2010年11月号 (Vol.123 No.6)
東アジアと北米東部に隔離分布するザゼンソウ属(サトイモ科)の花粉学的知見
Lee S, Lee S, Heo K, Kim S.-C (2010) Palynological insights of the eastern Asian and eastern North American disjunct genus Symplocarpus (Araceae). J Plant Res 123:723-729ザゼンソウ属(Symplocarpus)の花粉の形態を光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡により比較した。ザゼンソウは、ヒメザゼンソウよりも、北米東部に隔離分布するアメリカザゼンソウに近縁であることが示された。この結果は分子系統解析やフェノロジーの結果とも一致する。(p.723-729)
サトイモ科(オモダカ目)の内乳発生と単子葉植物における発生様式の進化
Tobe H, Kadokawa T (2010) Endosperm development in the Araceae (Alismatales) and evolution of developmental modes in monocots. J Plant Res 123:731-739単子葉植物の原始的科であるサトイモ科には多様な内乳形成様式が記録されてきた。その再研究の結果、全て細胞壁形成型であり、これを単子葉植物全体と比較をすることにより、単子葉植物では細胞壁形成型が原始的で、自由核型とイバラモ型は派生形質であることが明らかになった。(p.731-739)
乗鞍岳における標高傾度にそった高山、亜高山植生の分布に及ぼす道路の影響
Takahashi K, Miyajima Y (2010) Effects of roads on alpine and subalpine plant species distribution along an altitudinal gradient on Mount Norikura, central Japan. J Plant Res 123:741-749乗鞍岳において、標高傾度(1,600~3,000m)にそった植生分布に対する道路の影響を調べた。道路際では、同じ標高の自然植生よりも低地性や光要求の高い植物が増加していた。道路は光・土壌環境を改変することで、標高傾度にそった自然植生に影響することを明らかにした。(p.741-749)
中国南西部の亜熱帯山地における森林分断化後の樹種の再生パターン
Li X.-S, Liu W.-Y, Chen J.-W, Tang C.Q, Yuan C.-M (2010) Regeneration pattern of primary forest species across forest-field gradients in the subtropical Moun-tains of Southwestern China. J Plant Res 123:751-762都市化が進むにつれて常緑広葉樹林の分断・孤立化が進んでいる。中国雲南省哀牢山の森林で20年前に分断された森林で、周辺部から内部への植生構造を解析した結果、森林内の境界近くでは主要樹種を含んだ種多様性が高く保たれていた。周縁効果への配慮が森林回復に重要である。(p.751-762)
地衣類の光合成:生育場所における光環境の影響
Piccotto M, Tretiach M (2010) Photosynthesis in chlorolichens: the influence of the habitat light regime. J Plant Res 123:763-775地衣類の光合成特性が、高等植物で見られるような光順化を示すか否かを、様々な光環境の個体群を用いて解析した。最大光合成速度はクロロフィル量と相関し、光環境は窒素供給と同程度に影響していた。日陰の地衣は日向のものよりもクロロフィル蛍光が強く、光利用効率は高かった。(p.763-775)
コケ植物蘚類における胞子体-配偶体接続部の比較発生
Uzawa M, Higuchi M (2010) Comparative develop-ment of the sporophyte-gametophyte junction in six moss species. J Plant Res 123:777-787コケ植物の胞子体は配偶体から独立しない。両世代の接続部の形成過程を蘚類6種で比較した。接続部は配偶体組織によって2タイプに分かれ、造卵器由来の組織では配偶体細胞の崩壊により、茎由来の組織では中心束様組織の発達により胞子体が配偶体に貫入することが判明した。(p.777-787)
低pH条件下で光によって誘導されるレタス根毛形成は、クロロゲン酸の合成と糖によりもたらされる
Narukawa M, Watanabe K, Inoue Y (2010) Light-induced root hair formation in lettuce (Lactuca sativa L. cv. Grand Rapids) roots at low pH is brought by chlorogenic acid synthesis and sugar. J Plant Res 123:789-799レタスの低pH下における根毛形成の光誘導性を解析した。光は、糖の合成及び糖からのクロロゲン酸(CGA)合成誘導を介し根毛形成を誘導する。糖はCGA合成原材料以外の働きでも根毛形成に必要で、さらに、未同定の低pHによって誘導される因子も根毛形成に必要である。(p.789-799)
ミヤコグサDFR多重遺伝子族の転写制御
Yoshida K, Iwasaka R, Shimada N, Ayabe S, Aoki T, Sakuta M (2010) Transcriptional control of the dihy-droflavonol 4-reductase multigene family in Lotus japonicas. J Plant Res 123:801-805ミヤコグサでは、フラボノイド合成系の酵素遺伝子Dihydroflavonol 4-reductase(DFR)がゲノム上で多重遺伝子族を形成する。今回、数種の転写因子を用いた解析により、DFR多重遺伝子族は異なる転写制御を受けることが示された。(p.801-805)
植物組織から高品質RNAを回収するためのレーザーマイクロダイセクション用パラフィン切片作製法
Takahashi H, Kamakura H, Sato Y, Shiono K, Abiko T, Tsutsumi N, Nagamura Y, Nishizawa N.K, Nakazono M (2010) A method for obtaining high quality RNA from paraffin sections of plant tissues by laser micro-dissection. J Plant Res 123:807-813Laser microdissection (LM)を用いて遺伝子発現を解析するためには、品質の高いRNAが要求される。本研究では、パラフィン切片の作製法を改良することで、LMによって単離した組織由来のRNAの分解を抑えることができた。この方法によって、様々な植物の組織から高品質のRNAを回収することが可能になった。(p.807-813)