Plant Res 125: 251-261

スイスの農業地域の多くは標高別に様々な草本植生によって覆われている。今後増加すると予想される熱波や旱魃の影響を評価した。低地では、広葉草本とマメ科植物では光合成特性に変化がなかったが、イネ科草本では乾燥に応じて低下した。高地では、このような差は生じなかった。(p.251-261)

ヤマナラシのイソプレン放出能力は、落葉期の環境変化に順化できるか?

Sun Z, Copolovici L, Niinemets Ü (2012) Can the capacity for isoprene emission acclimate to environ-mental modifications during autumn senescence in temperate deciduous tree species Populus tremu-la? J Plant Res 125: 263-274

ヤマナラシ葉からのイソプレン放出とその前駆物質、光合成、及び炭素含有量の変化を、細胞壁分解の指標となるメタノール放出と同時に、秋の落葉期に測定した。その程度は夏よりは小さいものの、秋の老化過程の葉でもイソプレン放出能力は環境順化を示し、ストレス影響も示した。(p.263-274)

開花後異なる窒素条件で生育したダイズの種子生産における窒素要求と窒素供給

Kinugasa T, Sato T, Oikawa S, Hirose T (2012) De-mand and supply of N in seed production of soybean (Glycine max) at different N fertilization levels after flowering. J Plant Res 125: 275-281

ダイズの種子生産における窒素要求と窒素供給を調べ、繁殖期間中の窒素獲得が種子への窒素供給を通し種子収量を直接決めていることを示した。また、窒素施肥は植物の成長を促進させると同時に種子生産における窒素要求を増加させ、種子収量に間接的にも影響していた。(p.275-281)

コムギとライムギの異質倍数性の体細胞での、不均一な染色体の分離と異質ゲノム間の転座

Tang Z, Fu S, Yan B, Zhang H, Ren Z (2012) Unequal chromosome division and inter-genomic translocation occurred in somatic cells of wheat-rye allopolyploid. J Plant Res 125: 283-290

コムギとライムギの異質倍数性個体を作出し、in-situハイブリダイゼーション法を用いて4世代の染色体の挙動を調査した結果、様々な転座や染色体の不均一な分離が観察された。これら異質倍数性個体における異常な染色体の挙動が、染色体の削除、減少を導いているのかもしれない。(p.283-290)

キュウリの根の細胞膜H+-ATPaseの低温に対する応答

Janicka-Russak M, Kabała K, Wdowikowska A, Kłobus G (2012) Response of plasma membrane H+-ATPase to low temperature in cucumber roots. J Plant Res 125: 291-300

キュウリを10℃で3日間低温処理すると細胞膜H+-ATPase活性が低下したが、その後回復した。活性はCsHAのmRNA量と相関したが、リン酸化状態に変化は見られなかった。低温でH2O2が増加し、H2O2でH+ポンプの発現が誘導されたことから、H2O2が関与するのかもしれない。(p.291-300)

暗黒条件下において葉緑体は最も近い細胞壁側面へと移動する

Tsuboi H, Wada M (2012) Chloroplasts move towards the nearest anticlinal walls under dark condition. J Plant Res 125: 301-310

白色光下で培養したホウライシダ前葉体の、暗黒下に移した後の葉緑体移動経路を解析した。葉緑体は最初の5時間ほどは、細胞周囲の最も近い細胞壁側面へ向かって速く直線的に移動するが、その後24-36時間ほどでは、方向が定まらないゆっくりとした動きで細胞側面に移動した。(p.301-310)

イネといもち病菌の相互作用を明らかにするためのイネの細胞間隙液を用いたプロテオーム解析の利用

Shenton MR, Berberich T, Kamo M, Yamashita T, Taira H, Terauchi R, (2012) Use of intercellular washing fluid to investigate the secreted proteome of the rice-Magnaporthe interaction. J Plant Res 125: 311-316

いもち病菌の菌糸とイネの細胞の初期の相互作用はアポプラストで起こる。今回、細胞間隙液を抽出し、プロテオーム解析を行なう研究手法を確立し、数種の病原菌感染の親和性もしくは非親和性に関わるタンパクを検出することに成功した。なかでも、いもち病感染後12時間で量が変化する3つのDUFドメインを保持するタンパクを見いだした。 (p.311-316)

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