JPR和文要旨バックナンバー

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2012年01月号 (Vol.125 No.1)

樹木における環境ストレス応答と順応:長寿生存の秘訣

Osakabe Y, Kawaoka A, Nishikubo N, Osakabe K (2012) Response and adaptation to environmental stresses in woody plants; key to survive and longevity. J Plant Res 125: 1-10

環境ストレスは植物の生長や生産性を低下させる。長期にわたり繰り返しストレスをうける樹木は、この影響を低減させるための順応メカニズムを必要とする。本稿は樹木における環境ストレス応答と順応機構について近年の研究に焦点をあて、木部形成に及ぼす影響と細胞壁合成との相互作用について述べる。(p.1-10)

シアノバクテリアの強光順化:遺伝子発現から生理的応答まで

Muramatsu M, Hihara Y (2012) Acclimation to high-light conditions in cyanobacteria: from gene expression to physiological responses. J Plant Res 125:11-39

本総説では、シアノバクテリア Synechocystis sp. PCC 6803に強光照射した際の遺伝子発現変動について、複数の研究グループのDNAマイクロアレイ解析結果を比較して議論するとともに、強光下で観察される各種の順化応答に関する最新知見を概説した。(p.11-39)

マメ科植物の珠柄内部構造の多様性

Endo Y (2012) Anatomical diversity of funicles in Leguminosae. J Plant Res 125:41-53

マメ科59種の珠柄の内部構造を比較観察した。珠柄の維管束は並立、外篩包囲、または外木包囲維管束であった。中でも、並立維管束は珠柄基部から先端にかけ約90度捻れていた。このことは、発達初期果皮側を向いていた珠孔を花柱側に向くように種子が回転した結果と推定された。(p.41-53)

中国のユリ科ユリ連の染色体多様性と進化

Gao Y-D, Zhou S-D, He X-J, Wan J (2012) Chromosome diversity and evolution in tribe Lilieae (Liliaceae) with emphasis on Chinese species. J Plant Res 125: 55-69

中国産のユリ科ユリ連の5属について、ITS分子系統解析結果と染色体核型の比較を行ない、このグループにおける核型の特徴とその進化の様式を明らかにした。核型は5つの属の間ではっきりと異なっており、その進化方向はそれぞれの属で独自である事がわかった。(p.55-69)

土壌水分条件に応じたアカメガシワ幼木の植食者に対する直接防御と間接防御の変異

Yamawo A, Hada Y, Suzuki N (2012) Variations in direct and indirect defenses against herbivores on young plants of Mallotus japonicus in relation to soil moisture conditions. J Plant Res 125: 71-76

植物の複数の防御形質における水分条件に応じた変異は明らかにされていない。今回、直接防御形質と間接防御形質を備えるアカメガシワ(トウダイグサ科)幼木を異なる水分条件下で栽培し、各防御形質の変異を調べた。その結果、乾燥条件下では直接防御形質を、湿潤条件下では間接防御形質を発達させる事が明らかになった。(p.71-76)

水分供給の時間的不均質性・栄養塩量・個体群密度が草本植物の成長におよぼす影響

Hagiwara Y, Kachi N, Suzuki J-I (2012) Combined effects between temporal heterogeneity of water supply, nutrient level, and population density on biomass of four broadly distributed herbaceous species. J Plant Res 125:77-83

水分供給の時間的不均質性が草本植物に及ぼす影響について、ホソムギ、ギョウギシバ、ヨモギ、シロツメクサを用いて種間比較を行なった。時間的に均質な給水で成長が大きい傾向が種間で共通した。一方で、水不均質性の影響の強さ、水不均質性と栄養塩量・密度との相互作用は種間で異なった。(p.77-83)

ノボタン科Lavoisiera campos-portoanaの葉における形態生理学的な違いが水欠乏時の乾燥耐性を高める

Franca MGC, Prados LMZ, de Lemos-Filho JP, Ranieri BD, Vale FHA (2012) Morphophysiological differences in leaves of Lavoisiera campos-portoana (Melastomataceae) enhance higher drought tolerance in water shortage events. J Plant Res 125:85-92

ブラジルの季節的に乾燥しやすい岩場に生育するノボタン科の植物は、有毛と無毛の葉を同じ枝に着ける。有毛の葉は光合成活性が高かった。どちらの葉も乾燥ストレスに対して同様に生理活性を低下させ、回復させたが、無毛の葉は有毛の葉よりもより早い段階で予防的に浸透圧調整を行なっていた。(p.85-92)

ヒマラヤ地域の高度勾配に沿った乾性高山植物のバイオマスと種多様性の変化

Namgail T, Rawat GS, Mishra C, van Wieren ES, Prins HHT (2012) Biomass and diversity of dry alpine plant communities along altitudinal gradients in the Himalayas. J Plant Res 125:93-101

標高と植物多様性および植物体量との関係を西ヒマラヤのラダックLadakhで調べた。標高と植物体量および多様性との間には一山型の関係があった。種多様性は、山地においては標高5100m、ラダック全域では標高3800mあたりでピークに達した。放牧と降水量の影響の重要性が示唆された。(p.93-101)

日本の冷温帯林における多肉性果実の特徴-欧米と比較したときの特異性

Masaki T, Takahashi K, Sawa A, Kado T, Naoe S, Koike S, Shibata M (2012) Fleshy fruit characteristics in a temperate deciduous forest of Japan: how unique are they? J Plant Res 125: 103-114

日本の冷温帯林では、特に大きなサイズの果実は哺乳類のみが採食し、その他の樹種は鳥類と哺乳類の両方が採食していた。大きい果実の果肉は脂質が少ないが、小さい果実の果肉は脂質に富んでいた。本研究では、鳥類の秋の渡りの時期に、果実の脂質濃度が高い傾向は認められなかった。日本では、樹上で果実採食を行ない種子を散布する定住性の哺乳類が、果実の形質の進化に関わってきたのかもしれない。(p.103-114)

抗菌性ペプチドmetchnikowinを発現させた形質転換オオムギでは、ウドンコ病菌感染時の防御遺伝子発現が亢進する

Rahnamaeian M, Vilcinskas A (2012) Defense gene expression is potentiated in transgenic barley expressing antifungal peptide metchnikowin throughout powdery mildew challenge. J Plant Res 125:115-124

抗菌性ペプチド(AMP)metchnikowinを発現させ、ウドンコ病菌耐性が高まった形質転換オオムギ植物体における遺伝子の発現変動を調べ、種々の植物免疫系の変化を解析したところ、AMPの発現により植物の全身獲得抵抗性(SAR)や、誘導全身抵抗性(ISR)等の経路が亢進されることが明らかとなった。(p.115-124)

未知のゲノムのマッピングⅡ:マカロネシア諸島の木性ノゲシ属における遺伝的構造

Kim SC (2012) Mapping unexplored genomes II: genetic architecture of species differences in the woody Sonchus alliance (Asteraceae) in the Macaronesian Islands. J Plant Res 125:125-136

マカロネシア諸島で急速な適応放散を遂げたキク科ノゲシ属の木性種について、AFLPマーカーを用いてQTLマッピングを行なった。その結果、寄与度が低い遺伝子が多数関与することによって、様々な形態が生み出されていると考察された。(p.125-136)

トウガラシ品種Sy-2の防御応答は24℃以下の温度で誘導される

Koeda S, Hosokawa M, Kang BC, Tanaka C, Choi D, Sano S, Shiina T, Doi M, Yazawa S (2012) Defense response of a pepper cultivar cv. Sy-2 is induced at temperatures below 24°C. J Plant Res 125:137-145

20℃でセーシェル産トウガラシを育成すると、防御応答遺伝子の発現およびサリチル酸の蓄積が病原体の非感染下で誘導された。また、細菌に対する抵抗性は上昇したが、糸状菌に対する抵抗性は見られなかった。以上より、Sy-2の防御応答は温度依存的に誘導されると考えられた。(p.137-145)

シロイヌナズナの原形質膜型アクアポリンの過酸化水素透過性

Hooijmaijers C, Rhee JY, Kwak KJ, Chung GC, Horie T, Katsuhara M, Kang H (2012) Hydrogen peroxide permeability of plasma membrane aquaporins of Arabidopsis thaliana. J Plant Res 125:147-153

シロイヌナズナPIPアクアポリン(AtPIPs)のうちAtPIP2サブファミリーの発現だけがH2O2処理した根で低下した。酵母細胞による実験からAtPIP2;2など4つのPIP2分子種のみがH2O2輸送活性を持つことが示された。このような発現と輸送の両方の制御が、植物のH2O2応答において重要であると考えられた。(p.147-153)

イネにおいては、渇水により誘導されるプロリンの蓄積には一酸化窒素の上昇が必要でなく、一酸化窒素は蒸散を抑制することにより渇水ストレスを軽減している

Xiong J, Zhang L, Fu G, Yang Y, Zhu C, Tao L (2012) Drought-induced proline accumulation is uninvolved with increased nitric oxide, which alleviates drought stress by decreasing transpiration in rice. J Plant Res 125:155-164

植物におけるプロリンの蓄積は渇水ストレスの回避反応として知られている。また、一酸化窒素の投与はプロリンの蓄積を増加させることや、渇水ストレスを含む種々のストレス回避反応を導くことが知られている。以上のことから、渇水ストレス回避反応のプロリン蓄積に一酸化窒素が分子シグナルとして必要であることが疑われてきたが、これまでその詳細は不明であった。本研究の結果、渇水により、プロリンと一酸化窒素の含量が蓄積するものの、渇水ストレスによるプロリン蓄積には一酸化窒素が必要でないことが示された。また一酸化窒素は蒸散を抑制することにより、渇水ストレスを軽減していることが示された。(p.155-164)

Potentilla atrosanguinea(ベニバナキジムシロ)のsuperoxide dismutase(SOD)を過剰発現させたシロイヌナズナの銅ストレス下における発芽時のタンパク質の変動

Gill T, Dogra V, Kumar S, Ahuja PS, Sreenivasulu Y (2012) Protein dynamics during seed germination under copper stress in Arabidopsis over-expressing Potentilla superoxide dismutase. J Plant Res 125:165-172

ベニバナキジムシロ由来のSODを過剰発現させたシロイヌナズナの種子は、銅ストレス下における発芽が促進された。二次元電気泳動質量分析法により、野生型株と形質転換体の双方において、発芽時に量的変動を示すタンパク質を解析し、発現させたSODの酸化ストレス応答に対する影響を調べた。(p.165-172)

乾燥ストレスとサリチル酸処理に応答するコムギ4品種の水分状態と浸透調節溶質の変化

Loutfy N, El-Tayeb MA, Hassanen AM, Moustafa MFM, Sakuma Y, Inouhe M (2012) Changes in the water status and osmotic solute contents in response to drought and salicylic acid treatments in four different cultivars of wheat (Triticum aestivum). J Plant Res 125:173-184

コムギ4品種の乾燥耐性を高めるサリチル酸(SA)の作用と有機•無機溶質(糖•プロリン•ミネラル)の濃度変化を調べた。SAは全身的なミネラル集積と、特に根で顕著な糖濃度の上昇を促した。しかし、プロリン濃度は逆に減少し、SAによる乾燥耐性機構に直接関与しないことが示された。(p.173-184)

Ca2+ とpHのエステル体蛍光指示薬のナシ花粉への高速導入法

Qu H, Jiang X, Shi Z, Liu L, Zhang S (2012) Fast loading ester fluorescent Ca2+ and pH indicators into pollen of Pyrus pyrifolia. J Plant Res 125:185-195

Ca2+ 感受性エステル体蛍光プローブFluo-3/AMのナシ花粉への導入を、3つの異なる温度条件下で検討した。その結果、高温(37℃)条件下では、導入時間も短縮でき、花粉への蛍光指示薬導入に最も適している事がわかった。この方法は他の蛍光指示薬のAM体でも有効であった。 (p.185-195)

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