JPR和文要旨バックナンバー

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2012年07月号 (Vol.125 No.4)

ゲジゲジシダの2倍体集団における部分稔性を示す2型の出現

Nakato N, Ootsuki R, Murakami N, Masuyama S (2012) Two types of partial fertility in a diploid population of the fern Thelypteris decursive-pinnata (Thelypteridaceae). J Plant Res 125:465-474

ゲジゲジシダ2倍体は有性生殖種であるが、今回かなりの頻度で不稔胞子を形成する個体からなる特異な集団が見つかった。それらの部分稔性個体は、減数分裂で染色体が通常どおり対合するタイプと、完全に不接合となるタイプとに分けられる。どちらのタイプも低頻度で非減数性の胞子を形成した。(p.465-474)

日本産ヤブカラシ種複合体(ブドウ科)2倍体・3倍体系統に見られるヘテロ接合性の起源に関する1仮説

Tsukaya H, Ishikawa N, Okada H (2012) A hypothesis on the origin of genetic heterozogosity in diploids and triploids in Japanese Cayratia japonica species complex (Vitaceae). J Plant Res 125:475-481

日本産のヤブカラシとヒイラギヤブカラシには、花粉稔性の低い2倍体と稔性を欠く3倍体とが認められる。これらについて分子遺伝学的解析を進めた結果、両種共に、解析した座位についてほとんどがヘテロ接合であること、3倍体系統は一つのアリルを2倍体系統と共有していることが判明した。これらのことから、日本産の個体群は、遺伝的に分化した系統間で交雑した雑種系統に由来し、3倍体系統の出現は、その不完全稔性に起因すると推定された。(p.475-481)

ダイズ野生種ツルマメにおけるクリプトクロム遺伝子の多型と緯度傾度に対応した光周性花成との非相関性

Ishibashi N, Setoguchi H (2012) Polymorphism of DNA sequences of cryptochrome genes is not associ-ated with the photoperiodic flowering of wild soybean along a latitudinal cline. J Plant Res 125:483-488

ダイズ野生種ツルマメ(Glycine soja)はダイズ(Glycine max)と同様に強い光周期応答性を示す。本研究ではダイズで光周性花成に機能する光受容体CRY1a遺伝子をはじめ、全てのクリプトクロム遺伝子(CRY1a-d, CRY2a-c)の多型解析を行なった。その結果、ツルマメではクリプトクロム遺伝子の多型と光周期花成には相関がないことが判明した。(p.483-488)

葉緑体及び核DNA配列に基づく広義トケイソウ科(キントラノオ目)の分子系統解析

Tokuoka T (2012) Molecular phylogenetic analysis of Passifloraceae sensu lato (Malpighiales) based on plastid and nuclear DNA sequences J Plant Res 125:489-497

広義トケイソウ科に含まれる25属42種について分子系統解析を行なった。その結果、狭義トケイソウ科と旧ツルネラ科が姉妹群をつくり、これが旧マレシェルビア科と姉妹群となることが明らかになった。科内の属間系統もほぼ明らかになった。この系統樹を基に幾つかの形態形質の進化について議論した。(p.489-497)

野生絶滅種シビイタチシダ(オシダ科)の起源

Ebihara A, Matsumoto S, Kato M (2012) Origin of Dryopteris shibipedis (Dryopteridaceae), a fern species extinct in the wild. J Plant Res 125:499-505

シビイタチシダは2007年版環境省レッドリストで絶滅種として扱われたが、実際には筑波実験植物園が栽培株を保有していた。本種の起源を探るため、核PgiC領域の塩基配列を解析した結果、ギフベニシダとオオイタチシダの交雑に起源することが示唆された。(p.499-505)

コムギから放出される亜酸化窒素量と形態生理学的・解剖学的な要因との関係

Baruah KK, Gogoi B, Borah L, Gogoi M, Boruah R (2012) Plant morphophysiological and anatomical factors associated with nitrous oxide flux from wheat (Triticum aestivum). J Plant Res 125:507-516

コムギからの亜酸化窒素(N2O)の放出に及ぼす要因について検討した。その結果、土壌温度や有機炭素量と相関があった。さらに蒸散量とは高い相関があり、道管を通じた水輸送と連動したN2O輸送の重要性が示唆された。葉や葉鞘で気孔密度の高い品種では、蒸散量とN2Oの放出量が多かった。(p.507-516)

アカマツの種子形成と充実に受粉の有無と花粉の質がおよぼす影響

Iwaizumi MG and Takahashi M (2012) Effects of pollen supply and quality on seed formation and mat-uration in Pinus densiflora. J Plant Res 125:517-525

アカマツ個体を対象に4種類の受粉処理(自家・他家・自然受粉、無受粉)を行なった。無受粉では種子は全く形成されなかった。自家受粉では、充実種子率において他家・自然受粉よりも大きく下回った。種子の成熟における2プロセスのうち、種子形成には受粉の有無が影響し、種子充実には受粉した花粉の質が大きく影響することが示唆された。(p.517-525)

雌性両性花を持つLigularia virgaurea(キク科)の複総状花序内に見られる花の性配分、雌性成功度および種子被食度の変異

Zhang G, Xie T, Du G (2012) Variation in floral sex allocation, female success, and seed predation within racemiform synflorescence in the gynomonoecious Ligularia virgaurea (Asteraceae). J Plant Res 125:527-538

雌性両性花のLigularia virgaurea(キク科)では、複総状花序の基部にある頭状花序ほど花数が多く、両性花の比率も高くなる。本種は両性花に偏った被食の影響を受けやすく、これは頂部にある頭状花序ほど大きい。したがって、複総状花序の特徴が本種の繁殖成功を助けているのだろう。(p.527-538)

富士山の森林限界の上昇の原因は自然回復か、それとも気候変動か?

Sakio H, Masuzawa T (2012) The advancing timberline on Mt. Fuji: natural recovery or climate change? J Plant Res 125:539-546

富士山森林限界の動態を21年間調査した結果、森林限界は急速に上昇していた。樹齢と実生の定着の解析から、カラマツが最初に裸地に侵入し、その後トウヒ、シラビソの順で草本のパッチ内に定着していた。森林限界上昇の原因は噴火後の植生の自然回復のほかに気候変動の影響も示唆された。(p.539-546) 【2013年 JPR論文賞受賞】

シロイヌナズナ突然変異体の帯化側根が示す外側のパターン形成の頑健性を反映した組織構成

Otsuka K, Sugiyama M (2012) Tissue organization of fasciated lateral roots of Arabidopsis mutants sug-gestive of the robust nature of outer layer patterning. J Plant Res 125:547-554

シロイヌナズナの温度感受性変異体rrd1rrd2rid4は、高温条件下で帯化した側根を形成する。これらの帯化側根の組織構成を調べたところ、側根原基の拡大に対応して中心柱の細胞列は著しく増えていたものの、表皮・皮層の細胞層の数には変化がなかった。この結果は、根の放射パターンの構築に外側のパターンがより頑健となるような仕組みが働いていることを示唆する。(p.547-554)

タバコ培養細胞BY-2の機械刺激応答性Ca2+透過チャネル候補NtMCA1/2の細胞増殖及び機械刺激・浸透圧変化応答性遺伝子発現制御における役割

Kurusu T, Yamanaka T, Nakano M, Takiguchi A, Ogasawara Y, Hayashi T, Iida K, Hanamata S, Shino-zaki K, Iida H, Kuchitsu K (2012) Involvement of the putative Ca2+-permeable mechanosensitive channels, NtMCA1 and NtMCA2, in Ca2+ uptake, Ca2+-dependent cell proliferation and mechanical stress-induced gene expression in tobacco (Nicotiana tabacum) BY-2 cells. J Plant Res 125:555-568

タバコ培養細胞BY-2株の機械刺激応答性Ca2+透過チャネル候補NtMCA1/2を同定した。NtMCA1/2はG1期に強く発現し、細胞膜、細胞板、細胞壁との界面等に局在し、Ca2+を介した細胞増殖や、機械刺激・浸透圧変化応答性の遺伝子発現制御に関与する可能性が判明した。(p.555-568)

ダイズのホスホリパーゼD遺伝子ファミリーのゲノム解析とGmPLDαタンパク質の特徴

Zhao J, Zhou D, Zhang Q, Zhang W (2012) Genomic analysis of phospholipase D family and characteriza-tion of GmPLDαs in soybean (Glycine max). J Plant Res 125:569-578

植物の成長、発生、ストレス応答の制御で重要なホスホリパーゼD遺伝子ファミリーは、ダイズでは18遺伝子によって構成され、それぞれ発現の組織特異性と塩ストレス応答を異にした。大腸菌発現GmPLDαは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロールを基質とした。(p.569-578)

クラミドモナスでのマイクロボディの可視化

Hayashi Y, Shinozaki A (2012) Visualization of microbodies in Chlamydomonas reinhardtii. J Plant Res 125:579-586

緑藻クラミドモナス細胞内にあるペルオキシソーム様オルガネラには、一般的にペルオキシソームに存在する酵素の多くが存在せず、カタラーゼもないことからマイクロボディと呼ばれる。そこで、緑色蛍光タンパク質(GFP)にペルオキシソーム輸送シグナル(PTS)配列を付加し、クラミドモナス細胞内で発現させた結果、緑色蛍光タンパク質は粒状のオルガネラに蓄積した。電子顕微鏡像と蛍光顕微鏡像の比較解析から、PTSを付加した GFPは確かにマイクロボディに蓄積しており、緑藻のマイクロボディは高等植物のペルオキシソームで機能するPTSタンパク質輸送機構を持っていることが明らかとなった。(p.579-586)

炭酸塩耐性単子葉植物Puccinellia tenuifloraの細胞膜及び液胞膜型Na+/H+アンチポーターのクローニングと解析

Kobayashi S, Abe N, Yoshida KT, Liu S, Takano T (2012) Molecular cloning and characterization of plasma membrane- and vacuolar-type Na+/H+ antiporters of an alkaline-salt-tolerant monocot, Puccinellia tenuiflora. J Plant Res 125:587-594

炭酸塩耐性植物Puccinellia tenuifloraの細胞膜型・液胞膜型Na+/H+アンチポーターの単離と解析を行なった。発現応答はイネとの耐塩性機構の違いを示唆したが、一方で炭酸塩応答は両種に共通した特徴を持っていた。またイネに過剰発現させると耐塩性とK+/Na+比が上がった。(p.587-594)

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