2006年11月号 (Vol.119 No.6)
スイレン属 Nymphaea prolifera 分枝花の発生形態
Developmental morphology of branching flowers in Nymphaea prolifera.Valentin Grob1, Philip Moline1, Evelin Pfeifer1, Alejandro R. Novelo2, Rolf Rutishauser1 (1Universit_t Z_rich, Switzerland ,2Universidad Nacional Aut_noma de M_xico, Mexico)
Valentin Grob, Philip Moline, Evelin Pfeifer, Alejandro R. Novelo and Rolf Rutishauser
中南米原産のスイレン属のN. proliferaは花芽形成を花の内部で繰り返し,分枝花を形成する.分枝花は花被様の葉を形成した後,再び栄養茎頂に戻り,普通葉をつけると同時に新たな分枝花を生じる.この過程は三回まで繰り返し,100以上の栄養繁殖体ができる.この発生形態を記載する.(p.561-570)
屋久島の高山性矮小植物はどのように小型化しているか? シシガシラ及びコナスビにおける普通型と矮小型の比較研究
How have the alpine dwarf plants in Yakushima been miniaturized ? A comparative study of two alpine dwarf species in Yakushima, Blechnum niponicum (Blechnaceae) and Lysimachia japonica (Primulaceae).篠原渉1,村上哲明2 (1京都大学,2首都大学東京)
Wataru Shinohara and Noriaki Murakami
屋久島産シシガシラ及びコナスビにおいて,低地に生育する普通型と高地に生育する屋久島固有の矮小型を細胞レベルで比較した.その結果,シシガシラでは細胞数のみが,コナスビでは細胞数と細胞サイズの両方がそれぞれ減少することにより小型化していた.(p.571-580)
タバコBY-2細胞中で発現させた,テーダマツ(Pinus taeda)の2種類のラッカーゼの特性解析
Characterization of two laccases of loblolly pine (Pinus taeda) expressed in tobacco BY-2 cells.佐藤 康1, Ross W. Whetten2 (1愛媛大学, 2North Carolina State University, USA)
Yasushi Sato and Ross W. Whetten
テーダマツの分化過程木部で発現するラッカーゼ遺伝子(Lac1とLac2)を,タバコBY-2細胞に導入し発現させ,酵素学的解析を行った結果,どちらも十分なモノリグノール酸化活性を示した.この結果は両酵素のリグニン化への関与を支持するものである.(p.581-588)
葉緑体 rps4-trnS の塩基配列データに基づく中国のオシダ属(オシダ科)の系統分類
Phylogenetics of Chinese Dryopteris (Dryopteridaceae) based on the chloroplast rps4-trnS sequence data.Chun-Xiang Li1 , Shu-Gang Lu2 (1Chinese Academy of Science, 2 Yunnan University, China)
Chun-Xiang Li and Shu-Gang Lu
オシダ属の系統を調べるために,オシダ属60種,オシダ属以外の近縁4種,カナワラビ属3種について,葉緑体ゲノムのrps4-trnS領域のDNA塩基配列を解析した.最大節約法,近隣接合法共に本属が6クレードからなる多系性であることを示していた.(p.589-598)
葉緑体及び核のDNA配列を用いたキントラノオ目の系統解析 ー狭義トウダイグサ科の生殖器官の比較解剖学に焦点を当ててー
Phylogenetic analyses of Malpighiales using plastid and nuclear DNA sequences, with particular reference to the embryology of Euphorbiaceae sens. str.徳岡 徹,戸部 博(京都大学)
Toru Tokuoka and Hiroshi Tobe
rbcL, atpB, matK, 及び18S rDNAの配列を用いて,キントラノオ目に含まれる 23科,103属の系統解析を行い,唯一の最節約系統樹を得た.その系統樹から 科間の近縁性,科の単系統性と種皮の解剖学的特徴の進化について議論した.(p.599-616)
キスゲ属植物の昼咲きハマカンゾウと夜咲きキスゲ間の受粉後生殖隔離
Post-pollination reproductive isolation between diurnally and nocturnally flowering daylilies, Hemerocallis fulva and Hemerocallis citrina.安元暁子, 矢原徹一 (九州大学)
Akiko A. Yasumoto and Tetsukazu Yahara
昼咲きのハマカンゾウと夜咲きのキスゲでは, 前者が胚珠親の場合に交雑処理の種子稔性が種内交配処理よりも低く, 非対称的な生殖隔離が観察された.交雑処理の種子稔性は異所的な集団間よりも同所的な集団間で高く, 同所性が隔離を弱めた可能性が示唆された.(p.617-623)
北西太平洋におけるイソマツ(イソマツ科)の花色に関する種内変異とその地理的分布
Intraspecific variations of flower colour within a sea lavender, Limonium wrightii (Plumbaginaceae) in the northwestern Pacific Islands.松村俊一1,2, 横山潤1, 立石庸一2, 牧雅之1(1東北大学, 2琉球大学)
Shun-ichi Matsumura, Jun Yokoyama, Yoichi Tateishi and Masayuki Maki
南西諸島や伊豆・小笠原諸島の36の島嶼で行った調査から, イソマツの種内変異として6つの花色変異を見いだした.ピンクと黄色のタイプがもっとも頻繁に観察されたが, これらは基本的に異所的に分布していて, "蛙跳び"分布という特徴的な地理的分布を示した.(p.625-632)
シロネ属(シソ科 Mentheae連)の小堅果の形態と組織構造
Nutlet morphology and anatomy of the genus Lycopus (Lamiaceae: Mentheae).Hye-Kyoung Moon, Suk-Pyo Hong (Kyung Hee University, South Korea)
Hye-Kyoung Moon and Suk-Pyo Hong
シロネ属16種の小堅果の形態と果皮の組織構造を観察した.全種共に,空気を貯めた果皮を持ち,典型的な水散布適応性を示した.小堅果の形態と果皮の組織はMentheae 連内の他の属と明確な違いを示した.この形質は,種や種間レベルの分類指標として有用である.(p.633-644)
狭葉化による生産構造の変化: 渓流型リュウキュウツワブキと陸生型ツワブキにおける葉内構造と光合成特性の関連性
Functional consequences of stenophylly for leaf productivity: comparison of the anatomy and physiology of a rheophyte, Farfugium japonicum var. luchuence, and a related non-rheophyte, F. japonicum (Asteraceae).野村尚史1, 瀬戸口浩彰2, 高相徳四郎1(1総合地球環境学研究所, 2京都大学)
Naofumi Nomura, Hiroaki Setoguchi and Tokushiro Takaso
狭葉化と陽葉化は,ともに葉の矮小現象であるが,物質生産に与える影響は異なる.陸生型では陽葉も陰葉も,重量あたりの光合成速度(Pmaxmass)に違いはないが,渓流型の狭葉ではPmaxmassが低かった.これは,葉肉細胞が高密度に接することによる単位葉重量の違いを反映しており,力学強度を求める流水適応と解釈できた.(p.645-656)
台湾固有の単型属タイヤルソウ属(アカネ科)の系統分類
Phylogenetic systematics of the monotypic genus Hayataella (Rubiaceae) endemic to Taiwan.中村剛1,Shih-Wen Chung2,國府方吾郎3,傳田哲郎1,横田昌嗣1(1琉球大学, 2Taiwan Forestry Research Institute, Taiwan,3国立科学博物館)
Koh Nakamura, Shih-Wen Chung, Goro Kokubugata, Tetsuo Denda and Masatsugu Yokota
台湾固有の単型属タイヤルソウ属については,サツマイナモリ属の異名とする見解があり,分類が混乱していた.核リボソームDNA及び葉緑体DNAに基づく系統解析の結果から,本属は単型属とはせずに,サツマイナモリ属に含めることが適当であると示された.(p.657-661)
いもち病菌に感染したイネの g-アミノ酪酸アミノ基転移酵素遺伝子 OsGABA-T のクローニングと差次的発現
Molecular cloning and differential expression of an g-aminobutyrate transaminase gene, OsGABA-T, in rice (Oryza sativa) leaves infected with blast fungus.Chunxia Wu1,2, Shanyue Zhou1, Quan Zhang1, Wensheng Zhao,1 Youliang Peng1 (1China Agricultural University, 2 Shandong Normal University, China)
Chunxia Wu, Shanyue Zhou, Quan Zhang, Wensheng Zhao and Youliang Peng
いもち病菌に感染したイネより単離されたOsGABA-T遺伝子は,正常なイネでは発現が検出されず,いもち病菌の接種や機械的な傷害,紫外線により発現が誘導された.また,サリチル酸とアブシジン酸によっても発現が誘導されたが,ジャスモン酸では誘導されなかった.(p.663-669)
エストラゴール(4-アリルアニソール)はソテツの雌雄の胞子嚢穂の匂いの主成分である
Estragole (4-allylanisole) is the primary compound in volatiles emitted from the male and female cones of Cycas revoluta.東浩司,河野真澄(京都大学)
Hiroshi Azuma and Masumi Kono
風媒花的といわれるソテツの雌雄の胞子嚢穂から放出される匂い物質を,ヘッド スペース法で捕集し,GC-MS分析したところ,他のソテツ目植物では知られていないエストラゴール(4-アリルアニソール)を主成分(67.0%-92.7%)として放出していた.(p.671-676)
繁殖体としての貯蔵茎と地下茎断片: スギナの栄養繁殖における特性の差
Tubers and rhizome fragments as propagules: competence for vegetative reproduction in Equisetum arvense.坂巻義章,伊野良夫 (早稲田大学)
Yoshiaki Sakamaki and Yoshio Ino
スギナの地下茎断片と貯蔵茎を栄養繁殖における能力の比較のため栽培した.初期成長は伸長する芽の数に影響され,光条件の良い場合は節が多く芽の数が多い地下茎断片が拡大に有利で,悪い場合は1芽あたりの貯蔵物質の多い貯蔵茎が有利であると考えられた.(p.677-683)
ケラトステマ属(ツツジ科スノキ連)の花粉:セプタムのない四集粒
Pollen of Ceratostema (Ericaceae, Vaccinieae): tetrads without septa.A.K.M. Golam Sarwar, 伊藤利章, 高橋英樹(北海道大学)
A. K. M. Golam Sarwar, Toshiaki Ito and Hideki Takahashi
新熱帯産のツツジ科ケラトステマ属2種の花粉形態を観察し,外見的には通常の四集粒であるが内側の花粉粒間にセプタム(隔壁)が無いことを示した.本花粉はスノキ連で最も特殊化した四集粒であり,ツツジ科はおろか被子植物でも始めての花粉形態である.(p.685-688)