2019年11月号(Vol.132 No.6)
Current Topics in Plant Research
日本列島産シダ植物に関する多様性情報のアップデートと再評価
Ebihara A, Nitta JH (2019)
An update and reassessment of fern and lycophyte diversity data in the Japanese Archipelago. J Plant Res 132:723-738
721種・亜種・変種および371雑種から成る日本のシダ植物相について、10kmメッシュ分布データ216,687件、全分類群の74%を網羅する染色体情報、及び97.9%を網羅する葉緑体rbcL塩基配列データセットを整備し、再評価した。各データセット、及び形態に基づいた種名検索に利用可能なLucid形式のファイルを公開した。(pp. 723-738)
Taxonomy/Phylogenetics/Evolutionary Biology
コブシ(Magnolia kobus)の集団遺伝構造とデモグラフィー:変種キタコブシ(borealis)は遺伝的には支持されない
Tamaki I, Kawashima N, Setsuko S, Lee J-H, Itaya A, Yukitoshi K, Tomaru N (2019)
Population genetic structure and demography of Magnolia kobus: variety borealis is not supported genetically. J Plant Res 132:741-758
コブシには変種キタコブシが認識されている。コブシ集団の核マイクロサテライト、葉緑体DNA、葉形態の変異を調べた。二つの系統が検出され、集団の動態が異なった。系統の地理的境界は葉形態によるものと一致しなかったことから、キタコブシは遺伝的には支持されないことが示された。(pp. 741-758)
マイクロサテライト分析に基づく小笠原産ムラサキシキブ属の強い遺伝構造
Sugai K, Mori K, Murakami N, Kato H (2019)
Strong genetic structure revealed by microsatellite variation in Callicarpa species endemic to the Bonin (Ogasawara) Islands. J Plant Res 132:759-775
SSRマーカーを用いて、小笠原諸島産ムラサキシキブ属3種の遺伝構造を調べた。全域に分布するオオバシマムラサキで複雑な遺伝構造が形成されていた。分化した集団間では、生育環境の違い、開花期のずれ、列島間の地理的隔離がみられ、生態的要因と非生態的要因の両者が寄与していると考えられた。(pp. 759-775)
苔類基部系統のコマチゴケ(コマチゴケ綱)にはケカビ亜門とグロムス亜門が二重感染する
Yamamoto K, Shimamura M, Degawa Y, Yamada A (2019)
Dual colonization of Mucoromycotina and Glomeromycotina fungi in the basal liverwort, Haplomitrium mnioides (Haplomitriopsida). J Plant Res 132:777-788
コマチゴケ綱苔類はケカビ亜門のみと共生すると報告されてきた。本研究ではコマチゴケの菌根様構造を観察し内生菌を分子同定した。その結果、ケカビ亜門に加えグロムス亜門も菌根様構造を形成することが判明した。よって祖先的苔類は従来の想定よりも多様な菌類と共生していた可能性が示された。(pp. 777-788)
Ecology/Ecophysiology/Environmental Biology
気候変動に関係したストレス要因―高CO2濃度下での遅霜、高温、乾燥、高いUV放射量およびオゾン濃度―の組み合わせに対する森林稚樹7種の応答
Pliūra A, Jankauskienė J, Bajerkevičienė G, Lygis V, Suchockas V, Labokas J, Verbylaitė R (2019)
Response of juveniles of seven forest tree species and their populations to different combinations of simulated climate change-related stressors: spring-frost, heat, drought, increased UV radiation and ozone concentration under elevated CO2 level. J Plant Res 132:789-811
ストレス要因の組み合わせに対する成長と光合成反応は種ごとに異なっていた。高温、霜、乾燥の組み合わせで、ほとんどの種の上方成長が阻害された。高温、高湿,高UV, 高オゾンの組み合わせ、および、高温、霜、乾燥、高UV, 高オゾンの組み合わせで、落葉樹の葉におけるダメージが顕著だった。(pp. 789-811)
Genetics/Developmental Biology
集団シーケンシングによるキュウリのCucumis hystrix遺伝子移入系統におけるネコブセンチュウ抵抗性に関する量的形質座位の候補遺伝子
Cheng C, Wang X, Liu X, Yang S, Yu X, Qian C, Li J, Lou Q, Chen J (2019)
Candidate genes underlying the quantitative trait loci for root-knot nematode resistance in a Cucumis hystrix introgression line of cucumber based on population sequencing. J Plant Res 132:813-823
キュウリと近縁野生種Cucumis hystrixを交雑して作出した遺伝子移入系統IL10-1ではサツマイモネコブセンチュウMeloidogyne incognitaに抵抗性を示す。この系統と'Beijingjietou' CC3との交雑に由来するRIL系統を薄くシーケンシングして遺伝学的地図を作成し、抵抗性に関する3つのQTLを同定し4つの候補遺伝子を推定した。(pp. 813-823)
Physiology/Biochemistry/Molecular and Cellular Biology
野生リンゴMalus sieversiiのユニバーサルストレスタンパク質は乾燥耐性を向上させる
Yang M, Che S, Zhang Y, Wang H, Wei T, Yan G, Song W, Yu W (2019)
Universal stress protein in Malus sieversii confers enhanced drought tolerance. J Plant Res 132:825-837
Malus sieversiiのユニバーサルストレスタンパク質遺伝子(MsUspA)は高浸透圧条件で発現が上昇する。MsUspAを高発現させたシロイヌナズナでは乾燥耐性が向上し、活性酸素種の蓄積低減やストレス関連遺伝子の発現上昇が認められた。(pp. 825-837)
アカザ属(アカザ科)におけるC3型からproto-Kranz型、C3-C4中間型への光合成型の推移
Yorimitsu Y, Kadosono A, Hatakeyama Y, Yabiku T, Ueno O (2019)
Transition from C3 to proto-Kranz to C3-C4 intermediate type in the genus Chenopodium (Chenopodiaceae). J Plant Res 132:839-855
アカザ科のアカザ属は、従来C3種から構成されていると考えられていたが、本研究からC3植物からC4植物への進化の初期段階に位置づけられるproto-Kranz型やC3-C4中間型も含むことが明らかとなった。また、シロザは種内にproto-Kranz型とC3-C4中間型を含んでいた。(pp. 839-855)
ダイジョのアスコルビン酸ペルオキシダーゼ遺伝子のクローニングと過剰発現によるシロイヌナズナの低温と冠水に対する耐性能の向上
Chen Z, Lu H-H, Hua S, Lin K-H, Chen N, Zhang Y, You Z, Kuo Y-W, Chen S-P (2019)
Cloning and overexpression of the ascorbate peroxidase gene from the yam (Dioscorea alata) enhances chilling and flood tolerance in transgenic Arabidopsis. J Plant Res 132:857-866
この研究では、ヤムイモの一種であるダイジョ(Dioscorea alata)のアスコルビン酸ペルオキシダーゼ遺伝子のクローニングを行なった。また、このダイジョの遺伝子をシロイヌナズナにおいて過剰発現させると、シロイヌナズナの低温や冠水に対する耐性能が向上することも明らかにした。(pp. 857-866)
ヒメツリガネゴケのPSI-PSII超複合体にはLHCSRとPsbSが結合している
Furukawa R, Aso M, Fujita T, Akimoto S, Tanaka R, Tanaka A, Yokono M, Takabayashi A (2019)
Formation of a PSI-PSII megacomplex containing LHCSR and PsbS in the moss Physcomitrella patens. J Plant Res 132:867-880
モデルコケ植物のヒメツリガネゴケにおいて、2つの光化学系(PS)が直接結合しPSI-PSII超複合体を形成すること、超複合体内で吸収した光エネルギーを再分配できること、超複合体にLHCSRとPsbSが結合し、おそらくは熱放散に寄与していること、が明らかになった。(pp. 867-880)
水ストレスに晒された小麦にβ-シトステロールを与えたときに起こる成長や生産性の改善には抗酸化系の発現の増加が関わっている
Elkeilsh A, Awad YM, Soliman MH, Abu-Elsaoud A, Abdelhamid MT, El-Metwally IM (2019)
Exogenous application of β-sitosterol mediated growth and yield improvement in water-stressed wheat (Triticum aestivum) involves up-regulated antioxidant system. J Plant Res 132:881-901
植物が水ストレスに晒されると、成長や生産性が低下する。この研究では、野外で生育させた小麦(Triticum aestivum)について解析を行い、水ストレスに晒された小麦にβ-シトステロールを与えると、成長や生産性が改善されることを明らかにした。また、この改善は、抗酸化系酵素の活性の増加によることも明らかにした。(pp. 881-901)