2017年3月号(Vol.130 No.2)
JPR symposium Expanding plant non-coding RNA world
植物のmRNAターンオーバーにおけるmRNA分解とRNA依存RNAポリメラーゼを介した小分子RNA産生の相互関連
Masayuki Tsuzuki, Kazuki Motomura, Naoyoshi Kumakura, Atsushi Takeda (2017)
Interconnections between mRNA Degradation and RDR-Dependent siRNA Production in mRNA Turnover in Plants J Plant Res J Plant Res 130:211−226
近年の遺伝学的な研究より、末端からのmRNA分解経路の欠失が、RDR6を介したmRNA由来のsiRNA産生を誘導することが明らかとなった。本総説では、主要な3つのmRNA分解経路が基質となるmRNAを奪い合うモデルを提示するとともに、mRNA分解経路の基質選択性について議論した。(pp. 211−226)
Current Topics in Plant Research
植物のアクチン脱重合因子:アクチン繊維の分解だけではないその役割
Inada N (2017)
Plant actin depolymerizing factor: actin microfilament disassembly and more. J Plant Res J Plant Res 130:227−238
アクチン脱重合因子(ADF)はアクチン繊維の切断や脱重合に働き、植物の成長を制御する。一方筆者の研究を含む最近の研究で、細胞核内におけるADFの機能が植物のストレス応答に重要であることが明らかになってきた。本総説では植物ADFについて最新の知見を紹介する。 (pp. 227−238)
Taxonomy/Phylogenetics/Evolutionary Biology
タルウマゴヤシとヒヨコマメにおけるうどん粉病抵抗性に関わる遺伝子(Mlo)の探索とMlo遺伝子群の比較進化学的解析
Reena Deshmukh, V. K. Singh, Brahma Deo Singh (2017)
Mining the Cicer arietinum genome for the mildew locus O (Mlo) gene family and comparative evolutionary analysis of the Mlo genes from Medicago truncatula and some other plant species. J Plant Res 130:239−253
タルウマゴヤシとヒヨコマメのゲノム配列からそれぞれ16個、14個のMlo遺伝子のホモログを見つけた。種間におけるMlo遺伝子を比較することで遺伝子の構造、染色体上の位置、ホモログ間の進化的な関係を明らかにした。(pp. 239−253)
温帯だけではなかった:東アジア亜熱帯におけるシシラン(イノモトソウ科)の仲間の独立配偶体
Li-Yaung Kuo, Cheng-Wei Chen, Wataru Shinohara, Atsushi Ebihara, Hiroshi Kudoh, Hirotoshi Sato, Yao-Moan Huang (2017)
Not only in the temperate zone: independent gametophytes of two vittarioid ferns (Pteridaceae, Polypodiales) in East Asian subtropics. J Plant Res 130:255−262
胞子体なしで集団を維持するシダ植物の独立配偶体は温帯のみに見られるものと考えられていたが、葉緑体DNAの解析により東アジア亜熱帯地域においてHaplopteris属の独立配偶体を新たに発見した。(pp. 255−262)
集団内花色多型に着目した、ミスミソウ(Hepatica nobilis var. japonica)の遺伝構造
Kameoka, Shinichiro, Sakio, Hitoshi, Abe, Harue, Ikeda, Hajime, Setoguchi, Hiroaki (2017)
Genetic structure of Hepatica nobilis var. japonica, focusing on within population flower color polymorphism J Plant Res 130:263−271
花色のような表現型多型の自然集団内での維持機構は、長らく進化生物学における謎である。本研究ではSSR解析によって、集団内に白・赤・紫などの花色多型を有するミスミソウでは、遺伝的流動が花色に制限されずランダムに生じている可能性が示唆された。(pp. 263−271)
分子と染色体データは小笠原諸島産シマウツボ属Platypholisが系統的にハマウツボ属Orobancheに含まれることを支持する
Li X, Jang TS, Temsch EM, Kato H, Takayama K, Schneeweiss GM (2017)
Molecular and karyological data confirm that the enigmatic genus Platypholis from Bonin-Islands (SE Japan) is phylogenetically nested within Orobanche (Orobanchaceae). J Plant Res 130:273-280
小笠原諸島固有単型属のシマウツボ属Platypholisは、形態的類似性からハマウツボ属Orobancheに含められることが多かった。本研究では、シマウツボPlatypholis boninsimaeについて初めて分子系統解析の対象にすると共に、染色体数2n = 38を観察し、ハマウツボ属に含まれることを確かめた。(pp. 273-280)
Lepisorus nudus (Hook.) Ching(ウラボシ科)の発生と生殖様式の研究
Singh AP, JohariD, Khare PB (2017)
Studies on ontogeny and reproductive behaviour of Lepisorus nudus (Hook.) Ching (Polypodiaceae). J Plant Res 130: 281-290
Lepisorus nudus の配偶体を培養した結果、これまでに報告されている同属の種の配偶体が先端にノッチを欠いた帯状であるのに対し、本種ではノッチのある心臓形が形成された。単胞子培養では造精器と造卵器が同時期に形成されることがなく、胞子体は形成されず、同一配偶体内での自家受精を避ける機構を持っているものと考えられる。(pp. 281−290)
Ecology/Ecophysiology/Environmental Biology
クローナル植物は中国北西部の衰退中の高山草原における砂移動を改善する
JianJun, KangWenZhi Zhao, Ming Zhao (2017)
Remediation of blowouts by clonal plants in Maqu degraded alpine grasslands of northwest China J Plant Res 130:291−299
植物によって砂の移動をくい止めることが砂漠化の進行のコントロールに重要であると考えられている。本研究では、2種のクローナル植物による砂移動の防止能力とメカニズムを調べた。2種とも、砂が移動したあとにラメットを多く作ることで砂移動を抑えていることが明らかとなった。砂漠化の防止や回復にこれらの性質は有用である。(pp. 291−299)
Morphology/Anatomy/Structural Biology
樹木の葉の向軸側から発する緑青色蛍光の特徴
Nakayama M,·Iwashina T (2017)
Characteristics of green-blue fluorescence generated from the adaxial sides of leaves of tree species. J Plant Res 130:301−310
樹木の葉の向軸側に紫外光を照射すると、多くの種が暗い像を示す暗葉のみを持つ中で、日本自生種では約5%の種が緑青色の強い蛍光を発する明葉を持っていた。明葉を持つ種の多くは繁殖に鳥を利用しており、明葉に覆われた樹体の中で暗葉を実の周囲に配置している種もあった。(pp. 301−310)
葉の内部構造の様々な違いが生みだす斑入りのしくみ
Chen Y-S, Chesson P, Wu H-W, Pao S-H, Liu J-W, Chien L-F, Yong JWH, Sheue C-R (2017)
Leaf structure affects a plant's appearance: combined multiple-mechanisms intensify remarkable foliar variegation. J Plant Res 130:311-325
Blastus cochinchinensisが持つ顕著な斑入りの葉ととそうでない葉を比較し,斑入りの仕組みを調べた.その結果,向軸側表皮細胞の形態,細胞間隙の発達度合い,色素を持たない葉肉細胞の有無,シュウ酸カルシウム針状結晶の有無,葉緑体の形態や頻度,など複数の要因の違いが組み合わさって斑入りが生じていることを見いだした。
(pp. 311-325)
ヤーコン(Smallanthus sonchifolius)(キク科)の花の構造と頭状花序の発達段階:生殖との関連
Ibañez MS, Mercado MI, Coll Aráoz MV, Zannier ML, Grau A, Ponessa GI (2017)
Flower structure and developmental stages of the capitulum of Smallanthus sonchifolius (Asteraceae): reproductive implications. J Plant Res 130:327−337
アンデスの古代作物ヤーコンの花序の発達と形態、組織、生殖的特性について調べた。周辺小花は雌花、中心小花は雄花であり、偽花雌性先熟であった。花には蜜腺や分泌毛が存在したが、花粉の生存率は低く、胚珠も受精しなかった。不稔性は、作物化での栄養繁殖が原因かもしれない。 (pp. 327−337)
Genetics/Developmental Biology
イネ受精卵における核合一過程中の核の移動は卵核方向へのアクチンメッシュの継続的な集約に依存する
Ohnishi Y, Okamoto T (2017)
Nuclear migration during karyogamy in rice zygotes is mediated by continuous convergence of actin meshwork toward the egg nucleus. J Plant Res 130:339−348
被子植物受精卵の核合一過程における雌雄配偶子核の会合はアクチン繊維により制御される。本論文は、その動態の時/空間的な観察と定量的な解析により、イネ卵細胞/受精卵内におけるアクチン繊維の卵核方向への継続的な集約を捉え、その集約が精核の移動に関与することを示した。(pp. 339−348)
HSP70遺伝子群の一部はシロイヌナズナにおいて発生と非生物的ストレスへの応答を制御する
Linna Leng, Qianqian Liang, Jianjun Jiang, Chi Zhang (2017)
A subclass of HSP70s regulate development and abiotic stress responses in Arabidopsis thaliana
J Plant Res 130:349−363
hsp70-1 hsp70-4 二重変異株及び hsp70-2 hsp70-4 hsp70-5 三重変異株は成長期間が短くなり、カールして丸い葉、ねじれた葉柄、細い茎、短い果実となった。さらに、両変異体とも高温、低温、高グルコース、塩、浸透圧ストレスに対して高感受性、アブシジン酸に対して低感受性であった。(pp. 349−363)
Physiology/Biochemistry/Molecular and Cellular Biology
塩ストレス下におけるケナフのRNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析
Li H, Li D, Chen A, Tang H, Li J, Huang S (2017)
RNA-seq for comparative transcript profiling of kenaf under salinity stress. J Plant Res 130:365−372
重要な繊維作物であるケナフの塩ストレス耐性に関する分子機構を明らかにするため、RNA-seqによる網羅的な遺伝子発現解析を行った。その結果、塩ストレスにより発現の変動を示す2,384 個の遺伝子が同定された。それらにはアミノ酸や炭水化物の代謝に関わるものが多く含まれていた。(pp. 365−372)
ナスおよびヘチマのアスコルビン酸ペルオキシダーゼを過剰発現させたシロイヌナズナは冠水耐性が向上する
Chiang C, Chen C, Chen S, Lin K, Chen L, Su Y, Yen H (2017)
Overexpression of the ascorbate peroxidase gene from eggplant and sponge gourd enhances flood tolerance in transgenic Arabidopsis. J Plant Res 130:373−386
ナスおよびヘチマのアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)をシロイヌナズナで過剰発現させると、冠水ストレスを受けたシロイヌナズナでの過酸化水素の蓄積が減り、発芽率が向上した。酸化障害を低減すことでAPXはシロイヌナズナの冠水耐性を強化することが示された。 (pp. 373−386)
アルファルファの乾燥耐性遺伝子MsHSP70のクローニングと特性解析
Li Z, Long R, Zhang T, Wang Z, Zhang F, Yang Q, Kang J, Sun Y (2017)
Molecular cloning and functional analysis of the drought tolerance gene MsHSP70 from alfalfa (Medicago sativa L.) J Plant Res 130:387−396
MsHSP70はアルファルファにおいて熱、ABA、過酸化水素処理により誘導された。この遺伝子を過剰発現させたシロイヌナズナではPEGやABA処理に対する感受性が低下し、プロリン、SOD含量が増加する一方、マロンジアルデヒドが減少しており、MsHSP70がストレス耐性に関わることが示された。(pp. 387−396)
シダ植物リチャードミズワラビ配偶体の重力センシングには原形質膜に固定された葉緑体が必要である
Kamachi H, Tamaoki D, Karahara I (2017)
Plasma membrane-anchored chloroplasts are necessary for the gravisensing system of Ceratopteris richardii prothalli J Plant Res 130:397−405
リチャードミズワラビの配偶体は、暗所で負の重力屈性を示す。葉緑体が細胞膜からはずれて凝集する変異体(cp1)では、その重力屈性が抑制されたことから、葉緑体が重力センサーとして機能しており、さらに細胞膜に固定されていることが重力感受に必要であることを報告した。(pp. 397−405)
7種のシダの胞子におけるクロロフィルの検出
Mei-HweiTseng, Kuei-Huei Lin, Yi-Jia Huang, Ya-Lan Chang, Sheng-Cih Huang, Li-Yaung Kuo, Yao-Moan Huang (2017)
Detection of chlorophylls in spores of seven ferns. J Plant Res 130:407−416