JPR和文要旨バックナンバー

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2009年07月号 (Vol.122 No.4)

JPR編集長から:この100年間、生物・医学において最も影響のあったトップ100誌の一つに、Journal of Plant Research誌が選ばれました

Tsukaya H (2009)
Journal of Plant Research chosen as one of the top 100 journals in biology and medicine over the last 100 years. J Plant Res 122: 353-354

国際的な図書館協会であるSpecial Libraries Association が、設立100周年を記念して"Top 100 Journals in Biology and Medicine"を選定し、嬉しいことに、 日本の学会が出している雑誌として唯一、Journal of Plant Research誌がその中に選ばれました。この喜ばしいニュースについてご報告します。(p.353-354)

理研シロイヌナズナ完全長cDNAを用いた植物ゲノムの発現・機能解析

Seki M, Shinozaki K (2009)
Functional genomics using RIKEN Arabidopsis thaliana Full-Length (RAFL) cDNAs. J Plant Res 122: 355-366

完全長cDNAはゲノムの発現・機能解析を行う上で貴重なリソースである。約17,000種(全遺伝子の約60%)の シロイヌナズナ完全長cDNAを収集し、マイクロアレイを用いた遺伝子発現プロファイル解析やタンパク質の機能・構造解析などへ利用した。これまでに行った主な解析について紹介する。(p.355-366)

核SSRsにより明らかにされたヤマザクラの遺伝構造:保全に向けて

Tsuda Y, Kimura M, Kato S, Katsuki T, Mukai Y,Tsumura Y (2009)
Genetic structure of Cerasus jamasakura, a Japanese flowering cherry, revealed by nuclear SSRs:implications for conservation. J Plant Res 122: 367-375

日本の重要な遺伝資源であるヤマザクラの保全に向けて、12集団を対象にその遺伝構造を核SSRsを用いて調べた。複数の解析法から供試集団は本州および九州地方の2つのグループに分けられ、またこれら2つのグループが本州西部で混合していることを明らかにした。(p.367-375)

レフュジアにおけるハプロタイプの多様性:Saxifraga callosa の系統地理学的構造

Grassi F, Minuto L, Casazza G, Labra M, Sala F (2009)
Haplotype richness in refugial areas: phylogeographical structure of Saxifraga callosa.

Saxifraga callosaのアルプスにおける集団について、4つの葉緑体マイクロサテライトとAFLPマーカーで分析したところ、全集団を通じての遺伝子分化係数が高い値を示した。パッチ状に認められた多数のハプロタイプの構造から、本種は複数回の氷河期をイタリアの半島部をレフュジアとして生きのび、その北部集団が主に後氷期における分布拡大に寄与したと考えられる。(p.377-387)

対照的な環境下に生育する近縁なスミレ属2種の日本における比較系統地理

Toyama H, Yahara T (2009)
Comparative phylogeography of two closely related Viola species occurring in contrasting habitats in the Japanese archipelago. J Plant Res 122: 389-401

生育環境が異なる近縁2種の分布域は、異なる移住の歴史により形成されている可能性がある。今回、林床性のエイザンスミレと草原性のヒゴスミレの系統地理的パターンを比較することで仮説の検証を行った。結果、種間の異なる光要求性に応じて異なる系統地理パターンが示された。(p.389-401)

中国横断山脈のシシウド属とその近縁属の核ITS配列に基づく分子系統学的解析:系統的類似と生物地理的連関

Feng T, Downie S-R, Yu Y, Zhang X, Chen W, He X, Liu S (2009)
Molecular systematics of Angelica and allied genera (Apiaceae) from the Hengduan Mountains of China based on nrDNA ITS sequences: phylogenetic affinities and biogeographic implications. J Plant Res 122: 403-414

中国横断山脈固有のPeucedanumを含むセリ科Angelicaと、その近縁属を、核ITS配列を用いて解析した。その結果、狭義AngelicaCoelopleurum, Czernaeviaなどと共に単系統をなしたが、いくつかの広義Angelica属の種は含まれなかった。また、北東アジア、西ヨーロッパ、北アメリカがAngelicaの祖先地域であり、横断山脈は第三紀後期にレフュジアとなったと推測される。(p.403-414)

マメ科のグルコシルセラミドのスフィンゴイド長鎖塩基組成:ソラマメ連の一つの系統的解釈

Minamioka H, Imai H (2009)
Sphingoid long-chain base composition of glucosylceramides in Fabaceae: a phylogenetic interpretation of Fabeae. J Plant Res 122: 415-419

グルコシルセラミドのスフィンゴイド長鎖塩基(LCB)の組成を31種のマメ科植物で調べた。ソラマメ連の植物は、8-スフィンゲニンが主要なLCBであった。この結果は、グルコシルセラミドのLCB組成がソラマメ連における系統的関係を反映することを示唆する。(p.415-419)

尾根筋の環境は熱帯山地林のシダ植物多様性に寄与するか? --エクアドル南東部のケーススタディ

Kessler M, Lehnert M (2009)
Do ridge habitats contribute to pteridophyte diversity in tropical montane forests? A case study from southeastern Ecuador. J Plant Res 122: 421-428

ポドカルプス国立公園近くの熱帯山地林3地点について、尾根と斜面を含む400�相当の28プロットで158種のシダ植物の出現分布を解析した。尾根でのアルファ多様性は低く、斜面にみられる種の多くを欠いていた。構造的に類似したアマゾンの森林とは異なり、調査地の尾根は非常にわずかな特定の種よりなる均質なシダ植物集団を有していた。(p.421-428)

キク属(キク科)の小胞子嚢における融合細胞の形成:種内倍数性への道

Kim JS, Oginuma K, Tobe H (2009)
Syncyte formation in the microsporangium of Chrysanthemum (Asteraceae): a pathway to infraspecific polyploidy. J Plant Res 122: 439-444.

キク属(x = 9)にはイワギク(2x, 4x, 6x, 8x, 10x)のように種内倍数体が知られている。2倍体個体では、まれに(頻度1.1-1.3%)2つの花粉母細胞が融合し、1個の大きな花粉母細胞として減数分裂を行い、2nの稔性花粉を形成する。融合細胞は種内倍数体の形成に重要な役割を果たしてきた。(p.439-444)

コムギ(Triticum aestivum L.)葉ミトコンドリアの乾燥ストレスに対する系統特異的な反応

Vassileva V, Simova-Stoilova L, Demirevska K, Feller U (2009)
Variety-specific response of wheat (Triticum aestivum L.) leaf mitochondria to drought stress. J Plant Res 122: 445-454.

乾燥耐性の異なる冬コムギ3系統について、乾燥時と回復時とにおける葉の呼吸反応を解析した。乾燥時は全呼吸とSHAM抵抗性のシトクロム経路が著しく低下し、それは乾燥耐性の弱い系統で特に強くみられた。一方、KCN耐性のSHAM感受性経路は乾燥で顕著に増大した。乾燥とその回復後のミトコンドリアでの酸化的リン酸化は、乾燥に弱い系統ほど低下しており、ミトコンドリアのサイズ変化とも相関していた。(p.445-454)

クレソン節間を経由した多芽体形成と遺伝子銃ならびにアグロバクテリウム法を介した形質転換

Ogita S, Usui M, Shibutani N, Kato Y (2009)
A simple shoot multiplication procedure using internode explants, and its application for particle bombardment and Agrobacterium-mediated ransformation in watercress. J Plant Res 122: 455-463

クレソンの節間を2,4-D3μMを含む1/2MS培地で1週間培養すると、維管束形成層近傍で細胞分裂が活性化され、原基形成に至る。この組織はTDZ1μMを含むMS培地で容易に多芽体へと分化した。この方法は、クレソンの形質転換に有効であることが明らかとなった。(p.455-463)

緑藻(Dunaliella salina)の野生型とゼアキサンチンを恒常蓄積するzea1変異体の非光化学的エネルギーの消散分析

Thaipratum R, Melis A, Svasti J, Yokthongwattana K (2009)
Analysis of non-photochemical energy dissipating processes in wild type Dunaliella salina (green algae) and in zea1, a mutant constitutively accumulating zeaxanthin. J Plant Res 122: 465-476.

単細胞緑藻Dunaliella salinaの野生型(WT)とゼアキサンチンを恒常的に蓄積する変異体zea1について、非光化学的クエンチング量(NPQ)の解析を行なった。短時間の過剰量光照射に対する反応としては、NPQの主要因子はエネルギー依存またはΔpH依存のクエンチング (qE)であった。 (p.465-476)

長鎖オリゴヌクレオチドを用いたRNAiベクターの簡易作製法

Higuchi M, Yoshizumi T, Kuriyama T, Hara H, Akagi C, Shimada H, Matsui M (2009)
Simple construction of plant RNAi vectors using long oligonucleotides. J Plant Res 122: 477-482

従来のRNAiベクター作製には煩雑なステップが必要であり、より簡便な方法が望まれている。我々は約90塩基の相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドのセットを用いてRNAiベクターを簡易的に作製する方法を開発し、遺伝子特異的なノックダウンが可能であることを示した。(p.477-482)

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