2011年01月号 (Vol.124 No.1)
Taxonomy/Phylogenetics/Evolutionary Biology
日本に自生するハスカップ(スイカズラ科)の倍数性分布及びDNA含量の変異
Miyashita T, Araki H, Hoshino Y (2011)Ploidy distribution and DNA content variations of Lonicera caerulea (Caprifoliaceae) in Japan. J Plant Res 124:1-9
日本に自生するハスカップ(Lonicera caerulea)の分布と倍数性を調査した。染色体観察により2倍体と4倍体の存在を明らかにした。4倍体は広範囲に分布し、2倍体は北海道東部にのみ自生していた。4倍体は自生地間でDNA含量に変異があり、標高が高くなるにつれ含量が減少する傾向がみられた。(p.1-9)
葉緑体DNA、AFLP、核SSRの解析によって明らかになったオオシマザクラ島嶼集団の遺伝構造
Kato S, Iwata H, Tsumura Y, Mukai Y (2011) Genetic structure of island populations of Prunus lannesiana var. speciosa revealed by chloroplast DNA, AFLP and nuclear SSR loci analyses. J Plant Res 124:11-23伊豆諸島及び伊豆半島に分布するオオシマザクラの集団遺伝構造を核DNA及び葉緑体DNAで解析した。八丈島より北側の集団では遺伝的分化は小さかった。STRUCTURE解析などの結果は、各島の位置や地質的な特徴の他、近縁種との遺伝子浸透の可能性も示唆していた。(p.11-23)
アルゼンチン中部山岳地域におけるTurnera si-doides subsp.pinnatifida (トゥルネラ科)のサイトタイプ多型の分布パターン
Elías G, Sartor M, Neffa VGS (2011) Patterns of cytotype variation of Turnera sidoides subsp. pinnatifida (Turneraceae) in mountain ranges of central Argentina. J Plant Res 124:25-34アルゼンチン中部山岳におけるトゥルネラ科の一種について、染色体数の地理構造を調べた。4倍体は広範囲に多数が分布するのに対して、2倍体、3倍体、6倍体は稀であり、各サイトタイプは特定の環境(山麓、谷、低標高・乾燥)に対応していた。(p.25-34)
フタバガキ科Shorea属の種の分類のための分子データベースと材や木材製品の合法性の確認技術
Tsumura Y, Kado T, Yoshida K, Abe H, Ohtani M, Taguchi Y, Fukue Y, Tani N, Ueno S, Yoshimura K, Kamiya K, Harada K, Takeuchi Y, Diway B, Finkeldey R, Na'iem M, Indrioko S, Ng KKS, Muhammad N, Lee SL (2011) Molecular database for classifying Shorea species (Dipterocarpaceae) and tech-niques for checking the legitimacy of timber and wood products. J Plant Res 124:35-48東南アジア熱帯林で重要なフタバガキ科Shorea属の種分類の葉緑体DNAのデータベースを構築した。また材や木材製品からDNAの抽出を行い種同定技術の開発を行った。これらの情報は合法性木材の商取引に役立つことが期待される。(p.35-48)
淡水産Nephroselmis olivaceaに近縁な海産新種Nephroselmis viridis(緑色植物門ネフロセルミス藻綱)の分類
Yamaguchi H, Suda S, Nakayama T, Pienaar RN, Chihara M, Inouye I (2011) Taxonomy of Nephroselmis viridis sp. nov. (Nephroselmi-dophyceae, Chlorophyta), a sister marine species to freshwater N. olivacea. J Plant Res 124:49-62緑色植物門ネフロセルミス藻綱の海産新種Nephroselmis viridisを記載した。本藻はタイプ種で淡水産のN. olivaceaに似るが、デンプン鞘や鱗片の形態、光合成色素組成、生息地の点で異なっていた。また分子系統解析の結果、両者の姉妹群関係が示された。(p.49-62)
中国西南部におけるシクシン科Terminalia fran-chetii の系統地理構造と流域の地史にもとづく考察
Zhang T, Sun H (2011) Phylogeographic structure of Terminalia franchetii (Combretaceae) in southwest China and its implications for drainage geological history. J Plant Res 124:63-73中国西南部に固有なシクシン科の植物種21集団についてAFLP解析を行い、系統地理構造を調べた。この地域には、南北に二分される遺伝構造が存在していた。チベット高原の隆起によって流域河川の流れが変わり、この植物に地理的な障壁をもたらしたこと考察される。(p.63-73)
トチノキの葉緑体DNAハプロタイプに基づく日本列島における系統地理
Sugahara K, Kaneko Y, Ito S, Yamanaka K, Sakio H, Hoshizaki K, Suzuki W, Yamanaka N, Setoguchi H (2011) Phylogeography of Japanese horse chestnut (Aesculus turbinate) in the Japanese archipe-lago based on chloroplast DNA haplotypes. J Plant Res 124:75-83トチノキの分布全域を対象にして、葉緑体DNAの多型解析を行った。各集団は単一のハプロタイプに固定する傾向が見られた。東日本(北海道から中部地方)では単一のタイプが広範囲に分布するが、西日本では地域や集団に固有なタイプが多く、多様性が高いことが明らかになった。(p.75-83)
Cardamine nipponica(ミヤマタネツケバナ:アブラナ科)におけるクリプトクロム遺伝子の分子進化と光受容体遺伝子の進化様式
Ikeda H, Fujii N, Setoguchi H (2011) Molecular evo-lution of cryptochrome genes and the manner of pho-toreceptor genes in Cardamine nipponica (Brassicaceae). J Plant Res 124:85-92ミヤマタネツケバナのクリプトクロム遺伝子に関して、分子進化学的解析を行った。その結果、他の遺伝子同様に南北分化を呈することが明らかとなったものの、自然選択を示唆する結果は得られなかった。先行研究とあわせると、ミヤマタネツケバナの光受容体では、PHYEのみが自然選択を受けて進化してきたことが示された。(p.85-92)
Rhopalodia科珪藻のSpheroid bodyは単一の細胞内共生藍藻に由来する
Nakayama T, Ikegami Y, Nakayama T, Ishida K, In-agaki Y, Inouye I (2011) Spheroid bodies in rhopalo-diacean diatoms were derived from a single endosym-biotic cyanobacterium. J Plant Res 124:93-97Rhopalodia科の珪藻はSpheroid body (SB)と呼ばれる藍藻由来の細胞内構造を持つ。今回、2属3種におけるSB及び宿主細胞の分子系統解析を行ったところ、SBは同科珪藻の共通祖先によって一度だけ獲得され受け継がれてきたことが明らかとなった。(p.93-97)
Ecology/Ecophysiology/Environmental Biology
林冠を通過した近赤外光(NIR)と光合成有効放射(PAR)の比率は、葉によって吸収されたPARに比例して高まる
Kume A, Nasahara KN, Nagai S, Muraoka H (2011) The ratio of transmitted near-infrared radiation to photosynthetically active radiation (PAR) increases in proportion to the adsorbed PAR in the canopy. J Plant Res 124:99-106岐阜大学高山試験地の落葉広葉樹林における出葉前から落葉後までの分光データについてNIRとPARに注目して解析した。林外のNIR/PAR比はほぼ一定で、林床で測定された日積算値のNIR/PAR比の変化によって、対照センサ無しで林冠の葉面積指数LAIやPAR吸収率の季節変化を連続的かつ高精度に推定できた。(p.99-106)
風洞及び野外におけるダイズの花粉飛散距離の評価
Yoshimura Y (2011) Wind tunnel and field assessment of pollen dispersal in Soybean [Glycine max (L.) Merr.]. J Plant Res 124:109-114ダイズ花粉の飛散距離を風洞施設と圃場において測定し、花粉の径や風速から計算される予測値と比較して評価した。花粉の飛散距離は、予測された飛散範囲よりせまく、空中の花粉もわずかであった。その結果、ダイズにおいては、風媒による花粉の受粉はほとんどないと考えられた。(p.109-114)
広葉常緑種シラカシの葉における窒素化合物含量の経時変化
Yasumura Y, Ishida A (2011) Temporal variation in leaf nitrogen partitioning of a broad-leaved evergreen tree, Quercus myrsinaefolia. J Plant Res 124:115-123シラカシの葉の一生を通して、代謝タンパク質、構造タンパク質、ルビスコ、クロロフィル含量が、葉の総窒素含量や光条件とともにどう経時変化するかについて調査した。そして、葉内の窒素分配が、光合成の窒素利用効率や窒素回収率とどう関連しているか考察した。(p.115-123)
絶滅危惧種ハナシノブPolemonium kiushianumの種間交雑個体の識別調査
Matoba H, Inaba K, Nagano K, Uchiyama H (2011) Use of RAPD analysis to assess the threat of interspecific hybridization to the critically endangered Polemonium kiushianum in Japan. J Plant Res 124:125-130絶滅危惧種ハナシノブは,近縁園芸種との交雑による遺伝的な撹乱が危惧されている。ハナシノブと近縁分類群を識別するためにRAPD分析を行ない,新たなDNAマーカーを開発した。それを用いた調査では,ハナシノブの野生集団に交雑による遺伝子汚染は確認できなかった。(p.125-130)
サザンカの繁殖枝への隣接枝からの光合成産物の転流パターンの解析
Oitate H, Noguchi K, Sone K, Terashima I, Suzuki AA (2011) Patterns of photoassimilate translocation to reproductive shoots from adjacent shoots in Camellia sasanqua by manipulation of sink-source balance between the shoots. J Plant Res 124:131-136冬期のサザンカの繁殖枝もしくは隣接する非繁殖枝の葉に、13CO2を取り込ませ、隣接枝から繁殖枝への転流パターンを解析した。繁殖枝への光合成産物の転流は、繁殖枝と隣接枝のソースシンクバランスに依存することが分かった。(p.131-136)
Morphology/Anatomy/Structural Biology
2型花柱性種Palicourea demissa(アカネ科)の2型性と自家不和合性:繁殖成功の要因
Valois-Cuesta, H, Soriano, P. J. Ornelas J. F. (2011) Dimorphism and self-incompatibility in the distylous species Palicourea demissa (Rubiaceae): possible implications for its reproductive output. J Plant Res 124:137-1462型花柱性の低木Palicourea demissa(アカネ科)で人工授粉を行い、和合性及び種子繁殖成功を調べた。短花柱花の方が,長花柱花より果実・種子が大きく、結実率が高かった。この種の異型花柱性の進化に関して、訪花者や種子の散布者の影響を調べる必要がある。(p.137-146)
Physiology/Biochemistry/Molecular and Cellular Biology
コムギの渇水ストレス反応と渇水後の給水時におけるリカバリーの多様性
Vassileva V, Signarbieux C, Anders I, Feller U (2011) Genotypic variation in drought stress response and subsequent recovery of wheat (Triticum aestivum L.) . J Plant Res 124:147-154それぞれ程度の異なる乾燥耐性を保持するコムギについて、脱水進行中と、その後の給水時における葉の呼吸速度、気孔コンダクタンス、光合成量を調査した。乾燥に強いコムギ品種では、呼吸速度、気孔コンダクタンス、光合成量を制御し、乾燥ストレス下において効率の良い水分利用をしていることが明らかとなった。(p.147-154)
2つのCLE遺伝子がミヤコグサの根においてリン酸によって誘導される
Funayama-Noguchi S, Noguchi K, Yoshida C, Kawa-guchi M (2011) Two CLE genes are induced by phosphate in roots of Lotus japonicas. J Plant Res 124:155-163CLE遺伝子は、環境からのシグナル(根粒菌感染や硝酸)や内的なシグナルに応答して植物の発生を制御する短いペプチドをコードしている。今回、2つのCLE遺伝子(LjCLE19/20)の発現が、ミヤコグサの根でリン酸によって特異的かつ顕著に誘導されることを明らかにした。(p.155-163)
低エネルギー蛍光X線分光を用いたチャの葉内のアルミニウム局在の解析
Tolrà R, Vogel-Mikuš K, Hajiboland R, Kump P, Pon-grac P, Kaulich B, Gianoncelli A, Babin V, Barcelo´ J, Regvar M, Poschenrieder C (2011) Localization of aluminium in tea (Camellia sinensis) leaves using low energy X-ray fluorescence spectro-microscopy. J Plant Res 124:165-172チャのアルミニウム耐性機構を調べる目的で、低エネルギーX線蛍光分光を用いて、葉におけるアルミニウムの局在を調べた。その結果、アルミニウムは主に表皮細胞の細胞壁に蓄積されており、シンプラストにはほとんど蓄積していないことがわかった。(p.165-172)
毛茸色に関する大豆準同質遺伝子系統における低温条件下のフラボノイドプロファイル、抗酸化活性及び低温ストレス耐性の違い
Toda K, Takahashi R, Iwashina T, Hajika M (2011) Difference in chilling-induced flavonoid profiles, antioxidant activity and chilling tolerance between soybean near-isogenic lines for the pubescence color gene. J Plant Res 124:173-182大豆毛茸色を支配するT遺伝子座は低温ストレス耐性に関連し、フラボノイド3'-水酸化酵素をコードすると推察される。今回、準同質遺伝子系統を用いた組織抗酸化活性、フラボノイド等の比較から、大豆の低温ストレス耐性にはフラボノイドの抗酸化活性が関わる可能性が示唆された。(p.173-182)
タンジン(丹参)におけるRNAiを介したフェニルアラニンアンモニアリアーゼ遺伝子の発現抑制は、異常な表現型とロズマリン酸生合成低下を引き起こす
Song J, Wang Z (2011) RNAi-mediated suppression of the phenylalanine ammonia-lyase gene in Salvia miltiorrhiza causes abnormal phenotypes and a reduction in rosmarinic acid biosynthesis. J Plant Res 124:183-192著者らは薬用タンジンのフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)遺伝子の発現抑制植物をRNAi法により作出して解析した。その結果、PAL活性の低下に伴い、形態形成異常やリグニン生成の低下、ロズマリン酸などの生合成の低下が引き起こされることを示した。(p.183-192)
シロイヌナズナのエチレンシグナル経路はショ糖誘導性アントシアニン蓄積に負の影響を持つ
Kwon Y, Oh JE, Noh H, Hong S-W, Bhoo SH, Lee H(2011) The ethylene signaling pathway has a negative impact on sucrose-induced anthocyanin accumulation in Arabidopsis. J Plant Res 124:193-200ショ糖誘導性フラボノイド合成の機構を明らかにするため、著者らはショ糖に対して高レベルでアントシアニンを蓄積するシロイヌナズナ・エチレン非感受性変異体ein2などを解析した結果、エチレンシグナル経路はショ糖誘導性アントシアニン蓄積に負の影響を持つことが示された。(p.193-200)
光逃避運動の際、葉緑体はいかなる方向へも移動可能である
Tsuboi H, Wada M (2011) Chloroplasts can move in any direction to avoid strong light. J Plant Res 124:201-210暗順応させたホウライシダ前葉体細胞及びシロイヌナズナ葉肉細胞の葉緑体の一部を微光束照射し、葉緑体逃避運動における運動様式を解析した。その結果、葉緑体は自身の方向は変換せず、いかなる方向へも滑って移動すること、移動に際しては極性を持たないことがわかった。(p.201-210) 【2012年 JPR論文賞受賞】