2012年09月号 (Vol.125 No.5)
同所的に分布するショウガ科Roscoea属2種の交雑についての形態学的及び分子学的検証
Du G-H, Zhang Z-Q, Li Q-J (2012) Morphological and molecular evidence for natural hybridization in sympatric population of Roscoea humeana and R. cautleoides (Zingiberaceae). J Plant Res 125:595-603中国の雲南省北西部には2種のRoscoeaが同所的に生育する集団があり、その中間的な個体も存在する。これらについて形態計測とHAT-RAPD法での比較を行ない、同所的に生育する2種の交雑が起こっていることを明らかにした。NewHybridsによる解析の結果、交雑個体はほとんどがF1であった。(p.595-603)
無配生殖型ヤブソテツ(オシダ科)における遺伝的分離
Ootsuki R, Sato H, Nakato N, Murakami N (2012) Evidence of genetic segregation in the apogamous fern species Cyrtomium fortune (Dryopteridaceae). J Plant Res 125:605-612シダ植物の無配生殖は、正常な減数と受精の2つの過程が生活環から抜け落ちているため、子孫はみな親と遺伝的に同一になると考えられる。しかしヤブソテツ(オシダ科)では、親−配偶体間/次世代胞子体間の遺伝的比較の結果から子孫の中に遺伝的分離が生じていることがわかった。(p.605-612)
絶滅危惧シダ植物アオグキイヌワラビの全個体ジェノタイピングによる遺伝的特性解析
Izuno A, Takamiya M, Kaneko S, Isagi Y (2012) Ge-netic variation and structure of the endangered Lady Fern Athyrium viridescentipes based on ubiq-uitous genotyping. J Plant Res 125:613-618絶滅危惧シダ植物アオグキイヌワラビの野生に残存する103個体全てについて、マイクロサテライトマーカー13座を用いて遺伝子型決定を行なった。本種に保持されている遺伝的多様性は近縁種よりも有意に低く、67%の個体が同じ遺伝子型を保有していた。これらの結果をもとに本種の保全方法についても考察を行なった。(p.613-618)
2つの核遺伝子と3つの葉緑体遺伝子を用いたニシキギ属(ニシキギ科)の系統解析
Mu X-Y, Zhao L-C, Zhang Z-X (2012) Phylogeny of Celastrus L. (Celastraceae) inferred from two nuclear and three plastid markers. J Plant Res 125:619-630ニシキギ属の29分類群について、核のETS、ITS及び葉緑体のpsbA-trnH、rpl16、trnL-Fの配列を用いた系統解析を行なった。幹生集散花序や三日月形種子が系統を反映する派生形質であること、Subgenus RacemocelastrusとSubgenus Celastrus Series Paniculaiは多系統群であることなどが明らかになり、分類学的な問題点のいくつかが解決された。(p.619-630)
雌雄異株植物ヤチヤナギ開花ラメットの見かけの性比に土壌水の化学性が与える影響
Mizuki I, Kume A, Chiwa M, Uehara Y, Ishida K (2012) Impact of soil water chemistry on the apparent sex ratio of the flowering ramets of the dioecious plant Myrica gale var. tomentosa. J Plant Res 125:631-641雌雄異株植物ヤチヤナギ15集団の性比と開花率及び生育地の土壌水の化学性を調査した。見かけの開花ラメット性比は土壌水中のカリウムイオン濃度に、見かけの繁殖ラメット率は土壌水中の窒素とカリウムイオン濃度に伴い、変化することが明らかとなった。(p.631-641)
汎用オーキシン応答レポーター系を用いたゼニゴケオーキシン依存的転写活性化の可視化
Ishizaki K, Nonomura M, Kato H, Yamato KT, Kohchi K (2012) Visualization of auxin-mediated transcriptional activation using a common auxin-responsive reporter system in the liverwort Marchantia polymorpha. J Plant Res 125:643-651オーキシンは植物の発生を制御する主要な植物ホルモンである。今回、基部陸上植物ゼニゴケのオーキシン応答を、ダイズ由来のオーキシン誘導性プロモーターを用いて間接的にモニターできることを示し、ゼニゴケにおけるオーキシン応答機構とその役割について考察した。(p.643-651) 【2013年 JPR論文賞受賞】
トウモロコシのグリシンリッチRNA結合タンパク質MA16はリボヌクレオチド(鎖)と強固に結合している
Freire MA (2012) The Zea mays glycine-rich RNA-binding protein MA16 is bound to a ribonucleotide(s) by a stable linkage. J Plant Res 125:653-660トウモロコシのグリシンリッチRNA結合タンパク質MA16は、[32P]リン酸のin vivo投与によって標識されることから、翻訳後修飾でリン酸化されると考えられていた。しかし各種の処理に対する感受性を詳しく調べた結果、MA16の[32P]標識はリン酸化に由来するのではなく、強固に結合したリボヌクレオチド(鎖)によることが示された。(p.653-660)
シロイヌナズナの葉の形態形成に必要なASYMMETRIC LEAVES2 タンパク質は、その特定のアミノ酸配列を介して、細胞分裂周期の M 期に恒常的にスペックル状に存在する
Luo L, Sasabe M, Kurihara D, Higashiyama T, Machida Y (2012) Arabidopsis ASYMMETRIC LEAVES2 protein required for leaf morphogenesis consistently forms speckles during mitosis of tobacco BY-2 cells via signals in its specific sequence. J Plant Res 125:661-668AS2 タンパク質の大部分は核に局在している。タバコ培養細胞 BY-2 では、AS2は細胞周期のM 期には小体状に存在した。M 期の間に、同数の小体が正確に両娘細胞に分配され、細胞周期の終了とともに小体は消失した。また、小体形成には AS2 内のシステインを含むドメインが必要であった。植物細胞には、このようなAS2の特徴的な分配の仕組みが存在し、葉の形態形成に関わっていると推測される。(p.661-668)
オオカナダモの高親和性硝酸吸収においてシュートは重要な役割を果たす
Takayanagi S, Takagi Y, Shimizu A, Hasegawa H (2012) The shoot is important for high-affinity nitrate uptake in Egeria densa, a submerged vascular plant. J Plant Res 125:669-678オオカナダモの高親和性硝酸トランスポーター遺伝子(EdNRT2)を単離した。シュートと根におけるEdNRT2の発現量と15N-硝酸の吸収・転流量を調べた結果、シュートは根と同じ遺伝子を用いて根と同程度の硝酸の吸収能力を有すること、根から独立して硝酸を吸収していることが明らかになった。(p.669-678)
シロイヌナズナのSETドメイン含有タンパク質ASHH1/SDG26はそれ自身及び異なる種類のヒストンリジンメチルトランスフェラーゼと結合する
Valencia-Morales MP, Camas-Reyes JA, Cabre-ra-Ponce JL, Alvarez-Venegas R (2012) The Arabidopsis thaliana SET-domain-containing protein ASHH1/SDG26 interacts with distinct histone lysine methyltransferase. J Plant Res 125:679-692SETドメインは、ヒストンのリジンのメチル化にはたらくことが知られている。シロイヌナズナのSETドメイン含有タンパク質ASHH1/SDG26について、自己及び他のタンパク質との相互作用を、酵母2ハイブリッド系と蛍光タンパク質再構成法によって調べたところ、自分自身を含む複数の異なる種類のSETドメイン含有タンパク質と結合することが分かった。(p.679-692)