2007年03月号 (Vol.120 No.2)
絶滅危惧水生植物バイカモ(キンポウゲ科)の集団の遺伝的構造
Koga K, Kadono Y, Setoguchi H (2007) The genetic structure of populations of the vulnerable aquatic macrophyte Ranunculus nipponicus (Ranunculaceae). J Plant Res 120: 167-174近畿地方に現存するバイカモの11集団と,この内の1集団における上流・下流の亜集団についてISSR法により遺伝的構造を解析した. 遺伝的変異の多くは集団間にあり,(AMOVA: 84.1%),集団間分化が大きいことが明らかになった. これは各現存集団の保全が種内の遺伝的変異の維持につながることを示している. (p.167-174)
単一プロトプラストにおける細胞膜と液胞膜の水透過率 I. 新手法で検出されたダイコン根の細胞における高い水透過率
Murai-Hatano M, Kuwagata T (2007) Osmotic water permeability of plasma and vacuolar membranes in protoplasts I. High osmotic water permeability in radish (Raphanus sativus) root cells as measured by a new method. J Plant Res 120: 175-189新しい計測原理に基づいて,単一プロトプラストにおける細胞膜と液胞膜の水透過率の分離評価を行った.従来,液胞膜の水透過率は細胞膜より著しく高いと想定されてきたが,ダイコンの根の皮層細胞では,両膜の水透過率は同程度で,500 μms-1をこえる高い値を示した.(p.175-189) 【2008年 JPR論文賞受賞】
単一プロトプラストにおける細胞膜と液胞膜の水透過率 II. 計測原理
Kuwagata T, Murai-Hatano M (2007) Osmotic water permeability of plasma and vacuolar membranes in protoplasts II. Theoretical basis. J Plant Res 120: 193-208単一プロトプラストにおける細胞膜と液胞膜の水透過率を分離測定する新手法を開発した.高張(低張)溶液中で,プロトプラストならびにそれより単離した液胞の収縮(膨張)速度を測定することにより,両膜の水透過率を評価する.本報告では,その計測原理について紹介する.(p.193-208)
新規作出の超多収一代雑種イネとその両交配親の生殖成長時期における止め葉の光合成活性と生化学的活性
Zhang C-J , Chu H-J , Chen G-X, Shi D-W, Zuo M , Wang J, Lu C-G , Wang P, Chen L. (2007) Photosynthetic and biochemical activities in flag leaves of a newly developed superhigh-yield hybrid rice ( Oryza sativa) and its parents during the reproductive stage. J Plant Res 120: 209-217一代雑種とその両交配親の止め葉の間で,純光合成速度/葉内CO2濃度曲線や光化学的諸性質を比較した.一代雑種は発生初期の葉では両交配親の中間の光合成活性の値を示したが,発生中期以降では両交配親よりも高い活性値を示した.発生中期以降の葉の高い光合成活性が高い収量性の原因なのかもしれない.(p.209-217)
サトウキビ萌芽の純同化と高温ストレス耐性にとっての代謝産物生合成の生理学的意味
Wahid A (2007) Physiological implications of metabolite biosynthesis for net assimilation and heat-stress tolerance of sugarcane ( Saccharum officinarum) sprouts . J Plant Res 120: 219-22828℃と40℃の条件下で生育させた1月齢のサトウキビ萌芽について,葉面積,乾燥重量,水ポテンシャルなどの成長パレメーターと,糖質などの一次代謝産物,可溶性プロリンやグリシンベタインなどの二次代謝産物の動態を解析し,高温ストレスの作用を調べた.(p.219-228)
無葉緑ラン科植物タシロラン(Epipogium roseum)の,共生培養下における種子発芽から開花にいたる成長過程
Yagame T, Yamato M, Mii M, Suzuki A, Iwase K (2007) Developmental processes of achlorophyllous orchid, Epipogium roseum: from seed germination to flowering under symbiotic cultivation with mycorrhizal fungus. J Plant Res 120: 229-236無葉緑ラン科植物タシロラン(Epipogium roseum)を,菌根菌との共生培養により種子発芽から開花に至るまで栽培することに成功した.本研究によって,今日まで断片的な観察記録のみだった成長過程のすべてが明らかにされたとともに,短期間で多数の塊茎を形成することも併せて明らかになった.(p.229-236)
イネの形質転換のための品種を問わない再生系の開発
Yookongkaew N, Srivatanakul M, Narangajavana J (2007) Development of genotype-independent regeneration system for transformation of rice (Oryza sativa ssp. indica) J Plant Res 120: 237-245Thidiazuronを含むMS培地を用いてイネ茎頂分裂組織よりカルスを経ずに多数のシュートを再生させることができた.この組織培養系は土壌細菌を介した形質転換に適し,茎頂分裂組織を土壌細菌懸濁液に浸ける際に10秒間超音波処理をすると形質転換効率が高まった.(p.237-245)
珪藻由来の共生藻をもつ南アフリカ産渦鞭毛藻の新種 Durinskia capensisの記載
Pienaar RN, Sakai H, Horiguchi T (2007) Description of a new dinoflagellate with a diatom endosymbiont, Durinskia capensis sp. nov. (Peridiniales, Dinophyceae) from South Africa. J Plant Res 120: 247-258南アフリカ,ケープ半島のタイドプールから珪藻由来の共生藻をもつ新種の渦鞭毛藻 Durinskia capensisを記載した.SSU rDNAの分子系統解析結果は,本種を含め珪藻由来の共生藻をもつ渦鞭毛藻類は単一起原(共生藻獲得は1回のみ)であることを示していた.(p.247-258)
アグロバクテリウムAKE10株の植物腫瘍遺伝子6b発現によるタバコ子葉の維管束形成パターンの改変
Kakiuchi Y, Takahashi S, Wabiko H (2007) Modulation of the venation pattern of cotyledons of transgenic tobacco for the tumorigenic 6b gene of Agrobacterium tumefaciens AKE10. J Plant Res 120: 259-268クラウンゴール形成を誘発するアグロバクテリウムAKE10株の腫瘍遺伝子6bをタバコ芽生えで発現させると腫瘍は背軸側に生じた.グラフ解析および組織化学的な解析から腫瘍の維管束は複雑かつ特異的なパターン形成をしており,向背軸の逆転と放射状の分布を伴っていた.(p.259-268)
組織解剖の結果はイチョウ乳(チチ)が頂端分裂組織に起因する成長とは別の伸長成長に因ることを示唆している.
Barlow PW, Kurczy?ska EU (2007) The anatomy of the chi-chi of Ginkgo biloba suggests a mode of elongation growth that is an alternative to growth driven by an apical meristem. J Plant Res 120: 269-280イチョウ老木の幹から垂れ下がる円柱状の樹状構造はチチとよばれ,最終的には土壌に入り,不定芽と不定根を生じる.組織切片の観察より,チチは幹の維管束形成層細胞の局所的な活性昂進により生じるとの仮説を提唱する.チチは先端部で伸長するが,頂端分裂組織による成長様式とは異なる.(p.269-280)
ヒカゲノカズラ類(小葉類)イワヒバ属,コンテリクラマゴケの葉緑体ゲノムにはユニークな逆位,転位そして多くの遺伝子欠失が存在する
Tsuji S, Ueda K, Nishiyama T, Hasebe M, Yoshikawa S, Konagaya A, Nishiuchi T, Yamaguchi K (2007) The chloroplast genome from a lycophyte (micro-phyllophyte), Selaginella uncinata, has a unique inversion, transpositions and many gene losses. J Plant Res 120: 281-290全塩基配列を決定したところ,これまで葉緑体ゲノムで見られない20 kbの逆位,大単一配列領域からの転位による小単一配列領域の拡大,12種類しか見出されないtRNA遺伝子,rps12の偽遺伝子化をはじめとするいくつもの遺伝子欠損等のユニークな性質が明らかとなった.(p.281-290)
マニトールによる水ストレス下で生育させた塩生植物ハマミズナの成長応答に対する塩化ナトリウムの作用
Slama I, Ghnaya T, Messedi D, Hessini K, Labidi N, Savoure A, Abdelly C (2007) Effect of sodium chloride on the response of the halophyte species Sesuvium portulacastrum grown in mannitol-induced water stress. J Plant Res 120: 291-299ハマミズナの芽生えの水ストレスに対するNaClの作用を調べた.25 mMマニトール処理による相対含水率の低下と成長抑制は0.1 M塩化ナトリウム添加により著しく緩和され,光合成活性も回復した.マニトールとの共存下でNaClは葉のNa+ およびプロリン濃度を高めたが,可溶性糖質には影響を与えなかった.(p.291-299)
炭素獲得から見たヒメシダ配偶体の胞子体成長に対する貢献;胞子体に対する配偶体の有機物生産の影響
Sakamaki Y, Ino Y(2007) Gametophyte contribution to sporophyte growth on the basis of carbon gain in the fern, Thelypteris palustris: effect of gametophyte organic-matter production on sporophytes. J Plant Res 120: 301-308胞子体の成長に対する配偶体の物質的貢献を明らかにするため,ヒメシダ配偶体とその上に形成された胞子体の成長を調べた.半分に切った配偶体上にできた胞子体の成長は完全な配偶体のものと差がなかった.胞子体が配偶体に1つしか形成されない理由は物質生産の限界ではないと考えられた.(p.301-308)
塩生植物ハマミズナのカドミウムによる成長抑制は塩化ナトリウムにより有意に改善される.
Ghnaya T, Slama I, Messedi D, Grignon C, Ghorbel MH, Abdelly C(2007) Cd-induced growth reduction in the alophyte Sesuvium portulacastrum is significantly improved by NaCl. J Plant Res 120: 309-316ハマミズナの芽生えをCd2+単独またはCd2+とNaClの共存培地で育成させ,成長とCd2+の取り込みを測定した.NaClはCd2+による成長抑制を回復させ,地上部でのCd2+の取り込みを促進した.一方,地上部へのNa+蓄積はCd2+により影響をうけなかった.ハマミズナは塩汚染土壌からのCd2+除去に利用できるかもしれない.(p.309-316)
ブラジル産の Lippia albaと Lantana camara(共にクマツヅラ科)の細胞遺伝学的解析
Brand?o AD, Viccini LF, Salimena FRG, Vanzela ALL, Recco-Pimente SM (2007) Cytogenetic characterization of Lippia alba and Lantana camara (Verbenaceae) from Brazil. J Plant Res 120: 317-321Li. albaは2n=30 染色体で,10対の中部動原体染色体と5対の次中部動原体よりなるのに対して, La. camara (シチヘンゲ)は44の中部動原体染色体よりなる.FISHで比較したところ両種とも6個の45S rDNA部位をもっていたが,5S rDNA部位は Li. albaでは2個、La. camara では4個であった.これらの結果は両者の倍数起源の可能性を排除するものではない.(p.317-321)
リョクトウのTy1/copia様レトロトランスポゾン配列の単離
Xiao W, Su Y, Sakamoto W, Sodmergen (2007) Isolation and characterization of Ty1/copia-like retrotransposons in mung bean (Vigna radiata). J Plant Res 120: 323-328リョクトウ (Vigna radiata)のゲノム中に散在する2つの Ty1/copiaレトロトランスポゾン様配列RTvr1及びRtvr2を単離した.これらはゲノム中に約240コピー存在する主要な Ty1/copia様配列であった.(p.323-328)
外生菌根がカラマツ実生の当年成長に与える影響と物理・生物的環境要因の関係
Akasaka M, Tsuyuzaki S, Hase, A (2007) Annual growth of invasive Larix kaempferi seedlings with reference to microhabitat and ectomycorrhizal colonization on a volcano. J Plant Res 120: 329-336非在来種カラマツの実生の成長に与える要因を調べるため,渡島駒ケ岳において,3つの標高帯に沿って3つのマイクロハビタットから実生を堀取り,当年成長,外生菌根形成率,土壌条件を調べた.外生菌根形成が実生の当年成長に与える影響は,マイクロハビタットスケールの要因により被い隠されてしまうことが示された.(p.329-336)
シロイヌナズナのグリシンリッチタンパク質 AtGRP9の根維管束特異的な発現とシンナミルアルコール脱水素酵素AtCAD5との相互作用
Chen A-P, Zhong N-Q, Qu Z-L, Wang F, Liu N, Xia G-X (2007) Root and vascular tissue-specific expression of glycine-rich protein AtGRP9 and its interaction with AtCAD5, a cinnamyl alcohol dehydrogenase, in Arabidopsis thaliana. J Plant Res 120: 337-343AtGRP9遺伝子は塩ストレス応答性で,根の維管束で発現し,AtGRP9タンパク質は細胞壁と細胞質に局在した.酵母2ハイブリッド系による解析結果はAtGRP9がAtCAD5タンパク質と相互作用することを示唆している.AtGRP9は塩ストレス下でのリグニン合成に関与しているのかもしれない. (p.337-343)