2017年1月号(Vol.130 No.1)
JPR symposium Expanding plant non-coding RNA world
植物遺伝子サイレンシングの分子機構:二本鎖のSmall RNAに込められたメッセージ
Taichiro Iki (2017)
Messages on Small RNA Duplexes in Plants. J Plant Res 130:7−16
遺伝子サイレンシングは、植物の生長制御、ストレス・防御応答、ゲノム安定性の担保などにおいて不可欠な役割を果たしている。サイレンシングにおいて、遺伝子の選択的な発現抑制は一本鎖のSmall RNAによって誘起される。本総説は、その中間体である二本鎖のSmall RNA に焦点をあてつつ、当該分野における最新の知見を紹介する。(pp. 7−16)
miRNA切断とDicerプロセシングが保存された植物phasiRNA生合成経路
Reina Komiya (2017)
Biogenesis of diverse plant phasiRNAs involves an miRNA-trigger and Dicer-processing. J Plant Res 130:17−23
近年、21~26塩基長のフェーズを示すphased small interfering RNAs (phasiRNAs) が動植物で同定されている。本総説では、藻類から被子植物に至る多様なphasiRNAとその生合成経路を比較し、類似点と発現部位等の相違点について紹介する (pp. 17−23)
ノンコーディングRNA経路におけるシロイヌナズナXRNファミリーエキソリボヌクレアーゼの活性と役割について
Yukio Kurihara (2017)
Activity and roles of Arabidopsis thaliana XRN family exoribonucleases in noncoding RNA pathways J Plant Res 130:25−31
シロイヌナズナには3つのXRN 5'-3'エキソヌクレアーゼが存在し、mRNAの分解に限らず、小分子RNAに代表されるノンコーディングRNA経路においてさまざまなRNAの分解を担っている。本総説では、これまでに報告された各XRNヌクレアーゼの役割や標的RNAの種類の違いについて解説する。(pp. 25−31)
植物のダイサー様タンパク質:小分子RNA生合成のための2本鎖RNA切断酵素
Fukudome A, Fukuhara T (2017)
Plant Dicer-like proteins: double-stranded RNA-cleaving enzymes for small RNA biogenesis. J Plant Res 130:33−44
ダイサーは、2本鎖RNA特異的なエンドリボヌクレアーゼであり、21から24塩基の小分子RNAを生成することで転写後および転写遺伝子サイレンシングに必須な役割を果たす。本総説では、植物の4種類のダイサー様タンパク質(DCL)の生化学的特徴を中心に解説する。(pp. 33−44)
シロイヌナズナにおいて2本鎖RNA結合タンパク質DRB3は、PAP1の発現を調節することでアントシアニンの生合成を負に制御している。
Sawano H, Matsuzaki M, Usui T, Tabara M, Fukudome A, Kanaya A, Tanoue D, Hiraguri A, Horiguchi G, Ohtani M, Demura T, Kozaki K, Ishii K, Moriyama H, Fukuhara T (2017)
Double-stranded RNA-binding protein DRB3 negatively regulates anthocyanin biosynthesis by modulating PAP1 expression in Arabidopsis thaliana. J Plant Res 130:45−55
シロイヌナズナの2本鎖RNA結合タンパク質遺伝子DRB3過剰発現体の解析から、DRB3は、アントシアニン合成酵素遺伝子の転写を調節する転写因子PAP1の転写レベルを調節することでアントシアニンの生合成を負に制御していることを見いだした。(pp. 45−55)
植物発生におけるsnRNA転写制御とその意義
Ohtani M (2017)
Transcriptional regulation of snRNAs and its significance for plant development. J Plant Res 130:57-66
small nuclear RNA (snRNA) はpre-mRNAスプライシングやリボゾームRNAの成熟・修飾に関わる、生存に必須の核内小分子RNA群である。本稿ではsnRNA転写制御の分子機構を紹介しながら、植物発生におけるその役割と意義を概説する。(pp. 57−66)
植物におけるロングノンコーディングRNAの機能
Masashi Yamada (2017)
Functions of long intergenic non-coding (linc) RNAs in plants J Plant Res 130:67-73
近年、トランスクリプトーム解析により大部分のトランスクリプトがタンパク質をコードしないRNAであることが多くの生き物で明らかになってきた。しかし、植物ではロングノンコーディングRNAの機能はほとんど明らかになっていなかった。本総説では、最近明らかにされた植物のロングノンコーディングRNAの機能について解説する。(pp. 67−73)
シロイヌナズナ培養細胞由来核抽出液中のpre-microRNAプロセシング活性
Manabu Yoshikawa (2017)
Pre‑microRNA processing activity in nuclear extracts from Arabidopsis suspension cells J Plant Res 130:75-82
パーコール密度勾配遠心法によってRNaseなどを多量に含む液胞を除いたシロイヌナズナ培養細胞のプロトプラストから、核抽出液を調製した。この抽出液にはDICER-LIKE1が含まれており、この抽出液にmicroRNA前駆体を加えたところ21塩基の二本鎖小分子RNAが生成した。(pp. 75−82)
Taxonomy/Phylogenetics/Evolutionary Biology
絶滅危惧水生植物シモツケコウホネの遺伝的多様性、集団構造とその保全への意義
ShigaT, Yokogawa M, Kaneko S, Isagi Y (2017)
Genetic diversity and population structure of Nuphar submersa (Nymphaeaceae), a critically endangered aquatic plant endemic to Japan, and implications for its conservation. J Plant Res 130:83-93.
日本固有の絶滅危惧水生植物シモツケコウホネについて全個体遺伝子型解析を行い、52ジェネットを確認した。各ジェネットは集団ごとに遺伝的にまとまっていたが、集団間の遺伝的分化は極めて大きく、Structure解析ではK=2もしくは3が支持された。この集団構造に沿った保全策について議論をおこなった。 (pp. 83−93)
イネにおけるカルコン合成酵素遺伝子ファミリーのゲノムワイド同定と系統解析
Hu L, He H, Zhu C, Peng X, Fu J, He X, Chen X, Ouyang L, Bian J, Liu S (2017)
Genome-wide identification and phylogenetic analysis of the chalcone synthase gene family in rice. J Plant Res 130: 95-105.
ポリケタイド合成酵素III型(PKS)としても知られるカルコン合成酵素は、バクテリア・菌類・植物において二次代謝産物を生成し、多くの植物ではその遺伝子は多重遺伝子族を構成する。イネゲノムからイネPKS(OsPKS)の候補となる27遺伝子を同定し、うち23遺伝子についてESTとcDNA配列から構造を確認した。系統解析ではそれら23遺伝子はIからIIIの3系統群に分かれた。(pp. 95−105)
オーストララシア固有種に着目した全世界広域分布水生植物キタミソウ属の分子系統
Ito Y, Tanaka N, Albach DC, Barfod AS, Oxelman B, Muasya AM (2017)
Molecular phylogeny of the cosmopolitan aquatic plant genus Limosella (Scrophulariaceae) with a particular focus on the origin of the Australasian L. curdieana. J Plant Res 130: 107−116
Limosella curdieanaは全世界の冷温帯に広域分布するキタミソウ属の一種であり、オーストラリアとニュージーランドに固有である。分子系統と系統地理学的解析の結果、同種は過去のアフリカ南部からの直接あるいは北半球を経由した種子散布に起源する可能性が高いことが明らかとなった。(pp. 107−116)
葉緑体DNAおよびマイクロサテライトマーカーによる詳細な遺伝解析は絶滅危惧植物センリゴマが1ジェネットしか生残していないことを示した。
Kaneko S, Matsuki Y, Qiu XY, Isagi Y (2016)
Chloroplast DNA sequencing and detailed microsatellite genotyping of all remnant populations suggests that only a single genet survives of the critically endangered plant Rehmannia japonica.J Plant Res 130:117-124
絶滅危惧植物センリゴマは、分類学手的な位置づけやその起源が明らかになっていない植物である。葉緑体と核を対象とした詳細な遺伝解析により、既知のジオウ属植物とは遺伝的に異なること、残存個体の全てが同一のジェネットである可能性が高いことを示した。 (pp. 117-124)
Ecology/Ecophysiology/Environmental Biology
在来タンポポが外来種から受ける繁殖干渉は種内でも個体群により異なる
Nishida S, Hashimoto K, Kanaoka MM, Takakura K, Nishida T (2017)
Variation in the strength of reproductive interference from an alien congener to a native species in Taraxacum. J Plant Res 130:125−134
外来種から受ける繁殖干渉(繁殖における悪影響)が在来種の駆逐をもたらすという仮説を検証するため、在来タンポポ2種8個体群について、分布調査や人工授粉を行った。その結果、受ける繁殖干渉の強度は種内でも異なり、干渉を強く受ける個体群で駆逐が進んでいる可能性が示された。
(pp. 125−134)
鉄を超蓄積する蘚類Scopelophila ligulata(イワマセンボンゴケ)の金属濃度と色素濃度の関係
Nakajima H, Itoh K (2017)
Relationship between metal and pigment concentrations in the Fe-hyperaccumulator moss Scopelophila ligulata J Plant Res 130:135−141
Feを超蓄積する蘚類Scopelophila ligulata(イワマセンボンゴケ)の金属濃度と色素濃度の関係を調べたところ、K濃度が高いほど色素濃度が高く、反対に、Ca濃度が高いほど色素濃度が低いという相関関係が見出され、CaストレスによるK取り込みの抑制と色素濃度の減少が示唆された。(pp. 135−141)
生育地が異なるススキ個体群のシュート密度ならびにシュート生長との関連におけるその維持機構
Katsumi Kobayashi, Yota Yokoi (2017)
Shoot density of Miscanthus sinensis populations in different habitats and their maintenance mechanisms in relation to shoot growth. J Plant Res 130: 143-156
ススキ個体群のシュート密度は暖地のほうが高く、涼地と同様に安定していた。サイズ依存的に開花するシュートの数はその次世代サイズと負の関係にあり、周期的に変動した。年間の発生数と生残率はトレードオフの関係にあり、両地の間で生長の時期と期間は違ったが、平均寿命や越冬能力に大差はなかった。(pp. 143-156)
Populus tremulaの葉の発生中における、傷害によって誘発される揮発性物質の放出
Miguel Portillo-Estrada, Taras Kazantsev, Ülo Niinemets (2017)
Fading of wound-induced volatile release during Populus tremula leaf expansion J Plant Res 130: 157-165
ポプラ葉の発生中の様々な段階において、葉にパンチ穴をあけ、傷害によって誘発される揮発性物質の放出の時間変化を調べた。葉齢が進むとともに、一部の揮発性物質の発生量が減少することを見出した。(pp. 157-165)
侵入種Flaveria bidetsの葉リターが卓越するリター混合物は分解が早く、窒素放出が多い。
Huiyan Li, Zishang Wei, Chaohe Huangfu, Xinwei Chen, Dianlin Yang (2017)
Litter mixture dominated by leaf litter of the invasive species, Flaveria bidentis, accelerates decomposition and favors nitrogen release J Plant Res 130: 167-180
侵入種Flaveria bidetsと在来種Setaria vriditsの葉リターを様々な比率で混合し、分解実験を行った。実験初期は、分解に関する特性は、単独での分解から予測されるものと変わらなかった。しかし、時間が経過すると、侵入種の割合が多いリター混合物において相乗的な効果が現れ、分解の促進や窒素放出が多くなった。(pp. 167-180)
Morphology/Anatomy/Structural Biology
過重力環境はヒメツリガネゴケの葉緑体サイズ、光合成、成長を促進する
Kaori Takemura, Hiroyuki Kamachi, Atsushi Kume, Tomomichi Fujita, Ichirou Karahara, Yuko T. Hanba (2017)
A hypergravity environment increases chloroplast size, photosynthesis, and plant growth in the moss Physcomitrella patens. J Plant Res 130: 181-192
植物は進化の過程で重力環境の大きな変化を経験している。原始的な植物であるヒメツリガネゴケを遠心機を応用した過重力栽培装置で長期栽培した結果、葉緑体のサイズ増加という新規な知見を得た。光合成機能や成長が明瞭な重力応答を示すことがコケ植物で初めて明らかになった。(pp. 181-192)
Physiology/Biochemistry/Molecular and Cellular Biology
シロイヌナズナのホスホリパーゼDα1により生じるホスファチジン酸は微小管阻害剤処理下において微小管構築と細胞発生を制御する
Zhang Q, Qu Y, Wang Q, Song P, Wang P, Jia Q, Guo J. (2017)
Arabidopsis phospholipase D alpha 1-derived phosphatidic acid regulates microtubule organization and cell development under microtubule-interacting drugs treatment. J Plant Res 130:193−202
ホスホリパーゼD (PLD)とその産物であるホスファチジン酸 (PA)は、植物の細胞骨格構築の制御に不可欠である。シロイヌナズナPLDa1の変異体に微小管阻害剤を投与して、微小管構築や細胞伸長への影響を調べた研究により、微小管構築に対するPLDa1の関与とその制御機構の一端が解明された。(pp. 193−202)
リグニンモノマー中間体に対する酵素活性によって浮き彫りにされたニセアカシアにおけるシリンギル型モノマー生合成経路
Shigeto J, Ueda Y, Sasaki S, Fujita K, Tsutsumi Y (2017)
Enzymatic activities for lignin monomer intermediates highlight the biosynthetic pathway of syringyl monomers in Robinia pseudoacacia. J Plant Res 130: 203-210
既知の4-クマル酸CoAリガーゼの大部分がシナピン酸を基質としないことから、シナピン酸がシリンギルリグニンの前駆体になるかどうかは疑問視されてきた。本論文はニセアカシアにおいて、シナピン酸がシリンギルリグニンの前駆体になっていることを示唆するものである。(pp. 203−210)