2009年09月号 (Vol.122 No.5)
本年のJPR-Best Paper賞およびMost-cited Paper賞
Tsukaya H (2009)Awards for excellence. J Plant Res 122: 483-484
編集委員会における審議の結果、2009年のJPR Best Paper賞は、分類系からTagane et al. (2008) JPR 121: 387-395、生理系からKodama et al. (2008) JPR 121: 441-448の2編が選ばれた。またMost-cited Paper賞には、SSRマーカーの改良を扱ったLian et al. (2006) JPR 119: 415-417に決定した。いずれも総合誌のJPRを代表する論文である。(p.483-484)
マツバランにおけるアーバスキュラー菌根菌の系統的解析
Winther JL, Friedman WE (2009)Phylogenetic affinity of arbuscular mycorrhizal symbionts in Psilotum nudum. J Plant Res 122:485-496
マツバランからアーバスキュラー菌根菌(AM)としての、グロムスAの4クレイドにまたがる11種の菌を単離・同定した。共存する植物の菌根菌構成との比較から、菌類従属栄養段階にある配偶体の炭素源は、周囲の独立栄養型の植物から、菌根菌を通じて輸送されることを示唆した。また温室内の集団も野外集団も、特定の種類の菌根菌と相互作用していた。(p.485-496)
オオバナノエンレイソウにおける自家和合性と自家不和合性集団の進化
Kubota S, Ohara M (2009)The evolution of self-compatible and self-incompatible populations in a hermaphroditic perennial, Trillium camschatcense (Melanthiaceae). J Plant Res 122: 497-507
オオバナノエンレイソウにおける自家和合(SC)・不和合(SI)性集団の進化的方向性を検証する目的で、39集団を対象にcpDNA変異および核DNA上のSSR多型に基づく系統解析を行った。得られた系統樹に加え、繁殖様式、地理的分布からSCとSIの進化を議論した。(p.497-507)
マツ属ストローブス亜属におけるミトコンドリア・葉緑体・核の遺伝子系統樹間の不一致
Tsutsui K, Suwa A, Sawada K, Kato T, Ohsawa TA, Watano Y (2009)Incongruence among mitochondrial, chloroplast and nuclear gene trees in Pinus subgenus Strobus (Pinaceae). J Plant Res 122: 509-521
マツ属ストローブス亜属において、ミトコンドリア(母性)・葉緑体(父性)・2つの核遺伝子の系統樹のトポロジー比較を行った。ミトコンドリア系統樹は他と大きく異なり、その不一致の原因を、主にストローブス亜節内および他亜節との過去の浸透性交雑によって説明した。(p.509-521)
ササの開花特性と遺伝構造から示すジェネットの非一回繁殖性
Miyazaki Y, Ohnishi N, Takafumi H, Hiura T (2009)Genets of dwarf bamboo do not die after one flowering event: evidence from the genetic structure and flowering pattern. J Plant Res 122: 523-528
ササ類は個体識別が困難であるため、開花個体群の遺伝構造を把握した上で、一回繁殖性を検証されることはなかった。今回、オモエザサのクローン構造と4年間の開花パターンを調べた結果、1個体内で開花は一斉に起こっておらず、開花後は必ずしも枯死しないことが明らかになった。(p.523-528)
クロダネカボチャを台木にしたキュウリの接木苗では、低温下での光利用効率が高く、また活性酸素種の蓄積が低下することで成長が促進される
Zhou Y, Zhou J, Huang L, Ding X, Shi K,Yu J (2009)Grafting of Cucumis sativus onto Cucurbita ficifolia leads to improved plant growth, increased light utilization and reduced accumulation of reactive oxygen species in chilled plants. J Plant Res 122: 529-540
クロダネカボチャを台木としたキュウリ接木苗においては、自身を台木としたキュウリ接木苗と比べ、低温下でも炭酸同化阻害が著しく減少していた。これは光合成の活性化とエネルギー消散率が減少したためであった。(p.529-540)
マメ科莢果内での胚珠の回転および隔壁形成によって生じる種子配列の多様化
Endo Y, Ohashi H (2009)Diversification of seed arrangement induced by ovule rotation and septum formation in Leguminosae. J Plant Res 122: 541-550
マメ科果実は円筒形の莢に多数の種子が1列に並ぶ構造を持つ。この種子配列成立過程には全胚珠が同調して内向きまたは外向きに回転する過程があること、さらに、その回転方向は胚珠の当初の向き、胚珠と子房の相対成長速度、隔壁形成時の胚珠の向きにより決まることがわかった。(p.541-550)
Terniopsis malayana (Podostemaceae, subfamily Tristichoideae)の発生解剖学および体制進化の解明
Fujinami R, Imaichi R (2009)Developmental anatomy of Terniopsis malayana (Podostemaceae, subfamily Tristichoideae), with implications for body plan evolution. J Plant Res 122: 551-558
水生被子植物Terniopsis malayanaは体制の解明が進んでおらず、解釈の定まらない特異な栄養器官、ラムリを持つ。解剖学的観察から、ラムリは腋芽か腋外芽として分枝し、有限成長することが判明した。したがって、本種は仮軸分枝であり、ラムリはシュートである。(p.551-558)
Compacta ähnlich, Nitida と Grandiflora変異体の解析からみた、キンギョソウの花における発生の領域化と補償作用
Delgado-Benarroch L, Weiss J, Egea-Cortines M (2009)The mutants compacta ähnlich, Nitida and Grandiflora define developmental compartments and a compensation mechanism in floral development in Antirrhinummajus. J Plant Res 122: 559-569
キンギョソウの花サイズに関わる3つの変異体を調べた。各変異体の細胞レベルでの表現型を調べたところ、花弁の部位において異なる制御を受けていることが判明した。また花弁の発生において補償作用が認められた。その他データをもとに側生器官サイズ制御のモデルについて議論する。(p.559-569)
ニガナ(キク科, タンポポ連)のマイクロサテライトマーカーの開発
Nakagawa S, Ito M (2009)Development and characterization of microsatellite loci in Ixeridium dentatum (Asteraceae, Lactuceae). J Plant Res 122: 581-584
ニガナ(I. dentatum ssp. dentatum)は、東アジアの平地に分布する3倍体無融合生殖種である。ニガナからマイクロサテライト遺伝子座を単離し、7つのマーカーを開発した。これらのマーカーは、ニガナだけでなく、タンポポ連の5絶滅危惧種を含む12分類群の遺伝解析にも有用であることが示された。(p.581-584)