2008年11月号 (Vol.121 No.6)
JPR論文賞発表と編集委員長の交代
Nishitani K (2008) Awards and changes at the Journal of Plant Research. J Plant Res 121: 535-5362008年JPR最優秀論文賞は村井・桑形両氏による論文(120巻175-189頁)に決定した.西谷和彦編集委員長は2008年末で4年の任期が満了し,2009年1月より塚谷裕一編集委員が新編集委員長に就任する.同時に,今市涼子,伊藤元己,寺島一郎の各編集委員も任期が満了し,代わって瀬戸口浩彰,久米篤, 峰雪芳宣, 深城英弘, 西田生郎の各氏が新編集委員に就任する.朽津和幸,牧雅之,杉山宗隆,芦苅基行の各編集委員は留任となる.(p.535-536)
地形・シカ・土壌表面環境に注目した常緑広葉樹5種の実生定着
Tsujino R, Yumoto T (2008) Seedling establishment of five evergreen tree species in relation to topography, sika deer (Cervus Nippon yakushimae) and soil surface environments. J Plant Res 121: 537-546地形・シカ・土壌表面条件に注目して常緑広葉樹5種の実生生残動態を3年間調査した.実生の生残は地形・シカ・微環境と相関を持ち,主に上部斜面域に分布する2種は成木の分布パタンに沿う生残動態を示したものの,主に下部斜面域に分布する2種はそうならなかった(p.537-546)
土壌栄養塩がパッチ状に分布する環境下でのホソムギ(イネ科)個体の根系成長および個体成長
Nakamura R, Kachi N, Suzuki J (2008) Root growth and plant biomass in Lolium perenneexploring a nutrient-rich patch in soil. J Plant Res 121: 547-557パッチ状に施肥した環境下での植物の成長過程を解明するため,パッチ到達以前にホソムギが示す根系と個体の成長を栽培実験により調べた.その結果としてパッチ環境下では,根系範囲や根長あたりの根重は増加するが,個体成長量は抑制されることが示された.(p.547-557)
自生のウンナンキイロアツモリソウ(Cypripedium flavum)の光勾配に沿った光合成機能と葉の特性との関連性
Li Z, Zhang S, Hu H, Li D (2008) Photosynthetic performance along a light gradient as related to leaf characteristics of a naturally occurring Cypripedium flavum. J Plant Res 121: 559-569ウンナンキイロアツモリソウの葉の構造と光合成機能の可塑性を,自然環境の光勾配に沿って調べた.その結果,光合成機能は光環境の変化に伴い,著しい可塑性を示すことが明らかとなった.強光下では,効率的な窒素利用と高い葉のCO2拡散コンダクタンスとが相まって,強光阻害を受けにくくしているようである.(p.559-569)
アオミドロの仮根分化は基質によって制御されている.
Ikegaya H, Sonobe S, Murakami K, Shimmen T (2008) Rhizoid differentiation of Spirogyra is regulated by substratum. J Plant Res 121: 571-579流水中にすむアオミドロは末端細胞を仮根に分化させ,基質に付着する.仮根分化はアオミドロの藻体を切断することにより,容易に誘導できる.仮根には棒状とロゼット状の2種類があるが,ロゼット状の仮根は疎水性の基質上において形成されることが明らかとなった.(p.571-579)
リチャードミズワラビ(イノモトソウ科,Ceratopterideae連)の胎座の発達に着目した胚発生学
Johnson JP, Renzaglia KS (2008) Embryology of Ceratopteris richardii (Pteridaceae, tribe Ceratopterideae), with emphasis on placental development. J Plant Res 121: 581-592リチャードミズワラビの胎座の輸送細胞と足に着目して,その初期胚発生過程を光学顕微鏡とTEMで観察した.胚発生過程の微細構造の解析はシダ植物において本研究が初めてである.これらの観察結果はシダ植物の比較発生遺伝学に有用な知見となる.(p.581-592)
イネとトウモロコシにおける縦走維管束の分化過程と横走維管束の形成について
Sakaguchi J, Fukuda H (2008) Cell differentiation in the longitudinal veins and formation of commissural veins in rice (Oryza sativa) and maize (Zea mays). J Plant Res 121: 593-602イネやトウモロコシの葉脈は並走する縦走維管束を基本に,その間を細い横走維管束が結び,全体としてあみだくじ状のパターンを形成する.本研究ではその葉脈パターン形成を空間的時間的に詳細に観察し,縦走維管束の内部構造の分化と横走維管束の形成の関連性を明らかにした.(p.593-602)
細菌性病原菌に対する防御応答におけるタバコの小胞体局在型転写因子NtbZIP60の果たす役割
Tateda C, Ozaki R, Onodera Y, Takahashi Y, Yamaguchi K, Berberich T, Koizumi N, KusanoT (2008) NtbZIP60, an endoplasmic reticulum-localized transcription factor, plays a role in the defense response against bacterial pathogens in Nicotiana tabacum. J Plant Res 121: 603-611著者らは,タバコにおける病原菌に対する防御反応の中にポリアミンの一種のスペルミンを起点としたシグナル経路を見出してきた.タバコ小胞体局在型の新規の転写因子が,このシグナル系に位置すること,かつ細菌性非宿主病原菌への防御に関与していることを明らかとした.(p.603-611)